技術ドリブンではなく、課題解決型IoTを提供する -エスキュービズム・テクノロジー CEO武下氏インタビュー

技術ドリブンのIoT 機器製造ではなく、ユーザーにとって使いやすく求められるものを提供する「Usable IoT」をコンセプトに掲げ、ソリューションや機器の開発提供を実施している、株式会社エスキュービズム・テクノロジーの代表取締役 武下真典氏にお話を伺った。

―御社のご紹介をお願いします。

もともとエスキュービズムは、ECシステムのパッケージを売っている会社でした。ECサービスを希望される顧客が店舗をお持ちの企業が多かったのですが、ECシステムと店舗のデータを連携したいというニーズが多かったのです。そこで、タブレット型のPOSレジを作りました。

それが、世の中的にもオムニチャネル、O2Oという流れもあって、このECエンジンをタブレット型POSレジで使っているという評判が広まりました。

オムニチャネルの歴史はまだ浅く、セブンイレブンが対応を始めたのが3年くらい前です。それを見ていて、再配達の課題が発生するなと感じました。そこで、「スマート宅配ボックス」という、いつでもどこでも受け取れる宅配ロッカーを作ろうということになりました。それが2013年~2014年にかけてです。

技術ドリブンではなく、課題解決型IoTを提供する -エスキュービズム・テクノロジー CEO武下氏インタビュー
スマート宅配ボックス

通常、インターネット企業がモノをつくるのは簡単ではないのですが、当社のグループ企業に家電をつくる企業があるので、こういったモノもつくることができました。

その後、ソフトウエアだけでは解決できない課題が多いことに気づいたので、それもどんどん解決していこうとしていたら、「IoT」という流れがやってきたということなのです。

 
-そのあと様々なモノも作られているようですね。

はい。我々のクライアントは、小売りや外食が多いのですが、駐車場に悩みがあることがわかりました。どういうことかというと、駐車場の空き状況って、お客様からすると来店前にインターネットを通じて見ることができたほうがよいですよね?そこで、もしかしたら、我々がセンサーやカメラをつかってやれば、空車状況ってわかるのではないだろうか。さらに、POSレジも持っているので、空車管理のしくみとつなぐことで、利用料金の精算もお店でやってもらう、もしくはインターネット上で決済してもらうことができるのではないかと思いました。

こうやって生まれたのがIoT駐車場パーキングシステム、「eCoPA(エコパ)」です。

IoT駐車場パーキングシステム、「eCoPA(エコパ)
IoT駐車場パーキングシステム、「eCoPA(エコパ)

飲食店のおかわりコースターもそうですね。外食産業はアルバイトの人件費が上がっていて、業務効率化しないといけないけれど、客単価は下げたくないというニーズがあります。そこでおかわりしたいお客様を人間の動作だけで確認できたら、客単価上がって人件費はそのまま増えません。全部顧客ニーズから逆引きして、プロダクトにしています。

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おかわりコースター

 
-なるほど。確かにそうですね。わりとIoT側からだけ見ていると、分断されたものだけがあるように見えてしまうので、歴史的背景を伺っていると、非常につながりがあるなというのがよく分かります。

今はネットがモノにつながっただけでニュースになってしまうと思っているのですけれど、どっちかというと企業と話していると問題解決にしか興味が持てません。たまたま「IoT」だったわけで、僕らは組織改革もやっていれば、勤怠の管理もやっていれば、オムニチャネルもやっているのですけれど、その問題解決の一種としてIoTをとらえた方が僕らの歴史とあっていて、それは10年間やってきた事なので、スムーズに僕らも取り組めるのです。

 
ーそうあって欲しいなと常々思っています。

IoTの分類でモノ型とデータ型と課題解決型と3つがあると僕は思っています。Pepperなどはモノで、人工知能やビッグデータがデータ型なのですけれど、企業はモノやデータよりも、やっぱり課題解決したいのですよね。

ビッグデータも扱える企業はいいのですけれど、ぜんぜんビッグデータをビッグデータとして扱えないというか、分析してもあまり意味ないという会社は結構あります。大体もう分かっているということで、そっちじゃないIoTってまだあるなと思っています。それが僕らのやっている課題解決型IoTがうちのビジネスの根幹となります。

 
-でも実際スマートフォンをみんなが持っている前提で、いろんな事を始めるというのは、まだマーケットがあると思います。

ありますね。

 
-実際はあまり開拓されてないというか。UberやAirbnbの話ばっかりですよね。北米でも様々なサービスが立ち上がっているのですけれど、なかなか本命視されないというか、そこまでのマーケット規模になってないですよね。

日本の場合は、社長さんが「おい、お前らIoTやれ!」って言うわりには、「おい、それって儲かるのか?!」ってそのふたつが共存しちゃうので、難しいですのです。

僕らはどちらかというと、「IoTのマネタイズを加速させることができます」というのがいいかなと思っています。これまでずっとプロダクトを出してきたのですけれど、プロダクトを横展開で出すのはいったんやめて、もう少しミドルウェアよりというか、IoTのビジネスやるんだったら、どの企業さんも「これ欲しいですよね」とういうモノを出そうかなと思っています。

イーコマースとかレジに関して、「企業がお金をもらえるところ」で僕らはビジネスを10年やってきたのですが、IoTもそこがすごく重要だと思うのですよね。

IoT課金というか、いきなりモノが売り上げを上げ始めたら嬉しいじゃないですか。今ってどちらかというとモノがデータにつながって、それってコスト増えるよね?と思われているのが現状だと思います。

つまり、事業計画の「売り上げ」の方が書けないということになるのですけれど、「これってここでネット課金して、リアルに誘導して課金して、モノで課金して、販売から利用の課金もいけますよね」とか、「物販じゃなくてレンタルもありますよね」とか、「シェアもありますよね」って言うと、なんとなく新規事業担当者が事業計画書かけそうなイメージはありますが、一方で、そんな都合のよいIoTソリューションって世の中ないと思っています。

そこはサブスクリプション課金のZuora(ズオラ)などもあるのですけれど、あれは契約管理とかどちらかというとバックオフィスのイメージなのです。僕らは「IoT使って新規事業やる時の売り上げもこうやって上げられます」というソリューションがそろっているということをやろうとしています。

例えば、スマート宅配ボックスに課金してもいいし、駐車場で課金してもいいのですけれど、そのミドルウェアソリューションがあると、うちの強みが出ると考えています。

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左:株式会社エスキュービズム・テクノロジーの代表取締役 武下真典氏/右:IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-実際にサブスクリプション型のビジネスモデルを始めようと思って、EC決済会社と話をしても、結構簡単に始められないようですね。

無理でしょうね。なぜかというと、日本の決済って何か変で、対面と非対面に分かれてるのですよね。これ全く意味がなくて。例えば、イーコマースの決済事業者ってクレジットカードなどの非対面の事しかやれなくて、同じ業者は店舗の決済やれないのですよ。

ここがユーザー企業からしたら意味が分からないのです。「え?何でふたつと契約しないといけないのですか?」みたいな。僕らがその間に入って、対面も非対面もモノ決済みたいな枠組みにして、両方できますというプレーヤーになろうかと思っています。

 
-そこの可能性はすごくありますね。Zuoraもインタビューしているのですけれど、企業規模かなり大きくて、年間の売上額で何億にならないと、全然ペイしないような金額帯のサービスです。小さな小売店がちょっとサブスクリプションサービス始めたいというのは、なかなかうまくいかないのですよね。

そうだと思います。そこにうちがミートすれば、売り上げの方も僕らは決済サービスを持っているので、コストというかクラウドとデータ通信とゲートウェイみたいなところって、絶対いるじゃないですか。

そこもクラウド屋さんとSIM屋さん、ニフティーとかソラコムさんとかとつないじゃって、日別に課金状況が分かるようにしてしまえば、売り上げとコスト両方見えると思うのです。そうしたら1日単位の損益計算表がでるので、それで儲かるか儲からないかっていうのが分かっていくのです。

飲食店は基本的に、予約システムは未来の売り上げで、勤怠システムは今日のコストで、シフト管理は未来のコストなので。損益決算表が出せるシステムが揃っています。IoTはまだそれがないので、そこを作りたいなと今思っています。

 
-なるほど。これ、ちょっと秘密にした方がいいんじゃないですか?(笑)

秘密にしていてもどこかがやるし、有言実行の方がいいかと思っています。でも、他社はなかなか真似できないのですよ。例えばタブレットのPOSを真似できたかっていうとできなくて。何でかと言うと、僕らってお客さんが正解を持っているのを知っているから、お客さんに聞きながら商品作っていくので差別化できているのです。

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株式会社エスキュービズム・テクノロジーの代表取締役 武下真典氏

 
-そうですか。確かに、この話の根幹だと思うのですけれど、実際、例えばスマートフォンのアプリが売れ始めたのも、スマートフォン決済があるからですよね。iモードのアプリが売れたのも、iモード決済があるからというのがあったので、決済の基盤があるっていうのは大きいです。

今、仮想通貨をやろうとしています。僕らがレジやイーコマースのポイントをもうやっていますが、ポイントってイコール仮想通貨システムなのですよ。

それを商店街でみんな貯めて使えて、ネットでもリアルでもそれが貯めて使えれば、それってもう仮想通貨できてしまっているといえます。そこで、モノでも課金できるとか、モノでも仮想通貨使えるとかにしたら、システム的にはできる。あとはビジネスモデルどう作るか。そこまできています。

 
-他に何やられていることはありますか?

僕らは『宇宙兄弟』のUFOとかを作っているので、展示会で『宇宙兄弟』で出てくるUFOを展示してたりすると、人が寄ってくるのですね。その人たちと話をしていると、「いや何か、IoTで何かやりたいのですけれど、結局何やっていいか分からないので。」という人たちが非常に多くいらっしゃいます。その人たちが何が分かって何が分からないのかとか、ニーズを引き出すためのツールが必要だなって思って、カードを作りました。

これをトランプみたいに出していきます。その人の企業、どういう課題があるか、製品を聞いて、「結局御社の課題って何ですか?」というのを聞いていきます。

結局コスト削減とか、新規事業始めたいとか、みなさんだいたい課題を抱えてるのですけれどそれを言えないので、このカードで言い当ててもらって、最後は自分たちで課題を白紙のカード出して書いてもらおうと思うのです。書いてもらって課題決まって何をやりたいかって決まったら、IoTは最後組み合わせだと思っています。

これを通して、僕らはお客さんがどこでつまずくかというのを、大体言い当てられるようになってきているのですが、多くはモノがネットに出て行くイメージが一番分からないのです。だから宅配ボックスってイメージできるし、スマートフォンのアプリもお客さんでもイメージできるのですけれど、「え?このロッカーがどうやってネットにデータ送るの?」みたいなところが難しいです。

このモノとネット接続のとこだけが分からないのですね。それがWi-Fi?Bluetooth?いや3G?みたいなその辺が分からないので、まずこっちでどこに課題があって、何が分からないのかまでは追い詰めていこうと思っています。そうしたらIoTの世界に入りやすいかなと思っています。

 
-このカードはどのように使うのでしょうか?

これはこうやってきっていくのです。

「こんにちは、エスキュービズムです。」
「IoTのイメージってどんな感じですか?」
「ああ、そうですね。それペッパーって、はいモノ型って言うのですよ。」
「人工知能とかあるじゃないですか。それデータ型ですよね。」
「でも御社って企業だからこの課題解決型じゃないですか?」みたいな。

その他、
「既存ビジネスは何やってるのですか?」
「こういうお店やってるのですよ」
「ああ、お店ね。」
「インバウンド対策で免税レジとかね。」
とか、その時に必要なカードをきっていくのですよ。

僕らの企業ってUsable IoT(ユーザブル IoT)と言っていますが、使う人が何か新しい事ができるようになるっていうのが、IoTの醍醐味だと思っています。今までの焼き直しだったら、それって無意味だと思っているので、Userble IoTというコンセプトでやっています。

Usable IoT

ただパワーポイントの資料だけ持っていくと、営業マンが話をできません。例えば展示会でブース来てもらって「うーん、ちょっとIoT担当になったんだけれど、何から手を付けていけば。」とか、事例教えてと言われた時や、セミナーでも使っていく予定です。

技術ドリブンではなく、課題解決型IoTを提供する -エスキュービズム・テクノロジー CEO武下氏インタビュー

 
-面白いですね。

このカードは僕らが足していくのと、ホワイトカードというのがあるので、御社の課題書いてくださいとお願いすると、「上司が面倒」とか「稟議通らない」「なんかやれっていうけど、なんかが分かんねえ。」とか書いてくるのですよ(笑)。ニーズが出てくるのですよね。

これって世に言うIoTベンダーとは全く違うアプローチだと思っていて、本当に企業の課題を解決していくというアプローチだと思います。まだ今ってIoTが何なのかって語られてない時代だと思うので、その時期にはこういうトランプみたいなのがいいのかなと。

 
-御社は、受託の仕事もやられているのでしょうか。

そうですね。製品が立っていますが、実は顧客企業の課題ありきでやってるので、受託的なものもやってます。

僕らの強みって、本当にやるってところだと思っていて、カンファレンスにお笑い芸人を本当に呼ぶとか、カードを本当に作るみたいな。IoTもみんな想像はするじゃないですか「あー、その世界来るね。」みたいな。でもその世界作る人が少ないから、じゃあ僕らやっちゃおうと。やっちゃったら何かまた次の正解を誰かがくれます。やっちゃわないと誰も正解言わないですよね。

 
-そうなのですよね。

だから早く間違えればいいと思っていて。弊社のおかわりコースターがこないだテレビ出たら、「それって店員呼べばいいじゃん。」と書かれました。それだと今と変わらないのです。

 
-でも今は居酒屋チェーンでも、結構タブレットとか増えてきましたよね。あれ出した時はすごく批判されて、呼んだほうが早いんじゃない?ってみんな言っていましたけれど、最近そうでもないようです。

技術ドリブンではなく、課題解決型IoTを提供する -エスキュービズム・テクノロジー CEO武下氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

人件費減らしたかったらタブレットですね。ただタブレットが嫌だって言う飲食店もあるのですよ、「やっぱり人間味がなくて」とか。僕もタブレットは操作が難しいから嫌なのですけれど、おかわりコースターはその中間だと思ったのです。

 
-なるほどね。そうかもしれないですね。確かにどちらにしても、きちんと作っていくって結構大事な事だと思うし、そういう制作能力があるって事が分かれば、他の形でも御社がきっと儲かれるんだと思います。

今までは電子工作の延長上で、たまたまこういろんなモノ作ってましたってところに、受託の話が流れがきたわけですよ、去年までは。今年からはそうではなくて、産業界でIoTが広がっているので、ちゃんと仕事として受けられると言うと、もうちょっとソリューションになれる人たちが、そろそろ出てくるかなと思っていました。

今後、ETCのパーキングをやろうとしてます。高速道路のようにETCで課金して出たら勝手に課金されてる仕組みのものです。そうしたらもうチケットもいらないし、手を伸ばすのもいりません。多分冬くらいにはできると思うのです。

 
-ETCを高速道路の外で使ってもいいのですか?

使えるような流れになってきています。規制緩和が今後も進むと思います。

 
-じゃあいろんなところで、車の課金が使えそうですね。

今、いくつかのパーキング事業者さんと組んでやろうと思っています。やっぱりこういうエコパなど、パーキングに特化したのを出していると話がくるのですよね。

技術ドリブンではなく、課題解決型IoTを提供する -エスキュービズム・テクノロジー CEO武下氏インタビュー

 
-本日は面白い話をありがとうございました。

【関連リンク】
エスキュービズム・テクノロジー
エスキュービズム主催 IoT Conference(2016/10/18)

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