[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール 「愛の伝道師」井手社長インタビュー

生活の中に入り込むテクノロジーを様々なテーマで考える新企画、「ライフテック」のコーナー。なるべくデジタルとは遠いビジネスをされている方にIoTNEWS代表の小泉が対談を依頼し、生活の中にテクノロジーがどう入っていくべきかを模索する。

第3回目は、「よなよなエール」や「水曜日のネコ」などのクラフトビールを大ヒットさせ、熱狂的なファンが多いことで知られるヤッホーブルーイング。

株式会社 ヤッホーブルーイング よなよなエール“愛の伝道師” 兼 代表取締役社長 井手直行氏(トップ写真)と、株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二が対談した。

インターネットがなかったら今はなかった

小泉: ヤッホーブルーイングについて教えてください。

井手: 私は今社長をしていますが、創業者は星野リゾートの代表の星野佳路です。星野がアメリカ留学をしているときにクラフトビールを飲んで「こんなおいしいビール飲んだことがない。いつか日本でも紹介したい」という想いを抱いていました。

星野が帰国後、家業のリゾート業を継ぎましたが、その後1994年に小さい会社でもビールをつくれる ようになる規制緩和(※)が行われたことをきっかけに、1996年にヤッホーブルーイングが誕生しました。僕もこのビールを飲んで感動して、当時は営業としてスタートを切りました。創業メンバーは7人です。

※1994年の酒税法改正(=規制緩和)・・・ビールの製造免許取得に必要な年間最低製造量が2000KLだったのが、清酒と同じ60KLにまで引き下げられた。

小泉: 当時、全国でクラフトビールがブームになりましたが、全国で流通しているのは御社の製品が多いですよね。それは何か他のビールと差があるのでしょうか。

井手:  一番の違いは、われわれは「日本のビール文化を変えたい」という壮大な夢をもってビジネスをスタートしたからだと思います。 創業当時から「全国の流通で置いてもらって、家庭で手頃に飲める状況を作ろう」と思っていました。

最初からかなり無理をして大きい設備を導入したり、缶入りのビールをつくったりしました。当時は大手以外のブルワリーだと瓶のビールか、レストランで飲める樽のビールしかありませんでした。大手以外で、日本で最初に缶のビールをつくったのがわれわれです。最初から家庭で飲まれることを想定して、目標に向かって突き進んだ結果かなと思います。

[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール 「愛の伝道師」井手インタビュー
株式会社 ヤッホーブルーイング よなよなエール“愛の伝道師” 兼 代表取締役社長 井手直行氏

小泉: 日本のビール文化を変えるというのは、どういう状態からどういう状態になることでしょうか。

井手: 今だと居酒屋でビールを飲む時に「とりあえずビール」じゃないですか。ビールの銘柄さえ書いてなくて、サイズしか書いてないことも多いです。ビールの銘柄を聞く人もあまりいません。

将来的には「とりあえずビール」ではなく、「今日のビールは何がおすすめですか?」「今日はなかなか苦くて珍しいビールが入ってますよ!」とお客様と店員の間で会話が生まれるような状況を作り出したいと思っています。

「今日はどのビールにしよう」と選べるようなバラエティを増やし、自分に合ったビールを楽しみながら飲めるのが理想です。

小泉: 最近は少しずつ状況も変わってきていませんか?

井手: そうですね。全体でみるとまだまだですが、そういうお店も東京に増えてきているのは確かです。

小泉: 余談ですが私は「とりあえずビール」は絶対言いません。ビールに失礼です(笑)出張時、アメリカの西海岸でよくクラフトビールを飲んでいます。

井手: アメリカの西海岸がクラフトビールの本場なので、 向こうの事情を知ってらっしゃるビジネスマンやビール好きの方は、小泉さんと同じ感覚を持っています。

小泉: 缶にするのは瓶にするのとは大きくコストが違うのでしょうか。

井手:  瓶だと小さな製造機械がたくさんありますが、缶にするには大きい工場で大量生産をするしかありません。 これまで大手メーカーしか缶を作っていなかったので、そもそも小ロットで生産できる製造機械がないのです。

僕らが始めた21年前は、ちょうど瓶ビールからシフトするタイミングでした。家庭で飲むには缶の方が普及しやすいと思い、瓶ではなく缶を選びました。さらに瓶にすると回収も大変なので、缶の方がリサイクルの負担が少ないメリットありました。

アメリカでも「缶はチープ。瓶の方がかっこいい」というイメージがありましたが、この2~3年で缶をつくるクラフトビールメーカーも増えくるなど、アメリカでもイメージが変わってきました。

小泉:  ちゃんと流通すれば、缶の方が優位性が高いわけですね。しかし、流通させようと思っても簡単にできるものではないと思います。どうやってブレイクスルーしたのでしょうか。

井手: 最初は地ビールブームがやってきて、当時大手以外で流通にのせられるのはよなよなエールくらいしかありませんでした。価格も僕が知っている限り、当時も今もクラフトビールとしては日本で一番安いです。他のクラフトビールが400円ほどですが、よなよなエールは税別248円です。缶というのも珍しく引き合いが多かったので、ほとんど営業しなくても地元の長野県と東京中心とした首都圏の流通に入りました。

3年で終わったクラフトビールブーム

 

[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール 「愛の伝道師」井手社長インタビュー

井手: その後3年ほどでブームが終わってしまうと、 「地ビールは珍しくないし、美味しくないし、高い」というイメージがついてしまって、売上が下降線を辿りました。倒産と言う二文字が常に頭の中にありました。ブームの時でも設備投資が大きかったので、開業から8年間ずっと赤字でした。いつ潰れてもおかしくないという状況の中で、最後に残ったのがインターネット通販でした。

小泉: え、インターネット通販が最後なのですか。

井手: そうなんです。今では国内のインターネットで最もビールを売る会社と言われていて「いいところに目をつけましたね」とも言われるのですが、全然目をつけていませんでした。

当時、思いつくすべての策をやりつくしても誰も相手にしてくれなくなって、最後に残ったのがインターネット通販だったんです。それまではインターネットもやったことなかったし、 パソコンが苦手でした。そんな状況だったので、インターネットには近寄らないようにしていたくらいです。

しかし、そうも言ってられない状況になってインターネットに参入してみると、驚くほど売れるようになりました。すると、「インターネットで話題になってるそうなので取り扱いたい」と問屋やスーパーから声がかかるようになりました。

これまでは営業しに行っても門前払いだったのに、インターネットのおかげで勝手に売れていくようになりました。その後も流通での売り上げも伸びていたので、 ちゃんと営業マンを置いたのはつい最近です。今では、関東の流通で約70%ほどカバーしています。

小泉: いろいろ自然発生的に起こっていたんですね。

井手:  はい。何の資金力もコネもないわれわれが、インターネットの普及とともにうまくハマりました。僕らからすると一番難しそうだったインターネットをやってみて、ダメだったら諦めようと思ってました。

小泉: ロングテールの商品は、中小企業からすると結構な売上ですよね。なぜインターネットが難しいと思ったのでしょうか。

井手: そもそも私がインターネットを使ってなかったので、難しいと思い込んでいました。僕らがインターネットをやりはじめたのは2004年ですが、当時はワインではカリスマ的な優良店が出ていました。ワインは希少性もあって、色々うんちくを語る部分があるのですが、ビールはどこにでも売っているので、インターネットで買う必要がないと思っていました。今振り返ってみると、やる前から諦めては何も始まりません。やってみて良かったと思います。

小泉:  当時は楽天が唯一のショッピングモールと言われていましたが、銘柄買いといってヴィトンのバッグとかシャネルの時計など、モノがはっきりしているものは売れると言われていました。その他には、カニや大きなプリンなど普通には売っていないものに人気がありました。後付けの話にはなりますが、元々地ビールブームがあったから認知している人が全国にそれなりにいて、「飲みたいのに店頭で売ってないな」という人が探したのかもしれませんね。

井手:  そうなんです。最初に支えてくれたのはそういうお客さんだと思っています。 われわれの地元、長野県でけっこう売ってもらったのですが、 当時は地ビールといってご当地で飲む感覚でした。軽井沢は幸いにも全国有数の観光地なので、そこに東京や関西の人達が来て飲んでくれるけど、次に来た時はもう売ってないような状況でした。そういう方々がインターネットで見つけてくれて「前に軽井沢で飲んで美味しかったので購入しました」というコメントをいただくこともありました。

小泉: 覚えやすい名前なのがまたいいですよね。

井手: 資金力がなくて広告を打てないから、一回聞いたら覚えられる日本語の名前にしようとなり、代理店にも協力してもらい何千という名前から選びました。同じフレーズが2つ続くと覚えやすいようです。「よなよなエール」は毎晩毎晩、個性豊かなエールビールを飲んでもらいたいという意味が込められています。

「水曜日のネコ」は社内ではじめてプロジェクトを組んで開発した製品だったので、物議をかもしました。水曜日にしか飲めないのか、ネコ嫌いな人は買わないんじゃないか、犬好きはどうなるんだ、など様々な声が社内であがりました。

しかし、IT企業みたいに「一部のニーズがあるのはわかっているので、やってみないとわからない」という話をしました。小さく生んで大きく育てればいい、リスクを取ろうよ、とスタッフには伝えていました。

一見ビールとわかりにくいとも言われたので、店頭で売れなかったらインターネットだけで売ろうと思っていました。ふたを開けてみたら「面白いね」と言われて、大ヒットしちゃいました。

小泉: 確かにはじめに「水曜日のネコ」を見た時ビールじゃないと思いました。最後インターネットで売れる確信があるのはいいですね。

ビールビジネスの中で使われるテクノロジー

[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール 「愛の伝道師」井手社長インタビュー
株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二

小泉:  ビールビジネスの中で使われるテクノロジーについて教えてください。

井手: 例えば、ビールの樽が帰ってくる時にどこから返ってきたかわかるシステムを入れています。去年、神宮の軟式球場を貸切り4000人のファンを集めて「よなよなエールの超宴」というイベントを実施した際にも、予約管理などでインターネットを活用しました。

よなよなエールの超宴

その時に遠方から来られない人や、都合が悪かった人がいたので、インターネット飲み会もを実施しました。リアルに来れないんだったらインターネットでいいじゃないか、という発想です。

Facebookのライブ配信機能を使って、うちのスタッフが飲みながら画面越しで乾杯をしつつ、イベントの実況中継をしました。お客さんが何か書き込んだらうちのスタッフが返信したり、読み上げたりするというコミュニケーションをしました。

こちらは実況中継をしているのですが、チャット欄でお客さん同士のコミュニケーションが始まったりもしていました(笑)リアルの温度感は伝わりにくいかもしれないですが、面白い企画なのでもっと広がっていくといいなと思っています。

小泉: 面白いですね。ファンがとがってるから成り立つ企画ですね。

井手:  社内の飲み会もいろんな拠点をつないでインターネット経由で飲んだりします。さらに、事務所や製造現場、物流倉庫など拠点が色々わかれてきているので、スタッフの発案で Google のハングアウトを使って全ての事務所が常時でつながっています。インターネットを使ってあたかも同じ空間にいるような状況を作り、一体感を出そうとしています。

小泉: そういうのって実際どうですか?監視されている感じはありますか?

井手: 監視されている感じは全くないですね。何してるかな?と東京の事務所を見たり、画面を見ながら電話で話したりしています。ITのおかげです。

小泉: 音声応答エンジンが進んでくると、通話可能なハンズフリーフォンを耳につけて「田中さん」と呼びかけただけでナチュラルに会話ができる時代が、もうあと2~3年でくると思います。こうやって映像も一緒に見られるとシズル感があっていいですね。

井手: インターネット飲み会も今後、目の前に300人くらい立体的に人が見えると、もっと楽しいだろうなと思います。

小泉: それはFacebookがもう開発をはじめています。友だちと一緒にパリに行けるという内容なのですが、例えば私が東京にいて井手さんが軽井沢にいたとして、「一緒にパリにいこうよ」となったら、バーチャル上で私と井手さんはパリの映像を見ながら横に並ぶんです。5G通信が広がってくると通信が遅延しなくなってくるので、遠方にいてもほとんどリアルタイムでできるので、今のパリ、東京、軽井沢の状態を併せて合成することができます。

井手: すごいですね!先日、ある最先端技術を研究しているチームに呼ばれて、コメントを求められたことがあります。技術的にはすごいのでしょうが、おそらくお客さんは喜ばないと思うアイディアをいくつも研究されていたので、それは正直にそうお話させていただきました。

技術先行のアイディアよりも、例えばクラフトビールが提供されるパブで、テクノロジーを生かしてお客さん同士が話すきっかけになるようなサービスを作ったら面白そうです。

小泉: お店の中でそういうコミュニケーションが生まれるのは面白そうですね。クラフトビールはラベルが可愛いからわざと瓶で頼む人たちがいて、ラベルを見ながらクラフトビールの情報交換が行われたりしますよね。

井手: そうですね。Instagramで紹介してくれる人も多いですね。私たちは広告費をかけていないので、人にお知らせしたくなるデザインというのはすごくプラスになっています。

生活者目線じゃないと、テクノロジーはうまく使えない

[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール 「愛の伝道師」井手社長インタビュー

小泉: 新しい商品の「僕ビール、君ビール。裏庭インベーダー」もまた面白いネーミングで、目を引くデザインですよね。

広報: 普段ビールを飲まない若者に、裏庭インベーダーであるカエルくんがビールの常識を変えるために侵略しにくるというストーリーです。これを飲むとハッとして「今まで知ってたビールの世界って違うんだ」と思ってもらえます。

井手: これは若い男性をターゲットとしたビールです。シニア層にはまったくフックしません(笑)

広報: プレスリリースを4コマ漫画にするというチャレンジもしたのですが、縦に長い4コマ漫画は使いにくいと言われてしまいました。でもファンは喜んでくれて、Twitterに投稿してくれたりしました。

井手: この時代だから、僕らみたいな会社がお金をかけずにファンの方に喜んでもらうことができる環境なんだと思います。ある程度振り切ることも良しとしているので、大企業と違う味が出せます。ちなみに僕は全然「僕ビール、君ビール。裏庭インベーダー」には全くフックしません(笑)SNSがなかったら僕らはもっと苦戦していると思います。

[LIFETECH] 生活者目線でテクノロジーを活用する -ヤッホーブルーイング よなよなエール「愛の伝道師」井手社長インタビュー
僕ビール、君ビール。裏庭インベーダー

小泉: こういうものを世の中に知らしめるためにテクノロジーってあるんですね。

井手: ファンの皆さんは、飲む前から楽しんでくれてますね。こういう味ですよ、とわかりやすくお伝えできることには越したことないのですが、それが普通なので、僕らは全く予測できない表現をして、考える余白を残しています。こういうのはむしろ興味を持ってくれる気がしています。

小泉: 全然知らないとおっしゃってますけど、知っててやってるんじゃないかってくらいインターネットのセオリーに乗ってますよね。自然にできてることがすごいと思います。

テクノロジーを使ってないと思われていると思いますが、全然使ってると思いました。生活者目線でやってる人たちじゃないとテクノロジーってうまく使えないんだな、と返す返す思いました。

井手: 大手企業は代理店に任せているところも多いですが、僕らは幸いにもお金がなかったので、すべて自分たちでやっています。おかげで社内にノウハウが溜まっています。企画を考えたりするのは1消費者の目線でやってるメンバーばかりで、それをちょっとITに詳しい人が技術でサポートしてくれています。

小泉: 本日はありがとうございました。

【関連リンク】
ヤッホーブルーイング

Previous

KDDI、SORACOMとの事業共創に向け、IoTデバイス基盤のResin.io社に出資

ノバルス、乾電池型IoTデバイス「MaBeee」のビーコンモデルを発表

Next