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キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー

食や医、ヘルスサイエンス領域にいたるまで幅広く事業を手がけるキリングループは今、グループ全体でのDXの取り組みを加速させている。その中でも特に注力しているのが、DX人材の育成だ。2021年7月には、キリングループの従業員を対象にした独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」を開校した。キリンDX道場のねらいとは何なのか。キリンが求めるDX人材のあるべき姿とは。キリンホールディングス株式会社 経営企画部DX戦略推進室主幹 近藤龍介氏に話をうかがった(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二、尾崎太一)。

2020年4月に「DX戦略推進室」を発足

キリングループ(以下、キリンと呼ぶ)は、キリンホールディングスを持株会社として複数の事業会社から構成されている。事業会社には、ビールや発泡酒を製造するキリンビール、清涼飲料水を製造するキリンビバレッジ、医薬品メーカーの協和キリンなどがある。 キリンは2019年に、グループ全体での10年先の事業を見すえた長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」において、「価値創造を加速するICT」の実現を掲げている。またその方針の一環としてキリンは2020年4月に、キリンホールディングス経営企画部の直下の組織として「DX戦略推進室」を設置した。 キリンにとってDXとは何か。DX戦略推進室の近藤龍介氏は、「デジタル技術を活用して事業プロセスを変革すること」だと語る。「重要なのは、事業の課題を見つけ出し、それを解決することです。DXはその手段にすぎません」(近藤氏)。 その意味で、キリンは従来からDXを推進している。しかし近藤氏によれば、それらの活動はそれぞれの事業会社や部門の内部で局所最適的に行われているという課題もあった。グループ全体での事業プロセスの変革をさらに進めるには、それらを横串にした機能が必要だ。そうした背景から、DX戦略推進室が発足することとなる。

キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー
キリングループのDXに関連する組織体制と人材育成の方針(画像提供:キリンホールディングス)

DX戦略推進室は、キリンホールディングス経営企画部の直下の組織であることから、それぞれの事業会社や部門の経営課題を俯瞰しながら、DXを推進することができる。実際に今、30~40の案件(プロジェクト)を同時並行で進めているという。DX戦略推進室からアサインされたメンバーと各現場の担当者が協力しながら、プロジェクト単位でDXを進めているのだ。 しかし、こうした取り組みだけでは十分でないと近藤氏は言う。「DXのカギを握るのは、お客様や現場に近いところで生まれるアイデアです。DX戦略推進室が主導するプロジェクトは、経営課題の解決という切口では、確かに有効です。ただ、日々の現場の業務やお客様の変化というのは、私たち(DX戦略推進室)が情報をキャッチして動き出した時点ではもう遅いのです」。 一方で、現場の従業員にDXに関するリテラシーがなければ、事業の課題や顧客の変化に気づいていたとしても、DXでそれを解決しようとするアイデアは生まれてこないという問題もある。 では、どうすればよいか。社員のDXリテラシーを底上げすればよい。日々、自身の業務や顧客と向き合っている従業員のDXリテラシーが向上すれば、それぞれの事業現場からDXのアイデアや活動が自発的に、ボトムアップで生まれてくるだろう。こうしたねらいで構想されたのが、「キリンDX道場」である。

社員のDXリテラシーの底上げをねらう「キリンDX道場」

昨今DX人材の育成と言えば、AIのプログラムなどを書ける「データサイエンティスト」の育成という側面が注目されがちだ。しかし、キリンのDX人材の育成方針は、あくまでグループ全体の従業員のDXリテラシーの底上げを主眼としていることがポイントだ。 「キリンDX道場」はまさにその方針の要となる制度であり、その目的は「キリングループのDXリテラシーの底上げを行い、価値創造・業務効率化に繋がる組織能力を強化すること」と明示されている。なお、DXリテラシーとは「テクノロジー知識・技術力ではなく、テクノロジーを活用してプロセスの変革を構想し、具現化する力」のことをいう。

キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー
キリンのDX人材育成方針(画像提供:キリンホールディングス)

具体的には、キリンが今優先的に育成しようとしているDX人材は、「ビジネスアーキテクト」と呼ばれる。ビジネスアーキテクトとは、「事業の課題を見つけ出し、ICTを活用した課題解決策を企画・設計し推進」できる人材としてキリンは定義している。そこからさらに専門性の高い人材は、「データサイエンティスト」や「デジタルストラテジスト」として定義される(上の画像の右図を参照)。 2021年7月に開校した「キリンDX道場」は、主に「ビジネスアーキテクト」を育てるためのプログラムだと言える。 「必ずしもプログラムを書けることが目的ではありません。私たちがこの道場を通して求めているのは、事業とテクノロジーを結びつけることができる人材。つまり現場で起きている課題に気づき、さらにその解決策を発想し、データサイエンティストと協力して実際に解決できるような人材です」と近藤氏は説明する。 ただし、キリンDX道場には白帯(初級)、黒帯(中級)、師範(上級)という3種類のコースが開講されており、白帯から黒帯、師範へと昇級していくことで、データサイエンティストなどの専門性の高い職種を目指すことも可能となっている。実際に、キリンDX道場をきっかけにデータサイエンスに興味を持ち、エンジニアの道に進みたいと考えるようになった社員もすでに出てきているということだ。

【キリンDX道場の3種類のコース】

  • 白帯(初級): デジタル活用基礎講座・データサイエンス基礎講座を開講。キリングループにおけるデジタル活用の必要性を認識し、デジタルを活用した課題の解決策を考えられるようになることや、基礎的なデータ分析ができるようになることを目指す。
  • 黒帯(中級): ダッシュボード活用講座、AI・機械学習活用講座、ノーコードアプリ活用講座を開講。デジタル部門との連携により、テクノロジーを活用した業務効率化ができるようになることを目指す。
  • 師範(上級): テーマ別(D2C・営業・BIツール等)に講座を開講。担当領域における高いデジタルリテラシーを身に着け、全社・部署レベルのDX推進を先導できるようになることを目指す。

※受講期間は、課題提出期間を含めて「白帯・黒帯:数日~数週間」、「師範:数週間~数か月」。

キリンDX道場のプログラムは、人材育成を専門とするパートナー企業とキリンが共同で開発した。どのような内容にするか、双方で徹底的に議論を重ねてきた。 また、キリンDX道場のプログラムはDXの一般論ではなく、社内の実務に即した事例や課題によって構成されている。そうした内容を通して、「私たち(の部門)も同じ課題をもっている」、「AIでそんなことができるんだ」といったリアルな気づきをもってもらうことがねらいだ。 白帯と黒帯のコースにはAIをテーマとした講座もあるが、プログラミングを教えるわけではない。AIを使えばどんな課題をどんなふうに解決できるかを学ぶ。一方で「師範」のコースに合格するためには、AIのプログラムを一定のレベルで書けることが必要となる。 毎回受講後、講座ごとに課題(宿題)を提出し、すべて合格であれば認定とする仕組みだ(不合格の場合は再提出)。講座は現在すべてオンライン(ZoomまたはTeams)で実施しているが、コロナ収束後は講義形式で実施し、オンラインでもライブ配信を行っていくことも検討している。受講の対象者はキリングループ全社員であり、まずは国内を中心として、将来的には海外グループにも展開予定だ。キリンは、2024年までにこのキリンDX道場で1,500人のDX人材の育成を目指している。

キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー
「キリンDX道場」の講義の様子(画像提供:キリンホールディングス)

ところで、「キリンDX道場」という名称には、実はあるメッセージがこめられている。その由来について近藤氏は次のように語っている。 「「道場」という言葉には、勉強会や研修ではないという意味をこめています。DXリテラシーというのは、これからの時代に不可欠となるスキルです。昨今では、財務三表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)の最低限の知識が社会人の常識になっています。DXリテラシーもそうした常識になる時代が来ると、私は道場の受講生たちにいつも言っています。 ですから、あくまでそうしたスキルを獲得し、将来的に活躍したいという意志と覚悟をもった社員に道場の門を叩いてほしいという意味をこめて、キリンDX道場という名称を考えたのです。そのため、すべての社員が受講しなければならないわけではありません。自ら意志をもって手を挙げて、上司の許可を得て、受講するという流れです。また、白帯(初級)ですら、誰でも合格できるような簡単なプログラムにはなっていません」。 近藤氏は、このようにいささか厳しいメッセージを投げかけながらも、一方で「まず興味をもつきっかけにしてもらえたら」、「デジタルを嫌いにならないでほしい」と笑顔で付け加える。その意図は、キリングループ社員のDXリテラシーの「底上げ」という全社的な目的にある。

人材育成とプロジェクトの両輪でDXを進めていく

キリンDX道場の意義は、社員一人一人から見れば、それは自らのスキルアップのための機会だと言える。一方で、キリングループ全体で見れば、先述のとおり各現場でDXの取り組みが自発的に起こることが重要であり、そのためには社員のDXリテラシーを底上げしなければならない。その手段がキリンDX道場ということになる。 「キリンDX道場を受講した人が、周囲に『DXって何か知ってる?』とか『AIはそんなに難しくないよ』といったことを口にしていくような状態にまずなってほしいですね」と近藤氏は語る。 それは小さな一歩かもしれない。だが、そうした言葉を一人一人が口に出していくことによって、小さな変化がだんだんと伝播していき、大きなうねりになっていくのではないだろうか。

キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー
キリンホールディングス株式会社 経営企画部DX戦略推進室主幹 近藤龍介氏

キリングループでは、現時点ではDX道場を通して人材を育成しながら、実務ではDX戦略推進室のメンバーと現場(事業会社や各部門)が連携しながら、DXの実績を着実につくっていくという両輪で進めている。 しかし将来的には事業会社と各部門が自律的にDXを実行できるような状態を目指している。たとえば、それぞれの事業会社や部門の会議などで業務の課題を抽出し、DX道場で学んだ知識と経験を使って課題策を自分たちで設計できるような状態が理想だ。 DX道場や様々なプロジェクトを通して、近藤氏はすでに確かな手応えを感じているという。たとえばDX道場について、近藤氏は次のように語っている。 「色々な考えや目的をもった社員がいますが、全体的に見て、現場の課題を認識し、危機感を抱いている人が多いという印象をもっています。たとえば道場の講座では毎回質問のコーナーがあるのですが、実践的な質問がたくさん来ます。メールが個別にきて、どんな解決策があるか教えてほしいと尋ねてくる社員もいます。目の前の業務に対して、自分で何とかしなければという意識をもっている社員は多いと感じています」。 そうした潜在的な意識があっても、解決策がわからなければ、日々の多忙な業務の中で埋もれてしまうということもあるだろう。しかしDX道場という場が、そうした潜在的な問題意識を目覚めさせ、解決へと向かわせる契機となっているのかもしれない。

キリン独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」、その本当のねらいとは? —キリンホールディングスDX戦略推進室 近藤龍介氏インタビュー
「キリンDX道場」の受講アンケート。白帯・黒帯の各講座において、約7割以上の受講者が、講座の内容を自身の業務へ活用できそうだと考えている。(画像提供:キリンホールディングス)

また実務の場面において、近藤氏は次のように語っている。 「最も避けなければならないのは、たとえば1つの業務を何十人もかけて属人的に行っていても、誰も違和感をもたず、何も指摘しないというような場合です。でも、実際にはそういう事態はほとんど起こりません。これはキリンの社風なのかもしれませんが、現場はやはり自分たちの課題をよくわかっており、解決したいという高い意識ももっています。 しかし問題は、その解決法です。事業プロセスを本質的にトランスフォーメーション(変革)するのではなく、業務を効率的で楽にするためのツールをつくろうという発想にいってしまうことが多いのです。 そこで、DX戦略推進室の役割が活きてきます。私たちは現場の(局所的な)課題を俯瞰することで、業務プロセスの変革を提案することができます。人員の配置に問題があるのではないか、そもそもその業務自体がいらないのではないか、というように。私たちは、現場に対するリスペクトを忘れないように心がけながらも、必ずそうした提案をするようにしています。時には現場と見解や意見が合わないこともあります。でもどうすればよりよくなるのかをとことん双方で話し合い、考え抜くことが必要なのです。またそうして進めていくことで、現場の考え方もだんだんと変わってきます」(近藤氏)。

キリングループのDX推進のポイント
  • 「キリンDX道場」などの人材育成の機会を通して、社員のDXリテラシーを底上げする
  • 事業会社や各部門の自律的なDXの取り組みを推進する
  • 現場(事業会社や各部門)とDX戦略推進室が相互に連携しながらプロジェクトを進める

最後に、「DX人材の確保」という点で言うと、キリンは多角的にさまざまな取り組みを行っており、キリンDX道場はあくまでその一つの施策にすぎない。 たとえば、「キリンDX道場はビジネスアーキテクトを育成するにはよい方法ですが、より専門性の高いデータサイエンティストを確保するには、外部からのキャリア採用などももちろん重要です。そうしてバランスをとりながら、DX人材の確保を進めているところです」と近藤氏は語っている。 「大事なのは(人と人の)化学反応です。そしていかに面白い化学反応を起こせるかが、DX人材の育成や採用に関わる私たちの役割でもあるのです」(近藤氏)。

キリングループではこんな人材を募集中

2021年11月24日(※記事公開日)時点での募集要項です。詳細はこちらからご確認ください。

企業名

キリンホールディングス株式会社(Kirin Holdings Company, Limited)

募集職種

①DXプロジェクトマネージャー(AI・機械学習の領域中心) ②ビジネスアーキテクト(DXの企画立案及びPoCプロジェクトマネジメント)

仕事内容

【①DXプロジェクトマネージャー(AI・機械学習の領域中心)】 ・機械学習・AIを活用したプロジェクトの推進・取りまとめ ・企画チームと連携した事業課題の抽出、データを活用した解決策の検討 ・機械学習・AI案件の技術的観点からの実現可能性・効果の評価 ・社内外のステークホルダーと連携した複数案件のプロジェクトマネジメント 【②ビジネスアーキテクト(DXの企画立案及びPoCプロジェクトマネジメント)】 ・キリングループにおけるデジタルを活用した事業課題解決、新事業開発の推進 ・社内外のステークホルダーと連携してのプロジェクトマネジメント(要件整理、設計、開発、運用、管理)

応募資格

大卒以上

求める人材像

【共通】事業を通じて社会課題の解決を持続的に行うため、DX人材の採用を強化しています。 デジタル・ICT領域における高い視座を持って事業における課題を設定して、既存ビジネス変革や新規事業開発に向けて、周囲を巻き込みリーダーシップを発揮できる人材。 【①DXプロジェクトマネージャー(AI・機械学習の領域中心)】 ■必須のスキル・経験 ・機械学習、AIの特性を理解した上で、プロジェクトマネージャとして要件整理から実装まで自らリードした経験 【②ビジネスアーキテクト(DXの企画立案及びPoCプロジェクトマネジメント)】 ■必須のスキル・経験 ・デジタルを活用したビジネス開発・業務改善に関わった経験 ・プロジェクトマネージャとして、システムやデジタルソリューションの導入を要件整理から実装まで自らリードした経験

雇用形態

正社員(総合職もしくは経営職)

給与

700~1200万円程度(年齢・経験・能力等を考慮の上決定) 月給制+賞与年2回(6,12月/業績連動)+その他手当(超過勤務手当、通勤手当、在宅勤務手当等)

福利厚生

社宅制度、産前産後休業、育児休業、時短勤務、各種保険(雇用・健康・労災)etc

勤務地

キリンホールディングス(株)本社:東京都中野区中野4-10-2中野セントラルパークサウス ※初任地のみお約束。その後は海外を含めた全国転勤ありのコースのため、入社後はグループ会社への出向を含む異動の可能性あり。

勤務時間

フレックス勤務(コアタイム無し)※標準勤務時間は9:00~17:30(キリン社所定労働時間は7時間30分)

休日・休暇

年間休日123日、年次有給休暇最大20日、ステップアップホリデー

募集期間

未定

採用予定人数

3~4名(変更の可能性あり)

応募について

※現在、一般応募はしておらず、ビズリーチを活用し、スカウト中心での求人募集の形態を取っています。ビズリーチ上で候補者様のご登録内容を確認し、求人ポジションとマッチした場合に、キリンホールディングス株式会社からスカウトをお送りする形となっています。

 

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