CES2023では、大手家電メーカーを中心にサステナビリティを訴求する展示も多く見られた。
サステナビリティといっても、何を指すのか、いろんな視点がある。例えば、グリーンエネルギーを使おうとすることであったり、製品の無駄を省こうとする取り組みであったり、開発・製造過程での無駄をなくすことであったりと様々だ。
では、今回のCESではどんな取り組みが紹介されていたのだろう。サムスンの展示を見ながら、具体的な実現手段についてみていきたい。
エコシステムでサステナビリティを実現するという考え方
今回サムスンのブースで、まず入口には大きく「Sustainability」の文字。そして、中に入ると、製品単体よりIoTによるエコシステムを大きく取り扱っているという印象を受けた。

大きなテーマとして昨年よりかかげている、「Everyday Sustainablity」からはじまり、「Net Zero Home」「Energy monitoring」「Energy saving」と続いていく。
同社は、SmartThingsと呼ばれる、統一ブランドと規格をもっていて、それに対応するデバイスは、簡単に接続でき、設定や操作なども統合的に行うことができる。これ自体は以前から実現されていたことだ。
しかし、今回のサムスンのスマートホームの展示では、メッセージは以下の内容だった。
- 直感的なユーザー インターフェイスでエネルギー使用量を監視
- AIエネルギーモードで電気代を削減
- エネルギー供給量が少ないAIエネルギーモードと、余剰エネルギーを利用した暖房・冷房
- スマート洗濯機で水と電気を節約し、マイクロプラスチックを削減
字面だけ読んでいると、これまでもできていそうだが、実は実現するのは簡単ではない。
例えば、家の中の家電製品の全てを、一箇所で監視・管理しているとしよう。
一元管理されていれば、どこにどれだけのエネルギーが使われているかということは一目瞭然だ。

こうして、エネルギー利用を可視化できても、細かな節電をマニュアル操作で行うのは正直大変だ。そんな時にAIによる節電ができれば、毎月の電気料金が減っていることだけを見れば良いということになる。
実は、サムスンはこう言ったレベルのことは今回の発表でもできている。
家電をつないでAIで節電することは、現実的なのか
このように、家電をハブに繋ぎ込んでAIを使ってエネルギー管理をすれば、無駄なエネルギーを使う必要がなくなる可能性は高い。
ここまではわかる。
しかし、ここで、みなさんのご自宅の家電製品を思い出して欲しい。どこかのメーカーの製品で統一されているだろうか?何年も昔の家電製品がないだろうか?
消費者の多くは、「つながることを前提にして家電製品を買うわけではない」のだ。
そこで、重要な考え方が、「どんな家電製品でも繋ぐことができれば、集中管理のもと、AIによる消費電力の無駄をなくすコントロールができる」ということだ。
実際、昨年10/14にmatterという統一企画が登場したが、これは、AmazonやApple、Googleも参加し、相互運用性(インターオペラビリティ)を向上させるための規格だ。もちろん、SmartThingsもmatter対応している。
今回のCESでも、matterに対応したシンプルなハブとなる、「SmartThings Station」を発表した。
このハブは、家庭内にあるスマートホームデバイスの電源を個別にオン・オフしなくても、あらかじめ設定しておけば、ボタン一つでその設定を実行することができる製品だ。

例えば、夜になって、ベッドサイドのSmartThings Stationをタップすると、家中の無駄な電気が全てオフになる、と言った具合だ。
こういうテックジャイアンとを取り込んだ業界標準が登場したことも、今回のようなトレンドを具体的に推進していく意味では非常に重要だ。
こういった考え方が前提となると、太陽光発電など自然エネルギーを取り入れたNet Zero Houseも旨味が増してくる。
太陽光発電により、エネルギーチャージシステムが満たされている時は、電力会社からの供給を受けず、少なくなると供給してもらう。そして、AIによりなるべく供給を少なくする調整を行ったり、余剰エネルギーを冷暖房などに利用するという考え方だ。

matterのような幅広く相互運用性を保証された規格をベースにした製品であれば、ソーラーパネルも、空調も、冷蔵庫も、洗濯機も、好きなメーカーの製品を買って、AIで快適さの実現と、無駄を省いてくれる、ハブとなるデバイスに繋ぎ込んでいけば良いのだ。
これまで、Amazon Echo陣営やGoogle Home陣営など、さまざまな陣営があったが、これらが相互接続できるようになることのメリットは大きい。
ただ、残念なことに、一部のスタートアップ企業を除いて、日系メーカーはmatter対応を発表していない。日本国内のマーケットではそれでも良いのかもしれないが、海外マーケットも考えると、matter対応は必要になるだろう。
スマート洗濯機で水と電気を節約し、マイクロプラスチックを削減
また、サムスンは、マイクロプラスチックの削減というテーマにも取り組んでいた。
世界的に見ても、節電だけでなく節水は大きなテーマで、今回のCESでも水道の利用状況を可視化するデバイスなども展示されている。
また、マイクロプラスチックの削減も世界的なテーマとなっていて、特に洗濯機の性能として、節水・節電・マイクロプラスチック削減という3つのテーマは重要なのだ。
今回、サムスンは、パタゴニアと共同で、洗濯中のマイクロプラスチック放出を54%削減できる新しい洗濯技術「Less Microfiber Cycle」を発表した。すでにヨーロッパでは利用可能で、フィルターに関しては、サムスンの製品以外でも利用できるという。
お題目だけのサステナビリティでない世界へ
サステナビリティに関する話題をPR的に扱っていても、地球環境は良くならない。本当によくしたければテクノロジーを駆使して、快適性は向上しつつも、無駄をなくし、環境への配慮や、エネルギー効率の向上を実現していくことが重要だ。
サムスンのブースを見ていて、これまでの技術的な取り組みと、サステナビリティへの具体的なアクションがつながり始めているという感触を得た。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。