農業を科学にする「e-kakashi」 -PSソリューションズ インタビュー

大量の栽培データを蓄積し何年にもわたって蓄積し、その中から見つけられる知見を見出すというアプローチが多いスマートアグリ。一方で、農業科学や匠の知恵を活かし、データを活用することに視点を置いたアプローチでデータを見るのがe-kakashiだ。

今回、そのe-kakashiについて、PSソリューションズ株式会社 フェロー 博士(システム情報科学) 山口 典男氏、同社 e-kakashi事業本部 グリーンイノベーション研究開発部 部長 博士(学術)戸上 崇氏に話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

 

-御社について教えてください。

山口: 私はもともと技術屋なのですが、8~9年前に総務省のすすめる「ふるさとケータイ創出推進事業」というプロジェクトに、ソフトバンクのメンバーとして参加しました。

当時、農家や生産現場へ行ってみると、農業に使うIT機器があまりになかったので、作物や現場のデータを取って、役立つシステムが作れるのではないかと思いました。そこからが冥府魔道の道です。

実際にセンサーネットワークを作ってデータを取って、「データが取れました、温度です、湿度です。どうですか」と、実際の生産者のところへ行くと、「ところでそのデータどう使うの」と聞かれるわけです。

「私は、ITなどエレクトロニクスの方から来ました。データが取れた後、それがどう役立つかの専門性は農家さんにあるのではないですか」と伝えたのですが、農家さんは「今までデータがなくてもできていたし、データの意味を教えてくれないとわからないよ」とおっしゃって、そこには永遠に渡れない川があると認識したのです。

そんなことをしていたら、三重大学の亀岡先生からご連絡をいただいて、農業において役立つセンサーネットワークというのはそもそもどういうものか、どういうふうにするべきか、ということをいろいろ教えていただきました。そこで、ITだけがわかっている人間だけでやってはダメだと、強く認識したのです。

その後、総務省ユビキタス特区で頂いた開発費が事業仕分けの対象になったり、社内で風当たりが強くなったりしたのですが、ソフトバンクの事業プランコンテスト※で事業プランが認められ、孫正義社長(当時)から「とりあえず挑戦しても良い」というチケットをもらったのです。

※「ソフトバンクイノベンチャー」という新規事業提案制度。2011年スタート。e-kakashiは第一回通過案件。

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右奥:PSソリューションズ株式会社 フェロー 博士(システム情報科学) 山口 典男氏

そこから、IT側と農学側の知識を合わせる必要があったので、まずはチーム作り、即ち採用を始めました。亀岡先生にいろいろ勉強させていただく中で、そこの研究室で博士課程の学生としてひたすら土に土壌センサーを埋めていたのが、この戸上です。土壌センサーの埋め方の上手さで惚れ、来てもらうことになりました。

その後彼を中心に研究員は1人増員しています。農学、農業情報工学、植物生理学など、いわゆる農業にとって重要な専門知識を持ったメンバーは、このe-kakashiの主要メンバーとして成就することになり、そこからが本当のe-kakashiの始まりで、これがざっくり3年前くらいです。

e-kakashiは見た目こういうカタチなので、この箱がすごいのかという感じがするかもしれませんが、センサーネットワークであるこの箱はある意味動いて当たり前です。問題はその集まったデータをどう処理するのか、これを私たちは1つの強みとすることができたのです。

そのベースとなるのは、植物生理や農学的な農業にとっても最も必要なコアな知識です。特に栽培にとってコアな知識をちゃんと意識した上で、それをITとして使えるようにシステム化されている、ここがe-kakashiの強みとなって、やっとe-kakashiが商売になり始めたのです。これが約1年10ヵ月ぐらい前です。

ありがたいことに、ここまで作り込んでいるシステムは他にないと評判をいただいており、この分野のトータルソリューション、サービスとしては唯一無二の存在になっていると思います。

 
-実際には、どのようなことができるか教えていただけますか。

山口: 今のところは現場のデータや気象データ、様々なデータを集めて、植物生理にのっとって、例えばFacebookみたいに何が起こったかをタイムラインで見せたり、それぞれのデータから、今ここに気を付けた方が良いなど、何をした方が良いなど、逆に何をしたという作業を書き入れたりなどの、栽培ナビゲーションです。

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ただナビゲートするだけではなく、分析や、謎なことが起こったら、どのデータとどのデータを見てどう分析するかということを非常にやりやすくしてあります。そういった意味では、現時点ではある程度わかっている人が特に喜ぶシステムです。

昔の会計システムのような、会計や経理がわかっている人だったらすぐ価値がわかってくれる。とにかく全く何も知らない人からしてみると敷居が高いというのが現在のポジションだと思いますが、逆に言ったら、農業のプロから見てウケるのがそもそもの目的です。

農業の中でどんなデータがどう大事かというのは、例えば普通に考えても温度など湿度など、太陽光の日射量ですね。そういうパラメーターは本当に基本のデータなのですが、そこから算出される、植物の呼吸しやすさや、水分の発散しやすさなどを植物生理に基づいて考えるいくつかのパラメーターがあり、そういうのを観測データから演算して出します。

われわれはトップエンド機としての誇りがあるので、普通の観測値も非常に細かく補正したり、かゆいところに手が届く機能が数多く入っていたりします。この機能だけで、生産者さんは「ここまでできているのを初めて見た」とおっしゃいます。

ただデータを集めるだけではないと先ほど申し上げましたが、私たちのナビゲーションにはekレシピと呼んでいる、作物をどう作ったら良いかというレシピの作成機能が最初から入っています。

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その作物をどう作るかという基本的な情報モデルに基づいて、今の観測データから農作業の意思決定に役立つ値が算出されたり、逆にどういうふうに作りたいかということをトラッキングしていって、今ここが異常だからこういうふうに改善した方が良い、例えば水分が足りないからもうちょっと足した方が良いなどを適宜アドバイスしながらやってくれるのが、現状のシステムです。

現状は教えてくれるだけですが、今後は施設園芸などで、少し窓を開けたり、水あげた方が良い場合は自動制御したりするように、年内を目途に機能追加する予定です。

そうやって実際の露地というのですが、外でやっている農業、施設園芸ハウスなどの栽培も全て対応していて、先ほどのekレシピを変えることによって、作物には特別に限定がありません。

戸上: 補足をさせていただくと、e-kakashiは、本体のスイッチと、動いているかどうかを確認するボタンと、アンテナ切り替え用のボタンの3つしかありません。

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e-kakashi

スイッチ入れるとすぐにデータ飛んできて、取っているデータを見るだけという話になります。

今の植物の環境として良いのか悪いかを数字で設定してあげると、注意喚起されます。これを携帯電話に知らせることはできますが、ただこれって誰でもできますよね、というのと、これだけで役に立ちますか?というと、そこには大きなハードルがあります。

なぜかというと、そもそも作物によってしきい値と呼ばれるものは異なります。また、同じ作物でも成長段階によって全然違うのです。もう1つ言うと、同じ作物で、同じ生育ステージ、成長段階でも、地域によって作業の方法が異なることもあります、それは地域性と言われるものです。

これだけじゃダメだよねという話は、先ほど山口が申し上げたekレシピという概念で、農業の栽培自体をもう少し科学的に、体系的にまとめ直しましょうという、カーナビで言うとこのルートを科学的に作り直しましょうという機能になるのです。それができてくると、既にある農学的な知見を参考にした栽培が可能になります。例えば、日中平均などというカタチです。

取ったデータを瞬間値というのですが、これまでの機器の多くは瞬間値に対して良いのか悪いのかしか判断できていませんでした。ただわれわれのような農学系の知識を持っていると、日中平均という特殊なデータ処理をします。それに対して、実際の対象作物が良いのか悪いのかといった部分の知識とも比較して、アラートも出していきます。

ここまでが山口の説明の補足になりますが、とは言え、実際に栽培していると、マニュアル通りにやっていても上手くいかないという話があるので、弊社では環境データを、植物科学の観点から少し読み解けるような形のグラフ機能のようなものを設けています。

若手と高齢のベテランさんでは技術的な隔たりがあります。それを継承しないと、産地としてもなかなか上手くいきませんし、若手の方は売り上げが立たないと食べていけないので、何とかしましょうというプロジェクトをしています。

ある事例で、しいたけや春きゅうり、万願寺唐辛子、京の豆っ子米というお米などを作っていますが、具体的にレシピ以外、アラート以外でどういう形でデータを使うかというと、栽培現場ですぐにグラフ化して、データを栽培の観点で見ることができます。

例えば春きゅうりを例にすると、ホウサの適正値が一般的には3から6と言われているのですが、実はベテランさんであっても制御するのは難しいということが、グラフから見えてきます。要は、品質や収穫量を読み解くのに役立つと考えられる特殊なグラフが表示される仕組みです。

このようなグラフを農家さんは今まで見たことも作ったこともありませんでした。

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PSソリューションズ株式会社  e-kakashi事業本部 グリーンイノベーション研究開発部 部長 博士(学術)戸上 崇氏

 
-飽差(ホウサ)はどういう計算式なのでしょうか。

戸上: 絶対湿度というものがあります。空気中に何g/m3の水があるかというのが絶対湿度です。それに対して飽和水蒸気量は、ある温度のとき、最大でどれくらいの水蒸気が存在できるかという話です。

最大の容量に対して今の絶対湿度があって、その差がホウサ、つまり飽和との差って意味なのです。

 
-容積あたりの水分量ということでしょうか。

戸上: そうです。現存する容積あたりの水分量(絶対湿度)と飽和水蒸気量との差が飽差(ホウサ)という形なのです。

それが植物とどう関わっているかということなのですが、植物は土壌中の水を根から吸いますよね。その水は最終的に植物の葉の裏の気孔から出ていきますが、これは蒸散と言われているものです。蒸散する時に、空気中に水がいっぱいありすぎると出せないですよね。だから湿度が高すぎるとダメですよと言われるのです。

逆に外がカラカラだったとしましょう。カラカラだと植物から水がいっぱい抜け過ぎちゃうので、今度は植物が枯れてしまいます。ですから植物は、乾燥しすぎている時には気孔を閉じます。そうなると、光合成活性が低下します。

要は水を出した変わりに、植物は気孔から二酸化炭素と酸素を吸って、ガス交換するのです。それができなくなるからという話で、一体いくつが良いのかというと、一般的には3から6g/m3と言われています。

実は植物科学でこのことはわかっているのですが、実際に現場でこれがどれくらい使われているかというと、まだまだ普及していません。

今の農業現場の課題は、光合成に対する複合的な見方が全然できてないことです。それに対してわれわれの答えは今ご説明した内容になります。そういった情報が現場ですぐに見られるのがわれわれの強みです。

いつ頃、何をした方が良いか、土壌の水分量もどのくらいが良いなど、作物ごとに値は変わります。植物科学をベースにしてそれらを体系的にまとめて、産地の考え方を融合させて、独自のものをちゃんと作っていきましょうというのがまさにレシピなのです。

篤農家と言われるベテランさんを分析したことがあるのですが、既に植物科学的に正しいと考えられることをしていました。

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左奥:e-kakashi事業本部 グリーンイノベーション研究開発部 部長 博士(学術)戸上 崇氏/右奥:PSソリューションズ株式会社 フェロー 博士(システム情報科学) 山口 典男氏/手前:IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-どういうことをしていたのでしょうか。

戸上: 例えばお米の例ですが、定植し田植えしてから10日間は、根の生育、成長する時に一番重要な時で、その時の地温がすごく重要だと言われています。

昔の人は地温が下がりすぎると、水に手を入れて、自分の肌感覚で冷たすぎたら深水管理という形で、水を多めに入れて、地温を保護するということをしていました。

他方で、文献を見てみると、どのくらい温度が下回ったら生長が悪かったということが書いてあるので、そのデータや知見と実際の環境データを分析してみると、しきい値を下回っていませんでした。これは下回らないようにコントロールしていたと考えられます。

 
-匠の技を科学的に解析する、と。

戸上: そうなのです。例えば、水位を測れば、篤農家技術の見える化ができるというのですが、それだけではわれわれはかなり難しいなと考えています。その理由は、なぜ水管理をするのですか、深さを変えるのですかといったら、植物自体を保護する、良い環境を作り上げるために必要なことなので、そう考えるとただ単に水位だけ見ていても、しょうがないのです。

水位が見えるといった時に、例えば地域によっては、水資源が豊富にあるわけではありません。だから最適な水の利用といった意味で、水資源、水位を測るというのであればわかるのですが、篤農家技術の継承といった意味で水位を測るというのは植物科学的に考えるとかなり難しいと思います。

だから作業を見るのではなく、作業の意味を読み解いて、植物目線ではどう考えられるのか、じゃあどうしなきゃいけないかというところまでできるのがわれわれのe-kakashiです。

 
-土質は関係してこないのでしょうか。

戸上: 関係してきます。例えば土性は、砂、シルト、それから粘土という大きな3つがあります。粘土というとすごく粒は小さいのですが、粒と粒の間の隙間が小さく水の入る余地が少ないという話になりますが、水と接している部分が多くなりますね。ですから、1回水を蓄えると抜けにくい構造になっています。

砂はシルト、粘土の中では1番大きな粒になりますが、大きいので隙間がいっぱいあって、だからこそ水はけが良いという話もあります。それぞれの地域、土地、それは地形のできかたによって変わってくるという話もあるのですが、土壌の水分量1つをとってみても、現在、現場で使えるセンサーでは全部を解明するのはなかなか難しいです。

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IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-そうすると同じほ場に関して、匠の技を継承していくことはできても、ほ場が変わったらマイナーチェンジをして操縦しなければいけないということですね。

戸上: それは必要になります。そこをどう補完するかというと、2つあって、1つは土壌分析というアナログな方法です。全てを現場のセンシングにする必要もないと考えています。適材適所があるので、詳しい分析についてもきちんとデータとしては読み込めるようにしておく。

山口: 植物のもともとベースにあるのは、その植物はどんな環境でどう育つかという、科学的根拠は文献があります。そういうのまずベースに置きます。ただそれだけではどうしても足りない部分がある場合は、実際の現場の経験値を数値化したりします。けっこうITでやっている人って、そういうのを無視しているのです。

 
-知らないだけで、無視しているわけじゃないと思いますが。

山口: まあ知らないのですが、結果的にそれを参照せずにやっちゃうのです。いきなりデータだけ取って、機械学習、ディープラーニングして何かがわかったなど言いだす。それって医学を学ばないで、データだけ取ってその人の病気を分類しようと思うのと同じようなことです。

われわれは根本的にわかっていることは先に取り入れて、それ以外はデータなどで分析して、一部ディープラーニングのようなのを使って、しきい値を決めたりするのですが、そういう技術は適材適所ですよね。

 
-強みがよくわかりました。逆にストレートなだけに、今までやってこれなかったんだなと感じました。

戸上: 知らないという部分と、例えば今は、センサーメーカーがたくさん出てきていますけど、知ろうとしない部分で差がでてきているのが今の分野です。

例えば今の計測原理でちゃんと測れているかどうか。ちゃんと測れているというのは測れているかもしれないけど、本来求められている値が取れてないなど、それに対してどう取り込んでいくのかというと、われわれとしては解決する手段を常に植物科学から見ていくといったところがあるので、ユーザーの皆さんには「こんな機能までできちゃったの」のような話になるのです。

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e-kakashi

 
-例えばどういった機能に驚かれるのでしょうか。

戸上: 例えば、先ほどの飽差と積算日射量など、しかも10分間という単位で意味を持たせるグラフです。他には例えばお米の場合、本州では、田植えしてから中干しという農作業がけっこう行われているのですが、ほとんどは地域のベテランさんの経験と勘でタイミングを見ています。それの何が怖いかというと、その地域のベテランさんを皆が真似して中干しが始まるのです。

 
-良いセンサーですね。

戸上: まさに人間センサーだと思うのですが、そのセンサーが狂ってしまうと、地域としては大打撃なわけです。

ベテランさんは、自分の経験と勘だけでやっているので、もし自分が間違えたらえらいことになるぞという不安を持っています。また、毎年もっと良いものを作っていきたいという話もあり、それをわれわれが去年、1回見える化したのです。

去年の値を出し今年を見てみると、どうやら同じぐらいなので、要はそれがちゃんとデータとして使えそうなのです。

先ほどの延長になりますが、気候は違います。でも、数字にしてみてある程度同じということになると、植物が定植されてから成長して、次の中干しになるという成長段階に行くまでのエネルギー量などといった部分は、恐らく一定だろうという仮説が成り立ちます。

確かに土性は違うのですが、土よりも上の部分の1本の植物のまとまりをシュート(Shoot)と 言いますが、そのシュートの部分の気候については、恐らく横方向展開上手くできるぞと。

要は気候が違ったらできないというのは、その植物が成長するところに当てはまってないだけで、少しでも当てはまっていたら、成長が早かったり遅かったり、大きくなったり小さくなったりするかもしれないけれど、何とかできる可能性はあるのではないか、というのがわれわれの見立てです。

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-なるほど。日本国内であれば似通っていますね。でもワインなどは、フランスの土と日本の土は違いすぎて難しいと聞いたことがあります。そこまでじゃなくても、例えば米がそこそこ作れるというのがはっきりわかっている地域同士での差ぐらいだったらどうにかなりそうですね。

戸上: それはあります。日本は何がすごいかって、栽培技術、育苗などの、育種なのです。今スーパーに並んでいる野菜のほとんどは、元は外来種です。平安の時代から、一番最近だと明治以降といった部分で大きな変革を迎えています。

最近だと例えばアーティチョークなどは普段食べなかったですよね。日本は不適地なのです。アンデス原産と言われるトマトなども本来は作れるわけがありません。でも日本人は栽培技術と育苗といったところで特化して、甘さやうまさを追求してできあがっているのです。

これはなぜできるかというと、その植物の生理生態を上手く利用して、戦略的に取り組むからこそできることなのです。

それって科学の1つですよね。日本のブドウ栽培も同じことをしていて、品種なども改良しているので、例えばシャインマスカットなどあれだけ糖度にこだわった品種は、海外にはありません。甲州と言われる日本ブランドがありますし、それぐらいすごい可能性を持っているのが日本なのです。

 
-それが今までだと数年かけてやっていたのが、学術にも基づいているから、もうちょっと単純にできる可能性がありますね。

戸上: おっしゃる通りです。これからデータを取って、とりあえず1つやってみるぐらいだったら、例えば一気に5つのデータを取ってやった方が、5年分の短縮になりますのでおすすめしています。それを何年後に目標に到達しますか?というところまでご提案させていただけるシステムになっているので、ウケが良いところです。

 
-何年間で良くなるかまでわかるのですか。

戸上: わかるかというよりは、科学的な知識に基づいてどうした方が良い、というご提案ができます。

山口: 要は1年で5パターン取れるわけです。10年で50パターン。でも1年で1回ずつやったら50年かかるわけです。そして、植物生理学的に意味のあるデータを取れるセンサーをできるだけ選ぶようにしているのです。

例えば昔よくあったのですが、秋葉原あたりで照度センサーを買えば、明るいか暗いかわかりますが、植物の世界では、照度って人間の目で見る明るさじゃなく、光子数を取らなきゃいけません。

また、昼間といっても何時から何時まで、というのがあるのです。植物生理などでは、厳密にその日の昼間と、要は日の出の時間と日の入の時間をちゃんと計算しなきゃいけないのですが、産地の場所によって、日の出日の入が毎日違いますよね。

これはGPSのデータから自分の居場所を検索して、その地域の正確な日の出と日の入を自動的に計算します。

そうするとここで出てきた日平均は、学術的に言われている日平均と正確に比較して良いので、さらにお仕事が進むわけです。この機能だけでも欲しいという人もいるぐらいですので、センサーで取ったデータを補正する時も、補正式、補機性の方法などにも、ディープラーニングを使うなどして、補正の精度を上げるのです。

 
-補正のどこにディープラーニングを使うのですか。

戸上: センサーを外に付けるのですが、直射日光が当たるとどうしても筐体が温まってしまいます。ただしそれを補正すると形、センサーの校正とは違う補正も必要になってくるので、それに対して機械的に学習させています。

 
-筐体を改造しても難しいのでしょうか。

戸上: 物理的に限界があります。筐体をもっと強固にしようとすると、ハードウェアの値段が上がり、さらに電力も必要になってきてしまいます。

山口: これはバッテリーで3年ぐらい動きます。センサーでできるだけ精度高く取りますが、どっちみち必ず誤差が出ます。誤差が出た時は、最後に機械学習などを使って補正するのです。

要は、いろいろなデータ、パラメーターを揺らして、実際の本当のところ正確に測った温度と、どの程度どういう形でズレるかをディープラーニングにかけるような、かなり新しいジャンルのやり方です。

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-ノイズ補正など、家庭の電力の波形を見て「これは冷蔵庫の電気だ」と見極める技術がありますが、同じですよね。もともとどういう特徴データなのかを知っているから、それと比べると、このデータノイズの温度だ、と出すわけですよね。

山口: パラメーターの感度が違いますけど、端的なやつは波形から取ります。

 
-実際には何種類ぐらいセンサーが通っているのですか。

戸上: 今通っているのが温度、湿度、土壌の体積含水率、つまり土壌水分量です。後は日射照度、二酸化炭素濃度も測れるようなセンサーあります。それからホウサ、露点温度、絶対湿度、これは算出項目です。

温度ABという形が何かというと、サーミスターと呼ばれるものを使って、温度、あと4点測れるようにしています。ですから例えば地温であったり、水温であったり、取りたいところのデータが取れるような温度センサーをあと4点余分に。他にも土壌のECなどがありますね。

 
-露地だと挿す場所によって、温度や土壌の水分量などが変わってしまうという話をよく聞くのですが、その辺はどうされているのでしょうか。

戸上: それは現場の課題に応じて提案をします。1回わかってくると、皆さんが自分たちでもやっていきます。

今までだと多くが、畦など田んぼの横や畑の横に設置して、データさえ取っておいて、後で分析解析をすれば何とかなるという話になっていることが多かったのですが、それをやってきて失敗してきた皆さんは、ちゃんと取るところが身についてきています。

データを取っているにも関わらず、こういうデータの解析などできますか、分析できますかと相談されることも多々あるのですが、それに対して「ここのデータ取っていますか?ここちゃんとこういう形で試験設計していますか?」と聞くと何もできてないのです。

現場はそこのリテラシーといった部分でまだまだこれからなのですが、今われわれと一緒にやらしていただいている皆さんについてはその辺がだいぶ進んでおられます。

 
-何社と一緒にやられているのですか。

戸上: 26都道府県、約280台です。われわれの自慢になってしまうのですが、多くは「1回入れたけどデータが使えない」と倉庫に眠っちゃうケースが多いのですが、弊社の場合280台ほぼほぼ全てが稼働しています。

皆さん、安いところから順番に試していって、最終的に「あのデータどうしたら良いですか」と相談されるのですが、もうその段階ではどうしようもないですね、となります。要するに使えません。

山口: 農家さんや生産者さんがe-kakashiを導入したいというと、まずどういう方式で何を栽培していますか?と、聞くところから始めます。例えばイチゴだったら、このデータとこのデータをこう取ったらこれがわかると大体わかっていますが、e-kakashiのセンサーを、全部そのまま使うということは意外とありません。

お米だったらここの温度をこう取ってください、イチゴだったら、トマトだったら、施設栽培だったらなどを提案します。

戸上: 実はこのデータの使い方は、本当に意欲のある方だったら誰でもできます。要は1つの考え方です。データをどう活用して栽培に活かせるかという、栽培技術が日本の農業の生きる道だと思っています。

普及啓蒙活動として、私ともう1名が実際に農業大学校に行かせていただいて、特別講義という形で講義をさせていただきながら、e-kakashiをお貸し出しして、どう栽培にデータを役立てているかというプロジェクトを組んでいます。

実際に去年1年間使っていただいたのですが、たった1ヵ月間で実はデータを活用した事例ができちゃったのです。

何をしたかというと、施設ピーマンを土耕栽培の例ですが、「病気が多発しました」という内容を入れてくれたので、それに対して農業大学校の先生が、文献などを調べて、ピーマンのうどんこ病という原因を調べました。

その中で環境データを紐解いて、今回の場合は土壌の水分量が低すぎたので、病気が発生しやすい環境でしたということがわかりました。ここの部分でダメだったんだねとわかったので、水のやり方を変えたら、以降は病気が抑制されました。

よくあるのは、データを取って全て解析した後、「この時に水分が低かったから病気が出たのではないか?」という話をするのですが、それではもう遅いですよね。今回のように、現場ですぐに原因を紐解いて対処ができるのであれば、教育にしても若手の指導といった部分でも、効率が上がってきます。

もう1人の学生さんも病気が出ましたが、水分量は問題ないようでした。先生が着目したのは別のグラフで、何かおかしいと土壌のECを見てみるとピークが出ていないのです。つまり肥料をやっていなかったということがバレました。栄養状態が悪いから抵抗性がなくなって病気が出たと考えられます。人間も一緒で、食べてなかったら病気になりやすいですよね。

しかし、これをグラフで毎回読み解くのは難しいという話になるし、毎回自分で設定してもめんどくさい話になってくるので、先ほどのレシピの一部機能を使って、しきい値を設定しています。

どれぐらいからどれぐらいに入って、それから外れたらアラートが出て、その時にはこういう対処法をしましょうという形で入れてあげます。それが地域性のものでもある、という話になってくると継承は早まります。

さらに体系的に学ぶことができてくるので、自分が農業現場で就農する時、指導員になる時、すぐに使える知識になるわけです。

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-すばらしいですね。

山口: カーナビなしに知らない町を走るのはものすごく不安だし、だいたい道に迷いますよね。それが、ちゃんと地図の入ったカーナビゲーションがあれば道を間違わないし、この先に渋滞があるよとわかれば迂回もできます。

農業では例えばすごく雨の多い年や、すごく太陽が照る年には、こうした方が良いよという対策を提示してくれるというのは意外と大事なのです。だめになってしまったあとに「原因はああだったんだよ」とあとで言われるのではなくて、「今こういう傾向が出てきたから、これ気を付けた方が良いよ」と言ってくれなければ役に立ちません。われわれは、そういうところに対して非常にフォーカスしています。

 
-異常気象時など、学術的に経験値があまりないような気候状態の時には、何か解があるのでしょうか。

戸上: 例えば高温ストレスなど、突発的なストレスに対しては全く問題ありません。e-kakashi自体は、信頼の日立製作所が作っていて、上は60度から下はマイナス15度ぐらいまで保証しています。

われわれはたまたま農業用ですが、こんなにハードに使えるセンサーネットワークって日本に他ないんじゃないかなというぐらい頑丈です。防水、防塵対応をしていますので、外でも中でも使えます。絶対に欲しいデータを取ることができる設計が、われわれの設計思想です。

山口: 2010年に東北のコシヒカリが7割か8割が二等米に転落するという事件がありました。それは高温障害と言って、急に温度が上がってしまった日というのがあったのですが、当然水の温度も上がって、本当は水をかけ流して冷やさなきゃいけなかったのです。

ところがそれ気付いたのは二等米になった後でした。実際、東北のJAさんなどにも話を聞いたのですが、「もし先にわかっていれば対策の方法はあったけど、わかるまでに時間がかかりすぎる」ということでした。その時にe-kakashiがあれば、防げたはずです。

まだ道半ばなのですが、われわれとしては今までやってきたことが徐々に受け入れられてきていると感じていますので、しばらくこの勢いでやろうと思っています。

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-本日はありがとうございました。

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