データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

AIおよび工場のデジタルツインを活用し、リアルタイムの可視化とアクション可能な洞察を提示する製造分析プラットフォームを提供する米Sight Machine(サイトマシーン)が、2017年、東京にも拠点ができたことを受け、同社にてインタビューを実施した。

  • お話を伺った方
    SIGHT MACHINE ソリューションエンジニアリング部長 志村裕司氏
  • 聞き手
    株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二
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    小泉: SIGHT MACHINEについて教えてください。

    志村: 弊社は2011年にできたサンフランシスコの会社です。ミシガン州、シリコンバレー、ボストン、台湾、東京に拠点があり、グローバルでは80人ほど在籍しています。

    SIGHT MACHINEは、モノを作っている工場のための業界特化型 分析プラットフォームをクラウドで提供しています。オンプレミスでの構築も可能ですが、スケーラビリティを考慮して基本はクラウドを推奨しています。品質を高めたい、生産性を高めたいといったところにフォーカスし、リアルタイムの可視化とアクション可能な洞察を提示します。

    俯瞰した工場と工場の比較など、大きな視点でのデジタルツインを実現しているのが特徴ですが、機械学習や統計の技術を使って「なぜこの工場の品質が悪いのか?」という原因を自動的にあぶり出すところまで対応しています。つまり、お客様の会社に統計の専門家がいなくても、簡単に使うことができます。

    今のところ弊社のパートナーとしては、富士通さんと三井物産さんと長瀬産業さんで、一緒に営業活動を進めています。

    グローバルシューズメーカーやGEグループでの事例

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー
    SIGHT MACHINE ソリューションエンジニアリング部長 志村裕司氏

    志村: 既にご利用いただいている大手のお客様としては、グローバルで展開しているシューズメーカーさんです。そこではファブレスで全て契約工場で製造しており、アジアを中心とした15の契約工場で弊社のサービスをご利用いただいています。

    SIGHT MACHINEが導入される前は、品質の問題があったそうです。工場によって IT や分析のレベルもまちまちということで、まずは靴を作っているラインにSIGHT MACHINEを導入し、正確に見える化を実施しました。

    そこから「なぜこの工場と工場の品質が違うのか?」を見える化し、かつ、自動的に品質が悪い原因をあぶり出す根本原因分析というツールを使って、現場の品質を高める改善をされました。

    次にご紹介するのは GE グループさんです。われわれは GE ベンチャーズからも投資を受けているのですが、お客様でもあります。グローバルで7~8の工場でご利用いただいています。

    ご存知のとおり、GE さんはPredixという IoT プラットフォームを持っています。IoT プラットフォームは基本的にデータを集めるプラットフォームですが、SIGHT MACHINEはその上に載せる分析のアプリケーションなので、レイヤーが違うと捉えています。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    他にも、国内ですと大手建機メーカーさんにお試しいただいています。溶接ロボットが1時間に1〜2回止まってしまうチョコ停の問題があり、原因を突き止め回避をしたいという課題がありました。そこで、ログデータを全てSIGHT MACHINEに入れて分析をしたところ、ロボットのアームがある動きをしだしたら数分後に止まってしまう傾向を掴めました。

    今まではサンプルデータで見ていましたが、今度はリアルタイムにデータをつなげて止まる前にアラートを出すことで「止まらないオペレーションにしませんか」というご提案をしています。

    次に、富士通さんとは国内でパートナーシップ契約を結び、一緒に販売を行っておりますが、富士通さんの山梨工場でもボトルネック分析というユースケースを実施しております。

    オムロンさんには、北米工場の表面実装のプリント基板のラインで使ってもらっています。その工場では様々な会社の機械がラインに並んでいるので、機械のログデータのフォーマットもバラバラです。SIGHT MACHINEにはデータを前処理する機能があるので、まずは綺麗なデータにして集めて見える化を行い、さらにオムロンさんは各パーツにシリアル番号がふってあってトラッキングできるようにしてあるので、「ここで不良になった原因は、5個前のこのマシンのこの操作が原因だった」という相関まで見ることができます。

    私が入社してからは国内で、大手自動車メーカーさんと大手空調メーカーさんとナガセケムテックスさんの3社から新規でパイロットを受注しています。

    大手自動車メーカーさんは、モーターの製造ラインにて自社でデータを前処理する作業に非常に工数がかかっていたので、SIGHT MACHINEを使ってそこを自動化し、品質の分析を行っています。大手空調メーカーさんには、エアコンの部品を作るラインでお使いいただいています。

    ナガセケムテックスさんはケミカル系の企業で、タンクに入っている液体を混ぜて3日間発酵させるなど、通常の組立製造とは少し違う形でもお使いいただいています。SIGHT MACHINEはこういったプロセス系の工場にも対応が可能です。

    データを前処理できるSIGHT MACHINE

    志村: 製造業のデジタルトランスフォーメーションは市場規模が非常に大きいものの、なかなかIT化や分析が追いついていません。課題としては、工場内のセンサーやマシン、MES、ERP など様々なシステムがあるため、フォーマットがバラバラでデータも大量なことです。

    ※MES…Manufacturing Execution System:製造実行システム
    ※ERP…Enterprise Resource Planning:企業資源計画

    それらのデータを横串で見たくても、最初にデータを前処理する部分で非常に苦労されているお客様は多いのです。データサイエンティストや分析担当の方が、データレイクなどから特定のクエリを発行して必要なデータを抽出し、自分でクレンジングやマージをしたりして分析元のデータを作るのに相当時間がかかっています。

    そうなると経営層からレポートのリクエストがあっても、意味のある結果を出すのに数週間はかかってしまいます。専門の知識がないと、統計的に相関分析することができないので、そういうスキルを持っている方がいないなどの課題もあります。

    そこを解決できるのが、SIGHT MACHINEです。SIGHT MACHINEにデータを入れるだけで自動かつリアルタイムに前処理が完了し、統計の専門知識がない方でも簡単に高度な分析を行えるようになります。

    これらを実現すると現場の人が嬉しいだけではなく、経営層にとっても、スループット、不良率、廃棄率といった指標が1%改善するだけで規模が大きい工場であればあるほど年間数億円のインパクトを出すことができるので、財務上のメリットも大きくなります。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    われわれの担当レイヤーは下記図中央の「AIデータパイプライン」「工場のデジタルツイン」「可視化・ 分析」の部分です。前提条件として、データはお客様側で取得できるようにしていただく必要があります。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    順を追って説明すると、 まずお客様にはデータソースを準備していただきます。われわれは効率的にデータをクラウドに上げるプラグインを提供しており、そのプラグインを工場内のサーバーにインストールして設定をすると、自動的にMESやヒストリアンなどのデータベースからデータを集めてクラウド上に転送し、クラウド上でクレンジング処理が始まります。OPC UAなどのプロトコルにも対応しているため、各マシンから直接データを吸い上げることも可能です。

    SIGHT MACHINEの前処理を行う技術のことを「AIデータパイプライン」と呼んでいます。フォーマットを一旦ばらして、綺麗に関連付けを行って、正規化されたデータを作っていく、製造業に特化したデータモデルを作るという処理を行っています。

    小泉: タイムラインを揃えるなどでしょうか。

    志村: 実際には、はじめに一度だけ設定作業を実施します。例えばデータソースが5つあったら、これとこれはシリアル番号で紐付ける、これはタイムスタンプで、こういう値は異常値なので統計データに入れたくないから除外する、などルールをヒアリングさせていただいて設定します。基本はルールベースで前処理しています。機械学習が使われているのは、型の自動判定やデータソースのフォーマットが変わった時に自動検知する部分です。

    次に、「工場のデジタルツイン」というのは、技術的に言うとパーツモデルやサイクルモデルなどわれわれ独自の製造業に特化したデータモデルなのですが、生データをこのモデルに落とし込んで、工場の実際の状況をデジタル上に、つまりSIGHT MACHINEのアプリケーション上に再現することを言っています。

    デジタルツインは各社定義があって、 Predixでいうとジェットエンジンのシミュレーションが有名ですが、われわれの標準パッケージではシミュレーションはできません。その代わり、工場を俯瞰したレベルでデジタルツインを作るので、「このラインで不良になってしまったのは、ここが原因だった」「同じマシンを使った同じラインなのに、こちらの工場は品質が低いので工場間の比較をしてみる」など、俯瞰した見方ができるようになります。

    われわれのデジタルツインは、より概念的です。工場で分析するならこういうものが必要だよね、というコンポーネントが用意されています。例えば、 グローバルオペレーションビューや、根本原因分析、ボトルネック分析などです。

    SIGHT MACHINE上で正規化されたデータをエクスポートして、お客様のデータサイエンティストが分析しても良いですし、 API を公開していますので別のアプリケーションと連携して処理をすることも可能です。

    データサイエンティストの仕事の8割は前処理の作業に使われていると言われていますので、その時間を失くし100%の時間を自分の仕事に使っていただきたいと思っています。非常に使い勝手がよいので、SIGHT MACHINEを使うことで分析の工数も下げることができます。

    ちなみにですが、とある大手乳製品メーカーさん向けに、ERPの原料コストもデータソースとしてSIGHT MACHINEに入れることで、生産プロセスの変更によりどれだけ利益率が上下するのかシミュレーションする機能をカスタム開発して納品しました。

    他にも複雑な多変量解析など、お客様のご要望に応じてカスタム開発で実装することが可能です。工場のデータをSIGHT MACHINEに集約することで、様々な切り口でまさに工場の統合分析プラットフォームとしてご活用いただくことが可能です。

    SIGHT MACHINE デモ

    志村: SIGHT MACHINEは単純な要件であれば3ヶ月ほどでインプリが終わって、これらの画面をすぐに使うことができます。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    上記図のグローバルオペレーションビューは経営層の方が見るような画面で、世界中に工場がある場合は工場をクリックすると地図が動いて、工場の日次の生産量の推移などを見ることができます。これを毎日確認したいというお客様が結構いらっしゃるので、最初からパッケージとしてご提供しています。

    次に OEE のダッシュボードです。OEEは稼働率と性能と品質をかけ合わせた指標ですが、海外の工場ではこのOEEというのがKPIになっていることが多いので、こちらも標準機能としてご用意しています。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    他によく使うのはこの KPI という画面です。ここで KPI と言っているのは、稼働率や品質のことを言っています。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    例えば、画面左側で釜山工場のダイキャストマシンを選んで、工場ごとに見たりマシンごとに比較して見ることができるので、今週の稼働率の推移や品質の違いを並べて見ることができます。

    このデモ環境だと3拠点で同じダイキャストマシンを使っているので、3拠点の品質を見ることができます。3拠点を比べると釜山工場の品質がもっとも低いことがわかりました。

    そこで以下の根本原因分析の画面に遷移して、画面左側にて品質、釜山工場のダイキャストマシン、直近7日間のデータ、という3つのパラメータを指定して実行を行うと、すぐに以下の結果が表示されました。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー

    このデモだと、金型に入れる時の最大圧力の値が一番不良と相関が高いという結果が表示がされています。これはロジスティック回帰という統計のモデルを使っていて、専門知識のある方がデータの前処理からこの相関分析まで時間をかけてやればできることなのですが、SIGHT MACHINEを使うと誰でもすぐにこういった相関関係をあぶり出すことができます。

    小泉: なぜロジスティック回帰分析でわかるとわかったのでしょうか。
     
    志村: SIGHT MACHINEでは単純に、不良のデータとデータソースの各項目間の相関を見ています。

    小泉: 相関を見るという言葉の中には、何らかの数式を選ばなければいけなくて、その数式の曲線なり直線なりに近似していることがわからないと、チョイスができないですよね。 機械学習の時も同じだと思いますが、様々な確率統計論の数式があって、どの数式を選ぶのかが肝であって、まさにデータサイエンティストの仕事だと思うのですが、なぜこれだったら良いという判断になったのかがすごく気になります。SIGHT MACHINEさんが不良率を見るには、ロジスティック回帰分析を使うのが一番いいとみなしているということですか?

    志村: そうですね。われわれはSASやSPSSのような統計の専門ツールとは立ち位置が違って、ユーザーの統計知識によらず、誰でも簡単に必要十分なレベルの結果を導き出せるというのが基本コンセプトです。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー
    株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二

    小泉: つまりある程度決めうちで、自分たちの使うロジックを決めていて、そのロジックに従ってやるとこういう結果になるということですね。

    志村: そうです。

    小泉: なるほど、わかりました。志村さんが入社してから3社でパイロットプロジェクトを開始したということですが、思ったような結果は出ていますか?

    志村:  正直に言うとすべてがうまくいっているわけではありません。特に明確な課題やゴール設定がない状態で行っているプロジェクトは苦労していますし、SIGHT MACHINEは簡単に使えるツールなのですが、そうはいっても意味のある結果を出すには何回かトライアンドエラーを繰り返すステップが必要です。

    小泉: 当たり外れという言い方は良くないと思いますが、あえてその言葉を使わせていただくと、当たった数が高くなると信頼性が高くなると思います。一方で工場の産業機械の特性は、そんなに単純ではないと思うので、ある会社では当たる数式でも、ある会社では当たらない可能性がありますよね。それを何回か繰り返しているうちに、使っている関数そのものを変更するというチューニングはできると思うのですが、それをやりすぎると良いところがなくなってしまうと思います。その辺のバランスがすごく難しい商品だと思いました。

    志村: 私が本社のデータサイエンティストと話している分には、根本原因分析についてはロジスティック回帰で広く相関を見るので必要十分だと認識しています。そのため標準パッケージは変えないと思います。これ以上を求められる場合は、お客様ごとにカスタム開発で作り込む必要があります。

    小泉:  多くの企業はこれを見た時に、SIGHT MACHINEを入れたら障害の原因がわかると思うはずですが、それはそういうことでいいのでしょうか。

    志村: 何かしらの洞察は導きだせるとは思いますが、パイロットを実施する時に、結果を保証するものではないということは必ずお伝えしています。 われわれが分析機能とともにアピールしているのは AIデータパイプラインです。今手作業で行っている前処理の作業をシステムが代わりに行いますので、本来自分がやるべきタスクに集中できるようになる部分には大きな価値があると思います。

    小泉: 分析できる会社が前処理をする手間がなくなるというのと、同じものを製造しているはずなのにクオリティの差が出ている場合に横並びで見よう、と思う時にはいいかもしれないですね。

    志村: まさにそうですね。一つの工場ではなく複数の工場でお使いいただくとより効果があると思っています。また大きな工場であればあるほど、1%の効果でも数億円単位の大きなインパクトが出ます。最近決まった海外の事例では、小さい単位でパイロットをせず、いきなりグローバルで6つの工場に導入していただきました。

    小泉: ラインの可視化は比較的やりやすいと思いますが、機械の予知保全は産業機械ごとにやらなければいけないので、簡単にいかないだろうなという気はしています。最後に今後について教えてください。

    データの前処理が必要ない分析プラットフォーム ーSIGHT MACHINE 志村氏インタビュー
    SIGHT MACHINE ソリューションエンジニアリング部長 志村裕司氏

    志村: SIGHT MACHINEは年間利用料をいただくサブスクリプションモデルですが、数を追うつもりはありません。当面は、われわれの思想に共鳴いただける小数のお客様と深くやっていきたいと思っています。

    小泉: 本日はありがとうございました。

    【関連リンク】
    SIGHT MACHINE

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