伊万里市、コミュニティバスで地域コミュニティ強化 -PORTO森戸氏、一般社団法人日本中小企業化支援協議会 櫻木氏インタビュー

PORTO株式会社は、黒川町まちづくり運営協議会(佐賀県伊万里市の町民団体)と共同でコミュニティバスの運行支援の実証事業を、2018年3月20日に開始した。

今回の実証事業は、既存の公共交通網を見直し、町民の利便性を向上させることを目的として、町独自のコミュニティバスの運行を開始される佐賀県伊万里市の黒川地区を対象としている。

同社では、継続的な運営ができるようクラウドシステムとIoTを活用した低コストの運行管理やビッグデータに基づく運行ルートやダイヤの改善のシステム提供、コミュニティバスを起点とした地域コミュニティ強化のための施策などを行うという。今回、伊万里市が行うコミュニティバスについて、インタビューを実施した。

  • 話し手: 
    PORTO株式会社 代表取締役社長 森戸裕一氏
    一般社団法人日本中小企業化支援協議会 事務局長 HR Techナビ編集長 櫻木 諒太氏
  • 聞き手: 
    IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役 小泉耕二
  • 伊万里市、コミュニティバスで地域コミュニティ強化 -PORTO森戸氏、一般社団法人日本中小企業化支援協議会 櫻木氏インタビュー
    左:IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役 小泉耕二
    右奥:PORTO株式会社 代表取締役社長 森戸裕一氏
    右前:一般社団法人日本中小企業化支援協議会 事務局長 HR Techナビ編集長 櫻木 諒太氏

     

    小泉: 伊万里市のコミュニティバスの取り組みを教えてください。

    森戸: 一般社団法人日本中小企業化支援協議会では、IoTやICTを活用し地方創生の支援を行っており、その中のひとつのモデル地区に佐賀県の伊万里市があります。伊万里市では、市役所の企業誘致や定住移住の担当者と連携し、今回のような地域の課題解決を行う支援を行っています。

    そこで今回は、伊万里市の黒川町まちづくり運営協議会とコミュニティバスの運用管理システムを作っていくことになりました。全国で導入がすすんでいるコミュニティバスは、一般的に民営のバスなどが赤字で路線を廃止した地域に地域住民の足を確保するために代替手段として導入されます。伊万里市の黒川町の場合には10人乗りのワゴン車を走らせています。

    しかし現状は、地元の方のほとんどはマイカー交通手段としていますので、バスに乗車してくれる方が増える訳ではありません。自治体側も赤字のバス路線の赤字補てん額をコミュニティバスに変えたところで公費を支出し続けるという意味では苦しい状況が続きます。今回の黒川地区のコミュニティバスの運賃は一回の乗車で100円です。1日に10人乗っても売上1000円です。そこに運転手の方の人件費などもかかる訳なので、どう考えても自主運営は難しいと思います。

    そこで、コミュニティバス単体でビジネスの自立化を考えるのではなく、コミュニティバスが地域コミュニティのハブになったり、地域のIoTやICTの先進取り組み事例の視察で他の自治体がやって来たり、観光客もやってくるなどになれば、地域経済の活性化にもつながるので運行を将来的にも継続していく可能性があると思っています。

    小泉: コミュニティバスは、ないといけないものなのでしょうか。

    森戸: 自治体の仕事としては、地域にもともとあったものをなくす場合、代替手段がないといけません。マイカー利用者が多いとはいえ、高齢化は進んでいるので自動車免許を返納される方などの足を確保しなければいけません。そういう意味ではコミュニティバスは福祉に近い事業領域なのかもしれません。今回のコミュニティバスの停留所には病院や介護施設もあります。

    そこで今回私たちが考えたのは、病院や介護施設に向かうだけの手段としてのバスだと気持ちも暗くなってしまう可能性があるで、「乗って楽しいバス」というコンセプトです。

    まずひとつは、車内に大型の液晶モニターを取り付けてバス自体を地域の移動シアターにしました。地域の方々が見慣れた地域の風景を上空100mからドローンで撮影して楽しんでもらったり、以前、地域で映画の撮影を行ったこともあるので、そのメイキング映像を常設で流すようにしました。これは自宅でもインターネットでも見ることができない映像なので、バスに乗る楽しみになります。

    伊万里市、コミュニティバスで地域コミュニティ強化 -PORTO森戸氏、一般社団法人日本中小企業化支援協議会 櫻木氏インタビュー
    PORTO株式会社 代表取締役社長 森戸裕一氏

    小泉: 移動のために乗るのではなく、乗ること自体がエンターテイメントになりますね。

    森戸: そうです。最終的に、高齢者の方の足というだけではなく、誰もが乗ってみたいと思ってもらえるコミュニティバスにしたら面白いと考えています。このコンセプトは、是非他の地域でも真似してほしいと思っています。

    小泉: 他にはどんな映像が流れているのでしょうか。

    森戸: 今、地域の皆さんに考えてもらっていますが、お孫さんたちが幼稚園でお遊戯会をしている映像や、古くからの地域の映像や写真をスライドショーで流すことなども考えています。

    私が伊万里市に開設したPORTO株式会社ではデジタルアーカイブ事業も行っています。例えば、伊万里市では50年ほど前の水害の映像や天皇陛下が来られたときの16mmフィルムの映像などが図書館など眠っています。それを放っておくと年々劣化していくだけなので、デジタル変換を得意とする会社と連携しデジタルアーカイブとしてクラウド保存を開始しました。それらも活用しながら地域の活性化事業に活用したいと思っています。

    小泉: 他にはどういうことを実施されているのでしょうか。

    森戸:GPS情報を取得できるIoTデバイスでバスの位置情報を常時取得していますので、コミュニティバスの運行ハブになっている黒川公民館に50インチのモニターをつけて、バスがどこを走っている情報を住民の方々にも見てもらっています。これは「バスにGPSセンサーをつけるとこういうことができますよ」ということを示してICTやIoTなどの最新技術に興味を持ってもらうための取り組みです。

    バスの乗降記録は、乗客の「誰が」ということまでは特定しないようにしていますが、男性なのか女性なのか、どこの停留所で乗ったかなどをカウントし、その情報がバス運営団体や市役所にタイムリーに通知されるようにしたいと考えています。また、コミュニティバスは10名で満席なので、蓄積データはダイヤ改正などにも使えると思います。

    先々の構想としては、スマートフォンでバスに乗車したいと考えている方の位置情報を運転手に通知すればバスが迎えに行くなど、従来の路線バスの停留所という概念をなくすことを考えています。ただ、路線から大きく外れてしまうと運行管理も大変なので、次のステップとしては路線内で乗客が待っているところに停止するということを考えています。

    また、過疎化と高齢化が進む自治体が大変なのは、独居老人宅への安否確認のために訪問ということも聞いていますので、これをコミュニティバスで解決できないかとも考えています。例えばバスに乗ったということがわかれば間接的な安否確認にもなります。

    他にも、バスに運転状況が把握できるIoTデバイスをつけて日々安全運転されてるかどうかの情報も吸い上げようと思っています。黒川地区のコミュニティバスには運転手が2人いらっしゃいますが、共に安全運転で燃費良く走っているか、定時運行されているかがわかれば、それを住民の方々にアピールもできます。

    伊万里市、コミュニティバスで地域コミュニティ強化 -PORTO森戸氏、一般社団法人日本中小企業化支援協議会 櫻木氏インタビュー
    IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役 小泉耕二

    小泉: 森戸さんは、なぜそこまで地方創生に情熱を傾けているのでしょうか。

    森戸: 2002年に起業してから経済産業省や日本マイクロソフト社やヒューレット・パッカード社などと一緒に「全国IT推進計画」と称して全国の自治体や企業のIT化支援を行っていました。大手のIT企業と一緒にプロダクト普及も目的にした全国の中小企業啓蒙活動を実施していたのですが、プロダクト普及期から地域課題解決期に変わってきたと考えています。

    今後は、オンプレミス型のシステムがクラウド型なって、IoTデバイスから吸い上がった情報をクラウドシステムで解析して共有するという形になりますので、今後大きなシステム開発案件は少なくなっていきます。そうなってくると、個々の企業の課題解決型のシステム開発ではなく、地域間連携や異業種連携などの広域連携でのシステム開発が増えてきます。地方都市が抱えている課題はシステム開発分野においては埋蔵金に見えています。

    今、すべてが東京に一極集中しているので、多くの地方出身者の方が言われることですが、もし地元に残るとしたら公務員になるか、実家の事業を継ぐしかありません。しかし地方をよく見ると、小さいながら地元に必要なことをやっている中小企業があります。今ある地域の産業に対して新産業を創造する形のネタを教えてあげれば、新しい雇用が生まれると考えています。地場企業の中にICTやIoT事業部ができれば、都市部で働いている何人かは地元に帰ることができるはずです。

    このような視点での新事業創造活動を全国に広げると、東京が抱える問題も解決できると思っています。東京という狭い地域に全国から多くの人が集まって働いて、毎日、満員電車で通勤しています。交通手段が満員になっていること自体が、東京が持っているキャパシティを超えているということです。昔は一極集中させることが日本の課題解決になったのでしょうが、今はどこでも仕事はできる訳です。東京の方々が地元に帰れる理由を作ってあげるお手伝いができると、これはつまり東京の問題解決にもつながります。

    国は働き方改革を推進していますが、副業をOKにするのであれば、東京とふるさとの2拠点で仕事をするのもいいかもしれません。

    一般的に言われる優秀な方が人口構成のうちの上位20%だとすると、その方々の多くは都市部で仕事されているのではないかと思います。その方々の10~20%の時間を地方のために使ってもらえると、地方はますます面白くなると思います。移動の時間が発生すると難しいかもしれませんが、ネット経由で地方と関わる時間を持つだけでも地方は活性化します。

    今までの社会でよく見かけたのが、都市部で働いて定年退職したあと何もつながりが無い状態で地元に帰られるというパターンです。地元出身とはいえ今までコミュニティに参加されていなかった方を地元もどう受け入れていいかわかりません。例えば、早い段階で少しでも地元や地方と関わりを持っていると、移住しようと思ったときに移住しやすいのではないかと考えています。そういう移住・定住しやすい環境も地方創生支援として行いたいと思っています。

    小泉: なるほど。自治体との調整でどういうところが大変だったか教えていただけますか。

    櫻木: 私は自治体の企業誘致の担当の方とお仕事でご一緒することが多いのが、地方都市でIoTなどの先端技術を使ったコミュニティバスが必要なのか理解していただく部分が一番大変でした。例えば、今回の伊万里市にはIT関連の企業を誘致したいという想いがあるものの、地域の方々のITへの関心度などを加味すると、わざわざなぜ新しいテクノロジーを入れるか理解を得るのはハードルでした。

    伊万里市、コミュニティバスで地域コミュニティ強化 -PORTO森戸氏、一般社団法人日本中小企業化支援協議会 櫻木氏インタビュー
    一般社団法人日本中小企業化支援協議会 事務局長 HR Techナビ編集長 櫻木 諒太氏

    森戸: 伊万里市は先端技術を持っている企業を誘致したいものの、企業側からすると伊万里市はITやIoTの事業を積極的に取り組んで来なかった訳ですから、進出には二の足を踏みます。だから、この取り組みが企業誘致につながるというご提案をして、ご理解をいただいた部分もあります。

    自治体と一緒にプロジェクトをやっていて感じる課題は、サ一ビスの利用者からみたときに、例えば、◯◯市と◯◯市という行政区分で考えられると不自由さを感じることがあります。地域間連携などで解決できる課題も多いので、行政区分を超えて課題解決するにはクラウドしかないと思っています。これまで縦割りで分断されていたプロジェクトをつなぐ意味でも、クラウド型で課題解決に取り組んだ方がいいというお話をしました。

    クラウドシステムを使うとランニングコストがかかるので、「未来永劫コストを払い続けるのですか?システムは買取りの方がいいのではないですか?」と聞かれるのですが、未来永劫続く方が常に地域課題に合わせて最新のシステムにアップデートできますし、新しい仕組みを導入しようと思ったらすぐに基盤システムにつなげることもできます。地域課題も複雑に組み合わさっていますので、住民起点で考えるとクラウド型のシステムがベストではないでしょうか。

    櫻木: 過疎もひとつの市場です。例えば、日本一実証実験がやりやすい場所など、それらを前向きに捉えられる人たちが伊万里市にくるようなメッセージを出したいと思っています。

    小泉: 過疎地では農業IoTなどもありますが、なぜバスからはじめたのでしょうか。

    森戸: ITSフォーラムという国際フォーラムが今年の5月に福岡市で開催されます、これは世界レベルでこれからの交通手段などをどうしていくかなどを議論するフォーラムです。そういう流れもあり、私たちは自動運転カーやシェアリングエコノミーにビットがたっていました。

    たまたま伊万里でもコミュニティバスの話があり、将来的には地方都市でも自動運転のバスが普及するという仮説のもとに今何ができるかと考えると、IoTを活用してみようということになりました。これが最初のきっかけです。

    櫻木: 認知症を防ぐためには会話が必要だと言われています。家にいると話をしないし、ただ移動だけしていても話しません。「話すネタがあるバスに乗ると会話ができて楽しい」という価値が提供できるのはひとつポイントです。さらに、移動させるとカラダを動かすことにも少し寄与できると思います。今回のコミュニティバスも運転手さんとのおしゃべりを楽しみにバスを利用したいという方もいるようです。

    小泉: 過疎化対策となると暗い話になりますが、楽しんでいるうちに解決されていくのは嬉しいですね。

    櫻木: 楽しむことで解決できるほうが、地域も明るくなりますし、この課題を前向きにとらえるきっかけになる気がします。そういう意味では、コミュニティバスを中心にした新しい地域コミュニティは全国各地でつくっていきたいですね。

    小泉: 過疎地に30歳くらいの方はいないのでしょうか?

    森戸: 当然、多くの地方都市にも若い方はいますが、地元からちょっと離れた地域で働いていらっしゃる場合も多いようです。伊万里市の場合には出生率は全国平均より上なので子どもさんもたくさんいますが、最近では3世代で同居している例は少なくなっているようです。

    小泉: 例えば、テレビ会議などのシステムで話すなどということはないのでしょうか?

    森戸: テレビ会議システムなどの場合は、外から覗かれている気がすると感じるので抵抗感があるようです。遠隔医療の実証実験などは佐賀県でも実施されていますが、リテラシーの課題もあり、テレビ会議が本当に切断されたのかわからないという方もいらっしゃいます。ずっとカメラがこっちみてるとなんか嫌だなという話です。そのような話も見聞きするので、交通機関でコミュニティを構築して話すきっかけを作ってあげる方がいいのではないかと考えています。

    例えば、IoTの見守りサービスは、ポットに組み込んだり、コンセントに組み込んだりと間接的に生活状況がわかるようなものが多いですよね。これもカメラなどに対する抵抗感かなと思っています。

    そう考えるとこれからの日本が超高齢化になったときに、伊万里市の取り組み事例を参考にして地域の方々が話すきっかけを作るとか、移動するエンタメバスというコンセプトが広がるといいなと思っています。

    小泉: あとは介護されている感をなくせるといいですよね。難しいかもしれませんが、そこで産業が生まれるとか生産性があがることができると、それ自体が街に貢献できますね。

    森戸: ネットショップで商品を購入すると当然ながら自宅に商品が配達されますよね。しかし配達員の方々の雇用も難しくなってきていますし、残業代未払い問題などがあって宅配会社も大変です。そこで、商品を地域まで持ってきてもらって、あとはシニアの方々の力で配達するという実証実験が佐賀でもはじまっています。

    配達用の荷物をバスに混載するというのが現状はNGですが、そのうち規制も緩和されると思うので期待しています。

    小泉: 自動運転がはじまればそうせざるを得ないですよね。無駄に走らせるのももったいないですから。

    森戸: どこに自分の荷物があるのかということが、スマートフォンでチェックできるといいですよね。コミュニティバスに乗って荷物の受取りに行って、おしゃべりも楽しめます。今の技術でも十分に実現可能だと思います。

    小泉: これまでのクルマメーカーはクルマの中から世界を見ていましたが、社会全体から移動を見直すと全然違う機能にしなければいけません。移動する箱の中を見ると、本当は何がなければいけないのか考える必要がありますね。

    櫻木: 縦割り行政と言うのは仕方ない部分がありますので、横連携は民間で補うしかないと思っています。私たちの団体がその受け皿となって地域と地域をつないでいけるといいなと思っています。

    以前、私は公的団体に所属していました。その中で、国からの交付金や補助金が縦割りで落ちてきますので、行政区分での適用となり取り組みも部分最適になってしまうことに課題を持っていました。

    現場で、課題を発見してこうした方がいいと思っても、当初の予定で計画を立てていた通りにやらなければいけないので、どうしてもアジャイル的な支援ができませんでした。そうなると継続性な支援は難しいと思って、民間に転職しました。私は今、地域や企業、個人が変化するきっかけをつくるために全国を行脚しています。

    小泉: どうしても人にノウハウが溜まっていくので、ノウハウを持った人が全国をまわるのはいいですよね。本日はありがとうございました。

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