IoTとAIで物流センターはどう変わるのか[Premium]

「物流」をテーマにした大和ハウスのテレビCMが世間の注目を集めているようだ。

キャッチフレーズは「物流にAIを」。AIという言葉には「人工知能」と「愛」の二つの意味が込められている。そのテーマを、カウボーイに扮した俳優の役所広司が歌とダンスで表現するというものだ。

キャッチーで印象に残るこのテレビCMだが、ビジネスの面においても、とても重要なメッセージを語っている。

IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンは、IoTやAIに関連するさまざまなテーマで毎月セミナーを開催している。2月のテーマは「IoT/AI時代のロジスティクス」だった。

そこで登壇した、大和ハウスグループの株式会社ダイワロジテック 代表取締役社長 秋葉淳一氏は、「物流にAIを」というテーマの背景について、次のように語った。

「物流業界は労働力不足が問題だと言われるが、それは課題の一面にすぎない。大事なのはそこで働く人だ。物流業界はこれまで新3K(「きつい」「給料が安い」「帰れない」)と言われてきた。物流はもっと魅力的で働きやすい業界に変わらなければならない。IoTやAIを使って、それが実現できる」

AIと言えば、「AIは人から仕事を奪う」というようなネガティブな文脈で語られることも多い。しかし、物流のように労働力不足が深刻となっている業界においては不可欠な手段となってきている。

さらには秋葉氏が指摘するように、物流業界をより魅力的にし、そこで働く人の環境を大きく向上させるチャンスとしても期待されているのだ。

では、そのIoTやAIの実装は具体的にどこまで進んでおり、これからどのように変化していくと考えられるのだろうか。

2月に開催したセミナーでは株式会社ダイワロジテック、株式会社日立物流、ユーピーアール株式会社の3社が登壇し、最新の事例や今後の構想が共有された。

物流/ロジスティクスといっても幅広い。セミナーでも話題は多岐にわたったが、焦点となったのは「物流センターの効率化・自動化」だ。

次世代の物流センターでは、ヒトがこれまで行ってきた作業をAIやロボットで自動化することが目指されており、その取り組みは既に始まっている。それにより、ヒトは付加価値の高い業務に移行し、物流センターが”魅力的で働きやすい環境”へと変化していくことが期待されている。

その取り組みはいま、どこまで進んでいるのか。各社の事例に紐づきながら解説していく。

物流センターの効率化・自動化の最新事例

物流網のハブとなる「物流センター(物流倉庫)」の効率化・自動化を実現する技術やソリューションには、具体的にどのようなものがあるのだろうか。まずは日立物流の事例を見ていきたい。

日立物流は、日立製作所グループの物流会社だ。社員数は47,939名(日立物流グループ全体)で、国内では363拠点、海外では407拠点をもつ。

同社は運送業務だけではなく、サード・パーティー・ロジスティクス(3PL)として、荷主に最適な物流システムを設計・提案する事業を中核としている。その事業の一環として、サプライチェーン全体のあらゆるデータを取得し、一元管理して最適化をはかる「スマートロジスティクス」を提供している。

「スマートロジスティクス」の物流センター向けソリューションは、「ヒトが行う業務を効率化すること」と「ヒトの手を使わずロボットやAIにより自動化すること」の2種類に大別される。

最終的には完全な自動化を目指すにしても、新設の物流センターにロボットを数百台導入してすぐに自動化を目指せるような体力のある物流センターもあるかもしれないが、すべての企業がそのような投資ができるわけではない。

また、物流センターを完全に自動化するとなると、AIの活用を含めた様々な業務ロジックによる最適化が必要になるが、そのためには実際のオペレーションで大量のデータを学習させることが必要であり、まだまだそのような環境が整っているとは言えないのが現状だ。

登壇した日立物流のロジスティクスソリューション開発本部 主任技師 櫻田崇治氏は、「すぐにすべてを自動化することは難しい」と述べている。

そのため、「ヒトが行う業務の効率化」と「自動化」の2つのアプローチが、物流センターの最適化には必要となるのだ。

AIの活用で、ヒトの業務を最適化

では、「ヒトの業務の効率化」においては、どのようなソリューションがあるのだろうか。まず一つは、「ヒトの動線」の可視化と最適化だ。

曖昧なヒトの動きを分析するには、AIが一役買うのだ。

「ヒトの動線」の最適化

櫻田氏によると、これまでも必要な現場のデータは「ハンディターミナル」(荷物のバーコードやQRコードを読み取る端末)を使って収集することができていたという。

しかし、ハンディターミナルでは、「何時にピッキングしたか」といったポイント毎のデータは収集することができるが、そのあいだのヒトの動きまではわからない。

そこで、ヒトがBLEで通信ができるビーコンを持てば、ヒトの動線を可視化することができる。実際にそれを用いることで、「現場の作業者が監督者とすれ違ったあと、約1時間は生産性が向上する」といった知見が得られるという。

さらに、AIを使うことで「ヒトの動線の最適化」も可能になる。たとえば、次のような事例だ。

単位時間当たりの検品個数の増減についての変化を見ていくと、なぜか著しく低くなっている時間がある。その原因を分析したところ、通路での「作業者の渋滞」が原因であることがわかった。

そこで、今度はAIを活用して動線のデータを分析したところ、作業者がピッキングに向かう順序を変えるべきだという知見が得られた。さらには、作業順序の入れ替えだけでなく、最適な作業順も導き出すことができたという。

荷物の格納場所の最適化

また、特定の荷物を、倉庫のどこに格納するべきかについても、導き出せる。物流倉庫という、限られたスペースでは、大小さまざまな荷物を置く場所によって、そのあいだを移動するヒトの動線がムダになることがある。

そこで、ある荷物が、どれくらいの間隔で出荷されていくのか、その動向の実績データを計算することで、最適な格納場所を導き出せるという。たとえば、頻繁に出荷されるものは手前に置いておくといったことだ。

これにより、入荷時、出荷時、補充の工数を低減し、実際に工数を4%低減できた事例もあるということだ。

AR(拡張現実)を使ったソリューション

作業指示が複雑になればなるほど、作業の効率は悪くなり、ミスも起こりやすくなる。そこでARを活用し、作業内容を直感的に作業者に伝えることで、作業効率を改善できると期待されている。

日立物流のARソリューションでは、過去の実績データから、ピッキングに時間がかかっている場所を青、緑、赤の3色で可視化(赤の方が時間がかかっている)して棚と重ね合わせることができる。

たとえば棚の赤色の部分を見てみると、酒瓶の入った段ボールが取り出しにくい上段の棚にあり、しかも格納された段ボールとその上の天板のすきまが少ししかないため、ピッキングに時間がかかっている、といった原因が見つかるという。

原因さえわかれば、その荷物を置く段をもう一つ下にする、あるいは段の高さを変える、などの改善につなげることができる。

自動搬送ロボットで生産性を2倍に

日立物流では、自動搬送ロボットなどの新技術を開発・検証するためのR&Dセンターを土浦に開設し、昨年の1月から稼働している。

桜田氏によると、物流センターの作業時間の1/2から2/3が、「作業者がセンター内を歩いている時間」なのだという。つまり、自動化によってその歩行時間がなくなれば、生産性が3倍になる可能性があるというのだ。

そこで、日立物流では小型・低床式無人搬送車「Racrew(ラックル)」を展開している(日立製作所の製品。2014年から販売)。

これは、荷物が保管されている棚を「まるごと」指定位置まで自動搬送するロボットだ。間接資材のEコマースを手がける株式会社MonotaROは、昨年新設した物流センターにRacrewを154台導入し、生産性を2倍に向上したという。

日立物流は他にも、「ピッキングロボット」や「電子地図に従って自律走行するフォークリフト」、「ドローンによる在庫棚卸チェック」、「画像認識によるバーコード一括読取システム」など、様々な物流センター向けの技術をR&Dセンターで開発している。

300mの読み取りができる「アクティブRFIDタグ」

RFIDタグも、荷物に取り付けられた「タグ」と「リーダー」があれば簡単に在庫状況のチェックが可能になるため、物流センターの自動化に向け期待される技術だ。

パレットメーカーのユーピーアール株式会社(以下、upr)は、物流センターで使うパレットやカーゴ車にRFIDタグを搭載して入出庫や在庫を管理するシステム「スマートパレット」を開発・販売している。

年間380万枚のパレットをレンタルしているuprがRFIDタグのビジネスを始めたきっかけは、パレットの紛失を防止することだった。顧客先にあるパレットが年間で20~30万枚も紛失していたのだという。

そこで、同社はNTTと共同で「アクティブRFIDタグ」を開発し、パレットの位置情報を追跡できるようにしたのだ。

駅の改札や小売流通向けなど、様々な用途で注目されているRFIDタグだが、種類としては3つに大別できる。

一つは、「HFパッシブタグ」だ。代表例には交通系ICカード「Suica」がある。この種類のタグは安価ではあるが、ヒトがタッチしないと読み取れない。また、ゲートリーダーを使えば1m以内でもぎりぎり読み取りはできるが、事業者からすると高額なゲートの投資がネックになる。

次は、「UHFパッシブタグ」だ。タグの価格は100円/個前後。ハンディリーダーでも長くて1m読めるが、その精度は完璧ではないという。ゲートリーダーの場合は、出力次第で5m以上でも読み取れる場合がある。

そして、uprが採用する「アクティブタグ」だ。uprの製品の場合、300mの読み取りも可能だという。タグは「パッシブ」と比較すると高価だが、市販の乾電池で10年動くためトータルのコストメリットがあるのだという。

どの種類のタグを使うべきかは用途によるが、物流センターのパレットの場合は、広い倉庫内にあるたくさんのパレットを読む必要があるため、アクティブの方が効率的だ。

リーダーは、倉庫の高いところに設置しておけば、その傘下300mの距離にあるパレットを読み取ることができる。周波数は920MHzなので、Wi-Fiとの干渉も心配しなくてよい。

また、uprのタグは防水対応で、温度センサーや加速度センサーも搭載されており、「落とした」などの異常があった場合のリアルタイム検知機能も「スマートパレット」に含まれている。なお、「スマートパレット」では端末、クラウド、アプリまですべてパッケージで提供される。

uprのパレット約2万枚に、既に「アクティブRFIDタグ」が搭載されているという。また、日立物流とも共同で「スマートパレット」の実証実験を行い、同社の「スマートロジスティクス」としても、uprのタグが使われている。

物流センターを、まるごとプラットフォームに

日立物流のように、物流のノウハウを豊富に持つ3PL事業者として包括的なソリューションを提供する企業もあれば、uprのようにタグとアプリケーションの技術を軸に、他社と連携しながら事業を展開している企業もある。

物流業界のIoT/AIといっても、各社アプローチは様々であることがわかる。

一方、住宅総合メーカーである大和ハウスグループは、ITシステムやAI、ロボットなどの必要なリソースを全て結集させた物流センターを「建屋まるごと」プラットフォーム化して、荷主に提供するという取り組みを行っている。

このプラットフォームでは、顧客はサービスの利用量に応じた金額を大和ハウスに支払うことになる。

さらに、大和ハウスの場合、プラットフォームを単純に提供するだけではなく、「顧客が求めるサービスレベルにコミットする」サービスモデルとして展開しているという。

たとえば、「あるエリアの100店舗に翌日配送を徹底してほしい」という荷主の要求がある場合は、そのために必要なロボットや搬送棚の個数などをすべて試算・手配したうえで、「ニーズ通りのサービスを提供するところまで約束する」というのだ。

しかし問題は、たとえどんなに事前にしっかりと計画を立てたとしても、現実のオペレーションではその通りに行くとは限らない。計画精度を上げていくには、AIやアルゴリズムを活用した予測に必要なデータやノウハウを膨大に蓄積していくなど、様々な努力が必要だ。

そこで、プラットフォームの計画精度を向上していくための取り組みについても顧客と共同で行っていくという。ダイワロジテックの秋葉氏は、「このエコシステムをつくることに賛同してくれる企業だけに、プラットフォームを提供する」と述べている。

プラットフォームを利用する顧客が増えてエコシステムが大きくなっていくと、全体として蓄積されるデータも増え、計画精度は上がっていくだろう。

さらに、エコシステム全体としてコストも下がっていくことになるはずだ。このプラットフォームの肝はここにある。つまり、一緒にデータとノウハウを集めれば集めるほど、お互いのコストが下がり、精度が向上するという仕組みになっているのだ。

その結果として、「ロジスティクスに関わる人たちの賃金を上げ、働きやすい環境をつくることができる」と秋葉氏は語る。

プラットフォームの研究開発を行う物流センター「DPL市川」(千葉県市川市)が2016年6月より稼働している。そこには既にに3,4社が入り、実際のオペレーションで検証を重ねているという。

そして、その目途がようやく立ち、まもなく千葉県の流山にも「DPL流山」を開設し、そこでプラットフォームサービスを本格的にリリースするということだ。

「1社では実現できない」物流の全体最適

ダイワロジテックの秋葉氏によると、「ロジスティクス」と「物流」という言葉は混同して使われることが多いが、この二つの言葉の意味は全く違うものだという。

「ロジスティクス」はもともとは軍事用語であり、ひとことで表現すると「戦略」を意味する言葉だ。かつては戦争に勝つために、戦地や敵国のデータは不可欠だった。しかし逆に言うと、戦争のような国家レベルの話でなければ、データを集めることはできなかった。

しかし、昨今ではIoTの技術により私たちは誰もが簡単にデータを集め、「戦略」に活用することができるようになったのだ。秋葉氏は、大和ハウスが新たに物流の業界に参画し、プラットフォームをつくった理由について、次のように述べている。

「IoTの時代においては、一般の企業でもロジスティクスを戦略にすることができる。その結果、それまで業界の外にいた企業が新たに参入することで、既存の延長線上ではない発想をもたらすことができる。しかし、その中でそれぞれの企業がばらばらに取り組んでいると業界全体が最適化されない。そこで、ダイワグループはエコシステムをつくろうと考えた」

エコシステムの重要性については、日立物流とuprにおいても同様の考えのようだ。

日立物流の桜田氏は、「物流業界の課題解決は、1社では実現できない。日立物流も、開発している多くの技術が他社との共同研究によるものだ。そこでできた技術は日立物流だけで使うつもりはない。製品としてオープンに販売し、他社にも使ってもらうことを前提としている」と述べている。

uprは、さきほどの日立物流を含め、様々な企業と協業している。たとえば現在は車載器メーカーの矢崎グループと協業し、タイでプロジェクトを手がけているという。

メーカーであれ、小売であれ、今後つながる社会が広がる中で、サプライチェーンは切っても切り離せない考え方となる。その中でも戦略的に行わなければコストがかかる一方となるロジスティクス分野だが、今回紹介した物流センター周りのソリューションだけでなく、トラックによる輸送や、ラストワンマイルの対する解決策と、様々な課題が山積みなこの分野。

Amazonの進んでいるとされるロジスティクスソリューションだけでなく、本稿で紹介してきたような国内の先進的で具体的な動きもウォッチしてほしい。

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