HD HYUNDAIは昨年のCES2023でOcean Transformationをテーマにプレスカンファレンスを行った。
海という領域を拡大するビジネスマーケットと捉え、アンモニアを燃料とする船舶や洋上風力発電など、様々な海洋ビジネスの取り組みを紹介すると共に、2050年にNET ZEROを実現すると宣言。中でも洋上風力発電は2050年には世界の電力供給量の7%となる5000TWhを供給できるように事業規模を拡大していくと発表した。
CESでは、どのようなことを発信すると存在感を示せるのか、注目されるのか、を検証していたようにも感じたプレスカンファレンスだった。
海の次は陸「Xite Transformation」
今年HD HYUNDAIのキーノートでは、昨年同様CEOのKisun Chungが登壇し、Xite Transformationをテーマにプレゼンテーションを行った。
ちなみにXiteは陸上における建設現場のことで、昨年の海(OCEAN)に対して陸(Xite)という位置づけと捉えられた。つまり海も陸もHD HYUNDAIがトランスフォーメーションしていくということをCES2023とCES2024で発表したということだ。
Xite Transformationの目的は3つだ。
1つ目は「セーフティ」。現場での事故を0にするということ。2つ目は「プロダクティビティ」。アイドルタイムやダウンタイムを0にして生産性を向上させる。そして3つ目が「サステナビリティ」で、Net-Zeroがゴールだ。
この3つの0を実現することがXite Transformationが担うミッションである。
ふと3つのゼロというと、CES2021でGMが自社のビジョンとして「事故ゼロ、渋滞ゼロ、排出量ゼロ」を挙げていたが、大きな数字を目指すのではなく、ゼロをゴールにするあたりも昨今のトレンドと言える。
建設現場もSoftware Drivenに
Xite TransformationのコアはAIを含むソフトウェアだ。
X-WiseというAIプラットフォームの研究開発を進めており、このX-Wiseを建設機械などと接続して、現場管理で活用するソリューションがX-Wise Xiteだ。海と陸でトランスフォーメーションを推進するHD HYUNDAI自身もハードウェア主体の事業体からSoftware-Driven Solution Providerに変わろうとしている。
X-Wise Xiteの具体的な機能、便益の説明もあった。
安全性(セーフティ)に関しては自動運転車のように重機に複数のセンサーやカメラが搭載され周囲の人などを常に把握する仕組みが搭載されている。
X-Wise Xiteではドローンなどを活用し現場を俯瞰し、3Dで確認することも含め、重機を運転するオペレーターが気付かないようなところも含めが周囲を常にチェックし、状況をリアルタイムで現場へフィードバックすることで事故を未然に防ぐという。実際の現場への導入も2025年までに実現していくとのことだ。
またこの仕組みは生産性の向上にも貢献可能だという。
重機の周囲をセンサーやカメラで把握でき、重機はX-Wise Xiteでコネクテッドされているため、遠隔で操作が可能となる。
実際にミュンヘンの現場を韓国から5Gネットワークを経由してマネジメントしたトライアルについても紹介していた。
さらに重機の動作を現場と目的に最適化する3Dガイダンスの仕組みで30~60%生産性が向上することが見込まれている。3Dガイダンスは現場の形状や対応する素材や地面の形状などを踏まえ、重機の動かし方をアシストする機能だ。
さらにX-WiseのコアとなるAIの取り組みはGoogleとのコラボレーションで加速しているという。
GoogleのAIプラットフォームVertex AIを活用することで、安全性や生産性を向上させるためのアプローチ並びにエネルギー効率化の方法を現場単位で最適化するためのモデルを短期間で構築することができる。
また133の言語に対応したGeminiは、世界中の様々な現場で働く人たちと言語とビジュアルで適切なコミュニケーションが可能となる。
このような建設現場をアップデートするX-Wise Xiteは、基本的にはHD HYUNDAI独自のものだが、オープンなエコシステムとすることで、複数のメーカー、企業が関わる現場、そして業界全体を次のレベルに引き上げることに貢献できるという。
HD HYUNDAIだからできる、建設現場のエネルギー供給システム
そしてサステナビリティについては、重機の電動化を進めると共に現場への電力供給についても取組みを加速させている。
例えば、現場に設置可能な折り畳み式の大型太陽光パネルや可動式の充電スポット、蓄電池を積んだトラックなどを開発している。
ただし、大型の重機はEVでは効率が悪いこともあり、水素燃料電池対応を進めていて、現在その機種を拡大中だ。
洋上風力などを活用したエネルギーの生成からエネルギーの運搬、現場での活用までをシームレスに実現できるのは、HD HYUNDAIの大きな強みであり、この仕組みを拡げていくことがNet Zeroはもちろん、環境に大きく貢献していくことになるだろう。
キーノートの最後に、サウジアラビア産業鉱物資源省のGhadah Amer Alhamoudがステージにあがり、「neom」開発におけるHD HYUNDAIの採用と期待について説明があった。
neomはサウジアラビアがサウジビジョン2030の象徴となるプロジェクトで、サウジアラビア北西部の計画都市のことである。
環境貢献はもちろん、未来都市の理想像を具現化することを目指し2017年にその構想が明らかになったものだ。
neom開発に関わるための条件として、生産性や安全性はもちろんだがユーロ5(ユーロ自動車ガス排出基準5)に準拠していることもあるが、今後の成長、未来を見据えた時に、Vision2030に向けた変革を推進していけるパートナーであることが大きいと語った。
水素燃料電池とロボティクスで存在感を示したDOOSAN
CES2024で、もう1つ注目したい重工業企業がある。今回初めてプレスカンファレンスを行ったDOOSAN(斗山)だ。
韓国の財閥の中で最も古い歴史を持つ創業128年になる企業で、水素燃料電池では世界最大のサプライヤーでもある。
DOOSANグループのHyAxiomが提供するPureCellはリン酸型燃料電池(PAFC)ユニットで、特定の場所に設置して利用するものだ。
PureCellは、天然ガス、LPガス、水素を燃料として発電することができ、水素を燃料とする場合、排出量がゼロとなる。
発電の規模はPureCell M4001台で一般的なアメリカの世帯の340世帯分をカバーできるという。
また産業用ロボットの開発・製造を行っているDOOSAN RoboticsではCES2024のイノベーションアワードを受賞したリサイクル選別ソリューション「Oscar the Sorter」を開発している。
形状が変化したゴミや、割れたもの等も含め、人の手を介さず識別して分類していくCobot(協働型ロボット)だ。
細かい作業に対応可能なロボティクス技術にAIを連動させることで、レストランなどでの調理作業や、倉庫における商品の仕分け、製造工場での組み立て作業など、精度が求められる領域のオートメーション化を加速させることができる。
CESではコンシューマー向けテクノロジーのみならず、人々のくらしを変えていくことにつながる産業変革テクノロジー活用の発表が増えてきている。
このようなトレンドが見えてきている中で、韓国の重工業企業がCESの中で存在感を示すと共に、そのトレンドを生み出す側になっている。
家電領域ではSamsung、LGがトレンドを生み出す側となり、産業変革側ではHD HYUNDAI、DOOSANがそのポジションを獲得しようとしている。スタートアップ含め、韓国企業の動向がCESの中で大きな要素になりつつある。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。