建築設備をITネットワークにつないで働く場所をインテリジェンスに -内田洋行 スマートビル事業部 インタビュー

ICTと空間の両面から、学校教育や、公共、オフィスにおいて、人の可能性を拡げる「場」づくりを支援している内田洋行。同社によると、昨今の働き手不足により、オフィスや工場へのIoT導入が進んでいるという。今回、オフィスのIoT化、スマートビルについて話を伺った。

  • お話いただいた方

株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 部長 山本 哲之氏(トップ写真左)
株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 事業推進課 谷澤 直人氏(トップ写真右)

  • 聞き手

IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 小泉耕二

-御社のIoTについて、教えてください。

山本: UCHIDA IoT Modelという内田洋行が提供するIoTサービスの特徴は、下記図の入口にあたるデータ収集機能とデータ分析蓄積機能、それと出口と書かれてある設備連動、ブラインド、照明、空調、水回り、カメラ、セキュリティといった建築設備が、シームレスにネットワーク信号線でつながっていることです。

建築設備をITネットワークにつないで働く場所をインテジェンスに -内田洋行 スマートビル事業部 インタビュー

簡単なように見えますが、実は同じバス上に違う設備が接続されているのがミソで、通常の設備はこうはなっていません。通常は、照明は照明で、空調は空調で各々制御信号線が張られています。

われわれの事業領域は、「上と下」をつなぐことです。つまり、データを収集して分析して終わりではなくて、そのデータの値を設備につなげることによって連動制御をします。

ひとくちにセンサーといっても、メーカーや仕様、用途やプロトコルも違います。われわれのサービスは、その複数のプロトコルを、ゲートウェイを介してセンシングしたデータをオンプレミスあるいはクラウドに蓄積します。

スマートビル事業推進部は、設立されて4年経ってないチームなので、同業の方から見ると新参者です。なぜさまざまなお客さまが私どもをご指名いただくのか。それは、内田洋行がメーカーではないからです。

メーカーは自社製品を優先しますので、接続、拡張が難しいベンダーロックインの構造が出てしまい、お客さまの選択肢が減ってしまいます。

もう1つの理由は、「つなぎ屋」としてのプレイヤーが意外にいないということです。先ほどの図で言うと、上と下のネットワークは系統が違います。上のネットワークは基本的にはパソコンにデータを格納したり、クラウドで格納したりする技術です。

ところが下のネットワークは、アナログ信号や接点で制御するエリアがもともと多いところなのです。つまり、上のパソコン系からきた流れと、下の設備系からきた流れはエンジニアリングが全然違うので、システム技術のスキルも全然違います。「ネットワーク通信と電気通信をどうつなげるか」が、この技術の核になっています。

実際には、上のタブレットでプログラムを組まれることを得意とされているベンダーが、照明の信号線にどういうコマンドを投げるか。これがそんなに簡単ではないことを、意外にご存知ないのです。

これはわれわれが発見したわけでも、発明したわけでもなく、欧米はすでにつながっています。先進国のなかでは日本だけが、容易に接続しづらい非常にクローズドな環境で、ビルに実装されています。

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左手前:株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 部長 山本 哲之氏
左奥:株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 事業推進課 谷澤 直人氏
右:IoTNEWS 小泉耕二

 

山本: 特にバブルのときに建てられたビルが、今20年ほど経って改修の時期に入っています。昨今のIoT化の後押しもあって、ビルをインテリジェンス化しようとしたときに、つながっていないことが露見してきているのが現状です。

「TCP/IP、Wi-Fiは、世界の主要国に行くとちゃんとつながる」、それが当たり前の前程でいました。ところが、設備の分野で使われる通信プロトコルは同じIPでもBACnet/IPと呼ばれる通信規格で、通常のパソコンではあまりみかけることがありません。

建築設備は、オープンプロトコルのBACnet/IPが主流になりつつあります。BACnet/IPから下が、各適材適所で構成が組まれ、具体的にいうと、LONWORKS(ロンワークス)、Modbus(モドバス)といったフルオープンプロトコルで欧米などは組まれています。

設備に詳しい方は、BACnet/IPをご存知です。ゼネコンの方との会話でTCP/IPという単語になじみがなく、逆に、パソコンのネットワーク専門家は、BACnet/IPという単語を聞いたことがありません。つまり、この2系統をこれまで融合することがなかったので、われわれのビジネスチャンスになっているのです。

新築をビルで建てるときは、施主から「タブレットPCでLED照明を制御したい」などのニーズがでてくるようになります。

施主が実現したいことを可能とするための配線になっているかどうかが重要で、内田洋行がこうした施主の実現したいことを丁寧に広い、物理的な実装モデルに落とし込んでいけるのです。空調や照明といった、本来自分最適化を図りたい設備へのアクセスをエンドユーザーが容易にできるようにしたい、とお客様自身のニーズが変わってきています。

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株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 部長 山本 哲之氏

 

谷澤: 私からは大和ハウス工業様の事例をご紹介します。同社は、相模原に10万平米5階建ての物流施設を新築で建て、われわれのシステムを導入しました。

この建物は、照明の制御や空調・換気の制御、空気還流システム、監視カメラなど、さまざまな設備が入っていますが、こうした複数の設備の稼働監視を一元的におこないたいというのが大和ハウス様からのリクエストでした。

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大和ハウス工業様としては、これを、「10万平米をテナントに」という言葉で表しています。当時実装される設備メーカー様に相談したところ、すべて同じネットワークで接続させられるところが無く、弊社にご相談をいただきました。われわれのシステムは、各メーカーとそれぞれのインターフェースを介してつなぐことができますので、ご採用いただくことになりました。

タブレット型PCを、ビルの管理者やテナントに貸し出し、そのタブレットから各設備のモニタリングや制御ができます。その結果、省エネに繋がりました。10万平米5階建てですから、高いところに電気を取り付けるのは配線も大変ですし、電池の交換一つとっても大変になってしまうのです。

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株式会社 内田洋行 営業本部 営業統括グループ スマートビル事業推進部 事業推進課 谷澤 直人氏

-最近の設備はネットワーク化されているのでしょうか?

山本: そうですね。例えば、ダイレクトデジタルコントローラを介してアナログ信号や接点信号をネットワーク信号に変換します。それといくつか同じようなコントローラがありますが、制御プログラムがこのコントローラに格納できます。パソコンでいうと、ウェブサーバーの代わりにもなるようなインテリジェンス化されたコントローラです。

-もともと電気信号は外に出るようになっていたのでしょうか? もともと出るようになってないと捕捉しようがないですよね。

山本: 基本的に多くの機器は、外部に信号を出せる口を持っています。ただ、オープンな規格でネットワーク化する方法は、日本ではあまり見かけませんでした。

谷澤: もちろん自動制御の分野として、空調を最適な環境に保つことは行われていますが、パソコン系のネットワークのようにオープンな技術でつなぐという発想はないまま、メーカー独自の進化をしてきています。ガラパゴスですね。

山本: オフィスや工場、物流センターの建屋自体がネットワークにつながらないと、遠隔監視や自動運転ができません。ビルをインテリジェンス化するのはネットワークであり、統合化技術なのです。

一つの設備だけをネットワーク化するわけではなく、複数の設備を同一バス上につけることを統合化といい、クラウドの要素技術を使いながらつなげます。

また、人口減少にどう対応していくかを考えると、「生産性を上げること」が一つのテーマとして挙がってきます。私たちのアプローチは、「仕事をする場、あるいは学ぶ場、この環境自体が生産性を落とさない環境にするべき」です。そのなかには省エネや、利便性の向上、快適性があります。

また、CO2の濃度自体が人の生産性に影響を与えると言われています。CO2が多くなると、集中力落ちて眠くなるのですが、このことは医学的にも証明されているようです。私の経験では、クローズドな会議室で、10人で1時間の会議をすると、CO2は1,500 ppmを優に超えます。換気と空調は密接に連動していますので、自動的にセンサーで検知し、窓や扉を開けるだけで違うのです。

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オフィスの見える化

 

谷澤: 建築衛生法上1,000ppm以下が望ましいのですが、弊社でも2ヶ月に1回測定されていますが、エレベーター前など一部分だけで測り、「問題ない」と報告をされます。しかし、温度ムラなどを細かく測定しているわけではありません。

山本: 通常空調機器の温度検知機能はコントローラや室内機に組み込まれておりそこで測った温度が空調コントローラに表示されている場合があります。つまり人が働いている高さで測っていないので、正しい温度が表示されているかはわかりません。また、いざ測ろうとするとネックになるのが配線です。しかし人の高さに配線を引くわけにはいかないので、無線が有効なのです。

このフロアに展示しているのは、EnOceanや特定省電力無線です。同じサブギガ帯ですが、なぜ複数種類を持つかというと、EnOceanはワンホップといって一回30m飛んで終わりなのですが、オフィスであれば30m飛べば十分です。ところが、工場や物流センターは広いので、マルチホップといって複数回、飛び石のように飛ばさないといけません。その特性がある無線の機器を選択することもできます。センサーが違うということはゲートウェイも違うので、ゲートウェイも複数置いています。マルチのゲートウェイもありますが、ユニットの入れ替えが必要です。

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谷澤: 次に、緊急地震速報が鳴ると、連動して照明が点滅するデモをします。こちらにあるのはネットでも買える緊急地震速報を受信するユニットです。

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緊急地震速報を受信するユニット

 

これはFM派から拾うタイプで、通常はスピーカーにつなげたりするものですが、実は信号も出すことができるので、その信号を照明システムに送り照明を点滅させました。このことによって、例えば聴覚障がい者の方がいる場所や、工場や物流施設など騒音があるところでも緊急地震速報を伝えることができます。

つまり、いままでただ灯りを照らすだけだったLED照明が、システムとシステムをつなぎ合わせることによって安全安心のツールとなるのです。すでに、導入を進めている企業もあります。

音声によって制御を行うデモもあります。喋った言葉をコマンドに変えて制御をかけていますので、会話を拾わないように最初にCREA CUBECREA CUBE(クレアキューブ)と話しかけます。CREA CUBEはこの空間の名前です。「CREA CUBE、空調つけて、空調を止めて」と言うと、「承知しました」と返事があり、音声で認識をさせてコントロールができます。

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「CREA CUBE空調つけて」と音声制御をしているところ

 

この音声制御は、テレビ会議システムでのウケがいいです。システムに慣れていない方々がテレビ会議をしようとすると、なかなかつながらず、わざわざ詳しい人を呼ぶということを経験されたこともあるかもしれません。弊社のシステムですと、東京から「大阪とつないで」と言うと、すぐ大阪とつながります。

山本: 実際、オフィスで「照明つけて」と音声制御で運用しているお客さまがいるかというと、いらっしゃいません。なぜこんなことをやっているかというと、人手不足をどう解決するかという、一つの手段だからです。われわれは毎日キーボードを使いますから、これに対する抵抗は全然ありませんが、キーボードを毎日使ってらっしゃらない方の方がきっと多いはずです。

そこで究極は、音声や表情になると思っていますが、そこには必ずしもITに詳しい方がお仕事に携わるとは限りません。さらに、外国人労働者がこれからどんどん日本の職場に浸透するかもしれません。そうなってくるとインターフェースを簡単にする必要があるので、そのための一つの手段として、音声連動を実装しています。

実はIT化が一番進んでいないのが、背広を着て仕事しているホワイトカラーのオフィスです。物流センターや工場は既にロボットが導入されていたり、高度なセンシングで荷物の仕分けができていたりします。オフィスはセンサーすらまだほとんど入ってないからこそ、チャンスがあります。

しかし、一律同じ実装で問題が解決するかというと、それは違います。広さ、人数割合、テナントか、持ちビルか、男性、女性の比率も違います。使い方が違うために個別最適化をしなければならないため、他があまり参入できない部分でもあります。

-例えば、パソコンにエアコンの制御画面が出て、自分のところだけエアコンをつけることもできていくのでしょうか。

山本: デスクごとではなく島ごとですが、既に内田洋行ではできています。天井に直接設置するベース照明なので導入が楽で、レイアウトが変わってもソフト的に変えることができます。

能動的にオペレーションするところまではできていますが、現在は、省エネや快適性、そのバランスをAIで判断して、自動的に明るさや空調、送風の強弱などを自動コントロールすることが事実上できつつあります。やってみてわかりましたが、オフィスは結構奥深いのです。そこで働いているのは人間なので、個体ごとに感じ方も違えば、満足度も違います。

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-なるほど。話は変わりますが、工場でも何かやられているのでしょうか?

谷澤: はい、工場の配線コストを下げた事例をお話します。この会社は、もともと他社が使っていた工場をリノベーションして移転しました。その工場内でパーテーションを立てて、作業する部屋や通路を分けていますが、社長が「絶対にパーテーション内に配線をしたくない」という判断を下されたのです。その理由の一つが、過去、地震のときにパーテーションがずれて、なかに入っていた配線が切れてしまったことがあったためです。

そこで、配線不要のEnOceanスイッチを30台ほど、工場内に導入いただきました。さらにタブレットを入り口2ヶ所の壁に取り付けて、このタブレット上で今、照明のどこがついているのが一目でわかるようになっていて、消し忘れがあったら一発で消すこともできます。このシステムは照明管理だけができるわけではないので、その他の設備の警報も取って、何かあったらメールで受信するというのを同じシステム内で動かしています。複数の機能を統合させた事例です。

スイッチはいつでもあとから取り付ければいいので、スイッチの設置位置は後回しにすることで、移転の担当の方の負担を軽減できました。たかだかスイッチなのですが、配線が要らないだけで、通常の工程やプロセスを変えたり、現場視点で使いやすくしてもらうことができました。

山本: そもそも、つながることがIoTの本質だとしたら、働く場や学ぶ場、そういう空間をネットワークにつなげるための内田洋行のシステムが、プラットフォームになるのです。

-本日はありがとうございました。

【関連リンク】
UCHIDA IoT Model センサーネットワーク & ビル統合管理システム

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