CES2020では出展社数が4400社だったが、コロナの間は出展社が激減し、昨年のCES2023では3200社に復活。そして今年は4300社が出展。来場者数は及ばないが、コロナ前と同等の規模にもどってきたと言える。その中でも年々存在感を増しているのが韓国企業だ。
そもそも薄型テレビの登場以降、Samsung、LGが家電のスマート化をリードし、家電ショーだったCESを牽引してきた事実はあるが、この数年は様々な韓国企業が台頭してきている。大手企業では先の記事でも紹介したHD HYUNDAIやDOOSANなど、CES2024では韓国企業が760社以上出展していて、これは全体の18%近いシェアだ。
そして、出展した商品・サービスの中で特に優れたものが表彰される「Innovation Award」でも韓国企業が受賞社の40%以上を占めたという。
イノベーション・アワードに受賞した商品・サービスは全部で522とのことだが、その中でもカテゴリー別に「Best of Innovation Award」の表彰がある。
これは全部で36の商品・サービスが選ばれていたが、そのうちの12、つまり1/3が韓国企業のものだったというから驚く。
ではなぜ、韓国企業がこうも受賞する状況にあるのだろうか。筆者の考えはこうだ。
先進国では高齢化が進み、経済的な成長が鈍化していく可能性が高く、環境問題など、地球の未来に向けた対策が求められている。
SDGsのゴールでもある2030年が迫ってきており、その先にあるポストSDGs時代の豊かさを見据えていくタイミングだ。これからは豊かさの軸が変わっていく可能性が高く、様々なパラダイムシフトが起こることが予測されている。
そのような中、韓国企業は世界の未来に必要な存在であることをアピールするために、CESという、様々な国の企業、そしてメディアが注目する場を活用して戦略的にアピールしているように思える。
ベストオブイノベーションアワード受賞商品・サービス
では、ここで、ベスト・オブ・イノベーション・アワードを受賞した韓国企業の商品・サービスの中で、興味深かったものをいくつか紹介したい。
簡単に農園が作れるソリューション AIRFARM
1つ目はMidbar社のAIRFARMだ。
これはどこでも簡単に農園をつくることができるソリューションなのだが、空気で膨らませること、そして、水を大幅に削減できるという2つの特徴がある。
まず浮き輪のように空気を入れて組み立てる農園になっているため、空気が入っていない状態では非常に小さくなり運ぶことが容易だ。
AIRFARMは空気で膨らませる巨大なプランターのようなもので、その大部分が空洞になっている。その空洞を利用してエアロポニックス技術で作物を栽培する仕組みだ。
エアロポニックス技術は空間に垂れ下がった根にミストで水分や養分を提供する技術で、一般的な土での栽培に比べ水を99%削減できるという。
昨年ジョン・ディアが人口100億人時代に向けて、世界の農場面積が現状と同等の場合、150%の収穫量を実現しなくてはならないという課題提起をしていたが、このAIRFARMのようなものがあれば、どこでも土が無くても農園ができるため、食糧不足課題に大きく貢献する技術と言える。
自動で車を移動させるロボットトレー Parkie
続いて紹介するHL MandoのParkieは、自動で車を停車位置に移動させるロボットトレーだ。
2000年では人口1000万人以上のメガシティは18都市と呼ばれていたが、2030年にはこれが43都市に増加すると予測されていて、その都市の大半がエマージングマーケットである。
※メガシティ: 人工1,000万人以上の都市
メガシティの増加と同時に、それぞれの国と都市の経済成長と自動車保有者が増え、渋滞や駐車場課題も社会問題になると言われている。現在でも北京などのメガシティで住まいの周辺で駐車場が確保できない問題があるというが、このParkieのようなソリューションがあれば、駐車可能なエリアをパズルのように有効活用することが可能だ。
ブロックチェーンを利用した投票アプリ zkVoting
Zkrypto社のzkVotingはブロックチェーンを活用した投票アプリだ。
既にオンライン投票を実施している国がいくつかあるが、これは投票率の向上と不正が無い投票の実現のために有用なソリューションと見られている。
そして、Lordsystemのデジタルパスポート&ウォレットアプリは電子マネーが普及する国に渡航する人向けのソリューションだ。
日本でも急速に電子マネー利用率が伸びているが、中国・韓国も同様で、その国の電子マネーを利用できるかどうかで買い物や外食、移動体験がグッと便利になる。
また、アルコール飲料を飲むときにID確認を求められたことがある方も多いと思うが、海外の滞在先でも、スマホ1台で、身分証明と支払いが完結することは今後の旅行や出張が快適になることは間違いない。
精子量を自身で確認できるソリューション Oview
他にもベスト・オブ・イノベーション・アワードを受賞したものはあるが、ベストに至らなかったもののイノベーション・アワードを受賞したプロダクトを1つ紹介したい。
韓国の合計特殊出生率はOECD加盟国の中で最下位の0.78(2022年)まで落ち込んでいる。このままでは50年後に人口が30%減少することが予測されているという。
また多くの先進国で男性の精子量は1970年代から5~6割減少しているという結果もある。環境化学物質やストレスによるものではないか、という分析もあり、研究が進んでいるものの、現状でも精子の数は減少が続いているという。
このような時代背景を踏まえ、男性の精子量を自身で確認できるソリューションをINTIN社が開発した。
INTIN社のOviewはスマホを活用するキットになっていて、スマホと組み合わせて自分で実態を目視することやアプリ経由で数値を知ることが可能だ。こういったソリューションはなぜ開発したのか、という背景理解が非常に重要だ。
日本企業はどうだったのか?
ちなみにCES2024における日本企業の出展社数は約70社で、韓国の1/10程度ということになるが、ベスト・オブ・イノベーション・アワードに次の3つが選ばれていた。
- Hondaの折り畳み可能なコンパクトでスタイリッシュなeBike「Motocompacto」
- inQsの透明光発電ガラス「SQPV(Solar Quartz Photovoltaic) Glass」
- WILLTEXの持ち運びできる電子レンジバッグ「WILLCOOK」だ
中でもinQsのSQPVガラスは透明の発電ガラスで地球上の資源やCO2課題に対するソリューションとして注目されている。現状において発電効率は高くないものの、今後改善されれば、建築物のガラスを基本的にはSQPVガラスにすることで、多くのエネルギー課題が解決していくことにもなりそうだ。
コンシューマ・テクノロジーがメインだった時代と異なり、TDKやAGC、住友ゴムなどのB2B企業の出展も増えてきている。
韓国企業はとにかく出展数が多いということもあるが、筆者がその展示において、多くの韓国企業がベスト・オブ・イノベーション・アワードを受賞している理由と感じることは、出展されている製品やサービスに「未来に繋がるストーリー」があることだ。
単なる最新テクノロジーの披露にとどまらず、「未来のビジョン」と「技術や製品・サービス」が繋がって伝わることで、企業もテクノロジーも、さらに魅力的に見えてくるはずだ。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。