Amazonの「Amazon echo」、Googleの「Google Home」が日本に上陸した2017年はスマートスピーカー元年と言われる。
それから、様々なテック企業が続々とスマートスピーカーを発売し、例えばLINEが「Clova Wave」、アリババが「天猫精霊(ティエンマオジンリン)」、Appleが「HomePod」、Baiduが「Raven H(今は販売終了、Xiaoduという別のラインナップ製品が販売)」を発売した。
加えて、BOSE、SONY、オンキヨー、JBLといったオーディオブランド各社もテック企業の音声認識エンジンを搭載したスマートスピーカーを発売している。
では、スマートスピーカー元年から2年が経過した今、スマートスピーカーは私たちの生活にどれほど浸透しているのだろうか。
スマートスピーカーが、私たちの手や足となって、人が日常的に行ってきた動作、例えばテレビ・エアコンといった家電の操作、ニュース・天気の確認を代行してくれているのだろうか。
あるいは、全くその逆で、期待してスマートスピーカーを購入したものの、テレビ・エアコンのリモコンを取りに行くのはそんなに遠くないし、ニュースや天気の確認もスマホで充分だ、ということもありうるのではないか。
その結果、ついには音楽を再生するだけのスピーカーになってしまってはいないだろうか。
本記事では、スマートスピーカーの現状を整理する。
世界のスマートスピーカーのプレイヤーとシェア
テクノロジー分野に強みを持つ市場調査会社Canalys(カナリーズ)が2019年2月に発表した調査結果によると、2017年のスマートスピーカーの出荷台数は3,470万台で、2018年は7,800万台に達したという。
成長率でいうと、125%という結果だ。
また、同調査結果によると、2018年時点の各メーカーのシェアは以下の通りだったという。
予想通りではあるが、Amazonが2,400万台(31.1%)、Googleが2,300万台(30%)と2社で世界の販売台数の6割を占めている。
他の4割はアリババ、Xiaomi、Baidu、Othersだ。ちなみにAppleはOthersに含まれる。
そして2019年現在、各社の競争はどうなっているのだろうか。Canalysが2019年5月に発表した2019年第1四半期(2019年1月~3月)の時点では以下の通りだった。
2018年では、Amazon、Google、アリババという並びだったが、2019年の第1四半期では、BaiduがGoogleに肩を並べている。Baiduが旧正月に中国版紅白歌合戦の独占的なスポンサーを結び、放映中に1億枚以上のクーポンをばらまいたことがBaidu躍進の背景だと分析されている。
なお、Baiduが発売しているスマートスピーカー「Xiaodu」のベーシックタイプが89元で、日本円で約1350円(1元を15円で計算)という安さも躍進の要因として挙げられるように思う。
2019年第2四半期(2019年4月~6月)になると、Baiduはさらに躍進を続け以下の通り、ついにはGoogleを抜く。
調査会社のCanalysによれば、Googleが2019年5月から打ち出しているホームIoT製品を「Nest」ブランドに統一したことが失策であるという。事実、2018年の第2四半期と比較して、出荷台数が落ち込んでいるのはGoogleのみである。
しかし、CanalysはGoogleとBaiduはそれぞれが戦うスマートスピーカーの市場が被っていないため、重要性はあまりないと結論づけた。
成長する市場に反する所有率
2017年から2018年にかけて、スマートスピーカーの出荷台数が1.25倍に増加した、というのは前述した通りである。
ではスマートスピーカーを使っている人はどれくらいいるのか。
2019年3月にVoicebotとVoicifyが行った調査によると米国ではスマートスピーカーの総数は1億3,300万台といわれる。人口が3億2775万人なので、所有率は約40%くらいになる。
日本はどうか。
2019年2月に電通デジタルが、全国の15歳~69歳の男女個人を対象としたインターネット調査の結果を発表した。それによると、スマートスピーカーの認知率は76%である一方、所有率はわずか5.9%であったという。※トップ3はGoogle Home(2.9%)、Amazon Echo(2.4%)、Line Clova(0.9%)
さらに、所有者のなかでも、生活がどう変わったかを調査すると、音楽を聞く(75%)、天気予報を聞く(61%)、アラーム/タイマー機能を使う(55%)が上位を占める。
スマートスピーカーのユースケースとして紹介されることの多い、家電操作については15%と意外に低い数値になっている。
スマートスピーカーは、なぜ日本では流行らないのか
アメリカの所有率45%に対して、日本の所有率はわずか6%程度にとどまった。その原因とはなんだろうか。
確実な回答というのは存在しないが、いくつか仮説がある。
日本は書く文化、アメリカは話す文化
例えばGoogleで一番使われていないツールはメールである。
メールでは細かいニュアンスを伝えきるのは難しい。知恵を絞って細部まで伝わる表現を考えついたときには、思いがけず時間が経ってしまっているということもある。
対面で会ってみるか、電話するかしたほうが、確実な意思疎通ができ、時間もあまりかからないケースも多いだろう。
反して、日本人は口頭で言えば良いようなことも、わざわざメールにしてしまう傾向があるという。
もちろん定量的なデータがないので鵜呑みにはできないが、身の回りでそのように感じた経験はないだろうか。
もし、こうした傾向が実際にあるのだとすれば、それは良いか悪いかではなく、スマートスピーカーが普及する際の障壁にはなると考えられる。
スマートスピーカーは曖昧な指示では動かない
スマートスピーカーに何かをお願いするときは「やっておいて」といった曖昧な表現は避けなくてはならない。
その指示を出す際にどう話しかけるかを考えなくてはならないところに、難儀さを感じるということはないか。
しかし、こうした難儀さも徐々に解決されていく兆しはある。
例えば出前館を運営する夢の街創造委員会株式会社は、今月からアレクサを搭載したスクリーン付スピーカーの「Echo Spot」「Echo Show」に「アレクサ、出前館でいつもの」と話しかけるだけで、出前館の注文履歴から再注文できるようにする。
もっとも、事前にAmazonアカウントでAmazon Payの利用設定をしておく必要はある。
スマートスピーカーでユーザーの生活は変わらない
スマートスピーカーができることを、思いつく限り挙げなさいと言われて、いくつ思い浮かぶだろうか。
音楽・ラジオの再生、天気・ニュースの確認、アラーム・タイマーの設定、家電操作、インターネット検索くらいだろうか。
考えてみれば、これらは人がやってきたことで、それをスマートスピーカーにやらせるかどうかということになる。
つまり自分のタスクの一部をスマートスピーカーにアウトソーシングしているだけなので、生活に変化は起きない。
前記、電通デジタルの調査では、スマートスピーカーにあったらいい機能についても調査されている。あったらいい機能としては、以下のようなものがあった。
- 所有者の趣味や嗜好性に合わせて、好みそうな商品やサービスの提案をしてくれる。
- 所有者の気分や感情・行動に合わせて、最適な音楽や環境音を流してくれる。
- 所有者の使い方や特徴に合わせて、性格が変わり育成を楽しめる。
それぞれの機能が実装されると、本当に良いのかどうかは分からない。しかし、少なからず、ユーザーが求めているのは、スマートスピーカーが、ユーザーの趣味・嗜好性・感情・行動・使い方といった様々な特徴を学習し、機能が変容していくパーソナライゼーションではないだろうか。
さらに、今まで「OK Google」といったスマートスピーカーが反応する際のフックになるホットワードを、ユーザーが口にしなければいけなかったが、パーソナライゼーションする過程で、だんだんとスマートスピーカーからユーザーを支援するようになったらどうだろうか。
月曜日から金曜日は、毎朝6時にアラームをセットし、起床後、カーテンを開けて、テレビをつける。その間に、ニュースを聴きながら決まったブランドのコーヒーを淹れるためのお湯を沸かすといったルーティーンワークをスマートスピーカーが学習する。
すると、月曜日から金曜日はユーザーがいちいちセットしなくてもアラームが鳴る。起床と同時にスマートスピーカーと接続しているカーテンが自動的に開き、テレビも着く。湯沸かし器とも連動しているので、コーヒーを淹れようと思ったときにはお湯が沸いている。
さらに、決まったブランドのコーヒーの豆・粉が少なくなってきたら、「少なくなっています」とアラームをする。もちろん自動で注文するという選択肢もある。
ユーザーが仕事を振ってから動き出すのではなく、スマートスピーカーがユーザーを学習し、機能を変容させ、指示待ちではなくなっていくことで、スマートスピーカーが私たちの生活に普及していくということは考えられないだろうか。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。