ボッシュ・ジャパン、イノベーションフレームワーク「FUJI」 でIoT・AI領域へ積極参入

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2017年、グループ全体で過去最高の売上高を記録したボッシュ。国内では自動車関連事業が9割を占めているが、最近ではモビリティ分野に限らず、様々な事業領域でIoTの活用を推し進めている。

例えば、インダストリー4.0の実現に向け工場のネットワーク化を推進。同社の栃木工場にはエッジ向けのIoT基盤や設備の予知保全を行うアプリケーションが導入されている。さらに2017年に発表した、スマート農業ソリューションセンサーとAIを使用したソフトウェアによる病害予測サービス「Plantect(プランテクト)」は、累計約2,000台の関連デバイスを出荷しているという。

こういった新規事業開発のエンジンのひとつとなっているのが、ボッシュ・ジャパンが取り組むイノベーションフレームワーク「FUJI(フジ)」だ。

「FUJI」とは、FUture with Japanese Innovationの頭文字を取った名称で、ボッシュ・ジャパンから国内外に発信できるイノベーションに全社で取り組むことで、ボッシュのカルチャーを根付かせるという考えのものだ。この取り組みを行うことで人材育成も目指すという。

これまでもトップダウンでは新規事業開発が行われていたが、今後はボトムアップのアプローチにもチャレンジしていくという。2018年5月末、その第1弾としてボッシュ社員のみが参加できるピッチイベント「FUJI 2018 Pitch Night」が開催された。

そのピッチイベントの様子は記事後半で紹介するが、まずはこの「FUJI」の取り組みについて、ボッシュ株式会社 代表取締役社長 クラウス・メーダ―氏に伺った。(聞き手:株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二)

【目次】

  • ボッシュ代表取締役社長 クラウス・メーダ―氏 インタビュー 「社員のアイディアを引き出す文化が重要」
  • FUJI:FUture with Japanese Innovationの継続で、新規事業が生まれやすい環境をつくる
  • 「FUJI 2018 Pitch Night」当日の様子
  • 社員のアイディアを引き出す文化が重要

    ボッシュ・ジャパンのイノベーションフレームワーク「FUJI」 でIoT・AI領域へ積極参入[PR]
    ボッシュ株式会社代表取締役社長 クラウス・メーダ―氏

     

    -ピッチイベントについて教えてください。

    メーダー氏(以下、メーダー): ボッシュのDNAの一部としてイノベーションがあります。私は2017年に日本の代表として着任し、2018年から「Pitch Night」をはじめました。社員のアイディアを引き出すピッチイベントは恒常的に続けることが重要です。

    -期待するサービスや進出したいマーケットはありますか?

    メーダー: デジタライゼーションやIoTに関連する、デジタルエコノミーのビジネスが出てくることを期待しています。「FUJI」としての初の新規事業は、2017年に発表したスマート農業ソリューション「Plantect」があります。

    このソリューションによって、ボッシュは今まで存在していなかった新たな事業領域に入っていくことができ、現在では着実にビジネスになってきています。今後は社員からアイディアを引き出すことで、新たな成功モデルが出ることを期待しています。

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    プランテクトの概要

     

    -メーダー氏は、ボッシュ初となる「Pitch Night」を企画されたと聞きます。ドイツで行われた「Pitch Night」について教えてください。

    メーダー: 私がドイツで「Pitch Night」をはじめたときは、ドイツ本社 Robert Bosch GmbHのオートモーティブ・エレクトロニクス事業部の事業部長でした。その事業部では、今後の成長のために、ある一定の予算を持って社員に新しいアイディアを出してもらい、そのアイディアをベースにAEのマネジメントが決めるというプロセスがありました。

    ふと考えたときに、これらを閉じられた部屋で決めるのではなく、もっとオープンな環境でアイディアを出していくのが重要だと思いはじめました。はじめは小さな規模でしたが年々大きくなっていって、自分が日本に着任した今も、ドイツで引き継がれています。

    当時、まだブロックチェーンが一般的になる3~4年前でしたが、社員からブロックチェーンを使ったアイディアが出されました。新しいアイディアやテクノロジーに対しての感度や知識が豊富な社員もいるので、そういう意味でもコンセプトとしての「Pitch Night」は非常に重要だと思っています。

    -日本のスタートアップ市場をどう見られていますか?

    メーダー: スタートアップの拠点について考えたとき、世間一般的にはシリコンバレーやベルリン、イスラエルなどを想像されると思います。日本はスタートアップシーンでは後発ですが、今が非常にチャンスだと考え、ボッシュもスタートアップ事業に注力します。

    もともとスタートアップはUSからはじまり、ヨーロッパへ進みました。そのスタートアップのウェーブが東京にもまわってきて、ウェーブそのものが強くなってきています。スタートアップコミュニティ内では情報共有も行われるため、コミュニティの一員になることも重要です。

    -日本ではセンサーなどの部品に関するテクノロジーが強いですが、ボッシュからすると競合が多いと思います。その点はどう見られていますか?

    メーダー: IoTの世界では3つの層があります。1点目はセンサー、2点目はソフトウェア、3点目はソリューションです。ボッシュにはセンサー技術があるので、ソフトウェアやソリューションが加われば、新しいビジネスを展開するスピードがこれまでよりも速くなります。つまり、スタートアップにとってもいいスタートを切ることができます。

    もし、スタートした事業が失敗したとしても、失敗するならはやめに失敗したほうが良いと考えております。そうすることによってコストも低くなります。失敗は非常に良い経験です。失敗を経験することによって、今後のビジネスセンスを養うこともできます。

    ―ありがとうございました。

    FUJI(FUture with Japanese Innovation)を継続することで、新規事業が生まれやすい環境をつくる

    今回の「FUJI 2018」の責任者である 新規事業開発部長 ソフトウェアイノベーション部長 押澤 秀樹氏は、「これまでボッシュでは自分のアイディアを提出する場がなかった。これからは新規事業を新しく生み出すのではなく、生まれやすくなる環境を作りたい」と言う。

    「FUJI」は新入社員でもベテランでも、ボッシュの社員なら誰でもアイディアを提出できるが、新規事業を成功させるにはチーム作りも重要だ。そこで、社内のメンバーにも魅力的に映らないアイディアは、社外に出ても誰にも見向きもされないという発想のもと、3人以上のチームにならないとアイディアを提出できない仕組みになっている。

    今回は同じ部署のメンバーで構成されたチームでもよいが、「フェーズが進むにつれて、財務や設計などさまざまな部署のメンバーがいる方がチームとしては強くなる」と押澤氏は期待している。

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    ボッシュ株式会社 新規事業開発部長 ソフトウェアイノベーション部長 押澤 秀樹氏

     

    「FUJI」の大きな目的のひとつは人材教育。そのため、コンサルティング会社にも協力を要請し、提出されたアイディアすべてに対し、上市時期やスケール、ビジネスモデルなどを評価した上で、それぞれの項目と総評をフィードバックしたという。

    審査員はモビリティ分野に偏らないよう配慮されており、審査委員長としてボッシュ株式会社 代表取締役社長 クラウス・メーダ―氏、ゲスト審査員としてドイツ本社のボードメンバーでありアジア・パシフィック統括のペーター・ティローラー氏。さらに、Pitch Nightを5回経験しているオートモーティブ・エレクトロニクス事業部 アンドレ・ヘデラー氏、外部コンサルタントである 株式会社ピー・アンド・イー・ディレクションズ ディレクター 長谷川幸生氏。日本のボッシュからは、ボッシュ株式会社 専務執行役員の宗藤謙治氏、同じく執行役員の石塚秀樹氏、ボッシュセキュリティシステムズ株式会社 代表取締役 丸岡豊一氏の3名に加え、「Pitch Night」の責任者である押澤氏の合計8名。

    世界のボッシュでは続々と新しいビジネスがリリースされている。ドイツでは電動スクーターのシェアリングサービス「Coup」をベルリンでスタートさせ、パリ、マドリッドでも展開されている。また、ボッシュのIoT技術を活用した新しいサービスも世界各国でスタートしており、オーストラリアでは牡蠣の養殖、南米では家畜の飼養に、そして鉱山のマイニングにボッシュのIoT技術が用いられている。ボッシュ・ジャパンとしてはPlantectに続く日本発の製品・サービスを世界に展開したい考えだ。

    日本で行われた「FUJI 2018 Pitch Night」

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    5月末に行われた「FUJI 2018 Pitch Night」の様子

     

    こうして行われた「FUJI 2018 Pitch Night」。今回、国内の全従業員6,600人に対してアイディアを募ったところ、57件の応募があった。その中から選ばれた8グループが「FUJI 2018 Pitch Night」で発表した。

    ここからは、ピッチイベント当日の様子を紹介していきたい。会場は、ボッシュ本社の1階にある「café 1886 at Bosch」だ。そこに、ボッシュの幹部ら8名の審査員と、選考を勝ち抜いた8チームのメンバーが集まった。

    冒頭、代表取締役社長のクラウス・メーダ―氏は、「FUJI 2018」に挑戦したすべての社員に感謝するとしたうえで、「イノベーションは楽しいものだ」と話し、会場にいる8チームのメンバーを激励した。そんな社長の言葉に象徴されるように、イベントは終始笑顔が絶えず和やかな雰囲気の中で行われた。

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    プレゼン後のQ&Aで発表チームと笑顔で話すメーダ―氏
     

    8チームのうち、7グループがIoT技術を使ったアイディアだ。従来のボッシュの事業からは想像できないようなアイディアから、ボッシュ独自のリソースを活用したソリューションまでさまざまだった。

    ただ重要なことは、そのアイディアがビジネスとして実装可能かどうかだ。そのため、審査員からは「これからの20年をどのような戦略で戦うのか」、「投資額はいくらか」「エコシステムの境界線はどこに引くのか」といったビジネスの具現性をうかがう質問が次々と投げかけられた。

    しかし、審査員は必ずプレゼンのよかった部分にも言及するなど、発表者へのリスペクトを徹底していた様子が印象的だった。詳細のアイディアはまだ明かせないが、ここで開発した新規事業を日本発として海外に向けても展開していきたいという。

    最終プレゼンを経て、勝ち残ったのは3チームだ。8名の審査員が、8チームのプレゼンに対して3点、1点、0点と点数をつけ、その合計点数が多かったチームが受賞となった。3チームにはそれぞれ、年内の初期マーケティング費用として各チームに300万円が割り当てられ、来年年始には追加投資の判断が行われる。

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    左は受賞した3チームの記念撮影。右は受賞チームとメーダ―氏がハイタッチをする様子
     

    授賞式では、メーダ―氏と3チームのメンバー全員がハイタッチをするなど、会場は盛り上がりを見せる一方で、受賞メンバーのスピーチでは、「ここからが勝負」と冷静に次のステップを見据える言葉も語られた。

    受賞したチームに話を聞いたところ、1つ目のチームでは、メンバーの所属部署は異なるものの、従事している事業分野は同じ。その分野で、ある一人の社員が独自のノウハウを持っていたため、その貴重なリソースを全社にも展開すべきだと考え、チームを結成したという。

    2つ目のチームでは、もともと顧客のニーズがあり、ボッシュの技術を使って応えたいと考えていた。しかし、すぐに提供できるソリューションがなかった。そこで、「FUJI 2018」のサポート体制をうまく活用し、開発に取り組みたいと考えたという。

    3つ目のチームは、顧客から「こんなことをやりたい」という要望を聞いていたという。しかし、顧客が求めるその分野は、ボッシュが重点を置く事業領域に入っていなかった。そこで、「FUJI 2018」を契機として、新たな事業を立ち上げたいと考えたということだ。

    受賞したどのチームも、顧客のニーズや自社の課題を、自身の実体験として把握しており、すでに事業化の構想を持っていたことがわかる。しかし、どんなにアイディアがあっても新規事業をいきなり立ち上げられるわけではない。結果として、社員が念願としてきた新規事業が3つ立ち上がる可能性がある今回の「FUJI 2018」。その意義は大きい。

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    会場を盛り上げるアイテムも用意されていた
     

    「FUJI 2018 Pitch Night」で選ばれたチームは、実際の見込み客にインタビューを実施するマーケティング活動の予算と時間が与えられる。この新規事業に充てることができる時間としては、通常業務の20%だ。

    その後、チームのアイディアが通用するのかどうか判断する機会がある。ここで自ら降りることも可能だ。さらに事業を進めるということになった場合には、サンプルを作る予算が必要に応じて与えられる。

    また、受賞チーム以外にも話を聞いてみると、社内でウィンター・スポーツをする仲間で集まりアイディアを練ったチーム、部署内の同僚を誘って応募しブレインストーミングをしてアイディアを出し合ったチームなど、当日にいたるまでのプロセスは各チームでさまざまであることがわかった。

    当然のことながら、どのチームも通常の業務があり、忙しい日々の中での取り組みとなる。グローバル企業のボッシュは海外出張も多く、ミーティングの日程を調整するのも一苦労だ。そのため、選考に通過して初めて具体的に考え始めたというチームもあった。しかし、自分たちのアイディアが実ビジネスにつながるかもしれないという期待感が、チームの結束力を高めていったようだ。

    押澤氏は、「社員が一体感を持てるよう、演出にも工夫をこらした」と話す。Pitch Nightは、カフェというカジュアルで比較的小規模な空間で行われ、発表者とオーディエンス、幹部と社員の距離を近づけるために、あえてステージを作らなかったという。そうした雰囲気づくりもイノベーションの創出には大切なのだ。

    今回の盛り上がりを受けて、「今回のような取り組みを、ボッシュの文化として築いていきたい」と押澤氏は意気込みを語る。

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    また、メーダ―氏は、「ピッチは考えをもって投資家や選考委員に対して自分のアイディアを説得していきます。それを5分という非常に短い時間で、エネルギーを持って説明していくのは日本人のメンタリティとしては得意ではないと思います。

    プレゼンテーションも得意ではないので、残念ながらいい考えがあっても、それが具現化されないこともあります。このPitch Nightは自分自身を売り込む良いトレーニングになるので、日本の社員にとって障壁を乗り越えることになります。それが、ひいては会社だけではなく、この日本にとっても大きな便益になると思います」と述べている。

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    ボッシュ

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