IoTに取り組むときは、まっさらな状態から何か新しいビジネスをはじめるのではなく、これまでの自社の強みをさらに進化させる形で進める企業が多いのではないだろうか。今回取材をした株式会社ウフルもそのひとつだ。
ウフルはもともとセールスフォースをメインに、様々なクラウドサービスとパートナーを組んで成長してきた会社だ。人もモノもクラウドサービス同士も繋がっていくこれからの時代にどう進んでいくのか、株式会社ウフル IoTイノベーションセンター General manager 杉山恒司氏、事業開発部 部長 マーケティング室 室長 永井 友人氏に話を伺った。

-どのようなビジネスをやられているか教えてください。
杉山氏(以下、杉山): 株式会社ウフルは設立が2006年でこの前の2月10日が10周年になります。創業時、ソーシャル系のSNSのサービスから始めましたが、思いのほか伸びず、その後ご縁があってセールスフォースのパートナーになりました。しばらくしてセールスフォースだけではなく、GoogleやMicrosoftなどクラウドプラットフォームを持っている全ての企業とアライアンスパートナーを組んでみようということで活動しています。また、そういう企業はめずらしいのではないかと思います。
面白い事例としては、例えばセールスフォースの案件でストレージを大量に使うところは、AWSと連携していたり、ひとつのお客さんで二つのプラットフォームを使うということもやってきています。
それらを実施している中で、システム間連携の開発工数を減らしたいと思いもあって、国内外の主要クラウドサービスを簡単に連携できるクラウド連携サービス「enebular(エネブラー)」をリリースし、コンサルティングから一気通貫で全てのサービスを提供できるようになりました。

―enebularはどういうことができるのでしょうか?
杉山: 一言でいうと、様々なクラウドサービスを簡単につなげて利用できるクラウドサービスです。現在メジャーなクラウドサービスの多くは、API仕様を公開しているからやろうと思えば誰でもできるのですが、実際は手掛けているところは少ない。
しかも、無償でわかりやすいユーザインタフェースなので、少しでもITに関しての知識があれば自分で複数のクラウドサービスを連携することができるのです。
―無償なのですか?
杉山:はい。よく、オープンソースだとどこで収益を得るのか?という話を聞かれるのですが、エンタープライズ向けに導入する場合、例えば、コンサルティングのフェーズからお手伝いしたり、我々自身もSI案件の開発ツールとして利用することが多いのです。

―まだ成長過程の市場だし、製品もこれからどんどん成長する過程なので、まずは、多くの方に使われる方がいいですよね。
杉山: その通りです。うちのCTOである古城も言っていることですが、「売る」よりも、「広げる」というフェーズがあるのではないかと考えています。IoTをやろうと思った人が、ふと「じゃ、enebluarを使ってみよう」と思い出すくらい浸透する必要があると思うのです。
アマゾンのAWSが広がった背景などは実際、「JAWS(ジョーズ)」というユーザグループを作って、サービスを浸透していったということもあります。
―enebluarはどんな案件で利用されていますか?
杉山: 例えば、我々の事例で、風車のタービンの駆動状況をセンシングするIoTがあります。風車は実際には何千台ってあるので、一つの風車だけをセンシングするのではありません。
PoC(Proof of Concept:概念検証)の時点では、200台程度だったのですが、検証が終わって実際にサービスにする際は、かなりの数をコピーしなければならなかったのです。
風車、道路・・・様々なIoTの実績
―他にIoT関連では、どういう取り組みをされているのですか?
杉山: 道路って凸凹してますよね?あれって、年に1回くらい道路計画に従って毎年舗装しているじゃないですか。別に壊れているかどうかはわからないままに・・・
そこで、半公共的な企業で、クルマを常に走らせているところがあるのですが、そのクルマにセンサーを付けておくのです。
そうすると、走っているだけで、路面の状態が取得できるのです。そして、面白いのは、総務省はこのデータをオープンデータとしたのです。どこのどの道路がおかしくなっているかということを民間企業に公開する。そのうえで、いろんな商売を始めるというようなことが実現できています。こういったプラットフォーム作りのお手伝いをしています。
―もう実用化されているのですか?
杉山: まだ実証実験ですね。
―もうそういうことは、実用化されてもよいころだと思います。
杉山: 前の東京オリンピックの時に作ったモノがどんどん老朽化してきていて、天井が落ちてきたりしだしている。そういう公共系のことにIoTを活用するという場面が今後はたくさん出てくると考えています。
スタートアップにも公共系のチャンスを
杉山: これは個人的な意見なのですが、こういう公共系の案件は入札が多く、どうしてもスタートアップ企業が入りにくい環境になっていると感じています。
一方で、5人くらいの技術者で構成されている企業などでもすごい技術を持っている企業が出始めている。そういう人たちにもチャンスがあったほうがよいと思います。
―最近は開発する企業と保守する企業ってわかれる傾向にあって、「一気通貫」というのが必ずしもキレイな言葉ではなくなってきていると思うのです。
もう少し、保守専門の会社や、保守運用をサポートするような会社がでてきて、連携してやるというのも、IoT時代には必要なことだと感じております。
杉山: そうすると、何億受注した、でも保守運用では赤字、なんてこともなくなっていくし、きちんとエコシステムとして成立していくといいなと思います。
工場のIoTについて
―工場のIoT周りはやらないのですか?
杉山:提案してくれという案件はあるという状態です。ただ、工場のIoTには問題があって、工場そのものが発注元となっても、実際に工場のラインを構成しているのはそれぞれのメーカーなので、センサーをつける交渉はメーカーと話す必要がでてきます。
それで、いざ、メーカー企業に話に行くと、「IoTなんて考えていない」と言われてしまうことが何回か続いています。
―工場そのものにはニーズがあるわけだから、後付け、IoTセンサーがあれば、バカ売れしそうですね。笑
杉山: そうなのですよ。そこのビジネススキームと合わせて考えていきたいですね。たとえば、大手機械メーカーが自社の機械が入っているところについて、様々な企業とアライアンスを結んで、例えば、問題が起きたら対処できるのはこの会社、ハードはこの会社と、プロデュースしていく役割も必要だと思います。
そこを当社がやってもよいと思っています。IoTって「アライアンス」というのがキーワードになるじゃないですか。ゲートウェイ企業、センサー企業、パトランプ企業、といったハード企業だけでなく、クラウドも巻き込んで、プロデューサーが仕事を割り振るという形になるといいなと思っています。
-プロデュースをする会社は中立で、全方位でないといけない。さらに力技を要求されるから、できる企業も限られると思います。
杉山: そうですね。実際の大手通信会社などの案件でも、ソラコムのようなベンチャーを起用しようというアイデアがでてきています。徐々に大手企業も若返りが進んでいて、30~40代の方が決裁権を持ち出しているという事情もあるようですね。
どんどん、アライアンスして盛り上げていこうという機運を感じます。
数名で始めたソラコム社も1年にも満たない間に1500社とつないでいる。我々も、そんな勢いでIoTに取り組んでいきたいと思っています。
enebularが出たとき、ちょうど「マッシュアップ」なんて言葉が流行った時ですが、大手のサービスがどんどんAPIを公開しだしましたよね。あのころ、これはすごいなと感じました。
よく考えたら、資本力がなくても全部使えば小さな会社でもアイデアをもって新しいサービスが作れる。案の定、そういうサービスが出てきているという状態です。
これからのIoTビジネス市場
―これからのIoTビジネス市場についてどうお考えですか?
杉山: IoTのビジネスって技術は当然必要なのだけど、事業戦略が得意な人が重要だと考えています。実際当社もそういう議論ばかりしています。技術自体は9割転がっていますから。
ひとつひとつの技術とかハードは安くなっているので、それをいくら販売してもスケールしない。だから、既にあるパーツをうまく組み合わせて使っていくというのは、センスだと思います。センスがない人はIoT時代では生きていけないと思います。
技術知識も広範囲なほうがよいと思います。一つの技術だけずっとやっている人は話についてこれなくなってきている。
今後のウフルはどうなるのか?

-今後どういう展開を考えられているのですか?
杉山: 現在、インダストリー4.0などはレッドオーシャンです。弊社の強みを考えた時に、弊社の代表である園田や、副社長は電通出身ということもあり、マーケティングに強い会社ですので今話題になっているIoTとマーケティングをくっつけて、「IoTマーケティング」を掲げることにしました。
-具体的にどういったことをされていくのでしょうか。
永井氏(以下、永井): いま具体的にひとつ進めているのが、位置情報を持った広告表品を取り扱っている海外のアドテクの会社と、ジョイントベンチャーを作るという話があります。
スマートフォンで取得される個人の位置情報などを通じて、例えばチラシや屋外の広告・看板などの広告を見た人が、実際に店舗に行ったかどうかを測定できるようなクラウド上のサービスを提供したいと思っています。
抽象的な話をすると、これまでは企業側が消費者に情報を発信してきたのですが、今後はスマートフォンを始めとするIoTのデバイスを通じて消費者が持っている情報を、消費者が企業を選定して渡すというように、企業と消費者の位置関係も変わってくると思います。
そうなると企業と消費者のコミュニケーションがガラッと変わってくるので、僕らはその分野がこれからビジネスチャンスだと思っています。
杉山: 先ほど申し上げたenebularですが、2月にenebular Markeing Intelligence(eMI)というサービスをローンチしました。
永井: 先程の話の流れからするとeMIは少しまだ手前の領域ですが、企業が抱えている大量のデータをどう処理して、どういう意思決定したらいいかという課題を解決するツールです。
enebular自体は様々な場所からAPIを持ってきて可視化したり、ストリーミングでデータ処理をしたりっていうのが、非常に優れたツールですので、企業のマーケティング担当者がGoogleアナリティクスや売り上げ管理システムから上がっている大量の情報をひとつのダッシュボードに集めて、実際に売上と相関があるような情報っていうのを常にウォッチしてKPIとして把握するということが可能です。
2020年のオリンピックイヤーまでに、IoTのマーケティング関連マーケットは2千億、3千億というポテンシャルがあると考えています。いわゆる広告費用の中でもチラシや看板、モバイルコミュニケーションなどがあると考えていて、それ以外でも個人と企業の間のデータのやり取りみたいなことが起きてくると考えています。
我々はそんな中で中核となる存在でいたいと思っています。
2020年になると、もはやIoTは意識するものではなくなっている可能性があります。そういったときに自然にこういった産業が浸透しているといいなと思っています。
―本日はありがとうございました。
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