シチズン・デベロッパーという言葉を初めに聞いたのは数年前だ。
そう思って、ググってみるとPublickeyが2009年にすでに記事として書いているので、もう10年以上も前からある言葉らしい。
ちなみに、シチズン・デベロッパーとは、一般人開発者のことで、ノーコード・ローコードツールなどを活用してアプリケーション開発を行う非デジタル社員のことをイメージすればわかりやすい。
なぜ、この言葉をいまさら持ち出したかというと、DX人材育成やDX組織の作り方に関するインタビューを頻繁にやる中、非デジタル部門の従業員が、DXの鍵を握るなと感じることが多いからだ。
非デジタル人材がDXの鍵
これまで公開した企業インタビューを見てもわかるように、DX組織作りの先行企業では、従業員へのデジタルリテラシを「一般教養」として捉えていることがわかる。
実際、さまざまなDX推進担当者の集まりでファシリテーターを務めさせていただく中でも気づいたことだが、DXを実現する上で必要不可欠な要素の一つとして、「一般社員のデジタルリテラシーの底上げ」があるのだ。
非デジタル社員は、通常業務中にインターネットを閲覧して新しい情報を収集する業務にあたっていないし、スマホを手元に置くことさえ許されない場合も多い。
そういう状況なのにも関わらず、「当社はDXをやるぞ」と声を荒げる経営層は後を絶たない。
やるぞといわれても、そもそもDXとはなにかがわからないし、そういう社員の周りには「仕事を進める上で必要となるデジタル」以外は存在しないのだ。
しかし、今後DXによるデータドリブンでの経営を進めようとすると、現場のデジタルリテラシ向上は待ったなしとも言える状況なのだ。
デジタル知識を詰め込んだだけでは戦力にならない
一方、ただデジタル知識を詰め込めばDXが実現できるということではない。
なぜなら、本当に必要なことは、トランスフォームすることなのだから、理解能力だけでなく、実行能力が欠かせないからだ。
IoTの浸透によって、ありとあらゆる現場のデータを取得できそうになってきた昨今、現場でおきていることをデータとして収集し、必要な概念化を行った上で可視化ツールなどで表示し、意思決定する。経営のスピードを上げる。
これを実現する際、一体誰が「現場のデータを取得するのだろうか?」そして、「どういうデータの取り方をすれば意味のあるデータとなるのか?」
これを一番知っているのは、「現場の社員」なのだ。
しかし、日々、そういう目線で仕事をしていない社員にとっては、いきなり「データ」と言われても、どうしてよいかわからず、当然困惑するわけだ。
本当に現場に必要なスキルとは
そこで、データの価値を教え、データの取り方を理解し、取得したデータを使って、データを加工したり、ちょっとした処理をノーコード・ローコードプログラムツールを使って書いてみたり、RPAを設定して自動化したりする、といった経験が必要になる。
つまり、今後現場にはたくさんの「シチズン・デベロッパー」が必要になるのだ。
現場にシチズン・デベロッパーがいるようになって、ようやく、現場の改善に必要なデータ収集も、スピード経営に必要なデータ収集も、そのデータの活用についても、デジタル領域の専門家がいなくても日々取得できるようになるわけだ。
どんな企業も膨大な量の業務が存在する。
その一つ一つを外部のベンダーやIT部門がデジタル技術を使って最適化していくことは不可能だ。
現在、先行事例、成功事例と呼ばれているものも、事業全体から見ると、所詮は氷山の一角となる業務をデジタル化したにすぎない。
これからDXを実現する組織には、シチズン・デベロッパーのコミュニティを醸成し、現場のデジタルスキルを高めることで、「新しい現場力」を生み出すことが求められている。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。