シーメンスのデジタライゼーションへの取り組み

シーメンスPLMソフトウェアのグローバルセールス マーケティング サービス担当のエグゼクティブ・バイスプレジデントであるロバート・ジョーンズ氏は6月9日、東京、お台場の記者会見の中で、自社のデジタライゼーションにおける取り組みについて講演を行った。

ジョーンズ氏によると、デジタライゼーション、デジタルテクノロジーは世界中ですべての企業を変革させているか、もしくは、創造的破壊を起こさせているという。一般的な例としては、同氏は、写真業界においてコダック社が破綻したことや、書店がアマゾン社に取って代わられた事例をあげた。さらに自動車産業でも、最近フォードが、デジタル変革が十分に早く進んでいないという懸念から、自社のCEOを解雇したという事例もあげた。

さらに、アクセンチュアのCEOは、「2000年フォーチュン500社のうち半分以上が消えてしまった。その主な原因はデジタルにある」と述べたという。そして、アナリストによると、このようなトレンドはこれからも続くということだ。

ここで、なぜこれらの企業は失敗してしまったのか、という疑問が湧く。その理由は、「各企業はデジタル技術に適応する努力はしているものの、自分たちの業界全体の変革を起こすために「デジタル」というものを中心の戦略として捉えていないからだ」というのだ。

こうした失敗する企業が、デジタルを採用するのは以下の理由が考えられるという。

  • 現在手動で行っている業務を自動化するためにデジタルを活用している
  • サイロ化された技術を単にデジタル化している

つまり、効率性向上のためにデジタルを利用しているだけなのだ。

さらに、これらの企業では、いかにデジタルがプロダクトのイノベーションプロセスに影響を及ぼすかについて十分に理解できていない状況だということだ。

この「デジタルによる変革の力」はイノベーションのライフサイクルのあらゆる段階に影響を及ぼしているという。

デジタル・エンタープライズへの変革をもたらす技術の力

シーメンスでは、製造業におけるイノベーションプロセスを、「アイデア」「実現」「利用」の3つのフェーズで捉えているという。

「アイデア」を製品に変えるプロセス

設計フェーズにおいて、昨今設計者は、デジタルを活用することで設計の反復作業ができるようになってきた。

また、あるモノをデザインする際は、システムというコンテクストを考慮してデザインすることが可能になってきた。これは、予測型のアルゴリズムをつかったデザインが可能となってきたということを指す。

製品を「実現」するプロセス

デジタル化は製品の実現方法にも影響を及ぼしている。

「アディティブ・マニュファクチャリング」という言葉を使って説明がされたが、これは、製造時の課題の抽出や対応を、製造の現場でやるのではなく、設計の段階で試すことができるようになったことを指す。

このことで、先進的なロボット技術を使って、既存のロボットに対しトレーニングを行ったり、製造プロセスそのものを変えることができる。他にも、人間が介入しなくても、機械そのものが新しい環境に適応することができるようになるというのだ。

製品を「利用」するプロセス

ある製品についてパフォーマンスや使い勝手のデータを得て、解析することで、次の設計サイクルの中で、そこで得た教訓を製品に反映できる。さらにそ、製品の利用中でもパフォーマンスやデザインに対して修正を加えることも可能になってきた。

シーメンスは、これらイノベーションプロセスでの各段階における投資・開発を進めてきたということだ。

その結果、今やシーメンスは、顧客にとっては製品を定義したり作ったりする際には設計、生産工程、パフォーマンスそのものについて、デジタルツイン(リアルの製造工程をデジタル上にコピーすること)を作ることができるという。

デジタルツインを活用することで、より複雑な解析やシミュレーションを行うことが可能となり、製造企業は製品改善を行い、イノベーションライフサイクルの短縮を実現できるということだ。

デジタル・エンタープライズ・ソフトウェアの領域

シーメンスは、製造プロセスを管理する、幅広いハードウェアとソフトウェアポートフォリオを提供することを目指しているという。

そのために、統合型のALM(Application Lifecycle Management)の実現に力を入れてきたということだ。これは、「予測型エンジニアリング」と呼ばれる、製造の企画と製造工程をデジタル上で実行する統合環境を実現することができるのだ。

また、顧客からもすぐにフィードバックを得ることができるような体制を整えているという。顧客から得たフィードバック情報から製造プロセスそのものの変更をも加えることができるという。

さらに、IoTを使うことで、製造プロセスだけでなく、製品の利用中のパフォーマンスも監視し、ライフサイクル全体にわたって管理ができるのだという。

これらの中には、最近のメンター・グラフィックス(Mentor Graphics)社の買収や10年前のUGS社の買収により実現できたものも含まれる。

こういった買収により、シーメンスは、イノベーション・プロセスの完全デジタル化に向けたソフトウェア開発、機械設計、そしてEDA(Electronic Design Automation)に関わるツールをすべて提供できるような体制になったということだ。

その結果、顧客企業は、自分たちに最適なものを一貫して利用できるようになり、バーチャルとリアルを結合させ、イノベーションのライフサイクル速度をあげることができるというのだ。

ジョーンズ氏は、「アイデア」「実現」「利用」の各フェーズにおいて、いくつか事例を紹介した。

「アイデア」「実現」「利用」の各フェーズにおける創造的破壊の事例

「アイデア」のフェーズ

FMC社は、石油業界において活躍している企業だ。彼らはオフショアの油田開発で創造的破壊を起こしているという。

油田開発事業は、かつて何十年もの間、水に浮かぶプラットフォームが使われていたが、これには不確実性のリスクや賠償責任制などの危険が常に伴っていた。

そこで、FMC社ではこうしたプラットフォームの必要性を排除してきているというのだ。

今までは反復設計が9日間で5回しかできない状況だったという。FMC社は、シーメンスと組むことで、腐食を最小限に抑えて減圧する最適なパイプを設計するために、設計をNX(シーメンスの3次元CAD/CAM/CAEシステムの名称)、シミュレーションをCFD(computational fluid dynamics)の技術、石油探索はHEEDSと呼ばれる技術を組み合わせることができたという。その結果、FMC社は、3日間で300回の反復設計を行うことができたというのだ。

「実現」のフェーズ

キャロウェイ社は、ゴルフクラブの業界においてはリーダー的存在の企業だ。

シーメンスのチームセンターの技術を使うことで、ゴルフクラブを設計する期間において、通常2年以上かかるものを10か月弱に短縮できたという。

また、キャロウェイは現在、シーメンスと連携し、CADの環境に取り組んでいる。これによってゴルフクラブのプロトタイプをつくるのに一日しかかからないということだ。

例えば、ツアー中のプロゴルファーが、ある週の水曜日に、キャロウェイ社のゴルフクラブを使い、もし気に入らない場合は、翌日の木曜日までに修正を行い、週末の試合に新しいクラブで臨むことができるというのだ。

「利用」のフェーズ

Dell社は、シーメンスのOmneoと呼ばれる機能を使い、何百万もの隠れた記録を分析し、ファームウェアの問題の原因を特定するのに要する時間を、かつての約3週間から3日に短縮することができたという。

これによってDell社は、顧客満足度を向上させることができたという。

この事例では、同じ備品に関しても複数の供給先があり、どの供給先が、どの設計の、どのバージョンを利用しているかがわかるのが困難な局面があったのだという。

しかし、あるサーバに問題があった場合、複数のベンダーや複数の設計情報をみることで共通の課題を発見することができるようになり、あるベンダーが提供している設計のバージョンが異なっていて、それが問題の元なっていることを特定することができたのだという。

デジタライゼーション成功のポイント

デジタライゼーションの大枠は理解できただろう、しかしどこから手を付けてよいのかわからない企業が多いという現状があるが、それに対して、「小さな成功を目にみえる形でやることが重要だ。さらに、トップがデジタライゼーションを完全に理解するということ、この二つを実現することで、ものづくり自体がかわる。」とジョーンズ氏は述べた。

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