第5世代移動通信システム(以下、5G)の運用が開始されつつあり、初期には主に3GHzから6GHzの低い周波数を用いたサービスが展開される。また、5Gにおけるチャレンジとして、従来、用いられているより10倍以上高い周波数帯であるミリ波(※1)を用いる無線通信技術の導入が期待されている。特に、北米などではミリ波帯の39GHz帯の利用が検討されており、従来の100倍以上速い毎秒10ギガビットのデータ伝送速度の実現が目標とされている。
ミリ波の通信は波長が短いことで、アンテナ素子を小さくすることができる利点がある一方で、伝搬損失が従来の10倍以上大きいことが問題だ。そこで複数のアンテナ素子を調和して動作させ、アンテナにおける電波の放射の指向性を高め、その放射方向を電気的に制御するビームフォーミング(※2)の技術に対応したフェーズドアレイ(※2)無線機が必要になる。
フェーズドアレイ無線機はアンテナと同じ数のトランシーバーで構成される。多数のトランシーバー・アンテナのそれぞれの信号の位相および振幅を制御することで、通信を行う端末方向で信号が強め合い、逆にそのほかの端末方向には信号を打ち消しあう特性を持たせることができる。これにより、高い指向性による高速通信や通信距離の増大、さらには、不要な干渉の低減によるキャパシティの増大が可能になる。
しかし、それぞれのアンテナ素子から出力される信号の位相や振幅強度の特性のわずかなばらつきが発生すると、このビームフォーミングの効果を著しく低減させてしまうため、特性のばらつきをきわめて低く抑える必要があり、ミリ波の帯域でそれを低コストで実現できる補償技術の確立が望まれていた。
そこで、日本電気株式会社と国立大学法人東京工業大学の岡田健一教授は共同で、5Gに向けたミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発した。ミリ波帯用の5G無線機ではアレイ状に配置したアンテナへ入出力する高周波信号の位相を制御することで、アンテナの指向性パターンを制御する。
従来は高精度な指向性の制御のために大規模な装置が必要であったが、指向性パターンを劣化させる要因になっている位相および振幅のばらつきを補償できるコンパクトな回路を新たに提案し、無線機とともに集積化することに成功した。
この回路の活用により位相0.08度と極めて高精度にアンテナ素子の信号を制御することができる。無線機は安価なシリコンCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセスで製作された。この技術は、5G向けの各種無線通信機器に搭載可能である。
今後、5G向け通信機器での利用をターゲットとして2020年頃の実用化を目指すとした。
※1 波長が1〜10mm、周波数が30〜300GHzの電波。
※2 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミング(電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術)の実現に利用される。
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