富士通研究所、5Gスモールセル向け基地局の低消費電力ミリ波技術を開発

株式会社富士通研究所は、第5世代移動通信方式(5G)で要求される毎秒10ギガビット(以下、Gbps)超の高速通信を、Wi-Fiアクセスポイント並みの低消費電力で実現できる基地局向けミリ波回路技術を開発したと発表した。

128個のアンテナ素子を格子状に並べ、それぞれのアンテナ素子への信号の位相を制御することで電波を特定の方向だけに集中させるミリ波ビームフォーミング技術において、同社ではこれまで不要な電波干渉をキャンセルさせるように信号を符号化することにより、高速通信と低消費電力を両立させるサブアレイ間符号化技術を開発している。

今回、アンテナ素子への信号の位相を制御する、フェーズシフタと呼ばれる回路を構成するアンプの数を削減し、回路の電力ロスを最小化するミリ波回路技術を開発することにより、フェーズシフタ部分の消費電力について128個のアンテナ素子の場合に、従来比で半減となる3Wとすることに成功した。

同技術と開発済みの技術を組み合わせることで、駅前やスタジアムなど人が集まる場所で小型の5G基地局によるミリ波の高速通信が可能になるという。

開発の背景

近年、2020年頃の実用化を目指して第5世代移動通信方式(5G)の研究・開発が世界各国で進められている。5Gの要件の1つである10Gbps超の高速・大容量通信を実現するために、広い周波数帯域幅が利用可能なミリ波帯が活用される見込みだ。

期待されるシーンの一例として、スタジアムにおいて、それぞれの利用者が個別にゴールシーンや様々なスタジアム内の状況を高精細映像で視聴できるサービスなどがある。

ミリ波は、高速・大容量通信が実現できる一方で、直進性が高く、障害物などに対して回り込みが少ないため、多くの人が集まる場所では数10mの間隔で基地局を設置するスモールセルと呼ばれる方式での利用シーンが想定されている。

その際、それぞれの基地局では多数のアンテナ素子を利用して電波を所望の方向に集中させるビームフォーミングと呼ばれる技術を用いて、ビームを分割多重して同時に複数のユーザーと通信を行う技術が必要となる。

富士通研究所では、既にこのビームフォーミング技術において、アンテナアレイの消費電力を削減するサブアレイ間符号化技術を開発しているが、駅前やスタジアムなど、人が集まるところに多数の基地局を設置するためには、Wi-Fiアクセスポイント並みの10W程度に抑えることが課題となっていた。

開発した技術の詳細

今回、アンテナ素子への信号の位相を制御する、フェーズシフタと呼ばれる回路を構成するアンプの数についてスイッチ回路と差動アンプを組み合わせることにより削減しつつ、回路の電力ロスを抑える新しいミリ波回路により、フェーズシフタ部分の消費電力を半減させる技術を開発した。

フェーズシフタは各アンテナ素子への入力信号の位相を0度から360度の範囲で調整することにより、アンテナアレイから出力されるビームの方向を決める回路であり、従来フェーズシフタごとに4つのアンプが必要だった。

今回、入力信号の±の符号により出力位相を0度と180度に切替え、また90度と270度に切替えることができるスイッチ回路を新たに開発することにより、アンプの数を2つに減らすことに成功。

また、ビーム間の干渉を低減するために、フェーズシフタに実際に設定された位相と振幅を測定し、ずれを補正する機能を持たせることで低消費電力と高精度なビーム方向の制御を実現した。

富士通研究所、5Gスモールセル向け基地局の低消費電力ミリ波技術を開発
スモールセル向け基地局の無線部機能ブロック図
富士通研究所、5Gスモールセル向け基地局の低消費電力ミリ波技術を開発
従来のフェーズシフタ
富士通研究所、5Gスモールセル向け基地局の低消費電力ミリ波技術を開発
開発したフェーズシフタ
富士通研究所、5Gスモールセル向け基地局の低消費電力ミリ波技術を開発
開発したフェーズシフタのチップ写真

効果

同技術により、128個のアンテナ素子の場合、フェーズシフタ部の消費電力について従来比で半減となる3Wを実現。開発済みの技術と組み合わせることで、10Gbps超の高速通信をWi-Fiアクセスポイント並みの10W程度の低消費電力で可能とした。

基地局を狭いエリアに多数設置することによって、多くの利用者が集まる駅前やスタジアムといった場所でも、利用者あたりの通信速度低下を最小限に抑えた通信環境の構築が期待される。

【関連リンク】
富士通研究所(FUJITSU LABORATORIES)

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