株式会社KDDI総合研究所は、IoT技術の活用による漁業の効率化に資するため、従来のスマートブイと比較して軽量化・省電力化した新型のスマートブイを開発した。
新型スマートブイは、従来のLTEに加えて、IoT向けの無線通信方式LPWA(Low Power Wide Area)対応の通信モジュールも搭載が可能。本年6月より宮城県石巻湾漁場(宮城県東松島市)で、実用化に向けセンサーデータ取得やスマートブイの連続動作実現の実証実験を開始する。
KDDI総合研究所は、各種センサーや通信機能を搭載したスマートブイを用いて漁獲量の予測を実現し、効果的な出漁判断などによる漁業の効率を目指したスマート漁業の研究を総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「局所的海洋データを活用した漁業の効率化の研究開発」(※1)の一環として取り組んでおり、2016年10月より宮城県石巻湾漁場において実証実験を行っている(※2)。
これまでの実証実験により、漁獲量の実績データと、スマートブイで得られるセンサーデータや周辺の気象データを組み合わせて分析することで、おおまかな漁獲量予測が可能との結果が得られている。
一方で、従来のスマートブイでは、搭載している一次電池の寿命が約1ヶ月で定期的な電池交換作業が必要であり、重量が20kg以上で、ブイ運用に関する作業負担が大きいことが課題となっていた。
また、従来のスマートブイは、1台で複数の多様なセンサー(水温・水圧、塩分濃度、潮流など)を搭載しているが、その構造的な複雑さや、頻繁な清掃の必要性などの面で、メンテナンス性にも課題があった。さらには、これまでの実証実験で得られた結果から、水深が異なる位置に対応した複数の水温センサーだけで、漁獲量を十分予測できることがわかったという。
https://youtu.be/ezV9KUvH4ns
今回開発した新型スマートブイ(※3)は、浸水による発火の危険性が少ない二次電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)とソーラーパネルを組み合わせて利用し、電池交換などのメンテナンス不要で1年間の連続動作実現を目指している。
また、搭載するセンサーは、漁獲量予測に寄与すると考えられる多層の水温測定が可能な水温センサーの他、塩分や溶存酸素など様々なセンサーを目的に応じて交換・接続することも可能で(接続できるのは1種類のみ)、重量は従来型スマートブイの50%程度に軽量化した。
これらにより、従来型のスマートブイと比較して運用性が向上し、効果的な長期間データ取得が可能になるという。
さらに、新型スマートブイは、内部の通信モジュールの交換によって、省電力で広範囲の通信可能範囲を有するセルラーLPWAの一種であるLTE-M(Cat.M1)(※4)や、従来のLTE通信よりも低消費電力化を実現しているLTE Cat.1(※5)など複数の通信方式に対応しており、スマートブイからクラウド上のデータベースに直接データを蓄積できる仕組みを搭載している。
KDDI総合研究所は今後、実証実験を通じて取得したセンサーデータや連続動作のデータを検証し、漁獲量予測に活用していく予定だ。
(※1)スマート漁業の研究は、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の「局所的海洋データを活用した漁業の効率化の研究開発」の一環として、独立行政法人国立高等専門学校機構 仙台高等専門学校、および学校法人 早稲田大学と共同で実施している。
(※2)スマートブイを用いたスマート漁業実証実験を開始(2016年10月18日)
(※3)新型スマートブイは、日油技研工業株式会社(本社:埼玉県川越市)の協力を得て設計・開発した。
(※4)免許が必要な周波数帯域(ライセンスバンド)を利用するLPWAの一種で、携帯電話向け通信方式の標準化団体である3GPPによって標準化された規格。少量のデータ転送を想定し、上下最高1Mbpsとしながら、消費電力の低減と通信エリア(カバレッジ)の拡大を実現。
(※5)当初のLTEの一部として3GPPで標準化されている、下り10Mbps、上り5MbpsのIoT向け通信規格。
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