ルネサス エレクトロニクス株式会社は、同社製マイコン「RH850ファミリ」、「RXファミリ」、「RL78ファミリ」および一部の車載用SoC向けの開発環境として次世代オンチップデバッギングエミュレータを開発し、「E2エミュレータ」の名称で本日2月9日より発売した。今回発売された製品はRH850ファミリ向け基本機能に対応し、本年7月より順次RXファミリおよびRL78ファミリへの対応や、組み込みソフトウェアの開発時間削減に貢献するソリューションを追加していく計画だという。
近年、自動車の燃費改善や安全性と快適性の向上に向けて車載制御の電子化が進み、搭載するセンサの増加や種類の多様化により電子制御ユニット(Electronic Control Unit、以下ECU)に内蔵されるマイコンの、制御プログラムのサイズが増加している。さらに、各ECUはCAN、LIN、FlexRayなどの車載ネットワークを介して通信制御を行っているが、自動車1台あたり数十個のECUを搭載しているため、通信制御がより複雑になっている。
また、多数のECUを搭載しているため、それぞれのECUの動作時の消費電流をきめ細かく把握し、最適な制御プログラムにすることが、車載システムの低消費電力化にとって、より重要になっている。
従来のECUのソフトウェア開発における課題として、制御プログラムのデバッグ時に、プログラム修正が必要となった場合、毎回エミュレータからマイコンへプログラムをダウンロードするため、プログラムサイズの増加がダウンロード時間の増加に繋がっていた。また、車載ネットワークの主流であるCAN通信制御のデバッグは、CANアナライザとエミュレータを併用することが一般的だが、これまで双方の機器が連動していなかったため、問題発生の原因を特定する解析用プログラムを制御プログラムに追加して、評価を繰り返す必要があった。
さらに、低消費電力化の制御プログラムのデバッグは、一般に電流計とエミュレータを併用して行われているが、これまでECUの動作時の消費電流と実行しているプログラムの因果関係が把握できなかったため、制御プログラムの修正や評価を繰り返しながら、最適な制御プログラムにチューニングする必要があった。
このような状況のもとルネサスは、制御プログラムの高速ダウンロードに加え、ソフトウェア開発に必要な付加機能をエミュレータに統合し、CAN通信制御のデバッグや消費電流低減に寄与するソリューションを提供する次世代エミュレータとしてE2エミュレータを開発した。
新製品を使用することでユーザは、CAN通信の問題や消費電流増加の原因解析のためにプログラム修正や評価を繰り返していた従来と比べて、10分の1程度の開発期間に短縮することができるという(注3)。
新エミュレータの特長は以下の通り。
- ダウンロード速度を高速化し、待ち時間を最大1/2(注4)に短縮
マイコンとエミュレータ間の通信速度を高速化するとともに、フラッシュ書き換えとデータ通信の並列化により、制御プログラムのダウンロード速度を同社従来品「E1エミュレータ」と比較して、最大2倍(注4)に高速化。これにより、制御プログラムのダウンロードの待ち時間を最大1/2に短縮できる。 - CAN通信における問題発生時の原因特定に要する時間を短縮(注1)するソリューションを提供
CAN通信のデバッグ機能として、割り込み応答時間が予め設定した時間を超えたことを検出してプログラムを停止させ、CAN通信の受信タイミングと割り込み応答処理を同時に記録・表示することにより、CAN通信とプログラムの相関関係を明確にできるCAN通信応答時間計測ソリューションを提供。
このCAN通信応答時間計測ソリューションにより、CAN通信とプログラム実行のトレース解析を、エミュレータのみで実現可能となり、原因特定に要する時間を短縮できる。 - エミュレータだけで消費電流の増加要因を容易に特定でき、チューニング時間を短縮(注2)
エミュレータからマイコンへ供給する制御系電源の電流量を測定する機能を搭載し、消費電流のピーク検出や、電流値が指定のレベルを一定時間超えたことを検出してプログラムを停止させることが可能。さらに、プログラム動作と消費電流を対応させて表示することが可能。これらの機能により、電流を消費している制御プログラムを容易に把握可能。この消費電流チューニングソリューションにより、消費電流を低減するチューニング時間を短縮できる。
E2エミュレータのボードインタフェースは、既存製品のE1エミュレータと互換性を有するため、E1エミュレータ用に設計された既存のボードを接続することが可能。また、追加のオプションアダプタなしに、ホットプラグイン機能を使用できる。
E2エミュレータは、エディット、ビルド、デバッグの繰り返しであるソフトウェア開発において、「簡単」「快適」「安心」を追求した統合開発環境「CS+」に対応(注5)。また、グローバルで普及しているEclipseベースの統合開発環境「e2 studio」(注5)、Green Hills Software社製統合開発環境MULTIおよび IARシステムズ社製統合開発環境IAR Embedded Workbenchの対応を予定している。
ルネサスは今後、RH850ファミリ向けにボードインタフェース経由でのリアルタイムトレースおよび外部トリガ信号でプログラムを停止するソリューションの提供を予定している。
(注1) 統合開発環境の無償アップデートで、RH850ファミリ用に2017年7月から提供。RXファミリおよびRL78ファミリにも順次対応。また、CANFDには別途対応予定。
(注2) 統合開発環境の無償アップデートで、RL78ファミリ用に2017年7月から提供。RH850ファミリおよびRXファミリにも順次対応。
(注3) 開発期間短縮の程度は一例。
(注4) デバイスに依存する。
(注5) 車載用SoCはパートナ製統合開発環境で対応。
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・ルネサス(Renesas)
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