書評コーナーでは、私がDXプロジェクトで、「よくある課題」を解決するヒントになる内容があると感じた書籍を紹介していきます。
書籍名:担当者になったら知っておきたい 中堅・中小企業のための「DX」実践講座
著者:船井総合研究所 デジタルイノベーションラボ
出版社:日本実業出版社
出版日: 2021/8/6
対象:プロジェクト推進担当
目次
なぜ、この本を紹介するか
この本は、主に中堅・中小企業において、体型的にDXプロジェクトを進めるための教科書的に使えるものです。
よくあるDX本では、概念的な話が展開されることがありますが、この本では、実践的にDXプロジェクトを推進する際の具体的な手順を解説してくれています。
おもしろいのは、「DX実現度合いを知るためのチェックリスト」や、「よくあるDXプロジェクトにおける課題と解決策」、付録には「おすすめツール」なんかも掲載れているところです。
DXといっても、作業を自動化する「デジタル化」、業務プロセス全体にデジタル活用をし、最適化を行うような「デジタリぜーション」、ビジネスモデルやビジネスプロセスをデジタルありきで見直す「デジタルトランスフォーメーション」といろんな概念がごちゃ混ぜになってしまっている感もありますが、本書では、あまりそういった区別にとらわれず、デジタルによって後述するような企業が掲げるゴールに向かうために、いかにビジネスにデジタルを取り込むか、ということを重要視しているように感じました。
また、中堅・中小企業におけるデジタル活用全般の考え方を解説してくれているという意味でも一読の価値があるかと思います。
DXを無茶振りされた人で、「どういうことをやっていけば良いのだろう?」と悩んでいる場合は、ご一読されることをお勧めします。
この本の解説
この本では、DX推進の担当者になったら最低限知っておきたいDXプロジェクト推進の流れやポイントがコンパクトにまとめられています。また、手法を紹介するのに止まらず、具体的な手法の適用例も掲載されているので、同業他社がどういう取り組みをしているか、参考にすることもできるところが嬉しいです。
なぜ、デジタル化はうまくいかないのか?
まず初めに書かれているのが、このテーマです。
目的もなく、「とりあえずDXだ!」と声高に叫ぶパターンがよくありますが、本書では、DXプロジェクトでよく失敗する進め方について、以下の7つの視点で解説しています。
- いきなりデジタルツールを導入してしまう
- 掛け声だけで、目的があいまいなまま進めてしまう
- 投資回収をシミュレーションしていない
- ITベンダーの言いなりになってしまう
- 最新かつ高機能のデジタルツールを導入しようとする
- AIでなんでもできると考えている
- 効果検証のための指標を設定していない
こういった状況になってしまうと、DXプロジェクトは暗礁に乗り上げるわけですが、そこには乗り越えるべき「4つの壁」があるとしています。
そして、これをどう乗り越えるのかについて解説し、DXに必要な「3つの要素」についてまとめています。
詳しくは、本を読んでいただくとして、どうでしょう? みなさんの会社では、上の7つの視点について思い当たることはありませんか? 私はいろんな勉強会の講師をするなかで、どの課題を持ってる企業とも対面したことがあります。
なんのためのDXなのか?
ところで、DXプロジェクトについて目的が明確に打ち出せていないというケースがあります。
なぜなら、多くの企業において、中期経営計画の目標の一つとしてDXが掲げられているにもかかわらず、実際のDXプロジェクトが、その計画のどこに影響するのかが明確でないような話題にすり替わっているケースがあるからだと私は思います。
中期経営計画からDXプロジェクトに落とし込む際、「デジタルによって経営の何が変わるのか?」が理解されていなければ、単なるデジタルツールの導入プロジェクトに成り下がるのはいうまでもありません。
このことについて、本書では、3つの目的があるとしています。
- 業績の向上(いかに少ない時間で最大の粗利を稼ぐか)
- リアルタイム経営の実現(今の経営状況がスマホでひと目でわかる)
- データドリブン経営の実現(勘や経験ではなく、データに基づいて経営判断を行う)
特に1つ目は「当たり前じゃないの?」と思うかもしれませんが、実際、業績の向上に結びつくのかどうかがよくわからず、技術検証を一所懸命やっていたり、デジタルツールの導入が目的になってしまっていたりするケースを散見します。
この本では、どういう視点でこれらを実現していけばよいかということが具体的に解説されています。ここを理解することで、DXの目的はかなり現実的な中期経営計画や長期計画に結びつけることが可能となり、矛盾を感じなくなると思います。
そして、目的が定まったら、このDXの取り組みを行う上での設計図「DXジャーニーマップ」なるものを作ることを推奨しています。
DXジャーニーマップ
DXジャーニーマップとは、「実現したいゴールを達成するために、業務プロセスに沿って、導入すべきデジタルツールと追うべきKPIを全体最適の視点で整理した設計図」だとしています。簡単にいえば、DXの計画書ですね。
なんだか難しいですかね? この本ではこのことについてかなり丁寧に解説しているので、心配しないでください。
細かなDXジャーニーマップの作り方については、本書を読んでいただくとして、個人的には、DXジャーニーマップを作る際の、「優先順位付けと進め方」がグッときました。
あれやこれや、やりたいことはたくさんあると思うのですが、それを経営効果と導入難易度のマトリクス上に配置して、どういう考え方で優先順位を決めれば良いかを解説しています。
プロジェクトの優先順位づけというと、「まずは着手しやすいやつからやろう」とか「コストがかからないものから手をつけよう」となりがちですが、そんなことをしていたら、いつまで経っても大きな変革へは向かいません。
ぜひ、優先順位づけをうまく行うテックニックを身につけていただきたいところです。
DX診断
個人的には、これは、ぜひ自分で作ろうと思っていたので、「やられた!」という感想です。笑
診断項目としては、どこの企業にも必要な、Webマーケティングや営業、業務システムやテレワーク、データ活用といったさまざまな視点での診断項目が並びます。
当社のことも診断してみたのですが、完璧ではありませんでした。診断結果を参考にして、漏れていた項目への対応を考えたいなと思いました。
プロジェクトを始める前に、「何ができていればよいのか」「何ができていないことが問題なのか」ということが明確になっていることほど楽なことはないですよね。
ただ、このDX診断では、みなさんの会社ならではの業務については、評価することができないので、そこについては、DXジャーニーマップを作る際に、埋めていくことになります。
実際にDXジャーニーマップを作る
そして、実際にDXジャーニーマップの作り方が解説されています。
おすすめとしては、穴があってもよいので、実際に自分の会社について、解説されている手順通りにジャーニーマップを作ってみるとよいでしょう。
ゴール設定や、業務プロセスの洗い出し、デジタルツールの選定、業務プロセスごとのKPI設定、デジタルツール同士の接続など、DXジャーニーマップを作る際に必要となる作業について、それぞれポイントが解説されています。
その上で、さまざまな業種の実際のDXジャーニーマップが掲載されているので、似ている業態のものを参考にしながら自社のものを作ってみると良いと思いました。
RPAxBIで実現する「リアルタイム経営システム」
多くの企業で現在、RPAやBIツールを導入するか、もしくは、導入検討していると思いますが、本書では、それぞれのメリットやデメリット、導入する際の注意点について解説した上で、これらを使って、リアルタイム経営システムを作る方法について解説しています。
実際の経営ダッシュボードのサンプルなども紹介されているので、具体的なイメージがつかない方は参考になるのではないでしょうか。
他にも、さまざまなデジタルツールを駆使してDXを実現していくわけですが、どういう課題を解決するのに、どういうデジタルツールがあるのか、そしてその注意点はなにがあるのか、といったことについてもわかりやすく解説しています。
DX成功事例と課題の解決方法
こういった、さまざまなDXプロジェクト推進のためのノウハウを得て、実際に成功した企業や失敗した企業の課題について知りたい人は多いのではないでしょうか。
本書では、
- 生産性が3年で2倍になった企業
- 価格調整の自動化で10%超の収益アップを実現した企業
- マーケティングオートメーションを活用して、受注単価を30%アップした企業
- 物流において予測AIを活用することで時短と給与アップを実現した企業
- 養豚場でのIoT活用による大幅コスト削減を行なった企業
- RPAxBIでリアルタイム経営を実現した企業
の7つの成功事例が掲載されています。
どれを読んでも、「うちでもちょっとやってみようかな」と思う内容なので、用語がある程度わかっている方は、ここを先に読むとやる気が倍増するかもしれません。
また、課題についても
- 何から始めたら良いかわからない
- ツール選定のコツがわからない
- デジタルツール導入時に注意すべき点がわからない
- ベンダー選びの注意点がわからない
- 体制をどう組めば良いかわからない
- 既存システムの移行をどうしていけば良いかわからない
- AIを活用したいがどうしていいかわからない
- 誰に相談したら良いかわからない
の8つのよくある課題と解決方法が解説されています。
特に非デジタル企業で、情報システム部門などデジタルに詳しい人材があまりいない企業では、この手の問題はプロジェクトを進めるなかで必ず出てきます。
こういったことを乗り越えられたとしても、社内でどうやって共通認識を作ればよいのか、実行組織をどう作れば良いのか、投資効果をどう考えれば良いのか、PDCAをどう回せば良いのか、といった壁が立ち塞がるでしょう。
DXプロジェクトは、計画するのも、やるのも大変で、嫌になる方も多く、身近な見える課題をデジタル化によって解決したいと思いがちですが、本書を参考にして、ぜひここを乗り越えてほしいと思います。
感想
実際、自社のDXプロジェクトを任された方で、DXプロジェクトを推進するイメージが明確に描けている方はどれくらいいらっしゃるのだろう?と思います。
「組織の壁を超えて、横断的に」なんて、気安くいうコンサルタントの方も多いですが、実際にやるのは簡単ではありません。
しかし、簡単ではないからこそ、実現できた時の果実は大きいわけです。
そう考えると、計画の段階で大きな果実がイメージできていなければ、その果実を刈り取るステップが見えていなければ、確実にプロジェクトは暗礁に乗り上げるのではないかと思います。
まだ、DXプロジェクトの全体像について、まだイメージが持てていない方、これからやるのに段取りがよくわからないという方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
書籍名:担当者になったら知っておきたい 中堅・中小企業のための「DX」実践講座
著者:船井総合研究所 デジタルイノベーションラボ
出版社:日本実業出版社
出版日: 2021/8/6
対象:プロジェクト推進担当
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。