LoRaWAN, SIGFOX, NB-IoTなどの、LPWAの特性とビジネスへの可能性 -情報通信総合研究所 岸田氏インタビュー

 
-やはりLPWAで大事なことは、タイミングを見極めなきゃいけないというのと、トライアンドエラーを繰り返さないと、まだまだ信用できるものではないということでしょうか。あと面白かったのは、Wi-Fiっぽいという、自分で組めてしまうというところですね。その良さを活かしたい。通信がつながる・つながらないということを気にするのであれば、セルラーの会社が出してくれるサービスを待つしかない、ということですよね。

LTEは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクが顧客からお金をもらって、それで設備投資して責任持って運用しているわけですよね。エコシステムはものすごく大きい。でも、Wi-Fiはそうではありません。電気屋さんで売っていて、「あ、つながった。早いね」という話で、LoRaはそちら側ですよね。

SIGFOXはどちらかというと通信キャリアに近いですが、もし周りがLTEで提供されるようなキャリアレベルのサービス品質を求めるのであれば、利用料金は高くなってしまいます。SIGFOXのメリットは安いことなので、そこは少しジレンマになると思いますね。

ただし、通信サービスの単品売りではなくSIerなどがネットワークを卸で買ってきて、ソリューションに組み込んで提案をしていく、という話になるので、エンドユーザ向けの小売料金競争にはなりません。

なお、SIGFOXが使っている技術や、狙っている領域からすると、壁を通過するとかの電波の浸透性で他の技術より圧倒的に有利でないと、良さは出しにくいかもしれません。

LPWAを日本でどう活用していくべきか -情報通信総合研究所 岸田氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-実際はどうなのでしょうか?

通過しやすいと思います。ただし、面的な広がりではLTEベースのNB-IoTなどが有利です。

 
-そこは不動産商売ですから、やっぱりますますソリューションと一緒にやらないと、お金にならない感じがすごくしていて、通信事業者みたいなやり方をするのはすごく違うアプローチだなと感じています。

SIGFOX事業者は、今までにないバランスの取り方をしなければいけないですね。通信キャリアは、通信料と設備で直接的に値決めをして、サービス対価としてもらっています。ソリューションは必ずしもそうではなく色々なもののコストをまとめていくらです、という話です。

SIGFOXは、今通信ネットワークを作っている最中です。彼らの良さは電波がよく通りますよ、という点でしょうから、ネットワーク整備が進んで、全国どこにいってもSIGFOXの電波が届きます、という話になると変わってきますね。

 
-2020年に5Gが出る話と、NB-IoTは同期しないのでしょうか?

NB-IoTは今のLTEベースですので、5Gとは同期しません。5Gは5Gです。ただコンセプトとしては、5GもLPWA領域をカバーします。

 
-LTEベースのLPWAは「ここに5byte余っているからよかったら」と、バスの相乗りしてみたいな話ですよね、きっと。

そんな感じですよね。LPWAのセミナーなどで説明するときには、「LTEまでの通信技術の進化は、デコボコの道路を舗装してきれいにしてより速く走れるようになりましたというもの、そして周波数帯域を広げるのは、道幅を広げて車線数を増やすようなものです。そうすると、どんどん車も通せるようになるし、舗装もいいので高速です。しかし、LPWAというのはこうした従来の通信技術の進化とは違い、そういう道路の隙間に、アリンコを通す車線を作るようなものです」と例えています。

 
-セルラーの場合は、デバイス側の通信モジュールが大きいものじゃないといけなくなるから、割高になったり電力消費が大きくなったりという問題もあります。だから、相乗りできていいなというのは、もう常時電源が接続されているようなデバイスに限られてくるのかなと。

よく電池を使った屋外のユースケースで語られているような、獣害被害を防ぐために檻にセンサーつけておいて、檻が閉まったらデータをあげ、置きっぱなしで電池も5年くらい持つ、といったタイプのモノは、たぶんセルラーには向かないのだと思います。

そうですね。セルラーは結局すべてのプロトコルそれなりに位置登録が一通りいるので、かなり削ってNB-IoTという規格にまでしていますけど、SIGFOXほどまでは削れませんから。それがSIGFOXなどの強みで、セルラーの人たちもわかっています。

SIGFOXのインタビューで聞いても、「いや、セルラーの人はここまで来ないよ」と言い切っていました。だから、棲み分けができるのだと。

 
-電源があって、通信モジュール高くてもよくて、いちいち通信を引きたくない人にとっては、NB-IoTがいいと思っているかもしれません。

そうでしょうね。最近は海外でも、NB-IoTでエリアカバーしたという発表が徐々に出てきています。ヨーロッパやオーストラリアにもNB-IoTがじわじわ入っていて、LTE-Mももうじき入ってくると思います。それぞれ向いている用途がありますが、運用面ではLTEネットワークにどこまでソフトウェアで機能追加しますか、という感じです。

 
-そうなってくると今日この瞬間に大量投資をして、SIGFOXなのかLoRaWANなのかという話をするよりは、もう少しセルラー側がこなれてきて、ラインナップが広帯域のものから低帯域のものまでずらっとあって、電源消費量もすごく少なく済むものから、使うもの、結構使うものと分かれて、そのマトリクスが組めるようになってきたころに、投資すると無駄がなさそうですね。

将来のロードマップは大方見えていますので、使う側がそのタイミングまで待てるかですね。

 
-一つ言えることがあるとすれば、すごく小さいパケットしか飛ばさないような通信、今で言うとLoRaWANとか、SIGFOXが今まさにサポートしている領域というのは、そんなに簡単に侵食されそうな感じがないので、ここだけで済むことだったら今やってもいいかなと思います。

でも、それよりも少しデータ量が多かったり、品質を求めたりするともう少し待ったほうがよくて、さらに巨大なデータを扱う話になってくると、これは5Gを待ったほうがいいですよね。その3段階くらいでデータを見ながら、事業構想を固めていただければいいという感じでしょうか。

そうですね。ただ、セルラーではないLPWAも新しいものがいつ出てくるのかわかりません。実際、ソニーのLPWAなども出てきているわけで。

 
-今、HUAWEIが5GやNB-IoTを頑張っているので、今後、中国全土に広がったスマートシティのパッケージが、東南アジアに輸出され出す可能性があると思います。こういった点について、日本でのパッケージはどうみるとよいのでしょうか?

そうですね。恐らくは日立やパナソニック、SIを手掛けるCiscoなどがグローバル規模でスマートシティ事業をやっていますよね。他社では担えない、自分たちだからこそ担えるという規模のところを狙っています。

HUAWEIなどの通信設備ベンダーは、企業体力も技術開発力もあるのですが、SIを手掛ける企業の商売の仕方とは、少し距離があります。ですから、そうしたソリューションを自前で持とうとしていますけど、足回りを持っているSI事業者に近いような格好でやろうとすると、簡単ではありません。

ですので、ある程度パッケージを卸していくとか、もしくはプラットフォームを持ってそれを多くのプレイヤーに使ってもらいましょうという側に寄りがちです。

Huaweiのような通信設備ベンダーにとっては、IoTパッケージを自前で輸出するのは手間がかかるので、その土地土地で売り先となるお客さんを持っているような人がうまく間に入り込まないと、世界に広げていくのはなかなか難しいと思います。IoTのデータを集めて商売するのは、将来性を期待してみんなが投資していますが、スマートシティ系が本当にお金になるのか?という疑問も残っています。

 
でもスマートメーターやスマートパーキングは電力会社の人件費削減になるし、ライトは省エネでエネルギーが節電できます。

パーツで見るとわかるのですが、それをパッケージでやろうとすると、組み合わせだったりとか、チューニングだったりが必要になってきます。

 
-でも電力のために引いたLoRaWANのネットワークを、ガス会社も使うかと言ったら使わないじゃないですか。だから、ネットワークはやっぱり街やSIGFOXのようなインフラ企業が引くべきなのかなと思っています。

「じゃあ街は何で得をするの?」と言ったら、税金をもらうしかないのですが、メリットがサービス事業者側に寄って、ネットワークを引いた人には得がないわけです。

そうすると街からするとやる意味がなくなるのが怖いので、公共駐車場のスマートパーキングみたいに、そもそも市区町村が持っている設備、インフラで儲けることを前提としたスマートシティ用のネットワークを引いて、そのネットワークに「好きに相乗りしてね」というのが良いのかなと思っているのです。

それは、プラットフォームスタイルですよね。

 
-そうですね。私はそれをパッケージと呼んでいるのですが、それは結構輸出可能かなと思っていて、例えば、ごみ箱なんかも典型的だと思います。ありがちなソリューションを市区町村がまだ持っておいて、そこにみんな付け足していくという流れがよいのかなと感じています。

そっちのほうがいいでしょうね。個別だと部分最適になってしまうので、結果的にはコストを共有できずに割高になってしまいます。

 
-スマートブイなんかも面白いのですが、漁師さんがそれぞれ導入するのはきついと思います。そこで、漁業組合全体としてペイできるレベルの話まで持っていかないと難しいわけですよね。

つまり、それなりの規模のある団体が海にネットワークを張る、農業団体が農地にネットワークを張る、街中は市区町村がネットワークを張る、という棲み分けをきちんとやっていく流れが大事なのかなと感じました。

「みんなで」やると割り勘の世界に近づけるので安くなり、「あなただけ」というと割高になります。

それは、サービスとソリューションの違いに近いですね。通信ネットワークはどちらかというとサービスであるほうが安いわけで、そのレイヤーで「あなただけ」というのにこだわりすぎるともったいないと思います。

 
-すでに色々な市区町村で動き出していますが、ネットワークが届く・届かないみたいなベースの議論はもうそろそろやめて、ノウハウを独り占めせず、みんなでやれるといいなと思っています。

LTEベースのNB-IoTやLTE-Mが出てきたら、ネットワークが届く・届かないの議論は変わるかもしれません。今のLTEエリア内はもちろん、その周辺まで届くようになるはずです。

また、ノウハウの共有も同感です。足元のニーズに応えるべく、ソリューションが数多く提案されていますが、それぞれは個々に独立しています。一方で、スマートシティというのはコンセプト先行です。この個々のソリューションと、スマートシティのコンセプトを橋渡しするコーディネーターのような存在が、今後求められるのではないかと思います。

自治体の方々も、個々のソリューション毎に契約するのは面倒でしょうし。そしてそのコーディネーターが、ノウハウを広げていく役割を担うのかもしれません。IoTというのは通信はもちろん、センサーデバイス、クラウド、アプリなどをうまくつなげることではじめて使えるものになるので、そうしたところまで面倒を見てくれる人が今後も求められるのだろうと思います。

LPWAを日本でどう活用していくべきか -情報通信総合研究所 岸田氏インタビュー
株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏

 
-本日はありがとうございました。

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情報通信総合研究所

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