2020年2月9日~12日に米国テネシー州ナッシュビルにて、ダッソー・システムズの3DCADであるSOLIDWORKSのユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2020」が開催された。
playgroundと呼ばれる展示会場では、トップ画像(写真提供=ダッソー・システムズ)のような複雑で特徴的な形状のものも展示されていた。
これはMagicWheelchairと呼ばれるもので、車椅子に乗る子どもたちのためのコスチュームだ。
車椅子に乗っている子どもの前にある机や装飾をSOLIDWORKSや3DEXPERIENCEを使用し作成したという。車椅子と一体となって動くことで、子どもが童話の世界を体験することが出来るようになる。このようなまさにEXPERIENCEを支援するような展示もplaygroundでは多く見られた。
そして、今回の展示取材において、筆者は特に製造業での3Dモデルの活用とデジタルツインに着目した。
通常、製造業のデジタルツインに関して、思い浮かぶソリューションは、VRを利用した保守や教育の支援や、開発から生産までの期間の短縮ではないだろうか。
SPEEDERNET社のVRソリューション
![SPEEDERNET社のVRアプリケーション](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2020/02/IMG_2441.jpg)
3DEXPERIENCE World 2020 レポート2で取り上げたXRが実際に展示されていた。
この展示は、SOLIDWORKSで作成した3Dモデルを活用し、メンテナンスやセールス・マーケティングのトレーニングが出来るものだ。実際に装着してみたが、装置だけではなく、周りの環境もデザインされているため、実環境がイメージしやすかった。
また、モデルの軽量化がされているからだろうか、大きな産業機械のモデルだったが操作やリアクションで重さを感じることはなかった。実際の装置を細かく再現しながら、ケーブルなどで動きが制限されていないのでストレスは少ないだろう。
説明されたものは、設備のポイントをタッチすると設備の後方に配置された黒板の説明書きが変更されるというものだった。
しかしこれだけでは、実際に設備のどこを触るとどういった挙動になるかといったことに関しては理解が難しい。
今回はVRに使用されるソフトを展示しているものだったが、VR環境内での実際の手触りや触った結果が伝わるようにならないと、現場ですぐに立ち回れる様になるまでのトレーニングは出来ないと考える。
そのためには、感触をフィードバックするためのグローブの使用や、形状だけではなく、嵌合公差や材料のデータを3Dモデルに組み込んだものをVR環境にトレースするようになる必要があるのではないか。その結果、目で見る情報以外を補足した、より高度なトレーニングが出来るだろう。
DELMIAWORKSで設計から生産までを行う
![フロントオフィス側でDELMIAWORKSを使用する](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2020/02/IMG_2445.jpg)
3DEXPERIENCE World 2020 レポート1で紹介したように、プラットフォームになることでスケーラビリティを出すことが出来る。
この展示は3DEXPERIENCE WORKSのアプリケーションであるDELMIAWORKSを実際に使用し、SOLIDWORKSのデザインを使用し設計から生産を行うまでのデモを行っていた。「DELMIAWORKS」とは、ダッソー・システムズが中小製造業向けソリューションを提供していたIQMSを買収し、中小製造業向けMES・ERP複合システムとして拡張、提供しているサービスだ。
フロントオフィス側では、工場の現在の様子を確認しながら顧客と連携を取ることができるそうだ。具体的には見積もりや発注書の発行を行うことが出来る。工場側の様子を確認できるので、営業サイドが受注したものの実際はそんな余力は無いといったような無理な発注をすることが減るのではないだろうか。
フロントオフィスが受注して在庫を見た後、工場側に作業は移る。工場側では、加工するマシンとDELMIAWORKSが接続し、生産を行いながら、加工するマシンやPLCを通じてデータを取ることが出来る。そして、どこの数値を管理値にするかを決めた上でモニタリングすることが出来る。管理値の上限を超えた場合は、テキストでPCに連絡を出したり、工場内のアナウンスで連絡したりすることが出来るのだ。
また、顧客から不具合の報告があった時は加工履歴をさかのぼり、どのような設定で誰がオペレーターだったかなどの情報を確認することが出来る。
筆者の製造業での経験上、製品に何か問題が起きた時、どこからどこまでが問題がある製品で、今生産している製品は大丈夫なのかを切り分けることは、様々な要因を振り返り確認する必要があるため、時間と労力がとてもかかるものだと感じていた。
DELMIAWORKSのように生産時の状況が一元に管理されることで、何か問題が起きた時も被害を最小限に抑え、すぐに再発防止の処理を行うことが出来るだろう。
プラットフォーム上で3Dモデルをやり取りできるので、加工マシンにすぐ3Dモデルを持ち込むことは出来るが、精度を高めたり工数を少なくしたりするための加工のノウハウは過去の経験に基づくものであり、簡単に誰でも加工ができるようになるというものでは無いのかもしれない。
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![小畑俊介](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/DSC00458-2021-07-21T08_29_24.794-scaled.jpg)
大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。