特集「DX KEYWORD TEST」では、DXで必須となるキーワードに関するテストを実施。
さらに、4枚の図を使って、サクッと解説します。今回のキーワードは「ITインフラ」。全問正解目指してがんばってください!
解説編
ここからは、DX KEYWORD TESTの設問を図解していきます。
全部読んだら、再度問題にチャレンジしましょう!
トイレがアプリで、下水道がITインフラで

それでは、早速、解説していきますね!
突然ですが、下水道がなくなったら、どうなるか考えたことがありますか?
例えば、下水道がなければ、トイレは汲み取り式となってしまうので、用は足せても、悪臭や害虫が発生することになります。また、大雨や台風のときに、下水道がなければ、水の逃げ場がなく、街が水浸しになってしまいます。
この下水道のように私たちの生活を支えてくれているものを、インフラと言います。
インフラとは、少しむずかしい言い方をすると、「産業や生活の基盤として整備される施設」という意味です。水道だけでなく、電気・ガス・道路などもインフラですね。
このようなインフラが私たちの日常を支えてくれているわけですが、インフラはあくまでも土台です。下水道だけでは用は足せません、水洗トイレが必要になります。
つまり、個別の目的に応じて、インフラの上で動作する機器も必要になってくるということです。
ITシステムも同じように、「ITインフラ」が必要ですし、個別の目的に応じて、ITインフラの上で動作するものとして「アプリケーション」というものが必要になってきます。
皆さんが日頃から使っているGmailやOutlookのようなメールサービスは、離れている相手に文字や画像を送るという目的で開発された「アプリケーション」です。
このGmailやOutlookなどのアプリケーションを利用するためには、パソコン、キーボード、マウス、ネットワークが必要です。こうしたアプリケーションを動作させるのに必要な仕組みが「ITインフラ」です。
ですが、皆さんは水洗トイレを利用する際、下水道のことは考えないですよね。同じように、ITインフラも、その存在を日常的に意識することはしないでしょう。
しかし、ITインフラは今後デジタルのサービスを提供していくうえでは、非常に重要な要素です。
なぜなら、ITインフラをきちんと整備していないと、障害が発生してしまいアプリケーションが使えなくなったり、ウィルスによる機密情報の漏洩につながり、会社の社会的信用を落とすことにも成りかねないためです。
ハードウェアとソフトウェアって何が違う?

ITシステムは「ITインフラ」と「アプリケーション」で構成されていて、「ITインフラ」の上で、個別の目的に応じて動作するものが「アプリケーション」ということは前に触れた通りです。
この「ITインフラ」ですが、さらに「ハードウェア」と「ソフトウェア」の2つに分けることができます。
ハードウェアは、パソコン、サーバー、ストレージ、テープ、ネットワーク、キーボード、マウス、ディスプレイ、スピーカー、プリンター、CPU、メモリなどです。
ソフトウェアは、WindowsやMacといったオペレーションシステム、Google chromeやSafariといったブラウザ、Excel、Word、PowerPoint、音楽、動画などです。
では、ハードウェアにあって、ソフトウェアにないものは何でしょうか?
答えは、「形」です。
ハードウェアは、処理・記憶・入力・出力の機能を持つ回路・機器を指します。形が存在し、触れることができます。
対照的に、ソフトウェアは、コンピューターを動かすためのプログラムや命令を記述したデータのまとまりのことを指しており、形はなく、触れることができません。
両者は、ばらばらに存在しているわけではなく、音楽や動画といったソフトウェアをCD-ROMやUSBといったハードウェアに入れて持ち運んだりします。音楽や動画を再生するときには、モニターやスピーカーといったハードウェアが必要になります。
このようにハードウェアとソフトウェアはお互いの役割を持ち、切っても切れない関係にあります。
日本のITシステムは、崖っぷち

ところで、「2025年の崖」という言葉を知っていますか?
2018年に経済産業省は、「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」というレポートを発表しました。
レポートによると、実は多くの企業が抱えている今のITシステムは「レガシーシステム」になってしまっているようです。レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化が進んだITシステムのことを指します。
日本では、世界に先駆けて情報システム化を推進し、競争力向上を果たしましたが、その過程で各事業の個別最適化を優先してきました。
その結果、システムが複雑となり、データはたくさんあるにも関わらず、企業全体での情報管理が出来ていないため、データ活用や連携がしづらくなっています。
他にも、ITエンジニアを自社で抱えずに業者に開発を委託してきた結果、自社に情報システムに詳しい人がいなかったり、システム開発を行ってきた人材が定年退職の時期を迎えて、人材に属していたノウハウが失われるといった問題があります。
このような問題に手を打たないでいると、自社システムの中身が不可視になり、自分の手で修正できなくなる、システムのブラックボックス化が起きてしまいます。
この状態を放置した企業は、IT予算の9割以上をシステムの維持費につぎ込まなくなってしまうどころか、きちんと管理する人が不在であるためにサイバーセキュリティ攻撃やシステムトラブルのリスクが高まります。
そうした企業の競争力は、崖を転がり落ちるように下がり、多くの経済損失をもたらすため、デジタル競争の敗者になってしまう、というのが2025年の崖です。
経済産業省によれば、レガシーシステムに起因するトラブルリスクは現在の3倍だと想定し、経済損失は最大で約12兆円/年にのぼると推定されています。
皆さんの会社に、レガシーなシステムは残っていないでしょうか?
ITシステム刷新事例、ファンケル

ファンケルは、池森賢二氏が1980年に創業した会社で、化粧品と健康食品・サプリメントを軸に国内外で事業を展開しています。
同社は通信販売で創業したこともあり、もともとは自分たちでシステムの構築を行っていました。
しかし2000年に、多くの企業が外部ベンダーにシステム開発をアウトソーシングする流れに乗り、ファンケルもIT部門を解体し、外部ベンダーとの調整の仕事のみが残ったと言います。
それから、同社は急成長し、通信販売、店頭販売、流通販売(ドラッグストア・コンビニ)とチャネルを拡大していきますが、成長にあわせて、システムは、仕組みが古いままで、どんどん新しい機能追加が追加され、肥大化していきます。
そうしてフルアウトソーシングで運用を続けたシステムは10年以上経ち、新しく機能を追加しようと思っても、とにかく開発に時間がかかるようになってしまったと言います。
このままでは将来、大変なことになるということで、2005年と2010年に2度の再構築プロジェクトが立ち上がったものの、いずれも失敗に終わります。失敗した理由は、ほぼほぼ同じ機能のものを作り直すのに巨額の費用がかかるということで、当時の経営陣が中断したためです。
転機が訪れたのは、2013年に創業者の池森賢二氏が経営に復帰したことでした。
ファンケル社の衰退を見かねて、経営に復帰した池森氏から「情報システムの改善によってファンケルが成長するのであれば、ぜひ取り組んでほしい」とバックアップを受けて、全社体制でシステムの再構築プロジェクト「FITプロジェクト」が立ち上がりました。
FITは、FIT-1(2015年~2016年)、FIT-2(2017年~2018年)、FIT-3(2019年~2022年)と3つの段階を踏んだ長期プロジェクトです。
FIT-1では、老朽化したシステム基盤の再構築が目標で、ハードは専用OSで動く大型機からPCサーバーに変更。また、当時のシステムを構成していた5000本のプログラムを全て解析し、2000本にまで圧縮したと言います。
さらに、他のシステムと連携がしやすい作りにもしました。その結果、何かのシステムを直そうとするときの費用はいままでの半分以下で、時間も3分の1まで圧縮できたそうです。
FIT-2では、FIT-1で刷新したシステム基盤を管理基盤として、通販システム、ECサイト、店舗システムのリアルタイム連携に取り組みます。
これまでは、システムごとに似たようなデータや機能が存在していました。また、共通の基盤がないために、システムごとに手を入れる必要があったのです。そのような問題を解消するため、FIT-2を進め、それまで点在していた商品、顧客、施策データが統合されました。
FIT-2によって、あちこちに散らばっていたデータを連携することができようになっていたおかげで、コロナ禍では、普段店舗でファンケルの商品を買っている顧客をスムーズに通販できたそうです。
その結果、減少した店舗売り上げを通販で回収することができ、国内の売り上げが大きく落ち込むことは無かったそうです。
そしてFITプロジェクトの最終章FIT-3は、2022年春を目指して進められていました。FIT-3の目標は、顧客を理解するのにデータを役立てることです。
既存のデータベースには氏名・年齢・性別・住所・生年月日・累計購入回数などの基本データを入力していますが、そこに購入のきっかけ、購入方法、購入後の反応といったデータを加えることで、顧客を理解します。
顧客がファンケルの何に価値を見出しているのかがデータを使って分かれば、より的確にアプローチが出来ると考えられています。
さて、ファンケルのFITプロジェクトを御紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
肥大化し、老朽化したITシステムだと自覚していても、ハードウェアやソフトウェアの維持限界が来ない限り問題の重要性が顕在化されません。もし解消しようとしても、長い時間と大きな費用が必要なだけでなく、失敗するリスクもあります。そのため、ITシステムの刷新は先送りにされがちです。
しかし、ファンケルがもしITシステムを刷新できていなかったら、コロナ禍で売上は大きく落ち込んでしまっていたかもしれません。
ITシステムの刷新は、経営課題であると認識して、真正面から取り組む企業が、2025年の崖を乗り越えることができるのだと思います。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。