GEイメルト会長退任から、IoTは儲かるのか?という疑問を考える[Premium]

2017年10月、GEの会長イメルト氏が辞任を前倒しにすると発表した。すでに、2017年末には退任することが発表されていたが、これを前倒しにして、新CEO体制を早期に立ち上げるという判断だと報じられている。

GEというと、IoTの世界では初期にでた成功事例で、ジェットエンジンや、火力発電所のガスタービンなどの予知保全を行うことで、全体の保守工数を大きく削減するだけでなく、新しいビジネス分野への進出の起爆剤ともなったといわれている。

この予知保全システムを切り出し、「Predix」と名前をつけ、全世界に販売するためにGEデジタル社を作った。さらに、米国のインダストリアル・インターネットを牽引するIndustrial Internet Consortium(IIC)をシスコや、AT&T, IBMなどとともに2014年に設立している。このコンソーシアムには日本からも富士通などが参加している。

こうした波と、ドイツを中心とするインダストリー4.0の流れを受けて、IoTという言葉が日本国内でもバズワード化し、最近になって多くのメディアも取り上げるようになってきた。

しかし、日本のメディアにおける、その多くの論調は、「魔法の杖」が現れたがごとく語られ、その必然性や根本的な技術革新と既存産業との関係性を整理することなく、煽るような記事となって多くの人に届けられていった。

そして、特に、日本の基幹産業とも言える製造業に関しては、「第四次産業革命」と言われるような大きなうねりについて語っているにも関わらず、四半期決算に追われる企業の業績を同時に語り、魔法の杖についての煽り報道を開始してから、たかだか1年くらいしか立っていない今、「幻想だった」と今度は失望感を煽る記事を掲載するような記事が現れている。

 
そもそも、GEくらいの多角経営をしている企業になると、経営者は任期中にどれだけの株価を押し上げられるかを問われるものだ。つまり、どの分野に投資し、どの分野で短期的、長期的成長を描けるかが問われる。しかも米国企業であれば、なおさら株価に対して取締役会は敏感になる。

そういう中で、長期的視野をもってIoT、そして、それが作り出す「デジタライゼーション」が実現する世界に対して投資を行っていたイメルトを追い出す口述はたくさんあっただろう。

ビジネスのダイナミズムにおいては、タイミングがすべてを制することがある。

どんなに素晴らしいビジネスモデルも、どんなに素晴らしい経営者も、どんなに素晴らしいテクノロジーも、タイミングが良くなければ、日の目を見ることはない。

機械学習の基礎理論が20年以上前に確立されていたことは有名な事実だが、クラウド社会になり、GoogleやFacebookのような巨大なコンピュータ資産を持つ企業が出てくるまで、それが日の目を見ることはなかった。

iモードは素晴らしいビジネスモデルを構築したが、世界を制したのは、Appleだった。

どちらもある種の発明があったのだと思うが、結果果実を取ったのは米国企業であった。

私は、IoTNEWSを通して、世界のIoTやAIの進み具合を見ているが、当初より2020年くらいから世界中でIoTやAIを活用したビジネスが一般化するだろうと予測している。

なぜ、そう感じているのか、何がポイントなのか、という点について以下解説をしていく。

なぜ、「IoTが儲かるか?」という疑問がでるのか

セミナーなどで登壇させて頂く機会が多い中、「IoTは儲かるのですか?」と聞かれるケースが度々ある。

こういう疑問が出る多くの理由は、冒頭にも述べた過剰に期待をさせるようなメディアの煽りと、初期にIoTやAIを手段と捉えられず、目的化した企業がたくさん出たことが原因だ。

そもそもIoTは誰のためにあるのだろうか。私は、三年前シリコンバレーに趣き、そのエコシステムについていろんな方の意見を伺った。

そこでわかったこととしては、シリコンバレーのエコシステムはM&Aによって成り立っているということ。そして、最終的にはGoogleが買ってくれると投資家が思っていること、というこの2点に尽きるなと感じたものだ。

まず、小粒のスタートアップが立ち上がる。これに少額(500万円くらい)の投資をシード投資家と呼ばれる投資家が行う。

そして、芽がでるかどうかを見る。芽が出なかった場合は、似たような業態をやっている企業に売り飛ばすのだ。

そもそも、シリコンバレーは慢性的なエンジニア不足なので、自分でスタートアップを始められるようなエンジニアは喉から手がでるほどほしい。

そこで、2つの小粒の会社をくっつけることで、技術的にも、ビジネス的にも、少しだけ有望な会社をつくるのだ。

さらに、「ピボット」と呼ばれるテクニックがあって、要はビジネスモデルを変えてしまうということなのだが、これまでやってきた技術を転用するような全く異なるビジネスモデルを展開したりすることもあるのだ。

こうやって、M&Aを繰り返してだんだんと大きくなってきた企業があるときは上場し、あるときは、ユニコーンと呼ばれるくらいまで成長し、あるときは、Googleに買収される。

これが単純化したシリコンバレーのエコシステムで、この流れだとIoTで大きな企業は登場しないなと感じた。

シリコンバレーから大したIoT企業が出てこない理由

基本的にアイデア勝負、出たとこ勝負で起業することを良しとしているシリコンバレーの文化では、在庫を持つ、製品を保守する、長期的にサポートするという文化が根づいていない。

クラウド上に展開された品質や体験が未成熟なソフトウエアは、「ベータ版」と呼ぶことで正当化され、急に使えないことがあってもそれは仕方のないことだとされている。(Facebookなどは今でも、たまに使えなくなる)

しかし、極論すればそんなことが「クルマ」や「医療」の世界で許されるはずはずもない。

農業であったとしても、自動化の末、農薬散布をやりすぎたと嘆いても、過去には遡れない。

IoTの難しいところであり、その大きな可能性は、「モノ」があることが前提となっているところであって、そこにクラウドの可能性が掛け算されることで生まれるところなのだ。

モノありきで製造していた製造業が体験をイメージした製造を行ったり、距離があって満足な医療を受けられなかった患者が高度な医療を受けられるようになったりするという、それこそ当初メディアが騒ぎ立てた「美しい未来」が待っているのだ。

IoTが実現する美しい未来は潰えたか

冒頭述べたように、GEは火力発電所のガスタービス設備に5,000個ものセンサーを取り付け、予知保全を行った。この価値が素晴らしかったためこれをまとめてPredixというクラウドソリューションを生み出し、プラットフォームビジネスに乗り出そうとした。

しかし、現実的に全世界のガスタービンにこのソリューションを売りつけることができなかったのではないだろうか。もしくは、ガスタービン向けのソリューションが他の産業でも転用できると思ってしまっていたのではないだろうか。

GEが、自社の改革をしているうちは、センサーをどこに取り付けるか、どういうデータを取るか、取得したデータから何を行うか、について考えることは好きにできたはずだ。

しかし、一度他社のガスタービンの話となり、国境を超えて違う国の利権が発生する中では、好きにさせてもらえないのも頷ける。他の産業だと「どのデータを取るか」から始めなければならず、いかに多分野に展開するGEといえども、全部を一気に立ち上げるには人が足りなかったのではないだろうか。

エネルギー業界という特殊な産業について語るとイメージがつかないかもしれないが、こういったクラウドサービスでの予知保全の実現はドイツ企業シーメンスも取り組んでいる。つまり、GEに並ぶような企業も黙ってはいないということだ。

そして、そのシーメンスもまた、全業種に使えるプラットフォーム「Mindsphere」を提供しているが、このプラットフォームはコンセプトこそ一枚板だが、実際は買収を繰り返した、それぞれの産業向けプラットフォーム群となっているし、各領域でエンジニアを抱えて展開するために、10年で1兆円を超える投資をすると表明している。

まだ大きなところでもIoTの実現はこの段階であって、GEの会長が退任したくらいのことで、「IoTは儲からない」という論調になるのは短絡的すぎないだろうか。

どういう状態であればIoTは儲かるといえるのだろうか

そもそも、みなさんが「儲かっている」、「産業が起きている」ということを最近感じたのはいつだろう。

GoogleやFacebookなどのクラウド企業が世界を席巻し、UBERやAirBnb, Dropboxなどのサービスが世界中で使われるようになったあたりではないだろうか。

それとも、AppleがiPhoneを発売し、それにAndroidが追従する中、世界中の人々がスマートフォンを使うようになったことだろうか。

IoTやAIを自社のビジネスに取り込むと、こういった企業になっていく企業が沢山でてきて、産業が盛り上がっている状態になれば「IoTは儲かる」と言われるのかもしれない。

しかし、考えてみてほしい。GoogleやFacebookはクラウドをビジネスに取り込んだから大きな企業となったのだろうか。UBERやAirBnBはどうだろう。Appleは、クラウド上にAppStoreを展開できたから世界中で使いたいというヒトが生まれたのだがこれはどう見るべきなのだろうか。

新たなテクノロジーは、あくまでもそのビジネスを支援する基盤に過ぎない。

テクノロジーが「使えるレベル」になってきた時に、いち早くビジネスに取り込んだものが、利用者にとっての新たな体験を生むのだ。

一方で、IoTにおいて、クラウドはすでに使えるレベルになっていて、AIもヒトさえいれば使いこなせる企業は多いはずだが、肝心のモノ側の対応はどうなっているだろうか。

シリコンバレーのところで述べた通り、IoTはモノがあるので簡単に立ち上がらない。

家電製品であれ、クルマであれ、エネルギーであれ、都市生活であれ、そこには、これまで行っていた「暮らし」があって、ヒトが生活習慣を変えてまで取り入れようとするのには、相当なメリットが必要だ。

つまり、現状まだこの相当なメリットを提示できてる分野が少ないのだ。

よくセミナーなどで語られている話がある。かつてニューヨークの街を走っていた馬車が、その数年後にクルマに置き換わっていて、馬車が当たり前と思っていた人にとっては当初理解できなかった変化だという。

IoTとAIが生み出す変化はこういう類の変化なので、現状当たり前に生活をしていて、「そんなもの使わないよ」と言われているようなものが、近い将来使われるようになるのだ。

ただ、この数十年で、「馬車から自動車」のような、メリットが単純なものについては、すでにやり尽くされた感があり、イメージしづらいことが多くの人にとっての悩みだろう。また、大手企業などでは四半期決算に追われるあまり、研究開発に時間とお金を割けないというものその要因だと言える。

先行者メリットはどこで得られるのか

ここまで来ると、むしろIoTやAIなんてやらないほうがいいのではないかと思う人もいるだろう。

しかし、なぜ、今多くの企業が取り組んでいるのだろうか。

きちんとその本質を理解できていない経営者が多いことは認める。また、手法を目的化している企業も多い。その一方で、一部の先見性のある経営者にとって見れば、「先にやらないとやられる」と思っているようだ。

 
IoTが「モノ」と「クラウド」で構成される以上、似たような業種・業態のサービスは、クラウド上で「プラットフォーム化」される。そして、プラットフォームが大きくなると、他の製品やサービスは、そのクラウドプラットフォームに吸収されて行かざるを得なくなるという性質がある。

ちょうど、IT企業の多くが、Googleの顔色を伺いながら商売をしているように。(現状、ここに真っ向勝負を挑むのは中国とその下にぶら下がる企業くらいだろう)

この業界別プラットフォームの取り合いは、一部の分野では現状激しさを増していて、おそらくあと2−3年もあれば決着がつく産業分野があるだろう。

決着がついた後に、モノをクラウドにつなげたいと思った場合は、業界内で独占されたプラットフォームにぶら下がるしか、当面の活路を見出せなくなるのだ。

つまり、これまでモノ側でビジネスをやってきた企業は、この全部繋がる世界に対してどのレベルでプラットフォーム化に関与するのかを決めないといけなくなる。

ITにしてもGoogleの支配下に入ったからといって、逆に早期に成功した企業もたくさんあった。

しかし、このタイミングでプラットフォーム化が実現できると自社がその産業におけるGoogleになれる可能性を秘めていることが、一番大きなメリットなのだと言える。

2020年頃からIoTやAIが一般化すると思う理由

最初に述べておくが、未来を予測することは簡単ではない。

しかし、2015年時点でIoTという言葉はポピュラーではなかった。少しずつインダストリー4.0のことを気にかける企業が登場してきていて、日本でもコマツがスマートコンストラクションを実現し、IoTとAIが作り出すデジタライゼーションの世界観が識者の間で認識されてきた。

そこから、一気にモノをインターネットに繋げるメリットを唱えるヒトが登場し、モノがなくても作れてしまうクラウドプラットフォームが乱立し、コスト削減をテーマにした現場の改革に使えるソリューションが普及しだしているというのが現状だろう。

近未来を描くような世界観については、まだまだPoCの範囲を超えていないものも多い。

その一方で、2017年を通して世界の展示会を回る中で、コンセプトレベルであった2016年からみると、格段に具体的になった展示が多くなされていた。

特に産業用ロボットや製造業の分野、コネクテッドカー、スマートシティ、スマートホームなど、多くの分野で具体的な製品が発表され、使われだしている。

冒頭述べたシーメンスのMindsphereや、先日ラスベガスで行われたAWSのre:Inventを見ていても、IoTを意識した機能が充実してきている。

2020年まであと2-3年だが、2018年はこれらの登場したサービスやシステムが試されるタイミングとなるだろう。

ここで生き残ったものが2020年に向けて成長をしていき、新たな勝者となるのではないかと考えている。

かといって、闇雲に自社製品をクラウドにつないでも意味がないので、可及的速やかに、どの立ち位置でビジネスを行うのかも含めた、強みを活かすIoT/AI活用に関する戦略を立て、実行していくことが重要なのだ。

そのために、自社の属する産業以外の情報にもアンテナを張り、社会の動きを見ながらタイミングをはかり、みなさんの企業戦略を実行していってほしい。

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