【概要】
■高い省電力性能を有するキャッシュメモリを不揮発性メモリで実現するためのノーマリーオフ技術を開発。
■不揮発性メモリをキャッシュメモリとして高速に動作させる場合にはメモリ制御回路部の消費電力が大きくなる。メモリ制御回路部の電源供給を遮断するノーマリーオフ技術を新規に開発することでこの問題を解決。
■キャッシュメモリは、スマートフォンからデータセンタサーバまで、幅広い情報機器の半導体で用いられている。開発された技術はこれらの情報機器の消費電力を低減し、社会全体の省エネルギーに寄与する。
IoT、スマートフォン、データセンタサーバといった情報機器の広範囲な普及により、半導体の消費電力、特に半導体が搭載するメモリの消費電力が 問題となっている。キャッシュメモリとして利用されている揮発性メモリ(SRAM)は、データ保持のために電力を消費するが、搭載されるメモリ素子の微細化とメモリ容量の増大に伴い、この電力は増大する。そのため、データ保持のための電力を消費しない不揮発性メモリを採用することへの期待が高まっている。
しかし、メモリアクセス(データの読み書き)を制御する回路(メモリ制御回路部)において漏れ電流(リーク電流)に起因する消費電力が大きいため、新しい不揮発性メモリを開発しデータの読み書きに要する電力を削減してもキャッシュメモリ全体としての消費電力は十分に小さくならなかった。
東京大学大学院情報理工学系研究科の中村宏教授らの研究グループは、メモリ制御回路部の電源供給を遮断す るノーマリーオフ(注1)技術を新規に開発することでこの問題を解決した。電源供給を遮断するとメモリアクセスができなくなるが、電源供給をより長く遮断することで消費電力をより削減できる。そのため、動作中に将来のメモリアクセスパターンを正確に予測するアルゴリズムを開発することで、アクセ スがしばらくないと判断したら即座に電源を遮断しメモリ制御回路部のノーマリーオフ動作(図3)を実現する。
このノーマリーオフ技術を、株式会社東芝がキャッシュメモリ向けに新しく開発した65nm世代のシリコントラ ンジスタに混載した4Mbクラスの磁性体メモリSTT-MRAM(注2)回路に適用した(図1)。その結果、このキャッシュメモリは従来の揮発性メモ リ(SRAM)を用いたキャッシュメモリと比較して消費電力が1/10以下となった(図2)。この研究成果により、幅広い情報機器の消費電力を低減し、社会全体の省エネルギー化が期待できる。
今回開発されたノーマリーオフ技術は、東芝と共同で、NEDOノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクト(注3)として進められている。同研究グループはより広範囲な情報機器に対しノーマリーオフ技術を開発し適用することで、社会全体の 省エネルギー化を目指す。
同研究成果の詳細は、米国サンフランシスコで開催される半導体回路国際会議(ISSCC)にて、2016年2月2日(現地時間)に発表される。
(注1)ノーマリーオフ
システム内の真に動作すべき構成要素以外の電源を積極的に遮断することで低電力化を目指すこと。電源遮断をし てもシステム全体として動作を継続するためのシステムの状態やデータを忘れない不揮発性メモリなどのデバイス技術と、電源遮断の機会を最大化するためのコ ンピューティング技術の両方が必要となる。
(注2) STT-MRAM(Spin Transfer Torque-Magnetic Random Access Memory)
電流書き込み方式MTJ(Magnetic Tunnel Junction)の一方の強磁性電極から一定方向の電子スピンをもつ電流だけを通過させることで生じるスピントルクにより記憶層の磁化反転作用で書込を 行う。このスピン注入磁化反転方式を磁気情報書き込みに応用したランダムアクセスメモリ。
(注3)NEDO「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」プロジェクト
NEDO:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
名 称:ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発
期 間:2011~2015年度
共同研究企業:ローム(株)、(株)東芝、ルネサスエレクトロニクス(株)
プロジェクトリーダー:東京大学大学院情報理工学系研究科教授 中村宏
【関連リンク】
・東京大学大学院情報理工学系研究科
・東芝(TOSHIBA)
・NEDOノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクト
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