世界のスマートアグリ(農業IoT)の今を調査レポート[Premium]

IoTにおいて、農業IoTは一つの大きなテーマだ。

日本でも、様々なIoT向け製品がリリースされているが、一方で、新技術の採用において農業はもっとも遅い分野の一つであるとよく思われている。

しかし、環境問題や消費者の新要望を背景に、農業で成功した新技術導入事例が増えつつあり、効率性・生産性の向上が明らかになっている。

IoT、ドローンやAIがもたらす利点を事例から学ぶことで、最新技術を導入する企業が少しづつ増えてきている。IoTデバイスが取得するデータとその分析結果は精密農業の基礎になりえる状況となってきている。

※精密農業とは、農場や農作物の状態を監視して、農作物の収量や品質を向上させる農業のこと

また、スマート農業によって効率性と生産性だけではなく、食料品安全性も向上できる。

現在、消費者の食料品安全性に関する要求が高まっており、それに応じる企業も増えてきている。

例えば、商品にタグなどを付けて、生産地や生産状況、使われた農薬などを確認可能にし、消費者の満足度と信頼を高めることなどができるのだ。

スイスの乳製品メーカーSwissmooh社は、生産チェーンをわたり品質を管理し、各材料を生産した農家まで追跡できるサービスを提供している。

また、スウェーデンのSkanemejerier社は、2010年から各牛乳箱に生産地ごとのコードを記載し、消費者がiPhoneアプリ上で生産地を確認できる仕組みを提供している。

同じく、アメリカのドール・フード・カンパニー(Dole)はバナナとパイナップルに5桁コードが記載されたスティッカーを付けている。そのコードを同社のウェブサイトで入力することで、生産した農地を360°で見ることができ、農地からスーパーマーケットまでの「バナナ旅」も体験できるという。

世界各国でのスマートアグリへの取り組みを調査したので、レポートする。

農業課題を解決するIoTの例

IoTは複数の農業課題に適用されており、下記のような例がある。

  • 水量消費管理とその最適化、土壌管理など。
  • ウェアラブルによって家畜管理、広い農牧地での迷子になることを予防。また、ウェアラブルによって集めたデータを使い、健康、泌乳や発情期も管理できる他、薬品やダイエットの改善に使う。
  • 牧地施設にセンサー導入することで、HVAC(Heating,ventilation and air conditioning)や散水システムなど、農業システム障害の検知や通報が可能になる。それによっていざの時に大きなダメージを防ぐ。
  • 収集したデータを精密農業の実現に使う。精密農業は水や農薬の効率的な使用を実現し、生産性、作物品質や収穫量の極大化を目指す。殺虫剤や除草剤の使用を最小限に抑え、病気や適切な水量を使う。
  • ドローンを使った土地撮影や地図作成をはじめ、測量や農薬散布を行うことで、これまでより効率的に作業を実施。

スマートアグリにおける、ドローンの活用例

最近のドローン・モデルには飛行経路を計画するソフトウェアがインストールされており、ユーザーが撮影したいエリアを指摘し、ソフトウェアは自動的に飛行経路を作製し、簡単に作業を実施できる。飛行中にGPSを使い、指摘された区域内で組み込みカメラによって撮影を行う。また、農薬散布を行うドローンにタンクを設置したモデルもある。

2015年にアメリカ連邦航空局は25キロ以上のYAMAHA RMAXドローンに肥料・除草剤タンク搭載を許可した。トラクターが実施する農薬散布より、ドローンでの作業のほうは正確であり、コスト削減にもつながるのだ。さらに、従来の手作業と違って、作業員が農薬噴霧作業に直接かかわらないため、作業員の健康リスクはなくなる。

中国の大手ドローンメーカーDJIは農業に特化した農薬散布用ドローンシリーズAGRAS MG-1を2015年から製造・販売している。

2017年から同社が新しいA3飛行管理システムやレーダー検出システムが搭載されたAGRAS MG-1Sドローンを紹介した。さらに、DJIがドローン用MG Intelligent Operation Planning SystemとDJI Agriculture Management Platform(農業管理プラットホーム)を提供しており、それによって作業計画作成、リアルタイム飛行管理やUAV稼働状態を確認できる。

ちなみに、アメリカのAgribotix社も農業専用ドローンを提供している。

スマートアグリへの各国の取り組み

農家だけでなく、各国の政府も農業の効率性向上に強い興味を持っている。

オランダの取り組み

新技術や自動化のおかげで、オランダは世界最大農作物生産者となった。

オランダの農業組織への資金調達や持続可能性バンキングをリードしているRabobankと国連の環境局は10億ドルの金融機関の設立を10月の発表していて、他の金融組織の加入も歓迎しているという。

この新しい金融機関は森林保護規則を厳守に守る持続可能な農業、ソフトコモディティ処理ならびに商業を営む企業に援助金、リスク回避ツールや信用を提供する。

中国の取り組み

中国の国務院は「Internet Plus」戦略を策定し、地方での農業発展によって経済発展を起こしたいという試みがある。

このプログラムの取り組みとして、政府とアリババグループは、農家にオンライン店舗のセットアップなどの訓練プログラムを展開しているという。

アリババグループは2009年から「Taobao Village」にて訓練プログラムをスタートし、2016年にさらに100億を投資し、追加の10万訓練センターを設立する方針だ。

Beijing Tianchen Cloud Farm社はワンストッ プショッピングアプリで農家に最寄の肥料や物流サービスを提供している業者を見つけてくれる。

eコマースのJD.comも地方発展に取り組んで、農家向けのドローン、IoTやビッグデータを使った物流ネットワークを展開し、幅広いコールドチェーン、倉庫や流通機構構築を目指している。

オーストラリアの取り組み

豪政府はスマート農業を促進するため、6000万豪ドルの援助プログラムを開始した。

このプログラムでは25万豪ドルから400万豪ドルまでの援助金が提供される。

農業、漁業、水産養殖や林業分野で自然資源の状態向上や生物多様性を保護する目的でイノベーションを取り入れた持続可能な土地利用慣行などを行う組織と個人は対象である。

オーストラリアですでに共同農業エコシステムが構成中である。2017年2月に、農業で新しいIoT適用を開発するイノベーションセンターがCisco、データイノベーショングループData61やニューサウス・ウェールズ大学によってシドニーで設立した。

農業でデジタル変革を促すFood Agilityというコンソーシアムは10年間にわたり5000万豪ドルの支援を豪政府からもらうと4月に発表した。

Food Agilityは以前KPMG、IAG、Boschなどのパートナーからも、1600万ドルの寄付金をもらったという。

日本での取り組み

ヤンマー株式会社は、総務省による平成28年度テストベッド供用事業の採択を受け、次世代施設園芸システムの確立に向けたテストベッドを設置し、運用を開始した。

日本の農業人口の減少や就農者の高齢化による人手不足から、地域産業である農業の活性化が喫緊の課題となっている。そこでヤンマーは、栽培や生産管理などにおいてAI/IoTの活用を実証する農業空間を整備したテストベッドに構築に取り組んできた。

今回のテストベッドは、消費者のニーズに合わせた栽培コントロールを目指した研究等に利用することができる。農的空間における温度・湿度などのセンシング技術とネットワークの信頼性検証や、遠隔制御して収集したデータを活用することで農作物の収穫時期・収穫量を予測するという。

また、将来的にはハウス毎の生育状況だけでなく、周辺の農作物の生育状況をクラウドで一元管理できる農業プラットフォームが構築されることが期待されている。

株式会社クボタはドローンとトラクターに自動運転機能を搭載し、労働を節約する農業用システム開発を目指している。ドローンが撮影した画像を分析し、肥料が必要な位置やその量・タイプを特定し、自動運転トラクターが肥料噴霧作業を実施するという仕組みだ。

イギリスの取り組み

LIAT(Lincoln Institute for Agri-food Technology、リンカン農業食品工学大学)は2016年に農業用ロボットThorvaldを開発した。同ロボットは起伏のある地 形で稼働可能であり、作業員に必要なツールを運んだり、紫外線を使って雑草防除を行ったり、センサーによって作物の管理に使える。

援助金を使って、LIATは同ロボットの少数生産を始める予定だ。

ドイツの取り組み

世界の人口が増えているため、農業の生産性の向上対策は重要であるが、過剰な農薬使用は環境に悪影響を与える。この問題を解決しようと、ドイツのボッシュと化学工業及び製薬会社Bayerは協業し、スマート農薬噴霧技術を開発している。

仕組みとしては、デジタル農地管理システムは農地を評価し、除草を行うには最適な時間を特定する。噴霧装置に取り付けられた複数のカメラは連続に写真を撮り、雑草を特定し、噴霧装置は最適な除草剤を噴霧する。農薬は雑草がある部分のみに噴霧されるため、持続可能で環境にやさしい除草作<。

アメリカの取り組み

精密農業分野で活躍しているアメリカのArable LabsはPulsepodという気候・作物セン
サーを提供しており、予測可能農業の実現を目指している。

Pulsepodには6帯の分光器、ラジオメーターと音響雨量計を含め、太陽エネルギーで稼働する。

これらのセンサーによって雨量や湿度、日照や温度、水ストレスや必要な水量、微小気候データ、樹冠のバイオマスやクロロフィルを測定できる。さらに、各ベリーや菜っ葉の色を区別可能であるため、熟成度を把握できる。

この取り組みによって農家は実際のデータに基づいて、作業に関する決定を自動化し、予測することができる。例えば、湿度センサーからのデータに基づいて田畑の各部分に必要な灌漑を調節したり、収穫の熟度に基づいた収穫時期や収穫量を予測したり、販売パートナーに知らせることができるのだ。

インドでの取り組み

インドでは、農地が小さく、高い専門機械を手に入れない農家は多い。そのため、EM3 AgriServicesというスタートアップはこのような機械を貸し出ししたい農家と農業機械を借りたい農家を繋ぐサービスを提供している。

このサービスによって貸し手は仕入れ代金の支払いを早く完了でき、収益を増やすことができる一方、借り手が高質な装置や機械をお手頃な価格で利用できるため、両方にとって大きなメリットがある(料金はエーカー当たりあるいは設備使用時間単位で計算される)。

現在、EM3はインドの中央地域を中心に活躍しており、10軒のサービスセンターを通して8000農園会社にサービスを提供している。同プラットフォーム上で各季節用の機械やサービスが提供されているが、季節や地域、収穫物によって求めらている設備は違うという。

イスラエルの取り組み

イスラエルのProspera社はコンピュータービジョンやAIを使い、農地から集められたデータの分析サービスを農家に提供している。

Prospera社は農業をデータ志向分野に変革することを目指しており、温室内カメラ、センサーや微小気候データを使い、作物を管理し、リアルタイムで洞察を取得する。諸データの分析によって早期病気発覚、損害予防や収穫量を最大化できるという。
コンピュータービジョンのアルゴリズムが機械学習すればするほど、人間が気づかないことを画像解析によって検出できる。

Prosperaは大手農作物生産者を含めて、Walmart、 Tesco、Sainbury’sやAldiといった、世界各国で数多くのユーザーを獲得している。また、同社の技術は自動的に病気や害虫検出から作物栽培学、農地運営や労働管理、農産物生産のあらゆる面への焦点を変更した。

アメリカの農業機器・建設機器メーカーであるディア・アンド・カンパニー(Jon Deereのブランド・オーナー)はBlue River Technology社を買収した。Blue River Technology社は除草剤噴霧作業に機械学習やコンピュータービジョンを採用し、除草剤の節約によってコスト削減やもっと環境にやさしい農業を実現する。

農業では自動化がさらに進むと予測されている。同買収はディア・アンド・カンパニーの全般的な戦略の一歩である。

その他

大手企業も農業分野でのデジタル技術の促進へ興味を示している。

プロフェッショナル・サービス事業を展開するEY(旧アーンスト・アンド・ヤング)はマイクロソフト社との協力を拡大し、デジタルとクラウド技術を合わせて、農業のデジタル変革を促進したいという。両社はデータ、分析やAIを扱うソリューション開発に集中したいため、EYの技術コンサルティング能力と農業ビジネス知識をマイクロソフトのデジタルツールとMicrosoft Azureクラウドプラットホームと合わせる方針だ。

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