国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)集積マイクロシステム研究センター社会実装化センサシステム研究チーム 小林健 研究チーム長、同センター ウエアラブルIoT研究チーム 山下崇博 研究員は、大日本印刷株式会社(以下、DNP)と共同で、橋梁のひずみ分布をモニタリングするセンサーシートを開発した。
近年、橋梁の劣化状態を把握するためにセンサーでひずみ分布をモニタリングする方法が検討されているが、光ファイバー式は敷設コストが高価であり、また、箔ひずみゲージでは消費電力が大きい、フレキシブル基板や接着材の屋外耐久性が低い、施工方法が煩雑、などの課題がある。
産総研 集積マイクロシステム研究センターでは、無線MEMSセンサーを用いて鶏の健康や消費電力をモニタリングするシステムの研究開発を端緒に、土砂災害、インフラ、空調設備、畜産動物、バイタルサインなどさまざまな場面に応じたモニタリングシステムを開発している。今回、太陽電池パネル用バックシートやコンクリート応急補修シートといった機能性フィルム事業を展開するDNPと共同で、屋外環境での耐久性を備え施工の容易な、橋梁のひずみ分布をモニタリングするセンサーシートの開発に取り組んだ。
今回、新たに極薄シリコン・フレキシブル基板実装技術と、保護フィルムと接着フィルムとの一体化技術を開発し、現場で簡便に貼り付けられるフレキシブル面パターンセンサーを開発。これを貼り付けた橋梁上を車両が通過すると、フレキシブル面パターンセンサーが橋梁と一体となってひずみ、極薄PZT/Siひずみセンサーがひずみに比例した電圧を出力するため、動ひずみ分布を高感度で計測できる。橋梁に亀裂などの欠陥があると、車両通過時のひずみ分布に異常が現れることを利用して、橋梁の劣化状態をモニタリングできる。
図1(a)に今回開発されたフレキシブル面パターンセンサーの作製プロセスが示されている。あらかじめフレキシブル回路基板と保護フィルムを接合しておく。圧電MEMS技術により極薄PZT/Siひずみセンサー(長さ5 mm、幅1 mm、厚さ3 μm)を作製し、特殊なコレットを装備したチップマウンターによってフレキシブル回路基板上に繰り返し転写した後、銀ペーストをスクリーン印刷して一括で配線する。
これに接着フィルムをラミネートして、フレキシブル面パターンセンサーを作製する。センサー部分と接着部分が一体化しているため、プライマーを塗った橋梁構造体の表面に貼り付けるだけで簡便にセンサーを取り付けることができる。
橋梁構造体に貼り付けたフレキシブル面パターンセンサー(図1(b))、アンプ・通信モジュールや受信機でセンサーネットワークシステム(図1(c))を構成して、橋梁の劣化状態を常時モニタリングする。なお、今回は圧電薄膜にPZT薄膜を用いられているが、有害物質を含まないAlN、ScAlNなどの圧電薄膜も、同様に使用できるという。

図1(c)に示されているように、ステンレス板の試験体を自由振動や上げ下げによって曲げた場合の極薄PZT/Siセンサーからの出力電圧は、亀裂の有無で3~5倍程度異なる(図2(a))。そのため、各センサーの出力電圧をマッピングして、ひずみの面パターンとして表示すると、貼り付け箇所に亀裂などの異常が発生したかどうかを把握できる(図2(b))。
今回、阪神高速道路株式会社の協力を得て、実際の高速道路橋にフレキシブル面パターンセンサーを複数枚施工し(図2(c))、アンプ・通信モジュールを接続して測定したところ、車両通過に伴う橋梁の変形をひずみ分布としてモニタリングできたという(図2(d))。今回の実証実験のように、橋梁の動ひずみ分布を継続してかつ常時モニタリングできれば、橋梁の劣化状態を把握でき、橋梁の健全性評価や効率的な点検を行うことができるようになるとしている。

今後は、高速道路橋にフレキシブル面パターンセンサーを貼り付けて、ひずみ分布測定と屋外耐久性評価を行うとともに、補修・補強した橋梁の経過観察の実証試験を行う。また、今回開発された極薄シリコン・フレキシブル基板実装技術を、アンプやマイコンなどの回路チップにも適用し、信号処理・通信モジュールをフレキシブル基板上に集積化するハイブリッドエレクトロニクス技術の開発を推進する。さらに、大判の基板を用いることによる低コスト化についても検討を進めるとしている。
【関連リンク】
・産総研(AIST)
・大日本印刷(DNP)
・阪神高速(Hanshin Expressway)
無料メルマガ会員に登録しませんか?

IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。