ディープラーニングを活用した 外観検査システムWiseImaging -CECインタビュー

インダストリーオートメーション、システムインテグレーション、プラットフォームインテグレーションの3つの事業を展開するシステムインテグレーターの株式会社シーイーシー(以下、CEC)は、ディープラーニングを活用した「WiseImaging(ワイズイメージング)」という画像検査システムを開発し、今年の4月に販売を開始した。

これまでの画像検査システムより精度が向上しているということで、同社の企画部 主任 根本誠一氏、インダストリーオートメーションBG 事業統括部 グループマネジャー 中村 元治氏、インダストリーオートメーションBG 中部第一サービス事業部 第三サービス部 久保田 進也氏に話を伺った。

ディープラーニングを活用した 外観検査システムWiseImaging -CECインタビュー
左奥:株式会社シーイーシー企画部 主任 根本誠一氏、左中央:ンダストリーオートメーションBG 中部第一サービス事業部 第三サービス部 久保田 進也氏、左手前:インダストリーオートメーションBG 事業統括部 グループマネジャー 中村 元治氏/右:IoTNEWS代表 小泉耕二
 

中村: 私どもCECは、製造業のお客様向けにITソリューションをご提供する「インダストリーオートメーション事業」を展開しています。このたび発表したWiseImagingは、同事業のうち主に中部地区のお客様向けに各種システム開発を行っている「中部第一サービス事業部」が製品開発を担当しています。

同事業部では、以前より画像検査関連システムに携わってきましたが、画像検査/外観検査には一般的な画像処理では解決できない課題が多く、新たな解決方法を模索していました。そんな中、画像処理技術として近年目覚ましい成果を挙げているディープラーニングに着目し、これを外観検査に適用すれば高精度な検査を実現できるのではないかとの発想が今回の製品企画に至ったきっかけです。

 

-WiseImagingは、どういうことができるのでしょうか?

久保田: 今回ご紹介するWiseImagingは、ディープラーニングを活用したソフトウェアベースの外観検査システムです。出荷前にキズの有無を確認する品質確認作業など、製品検査用途に提供しています。

ディープラーニングを活用した 外観検査システムWiseImaging -CECインタビュー

従来、一般的な画像処理手法を使っていた部分にディープラーニングを適用することによって、より人の“目”に近づけるというところを目指して開発しました。

-今までも画像検査関連のシステム開発に携わっていたのですよね?

久保田: そのとおりです。

- 画像検査にディープラーニングを使ってもっと精度を上げようということでよいでしょうか?

久保田: 精度を高めることは当然のことですが、それだけにはとどまりません。今までの画像処理手法の場合、特徴量を抽出するロジックは人が設計して対応していましたが、試行錯誤しながら多くの労力が必要でした。そうして対応したロジックも工場のラインが変更となった際に一から作り直しが必要になる場合があり、多くのお客様に共通した悩みでした。その他にも撮影方法によっては「キズ」と「汚れ」の区別が難しいなど、様々な課題が挙がっていました。WiseImagingは、ディープラーニングを使うことで特徴量抽出を自動化するなど、これらの課題に対応しており、画像撮影時の変化にも強くなるなど柔軟性が高いという特徴を持っています。

-ディープラーニングを使うと、最終的にはOK・NGを完全に判別できないものも出てくると思いますが、そういうものは曖昧だという判定をするのですか?

久保田: 例えばOK60%、NG40%を基準として、それよりも悪いものはグレーとするなど、ユーザーによっては「これは目視で確認してほしい」というような判定をできるようにしています。

-ディープラーニングを使ったほうが画像検査の精度は上がりますか?

久保田: はい、基本的には上がるケースが多いですが、実際に検査対象物を見てみないと分からないというのが現状です。ディープラーニングを使う場合、「人の目で見て分かることは、判別できる可能性が高い」ということをお客様に説明しています。

-なるほど、「人の目の代わり」ということですね。WiseImagingの特徴について、もう少し詳しく教えてください。

久保田: 外観検査にディープラーニングを組み込んだシステムを「製品」として提供するという点も特徴として挙げられます。

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手前:インダストリーオートメーションBG 中部第一サービス事業部 第三サービス部 久保田 進也氏、奥:企画部 主任 根本誠一氏

-ディープラーニングの技術を披露する企業はあっても、実際に製品になっているものはあまりないですからね。

久保田: また、ディープラーニングだけでなく、従来の画像処理手法も上手く組み合わせながら様々な検査に対応できるよう、柔軟性を持たせています。ディープラーニングは重要な技術要素ですが、あくまで判定手段の一つで、他の方法とあわせて適材適所で使うべきものと見ています。これら処理方法はノンプロミングで定義できるようになっています。

適用した際の効果として、まずお客様に説明しているのが、過検出の低減です。実際の製造現場では、NG品を後工程に流さないようにするために判定基準を厳しく設定していることが一般的です。

つまり、人の目で見ると実はOKなのですが、機械だとNGになっているということが多々あります。この場合、再検査にかかる人手が課題となります。人手による検査を完全に無くすことは難しいと思われますが、例えばWiseImagingを活用することで過検出が10個から2個に減れば、削減された分にかかっていた人手分のコストを改善できることになります。大手製造業のお客様であれば、製造ラインを数多くお持ちです。1検査あたりの改善は小さくても、適用する工程が多ければ全体としてかなりの効果を見込みことができます。

-そうですよね。

久保田: 過検出の低減はすでに画像処理を導入されているお客様のケースですが、別のケースとして、まだ人手で検査されているお客様向けの効果として、目視検査の自動化による省力化を説明しています。画像検査市場は非常に大きく日本国内だけでもかなりの規模がありますが、様々なお客様からニーズや状況を伺うと、まだまだ人の目で検査されているところが多いという印象です。

お客様に検査を自動化できていない理由を伺うと、従来の画像処理装置では対応できないからという回答が1番多いです。『自動化を試したが過検出が多く、かえって人手がかかる』といったお話しや、『そもそも機械では判別できなかった』といったこともお聞きしています。

-従来方式の画像検査には様々な課題があるのですね。

久保田: 従来の画像検査では、導入した検査をほかの工場やラインに適用する際に人の手で設定する必要があり、時間がかかっているという問題もあります。また、検査用の筐体やハードウェアを専用で製作してもらっているお客様も多いのですが、特注となるため非常にお金がかかるといったこともあるようです。

こういった場合、結果として横展開が難しくなりますが、WiseImagingではディープラーニングの活用とソフトウェアベースである特徴を活かして汎用性を高め、横展開のしやすさも追及しています。

-画像検査というと、わりと簡単にできるのかなと思っていました。例えばカメラもライン上にポンと置いて撮影するだけという(笑)。そうすれば、別室でこう何か粛々と見ることができるのかなというイメージがあったのですけど、全然そんな感じではないのですね。カメラから専用機なのでしょうか?

久保田: カメラから専用機にしているところも多いですね。例えば、いまWiseImagingをお試しいただいているお客様からは、ラインを流れてくる部品の画像を複数箇所から撮りたいというご要望をいただいています。

また、汎用的な画像検査機器はある程度検査対象を絞って提供されているようです。WiseImagingはキズ検査、方向判別、有無検査など様々な検査に対応できるよう柔軟性を重視した製品となっています。

一つの製品で様々な検査に対応できる点は大きな特長と言えそうですね。

久保田: そのとおりです。様々な検査の中でも特にキズの検査は従来の検査手法よりも精度が上がっている手応えを感じています。

一方で苦手な検査内容もあります。厳密な計測、例えば「○○が1ミリ以上だとNG」などの検査シーンや塗装された色検査は苦手な領域です。

従来、検査精度を高めるためには設計ノウハウや画像処理の専門知識が必要でした。WiseImagingではディープラーニングを活用することで、そういったノウハウや専門知識なしに直感的に使えるところも特徴となっています。

-ディープラーニングの学習は教師データ無しでやるのでしょうか。

久保田: 教師ありで行っています。教師なしだと、教師あり学習と比べて精度が出ないという印象です。

中村: 教師なし学習の場合、クラス分類はできても、結局その分類自体がこちらの望むものにならないことが多いようです。

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インダストリーオートメーションBG 事業統括部 グループマネジャー 中村 元治氏

-既存の画像検査機器で取得したデータが残っていて、それを学習させればすぐ導入できるということにはならないのでしょうか?はじめに別のデータが必要なのでしょうか?

久保田: そうですね。国内製造業のお客様は生産の質が高く、ほとんど不良品が出ないため、NGデータを作るのが想定以上に大変です。またデータを残していないお客様も多くいらっしゃいます。良品はエビデンスのためにデータを残すのですが、不良品に関してはデータを残していないことが多いようです。

-ほかの業界で機械学習を取り組んでいる方々も、教師データを集める事がすごく大変だとおっしゃっています。できてしまえばすごいのかもしれないけど、なかなかできないそうです。

例えば、車メーカーでキズの状態を見たら、他の車メーカーでも使えるようなものなのでしょうか?それぞれ違うものなのでしょうか?

久保田: 使える可能性は高いです。しかし、その学習した結果はお客様のものになります。

-つまり、他企業では横展開できないのですね。

久保田: そうですね、学習した物自体はお客様のデータ使っていますので。ただその学習するためのネットワーク構成は流用できるかもしれません。

-せっかくノウハウが出来上がっている人工知能があるのに、もう一回ゼロから覚えさせなきゃいけないということですね。ちょっと勿体無いですね。「学習コストが安くなるのだからいいじゃないか」とか、流用できませんか(笑)。

久保田: 同じ対象物を見るにしても、カメラの撮影位置も一緒でないと学習した内容にマッチしませんので、あまり現実的ではありません。一般物体認識であれば特徴差が大きいので、ある程度どこでやってもできるのですが、検査用途となると難しいかと思います。

-なるほど。ありがとうございます。

WiseImagingの適用事例

久保田: 次にこれは展示会でWiseImaigngの活用イメージを持ってもらうために準備したものですが、「蛇腹ホースにキズがなければOK、キズがあればNG」という検査のデモです。

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久保田: システム構成ですが、まず分類アルゴリズム作成ツールで検査処理のフロー、入力画像データに対してどういう処理をしていくのかをノンプログラミングで定義できるようにしています。実際の検査は、定義した処理のフローを検査用システムに取り込んで実施する構成となっています。検査用システムでは、学習・判断するために元のデータに様々な画像処理を前処理として施した後、ディープラーニングを使って判定するようになっています。またディープラーニング以外にも一般的な画像処理ロジックによる判定も可能な作りとなっています。

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-なるほど。要は両方使っているというさっきのお話、ディープラーニングだけではなく、従来の画像検査の技術も使われるという部分ですね?

久保田: そうですね。導入の際は、まずお客様から画像データをいただいて、ディープラーニングを使うべきか否かを判断して、トライアルを実施させていただいています。

その上で、価格や期間のお見積もりを提示し、実施可否をご判断いただいてから精度を高めていくという流れになります。

検査に使用するPCのOSは、処理の安定性や組み合わせるカメラのOS対応状況からUbuntuを採用しています。一方、処理のフローを作る際に使用するPCのOSは、製造業のお客様でのOS採用状況を考慮してWindowsとしています。

-NVIDIAのGPUを使っているのですね。

久保田: そうですね。ディープラーニング処理の高速化にはGPUを活用していますが、GPU関連処理はNVIDIAのCUDAを利用して動作させているため、必然的にそうなります。

余談となりますが、2016年4月に出展した名古屋 設計・製造ソリューション展では、プラレールの電車をカメラで撮影し、「ドクターイエロー」かどうか判断するものを展示しました。ディープラーニングを使えば意外と簡単に識別できるのですが、実は今までの画像処理でやろうと思うとものすごく難しいものだったのです。

テンプレートマッチングなどでは、位置がズレるとまったく対応できず、黄色の特徴を取って“色”だけで判断するような形になってしまいますが、ディープラーニングを使って様々な箇所の画像を学習させれば、車両の先頭、中間、最後尾など位置が変わっても正しく判定することができるようになります。もちろん他の形の車両を撮影した場合は、別のものとして認識します。

-その場合、教師データをかなり多角的に撮らなければいけませんよね?

久保田: ある程度のデータ量は必要ですが、特徴が大きく出るものであれば、それほど大量のデータを用意しなくても大丈夫です。それよりも留意すべき点が照明の色や明るさで、判定精度に影響があります。社内環境の検証ではしっかり学習して精度もかなり良かったのですが、展示会場では光の色など環境が大きく異なったため、誤判定の原因となったケースもありました。

では、ウェブカメラを使い蛇腹のキズを検知するデモをお見せします。

キズがある蛇腹をカメラで撮ると「NG」と出て、キズがない蛇腹を入れると「OK」と出ます。右下にパーセントが出るようにしていますが、例えば40・60となったら「グレーゾーン」とすることも可能です。

ディープラーニングを活用した 外観検査システムWiseImaging -CECインタビュー

ディープラーニングを活用した 外観検査システムWiseImaging -CECインタビュー

今までの画像処理、例えばテンプレートマッチングなどを使うと、ホコリや加工痕を許容できず、NGとして判定してしまうということがありました。

OKの蛇腹にもキズが小さく付いていますが、「この程度は許容しよう」ということを学習させています。同様の処理は今までの機械学習でもできますが、設定だけでも何日も人手をかける必要がありました。WiseImagingのディープラーニング判定であれば、画像データさえ用意しておけば、帰宅時に学習をスタートさせて、朝には学習が完了し、判定できるようになります。

-なるほど、ありがとうございます。面白いですね。現在、もうWiseImagingを販売されていて、お客様とPOCを実施して精度を向上させている段階だということですね。

久保田: そうですね、現在、複数のお客様とPOCを実施中です。

-きっと人の労力が大きくかかっている部分だと思いますが、評価をやってみたいという企業は多いのでしょうか。

久保田: そうですね。大手企業様でも人手での検査が数多く残っているようで、WiseImagingに多くのご興味をいただいています。

中村: 今までの画像検査は、ある意味、限界に近づいている部分があると考えています。まだまだ人手で検査されているお客様が多く、そこを自動化したいというニーズは確実にあると認識しています。

実際、お引き合いも非常に多くいただいており、それぞれ詳しいお話を伺いながら、具体的なご要望をお持ちのお客様から順にPOCを実施していただいています。また、6月に開催される設計・製造ソリューション展(東京ビッグサイト)でも展示披露しますので、そこでもじっくりお客様からのニーズを集めて、WiseImagingの活用シーンを広げていきたいですね。

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-本日はありがとうございました。

 
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株式会社シーイーシー

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