様々なIoTデバイスを目にする機会も、増えてきているのではないだろうか。
こういった、デバイスの進歩には内部で動くマイコンの進化が大きく影響している。
例えば、スマートデバイスの多くは、電池での稼働を前提としているものが多く、低消費電力が必須だ。扱うデータによっては、セキュリティの考慮も必要であり、そうした中で、無線通信や、さらにクラウドとの連携も求められる。なおかつ、市場競争力のある製品価格やTime-to-Marketを考慮した、低コスト、および高効率な開発環境など、マイコンに求められる要件は多い。
このような中、インフィニオン テクノロジーズのグループ会社であるサイプレス セミコンダクタは、低消費電力で採用実績が豊富なマイコン「PSoC MCUファミリ」を中心として、エッジセキュリティならびに無線通信モジュール、およびクラウドとの接続を意識したソフトウェア環境、統合開発環境「ModusToolbox」などを統合した、「IoT-AdvantEdge」ソリューションとして提供している。
今回は、サイプレス セミコンダクタ IoTコンピューティングアンドワイヤレス事業部 中津浜氏、寺島氏、丸山氏、末武氏、細田氏にお話を伺った。(トップ画像左から)
IoT-AdvantEdgeが狙うターゲットとは
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まず、IoT-AdvantEdgeが、どういった人たち向けのソリューションなのか、お話しいただけますか。
IoTコンピューティング&ワイヤレス事業部 プロダクトマーケティング ディレクター 細田秀樹氏(以下、細田) : IoT-AdvantEdge というIoT向けソリューションの提案、ならびにグローバルベースでのブランディングを行なっています。
IoT-AdvantEdgeの主要なターゲットは、スマートロック、スマートウォッチ、スマートサーモスタットなどのIoTデバイス製品になります。つまりは、低消費電力が強く求められつつ、無線通信を行うデバイス向けのソリューションと言えます。また、デバイスが扱うデータの特性上、デバイスのエッジセキュリティも求められます。
これらが主要なターゲットとなりますが、IoT分野に広く提案することで、エッジコンピューティングの世界を加速させていきたいと考えています。

小泉: BtoC向けの製品に使われることが多いのでしょうか。それ以外にも狙っている市場があれば教えてください。
プロダクトマーケティング シニアマネージャー 中津浜規寛氏(以下、中津浜): そうですね、BtoC向け製品・デバイスを開発されているお客様が多いです。それ以外ですと、セキュリティの要件からヘルスケア系もターゲットと考えています。その他、産業系ももちろんですが、昨今のCOVID-19の影響もあり、ロジスティクスでも今後利用していただくケースが増えるのではないかと思っています。
IoTのクリティカルな設計課題を解決
小泉: IoT界隈ではスタートアップ企業も多く出てきており、様々なIoTデバイスが市場に出回ってきています。御社のお客様として、大手や、従来からの組み込み系の企業が多い印象もありますが、こういった新しい、スタートアップ企業も気軽に利用できるのでしょうか。
中津浜: IoTスタートアップ企業が製品を開発する上で、まず最初に敷居の高さを感じるのは、ボードなどのハードウェア、ならびに組込みソフトウェアの開発に伴う準備です。IoT-AdvantEdgeでは、ワイヤレスや制御デバイスを実装し、直ぐにPOC(概念実証)を実施できる開発キット(ハードウェア)、また、それに伴う開発環境とソフトウェアをBSP(Board Support Package)として提供することで、付加価値を高める必要なアプリケーション層だけに集中して開発を行える環境を提供しています。
BSP(Board Support Package)とは、誤解を恐れずに言えば、いわゆるドライバー(厳密にはデバイスドライバ)一式のこと。
パソコンの世界でも、プリンターや無線通信を行う際に、メーカーなどから提供されたドライバーをインストールするが、おおよそそのイメージは近い。雑に言ってしまえば、あるハードウェアを制御するために必要なソフトウェアになる。
ここでいうBSPは、後述する開発キット(ボード)を動かすためのドライバー群を指している。開発ボードにはCPUをはじめとして、通信用のハードウェアなど、様々な機能を持つハードウェアが搭載されており、これらを動かすためのソフトウェア(ドライバー)がまとめてパッケージされている。このため、BSPを活用することで、ハードウェアに近いレイヤーのソフトウェアを気にせず、開発ボード上でのソフトウェア開発に集中することができる。
しかしながら、これらエッジ側の製品が準備出来ても、実際にビジネスを推進していく中で難しいのが、IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)とET(Engineering Technology)が融合していないことです。
ITとは、クラウドサービスなどIT環境とのコミュニケーション、OTは運用後のサポートコストやライフサイクルを含むマネタイズ、ETはエンジニアリングテクノロジー、ここではデバイスを含むエッジ製品を指します。IoT-AdvantEdgeは、これらの大きく3つの課題にアプローチできるため、お客様のビジネスを加速させると考えています。

ITについて補足すると、Wi-FiやBluetoothなどのワイヤレステクノロジーをはじめとして、エンタープライズ環境とセキュアに接続するため、マイコン側のセキュリティも考慮しています。
OTですが、クラウドからのデバイス管理や、OTAによるクラウドからのファームウェアアップデートをセキュアに実行できます。これにより、運用後のサポートコストに配慮した、製品開発が可能です。クラウドサービスとの連携には、開発段階において、クラウドとセキュアにつなぐための作り込みが、マイコン側に必要ですが、AWSやArm Pelionといった環境とは、簡単に接続ができる仕組みを用意しているため、Time-to-Marketを意識した開発を助けます。
ET、つまりデバイスのテクノロジーにおいては、IT、OTの機能を実現する無線通信やアプリケーションを、低消費電力で実装することができます。また、個々の製品を作り上げる上で必要となるTouch-See-Talk(タッチセンサー、グラフィック制御、音声認識)といったHMIの制御や、センシングとそのデータの演算処理といったコンピューティング、などのソリューションもリファレンスとして提供しており、付加価値を高める特有のアプリケーションの実装を容易にします。
さらに、OTでも述べたクラウドとの接続や、セキュリティ周りの実装など、いわゆる下回りの開発を効率的に行えるよう配慮した、統合開発環境、ModusToolboxを用意しています。これにより、柔軟な設計を可能としつつ、ユーザーはアプリケーション開発に注力することができます。
適切なハードウェアを選定するには
小泉: IoTに新規参入するプレイヤーからすると、作りたいアプリケーションは決まっているが、どういったハードウェアを選べば良いのか分からない、ということも起こり得ると思います。結果として、安価なものやRaspberry Piを利用されるケースもあります。ここから参入する人たちにとっては、全体を見つつ、最適なチップを選ぶのがなかなか難しいのではないでしょうか。
中津浜: Raspberry Piと比較すると、トータルのソリューションが提案できる、というのが我々の強みになります。
例えば、Raspberry Piで様々なボードを組み合わせることでプロトタイプを開発して、機能的にはクラウドとの接続や、無線通信もクリアしたとします。ただ、本格的に運用を始めるとなると、ITネットワークとの接続に際して、こんなセキュリティレベルもしくは品質の低いハードとは繋げられない、といったハードルが出てくることが考えられます。IoT-AdvntEdgeは、通信のコネクティビティやセキュリティを担保しており、Raspberry Piとの大きな違いと言えます。
この他にも、スマートロックやウェアラブルデバイスなどには、セキュリティの要件があります。マイコンレベルで、これらの制御に求められる、HMI、コンピューティング、ワイヤレスコミュニケーションといった機能と共に、セキュリティをワンチップに実装しているものは他にありません。
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