メンバーが安心できる環境づくりがプロジェクト推進の鍵―PM Award受賞者トレードワルツ インタビュー

日本国内および日本企業・団体による優れたプロジェクトを表彰する制度「PM Award 2022」が今年も開催された。

PM Award」は、PMI(Project Management Institute プロジェクトマネジメント協会)の日本支部によって開催されており、国内の成功ナレッジの蓄積とプロジェクトマネジメントの有用性の発信などを目的として、昨年から始まった新しい試みだ。今年は2回目となる。

「PM Award」にエントリーされたプロジェクトの数は昨年に比べて格段に増え、厳正なる審査の結果、株式会社トレードワルツにPMI Asia Pacific賞が贈られた。PMI Asia Pacific賞とは「日本発、世界へつながる視点」が認められたプロジェクトに贈られる賞だ。

そこで本稿では、株式会社トレードワルツの取締役CEO室長、染谷 悟氏(トップ画右)に事業内容をお聞きするとともに、「PM Award」に応募されたプロジェクトをどのように推進されたのか、プロジェクトマネジメントの観点でお話を伺った。

また、PMIアジア太平洋地域リージョナルマネージャーであるソヒュン・カン氏(トップ画左)にはトレードワルツにPMI Asia Pacific賞を贈呈した理由を伺い、最後に「PM Award 2022」を総括していただいた。(聞き手:IoTNEWS 石井庸介)

貿易業務は壮大な伝言ゲーム

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貿易業務には、複数の関係者が取引に介在し、かつ、取引の過程で多数の手続きが発生

IoTNEWS 石井庸介(以下、石井):プロジェクトマネジメントの話をお聞きする前に、トレードワルツの事業内容について教えてください。

トレードワルツ 染谷悟(以下、染谷):当社が救いたい人は、海外と貿易取引をしている貿易実務者です。これまで貿易実務者は、紙書類やFAX、スキャンPDF付メールなどのアナログな方法で情報をやり取りしていました。こうした課題を解決すべく、トレードワルツではブロックチェーンを活用した貿易情報の電子連携プラットフォームを開発し、提供しています。

石井:一般的に貿易というと、どのような流れで行うものなのでしょうか。

染谷:インドにある靴屋が、とある商社を経由して、日本のシューズメーカーに靴を100足注文した、というケースをもとに説明しましょう。

まず、輸入者であるインドの靴屋は、商社に対して「100足の靴が欲しいです」ということを伝えるために「発注書(Purchase Order)」を送ります。

「発注書(Purchase Order)」を受け取った商社はシューズメーカーに、いくらで販売すればよいか、納入できる時期はいつか、納入後の決済条件はどうするか、といったことを確認し、必要に応じて輸入者と「契約書(Contract of Sales)」を締結します。

その後、商社は物流手配のために「船積依頼書(Shipping Instruction)」「梱包明細書(Packing List)」「送り状(Invoice)」という3種類の書類を作成し、フォワーダー(物流会社)※という事業者にそれらの書類渡します。

「フォワーダー」とは、自ら輸送手段は持たず貨物輸送を行う事業者

次に、3種類の書類を受け取ったフォワーダーは税関に対して、100足の靴をインドへ輸出するための輸出申告を行います。

運ぶものが危険物等の場合は、別途追加申請などが必要な場合もあります。例えば、輸送する物がリチウムイオンバッテリーのような海上輸送中に爆発する可能性がある物だった場合などが該当します。

税関から許可が下りたらフォワーダーは「輸出許可証(Export Permit)」を受け取り、実際にモノを運ぶ船会社や航空会社に指示を出して、100足の靴を輸入国へ輸送していきます。

荷物が届いたら、相手国側も輸入する際に税関から許可を貰わないといけません。その時に使用する書類の一部は、輸出国側のほうから航空便で送ります。相手国側で滞りなく税関の手続きが終えられたら、100足の靴の受け渡しが完了し、その後は決済をするという流れです。

商流から物流の流れをメインにお話したのですが、銀行や保険会社との金流面の手続きも、一連のプロセスの中に入っています。

アナログとデジタルの変換作業を繰り返すことで無駄が生まれる

石井:そんなにも多くの関係者がいるんですね。そのうえで、トレードワルツとしては、どういった所に問題があると考えているのでしょうか。

染谷:膨大な情報伝達が発生している中で、世界共通の電子フォーマットが未だ整備されきっていない、セキュリティの高い通信手段がないということで、未だ会社間のやり取りには紙やPDF等のアナログな手段が使われ続けていることが問題です。

紙やPDFの場合、「発注書(Purchase Order)」を受け取った商社は、注文内容を自社のシステムに入力しなければなりませんし、その後メーカーに価格、納期、決済条件などを確認したら、その情報をまたシステムに追加入力する必要があります。

次に商社はフォワーダーとやり取りをするわけですが、システム同士がつながっていない場合、既にデータ化されているにも関わらず、商社はExcelやWordにデータを転記し、それらを印刷して紙やPDFといったアナログ情報にしてからフォワーダーに渡しています。なので、フォワーダーも、それを自社のシステムに登録してデータ化する作業をしなければなりません。

つまり、全てのプレイヤーがアナログとデジタルの変換作業を行っているのです。

情報連携を効率化するプラットフォーム、「TradeWaltz®」

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石井:トレードワルツでは、そうした非効率な情報連携方法を改善する、貿易情報連携プラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」を開発し、SaaSで提供されていますが、どんなことができるのでしょうか。

染谷:インターネット上で、全ての業界関係者をつなぎあわせて、情報を共有することができます。先ほどの例でいえば、インドの靴屋さんは「100足の靴が欲しいので見積もってほしい」という内容を伝えるために、商社に「発注書(Purchase Order)」を送付していましたが、この内容を「TradeWaltz」上に直接入力し、商社へ伝達できるようになります。

商社は「TradeWaltz」で「発注書(Purchase Order)」を受け取ったら、その内容をもとに価格、納期、決済条件をシューズメーカーに確認し、その結果を「TradeWaltz」に追加入力します。

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TradeWaltzの画面。関連書類を添付できるほか、貿易取引の進捗管理、関係者間のコミュニケーションをサポートするチャットやメール機能が備わっている。

商社は、ExcelやWordに打ちかえることなく、データ形式のまま、「TradeWaltz」でフォワーダーに指示を出したり、契約を結んだりできます。

さらに、これらのデータをもとに、銀行に決済条件を連絡することもできるようになりますし、保険会社に保険の申請を出すこともできます。銀行が作成する、L/Cと呼ばれる決済のための書類を発行するシステムや保険会社の証書発行システムは「TradeWaltz」とシステム連携していますので、各システムで生成されたデータは「TradeWaltz」に流すことも可能です。そのため書類の発行が不要になります。

石井: 一度誰かが入力したデータは、そのまま色々な手続きに利用されていくイメージを持ちました。会社間のやり取りに紙やPDFが使われてしまう理由として、セキュリティの高い通信手段がないことを挙げられていましたが、「TradeWaltz」のセキュリティは高いのでしょうか。

染谷:従来のシステムより、セキュリティは高いです。一例として、プラットフォームのデータ蓄積にはブロックチェーン(分散台帳技術)を活用しています。「TradeWaltz」上でやり取りされた履歴データは、日本国内の複数の業者が所有するサーバー全てに、分散記録されていきます。そのため、ハッカーや1サーバーの管理者自身が、悪意を持ってデータを書き換えようとしても、他の業者のサーバーが正常であれば改ざんはできません。

これから、オーストラリアやタイといった海外の貿易情報連携プラットフォームとも連携していきたいと思っているのですが、彼らのプラットフォーム上に「TradeWaltz」の記録サーバーを持ってもらえれば、日本だけでなく、オーストラリアやタイのサーバーも攻撃しないと改ざんできなくなります。そうしたネットワークを広げることで、耐改ざん性をより強固なものとしていきたいと考えています。

石井:他にも、「TradeWaltz」を利用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

染谷:リモートワークが出来るようになることです。貿易書類は未だに紙やPDF、郵便やFAXで会社に送られてきています。つまり、出社しなければ貿易業務はできなかったのです。一方で「TradeWaltz」の利用者は、インターネット環境さえ整っていれば、出社せずとも業務遂行ができます。

石井:業務効率化だけでなく、働き方も変えられたんですね。

トレードワルツが手掛けたプロジェクトとは

石井:それでは、プロジェクトマネジメントの話をお伺いしたいと思いますが、そもそも「PM Award」に応募されたのは、なぜでしょうか。

染谷:トレードワルツがこれまで推進してきたプロジェクトは、ありがたいことに社外の方たちから高く評価していただいております。そうしたなか、弊社でインターンをしている大学3年生のメンバーが、PMI日本支部が運営されている「PM Award」を見つけたのがきっかけです。わたしたちのプロジェクトをもっと世の中にアピールしたほうが良い、という想いを持っていた彼女の積極的な働きによって、応募に至りました。

石井:そうなんですね。今回、応募されたのはどんなプロジェクトでしょうか。

染谷:今回応募したのは海外の貿易プラットフォームと「TradeWaltz」を接続するというプロジェクトです。私たちは日本の貿易実務者を中心につないでいるのですが、同じような動きがアジアやオセアニア地域の中で広がっています。具体的には、タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、中国です。

そもそも、貿易の電子化を国内で実現したとしても、相手側の国が電子化に対応していないと、相手側の国から最終的に「紙で印刷して持ってきて」と言われてしまいます。つまり、相手側の国まで巻き込んで電子化できなければ、本当の意味で貿易を変えることは出来ないのです。

そんななかで、タイやシンガポール、オーストラリア、ニュージーランドとは、彼らの作っているプラットフォームと私たちのプラットフォームを相互接続することで、「国をまたいだ貿易情報連携にチャレンジできないか」ということで一緒に話を進めてきています。

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国家間の貿易プラットフォームを1年がかりで連携することとなった。

石井:大がかりなプロジェクトですね。どんな経緯で立ち上がったのでしょうか。

染谷:各国と3年間、協議を重ねてきました。それが実を結び、2021年のAPEC※で、当時の議長国であるニュージーランドから各国同士のプラットフォーム接続をすると発表してもらいました。ちなみに、翌年の2022年のAPECの議長国がタイということもあり、現時点でこの取り組みが最も進んでいるのはタイですね。

「APEC」とは、アジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組みのこと。

石井:では、今回は取り組みが一番進んでいるタイとの貿易情報連携プロジェクトについて、詳しいお話を伺っていきたいと思います。どんな体制で進めてこられたのでしょうか。

染谷:まず、商流チームとシステム接続チームの計2チームを立ち上げました。

商流チームのミッションは、実証ユーザーを探すことでした。結果的に、3つの商流を電子化することとなりました。

1つ目は、日本で作ったトヨタ自動車の部品を、日本がタイへ輸出する、豊田通商とToyota Tsusho Thailandの商流です。

2つ目は、タイで獲れた魚を加工したペットフードを、日本がタイから輸入する、三菱商事とUnicordの商流ですね。

3つ目は、タイで取れた石油を精製して作成した化学製品を、日本がタイから輸入する、三菱商事プラスチックとタイ国営石油会社の化学品子会社PTTGCの商流です。

これら3つの商流に携わる方々に、貿易情報連携の電子化にチャレンジしていただきました。

また、もう1つのチームであるシステム接続チームは、タイの貿易情報連携プラットフォーム「National Digital Trade Platform(以下、NDTP)」と「TradeWaltz」を接続するにあたり、どんなデータをどのように連携するのかを決めて、システム開発を進めました。

タイ国側も、同じように商流チームとシステム接続チームの2つのチームを立ち上げて、我々と連携してきました。

スケジュールの遅れを取り戻すために、できることはなんでもやる

石井:どんなスケジュールで進めて来られたのでしょうか。

染谷:2022年の5月から、「NDTP」と「TradeWaltz」をどのように接続するのか検討するための会議がスタートしました。

同年11月16日に開催されるAPEC首脳会議付設の「貿易DXシンポジウム」の場にて、プロジェクトの成果を発表しなければなりません。成果発表の準備のために、9月にはシステム接続を終えて、ユーザーが実証している様子を撮影するよう計画していましたので、5月から9月までの5カ月間で、「NDTP」と「TradeWaltz」のプラットフォーム間接続を完了する必要がありました。

まずは、5月に2つのプラットフォームをどのようにつなぐのか決め、6月にシステム設計を行い、7月には開発を終えました。8月は実際にプラットフォーム間でデータを流してみて、情報連携ができているかテストし、問題があるところは修正をしました。9月には先ほど説明した3つの商流で実際に使ってもらい、今は実証中に撮影した動画を編集しているところです。11月はAPEC議長国のタイに動画を提出して、当日の発表に向けたプレゼン準備を行うという段取りです。

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タイ国のプラットフォームと連携するプロジェクトのスケジュール表

石井:当初想定していたスケジュール通りに進めてこられたのでしょうか。

染谷:いえ、予想外なことも起きました。まず5月に2つのプラットフォームをどうやってつなぐのかを検討するフェーズがうまくいきませんでした。タイ側としては、やりたいことが色々あったのですが、日本側の我々からすると、要件を絞り込まないとスケジュールが間に合いません。そこの調整が難航しました。

石井:最終的にはうまくいったのでしょうか。

染谷:調整が難航する中、「やりたいことがたくさんあるのは分かりますが、APECの首脳会議までに間に合わなかった場合、議長国であるタイにとって好ましくないのではないでしょうか」とリスクを強調することで、理解を得ることができ 、要件を絞り込んでシンプルにすることとなりました。

石井:他に想定外の出来事はありましたか。

染谷:ありました。「NDTP」と「TradeWaltz」のAPI連携の仕様についてなかなか先方の理解が進まないということが起きました。そこで、タイ国側の開発に少し踏み込んだ形になりますが、こちらから開発のガイドとなるサンプルコードを作成して渡しました。

そうしてスケジュールが遅れないよう、工夫を凝らしながらプロジェクトを進めた結果、無事オン・スケジュールに戻すことができました。

タイとのプラットフォーム間連携により60%の業務効率化を達成

石井:スケジュールの締切の関係で一部やりたかったことを断念したというお話がありました。プロジェクトで実現できたのは、どんなことなんでしょうか。

染谷:実現できたことは2つあります。1つは、買主が「TradeWaltz」から「NDTP」を経由して売主に「発注書(Purchase Order)」を送り、売主がそれを受領し、「NDTP」へ書類をINPUTするところ。もう1つは、輸出国のほうで手続きが終わると、輸出国は「NDTP」から「TradeWaltz」を経由して輸入国の通関手続きに必要な書類「船積通知書(Shipping Advice)」を送るところです。この2つをデータでやり取りすることができました。

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システム連携のイメージ。

一方で実現していないのは、「船荷証券(Bill of Lading)」のデータ連携です。荷物の船積みが完了すると、船会社から貨物の預かり証が売主に渡されます。この預かり証を「船荷証券(Bill of Landing)」と呼ぶのですが、これを現地で貨物の受取人に送っておかないと、現地の人は貨物を受け取れない仕組みになっています。

なので売主は貨物の受取人宛てに航空便で船荷証券を届けます。しかし、船便のスケジュールや航空便のスケジュールを間違えると、受け渡しが円滑に出来ず、「船荷証券(Bill of Landing)」が届くまで、届いた貨物が倉庫の中で数週間眠ってしまうこともあります。そのため、「船荷証券(Bill of Landing)」は電子化するメリットが大きい書類なのですが、電子化を実現するためにはIBM社とマースク社によって運営される、電子船荷証券機能を有する「TradeLens」というプラットフォームとの連携が必要でした。

ただ、ここまで範囲を広げると、今回実現できた2つの機能まで、期限内に開発が終えられるかも定かではありませんでした。全てを盛り込んだ結果、実証まで至らなくなるようでは本末転倒です。機能を絞りながらも、ここまでは実現できましたという成果を出すことが大切なので、今回のプロジェクトからは外しました。

石井:実現できた機能についてご紹介いただきましたが、それらによって業務はどれくらい効率化されたのでしょうか。

染谷:60%以上効率化できました。実証ユーザーには、操作方法についての説明動画を渡していたこともあり、そちらの教材を使って担当者の方々が相当な事前準備をしてくださっており、今までアナログな貿易手続きで30分かかっていた業務が、今回の実証ではわずか3分で完了したケースもありました。

定例会を開催することで報告の頻度が少なくなる弊害

石井:最近はBacklogのようなタスク管理を行うツールが出てきていますよね。今回のプロジェクトを進めるにあたって、活用したツールはあったのでしょうか。

染谷:まさにBacklogを使って課題管理をしています。

石井:運用はうまくいっているのでしょうか。

染谷:はい。今回の国をまたいだ貿易情報連携プロジェクトに限らず、「TradeWaltz」の開発自体もBacklogを使っていましたので、課題の進捗管理は滞りなくできていると思います。

また、今回のプロジェクトは、あるコンサルティング会社にプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を依頼しました。アサインされたコンサルタントの方には色々な部隊の方々と週1でミーティングをしてもらい、全体の状況を取りまとめて、毎週木曜日に設定した定例会で、私に状況報告していただきました。そこで、どこまで進捗しているのか、あるいは遅れているのかを確認し、プロジェクト管理をしていました。

石井:プロジェクト管理のために、「週に1度、みんなで集まって会議しましょう」といって定例会を設けることってよくありますが、そうすると定例会まではチームリーダーに状況を共有しなくてもいいやとなってしまって、メンバーから大事な報告がタイムリーにあがってこないということも起きてしまいそうです。そういうことはありましたか。

染谷:ありました。そうしたことが明るみになったタイミングで、コンサルティング会社に、「コンサルタントの仕事はそこで起きた課題を解決することであって、伝書鳩のように集まってきた情報を週次会で共有してもらうことではない」とお伝えしました。

また、何か問題が発生したときは、詳細を聞いて、どうやって解決したらよいのかという仮説まで考えて、タイムリーにエスカレーションしてほしいと依頼しました。

そのあたりから、コンサルタントの動き方も変わって、プロジェクトの進捗管理が上手くいくようになりました。

メンバーを大切にすることが、プロジェクト推進の鍵

石井:今回、PMI主催の「PM Award2022」にて、PMI Asia Pacific賞がトレードワルツに贈られたわけですが、そのプロジェクトを牽引されてきた染谷さんがプロジェクトマネジメントにおいて特に大切にしているのはどのようなことでしょうか。

染谷:一番大切にしているのは、何よりも結果を出すことです。私は、プロジェクトメンバーに「このプロジェクトに関わってよかった」と思ってもらいたいのですが、そのためには結果を出すことが最重要だと思っています。

結果を出すには、メンバーそれぞれが自身の役割の中で最大限貢献をするのはもちろんですが、プロジェクトマネージャーも出来る限りのことをしていく必要があります。プロジェクトは毎日何かしらの問題が起きるので、それらを解決するために、マネージャーは席に座っているだけではなく、常に考え、行動しなければいけません。

また、プロジェクトマネージャーはメンバーにリスペクトの姿勢を持つことも重要です。メンバーそれぞれが時間に追われていたり、様々な事情があるなかで、日々のタスクをこなしてもらっている。それに感謝をし続けなければなりません。

なので、たとえ大きい問題が起きたとしても、担当者の責任にはせず、問題を事前に見つけて、先回りできなかったマネージャーの責任であると思うようにしています。そうして、メンバーに安心して取り組んでもらえるような環境をつくることが大切です。

メンバーに「このプロジェクトを続けたい」というモチベーションを持ってもらえれば、チームにも馬力が出て、目的を達成できると思っています。

最後に、プロジェクトの成果をみんなで祝うということも大切です。今回、表彰式では私ではなく現場のメンバーにスポットライトがあたるようにしました。そのように一人一人を主役にすることで、「あの人は、きちんと自分を見てくれるので、今度も一緒にプロジェクトをやりたい」と思ってもらえるはずです。

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表彰式の様子。 株式会社トレードワルツ プロダクト開発部長 野田坂剛氏(右)、PMI アジア太平洋地域 リージョナルマネージャー ソヒュン・カン氏(左)

石井:現場の人たちに本当の意味で思いやりをもって接するということが、プロジェクトをうまく推進していくコツなんですね。ありがとうございました。

トレードワルツがPM Asia Pacific賞を受賞した理由

石井:では次に、PMIよりソヒュン・カンさんから、なぜトレードワルツにPMI Asia Pacific賞を贈られたのか、その理由をお聞かせいただけますでしょうか。

PMI ソヒュン・カン(以下、ソヒュン):今回、トレードワルツのプロジェクトが目に留まったのは、ステークホルダーが多岐にわたっていたためです。

貿易には、買主、売主、銀行、保険会社、船会社、物流会社、税関などを含めて、様々なステークホルダーが携わっているわけですが、これらの関係者のニーズを聞きだして、時には国を跨ぐ調整を行い、最終的にひとつの形に仕上げた。そこを評価しています。

また、選考基準の1つに、このプロジェクトの成果が社会に良い影響を与えるかどうか、というものがあります。トレードワルツはタイだけでなく、今後シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国とシステム連携をしていくわけですが、そうすることで、貿易の透明性が高まり、より効率化されていきますので、アジア全体のアナログな貿易業務の改善につながります。

また、リモートワークができるようになったという点も評価しています。

PM Award 2022の振り返りと来年の構想

石井:「PM Award」は2021年からはじまり、今年で2年目です。昨年と今年は何か変化はあったのでしょうか。

ソヒュン:主な変化は3つあります。応募者の数が大幅に増えたこと、審査を受けるうえで提出しなければならない書類のクオリティが上がったこと、プロジェクトの幅が広がったという3点です。

石井:3つ目のプロジェクトの幅が広がったというのはどういうことでしょうか。

ソヒュン:今回のような貿易であったり、ヘルスケアであったり、R&Dであったり、様々な産業分野から、応募があったということです。

一方、応募されたプロジェクトには共通点もありました。それは、最新の技術がうまく使われていることです。例えばトレードワルツのようにブロックチェーンを使っているものもあれば、人工知能を使ったプロジェクトもありました。こうした傾向は日本でもDXの取り組みが着実に進んでいることが背景にあるのだと考えています。

石井:来年も「PM Award」は開催されますか。

ソヒュン:はい。来年は、より多くの人に素晴らしいプロジェクトマネジメントの手法を伝えるために、さらに規模を大きくして、開催できたらいいなと思っています。

具体的には、選考プロセスを拡大します。

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PM Awardの選考プロセス

現在、ファイナリストを決める選考は私を含めて6人の審査員が行い、ファイナリストのうちどれをグランプリとするかは、1000人のプロジェクトマネージャーによる投票となっています。

ですが、来年は、ファイナリストの数を増やしたり、投票するプロジェクトマネージャーの数を例えば2000名に増やすことで、選考プロセスをより大きなものとしていきたいです。

そうすることで、「PM Award」に参加していただいた企業、プロジェクトマネージャーの方々により大きなメリットを提供できるようにしていきたいと思っています。

石井:ありがとうございました。来年も楽しみです。

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