株式会社豆蔵ホールディングスの事業会社である、株式会社オープンストリームと国立大学法人 電気通信大学の情報理工学研究科 情報学専攻 庄野逸研究室は、FPGAによるディープラーニングの実装について研究および実証実験を行い、その結果を論文としてまとめ、米国コーネル大学が運営する論文投稿サイト arXiv.org にて発表した。
FPGA:Field-Programmable Gate Array。ユーザが回路構成を自由に設定できるLSIデバイス。AIやFinTechなどの計算の高速化手段として近年注目されている。
研究開発の背景
現在、ディープラーニングをはじめとするAI技術の本格的実用化(社会実装)が課題となっている。
AIシステムの構成を「クラウド vs エッジ」という構図で見た場合、これまでの研究開発はクラウド型の技術が先行している。その理由は、大量のデータをもとに機械学習するため、GPUなどの計算リソースをまとめて用意したり、学習データの保存先として利用するために、クラウド型の基盤が適しているためだ。
しかし、クラウド側だけにAI機能が偏ることは、今後社会実装を進める上で下記のような問題があるという。
(1)通信量・データ容量の増大
たとえば、IoTとAIを連携させようとする場合、膨大なIoTセンサー情報などを全てクラウドに集約することが必要となり、インターネット通信量や、データ保管容量が膨大になるおそれがある。
(2)処理遅延(リアルタイム性の低下)
IoTの現場(=エッジ)で発生した事象を、一旦クラウドに転送してからAIで解析し、その結果をまた現場に戻す構成では、結果が出るまでの処理時間が長くなる。
また、高速なネット接続環境を用意できないシステムではそもそも成立しない構成だ。
(3)システムの信頼性・頑健性低下
クラウド型システムでは、何らかの障害等により通信路が途絶えると、AI機能が使えなくなり、エッジ側の機能も麻痺してしまう。これは、高い信頼性が求められるシステムでは、望ましい構成とは言えない。
(4)電力消費の増大
クラウド型で良く使用される GPUは、単位演算あたりの電力消費が大きく、大規模なAIデータ解析を実用化する際のネックとなる。
上記の問題を解決し、実用的にAI/IoT技術を社会実装するための方法論として、近年「エッジコンピューティング」が注目されている。
エッジコンピューティングとは、クラウドだけに頼ることなく、エッジ側で主要な演算処理を行うシステム構成だ。近年の関連技術の進歩により、エッジコンピューティングは、従来の「組み込み」システムのイメージを超える、高度な演算性能を低コストで実現できる環境が整いつつあるという。
特に最近ではAI用途の高度な計算も可能とする技術として、FPGAやエッジ用GPU、AI専用プロセッサなどが登場している。
そこでオープンストリームでは、IoT用途などで重要な小型化や低電力化に効果が高く、またオープンストリームのR&D戦略の柱であるリアルタイム性に寄与するFPGAに注目し、電気通信大学の庄野教授にも支援を受けつつ本研究を推進してきた。
発表された論文の要旨
前述のとおり、FPGAによるエッジAI機能の実現を目指し、オープンストリームおよび電気通信大学 庄野研究室の研究チームは、FPGAを用いたディープラーニングのPoC実証実験(コンセプト検証)開発を行い、その結果を論文にまとめ、arXivにて発表した。
同論文の主な内容は以下の通りだ。
- 演算規模を縮小化するため、「バイナリ化ニューラルネット」手法を適用したGANモデル”B-DCGAN”を考案し、その性質を検証。
- B-DCGANをXilinx社のZynq-7000型 FPGA上に実装する手法を開発し、実際に必要な回路規模・メモリ容量などを検証。その結果、低コストのエントリモデルFPGAでも実装可能であることが確認された。
GAN:Generative Adversarial Networks(敵対的生成ニューラルネットワーク)。ディープラーニングの応用法の一つで、2つのニューラルネットを相互に競争させるように学習させることで、自然画像そっくりの画像を生成したりすることができる。
【関連リンク】
・豆蔵ホールディングス(Mamezou Holdings)
・オープンストリーム(Open Stream)
・電気通信大学(UEC)
・「arXiv.org」
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