金融サービスのデジタル化 ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①

昨今金融サービスもデジタル化されていたり、暗号資産取引などデジタルありきでの金融サービスも始まっている。そこで、経済アナリストの馬渕磨理子氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が、「デジタルと金融」についてと対談した。

特集「デジタルと金融」は全四回で、第一回目は「金融サービスのデジタル化」がテーマだ。

馬渕磨理子氏は、京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用に携わった後、金融メディアのシニアアナリスト、株式投資型のクラウドファンディングを手掛けるFUNDINNO(ファンディーノ)で、日本初のECF(投資型クラウドファンディング)アナリストとして政策提言に関わる。現在は、一般社団法人 日本金融経済研究所の代表理事。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」のレギュラーコメンテーターなども務める。

小泉: 1つ目のテーマは、「金融業界から見たDX(デジタルトランスフォーメーション)」についてです。「DX」という言葉は、2020年頃からバズワードとして注目を集めています。

私は、大企業から中小企業まで、多くの企業がDXに取り組まなければいけないと感じています。しかし、DXを推進する人材がいないという問題や、具体的に何を実行しなければならないのか分からないという様々な課題があり、なかなか進んでいない業界もあります。金融業界では、DXはどのような状況なのですか?

金融業界のDX ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①
IoTNEWS代表 小泉耕二

馬渕: 金融業界のDXとIT化は、以前より実行されているという認識です。インターネットを通じて株式の売買が行うことができるオンライン証券の登場は、DX化のひとつの大きな事例であり、随分前からあります。

株取引を行うための口座開設も、オンラインで簡単にできることで口座開設数は伸びているので、個人向けのサービスに対するDXは進んでいると思います。一方、企業内部のDXはまだ発展途上いう印象です。

ツール普及で一般人も情報アクセスが容易に

小泉: 30年ほど前は、個人の株取引というと、基本的には証券会社が間に入る必要がありました。インターネット取り引きを行う松井証券などの企業が登場し出した頃です。個人はそうした証券会社とつながりを持って自分で取り引きをするか、証券会社に頼んで売買をするかに分かれていました。馬渕さんは当時、どのように取り引きを行っていたのですか?

馬渕: 両方の方法で行っていました。勤めていた企業から資産を預けられて運用していたのですが、分散して投資をしていました。一部は自分でトレーディングしていましたが、金額も大きい上に、初めての経験だったのでアドバイスも欲しかったのです。そこで証券会社の店頭に行き、担当の人に相談しながらの運用も行っていました。

小泉: 実際に証券会社に行くのと、オンライン証券を利用するのでは、どちらの方がよいと考えますか?

馬渕: 両方で良しあしがあると思います。オンライン証券の場合は、気軽に始められて、短期で取り引きをすることができます。また、コストも比較すると安いのが特徴です。

金融業界のDX ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①
経済アナリスト 馬渕磨理子氏

しかし、株式市場は乱高下が激しいので、一人きりでの運用は気持ち的にも不安が大きくなります。その点、証券会社の場合は担当の人が付いてくれるので、コストはかかりますが、相談しながら進めることができる点が大きなメリットです。ここはDXをされない部分です(笑)。

小泉: 証券会社の人は情報を持っているということですよね。

馬渕: 情報もありますが、人と話しながら進めることができるという点が付加価値なのだと思います。

小泉: 個人的な経験では、サイバーエージェントがミクシィというSNSの会社に投資をしていた頃、サイバーエージェントの株を買った方がいいと勧められたことがあります。

自分の感覚ではミクシィのSNSの流行(はや)りは終焉(しゅうえん)を迎えていると感じていましたが、勧められるままに購入しました。その後、株価は見事に下がって、瞬発力のある焦げ付き方をした経験があります(笑)。そんなこともあって、「投資は怖いな」と思いました。

ただ、その頃よりも今はデジタル化が進み、ツール類がそろってきています。例えば、チャートを見ながら、投資判断を画面上で行うことができるようになっています。こうした状況は、環境が大きく変化しているといえるのでしょうか?

馬渕: そうしたツールがない時代は、専門家のみが情報を保有しているという状況でした。つまり、一般の人と専門家では情報の分断があったのですが、ツールが普及することで民主化されたと感じています。一般の人も大きな費用をかけずとも情報にアクセスすることができるようになったのです。これは金融業界におけるデジタルツールの普及は大きな進歩だと思います。

デジタル業界と金融業界は、どちらも利用者が活用するインフラなので、主役になることはありません。活用するのが当たり前という状態になることが、目指すべき形だと思っています。

どんどん使いやすくなるデジタルツール

小泉: こうしたデジタルツールはどんどん高度化していくわけですが、一昔前のツールと最先端のツールでは何が違いますか?

馬渕: UIとUXは、どんどん簡略化されています。以前は、プロのトレーダーが活用しているようなツールが普及している時代もありました。しかし、最近は、より視覚や感覚で分かる画面設計になり、直感的に売買ができる仕様になってきています。表面的にはシンプルに簡単になっていくという方向性ですが、それが進歩なのだと思います。

金融業界のDX ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:経済アナリスト 馬渕磨理子氏

小泉: 例えば、テレビのスイッチも、一時期ボタンが多いものがありましたが、最近はボタンの数がそこまで多くないですよね。

馬渕: こうしたアイデアは、既存の伝統的な金融業界の人たちだけではなかなか思いつけません。スタートアップの企業など、外からの視点が入ることで実現したのだと思います。

小泉: そういった意味では、ここ最近で一気に使いやすくなってきたという印象ですか?

馬渕: 特に新型コロナウイルスの感染拡大以降で投資への注目が集まったことで、どんどん使いやすくなっています。一方、中上級者向けに、しっかりと分析できるツールを提供している会社も一部で存在します。

小泉: 個人向けの金融サービスはデジタルツールの普及によって使いやすくなり、投資を始めてみたい一般の人でも、金融商品の売買がやりやすくなってきたわけですね。

進まない法人向けサービスの充実

小泉: 一方で、法人向けサービスはまだまだだという話があります。金融サービスを受けようと思っていても、まずは自社の会計システムと銀行システムがつながっていないと始まりません。ここ数年で銀行がクラウドサービスとの接続を実行するようになってきましたが、データ連携がなかなか進まないのはなぜでしょうか?

馬渕: 金融情報は重要なものだけに、外部との接続には抵抗があるのだと思います。企業同士での接続もそうですが、従業員同士のやり取りも規制が厳しく、コミュニケーションがとりづらいという実情があります。そのせいで業務が進まないというケースもあります。

小泉: 会計データは決まっているので、銀行や税務署と接続し、自動的に税金の引き落としなどを行ってほしいと経営者としては思います。

さらに、個人向けサービスのUI・UXが簡略化されたように、今期の支払い状況を通知してくれるなど、法人向けツールもシンプルになってほしいと感じています。

金融業界のDX ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①
税務システムとも連携し、取り引きを自動で行っているイメージ

馬渕: 企業側が申告したくない事柄があるというケースもありますが、クリアにした方がメリットも大きいと思います。

小泉: そうですね。たとえ節税をするにしても、期末を把握して会社に必要なものを買うタイミングを教えてくれればよいなと思います。

例えば、「あと3ヶ月で期末なので、今のうちにパソコンを買っておいてはいかがですか?」などと、システムが教えてくれて、そこにはECサイトのリンクもついているとか。笑

馬渕: それが理想的ですね。私も業務委託をする会社を経営していますが、会計業務はとても煩雑なので、支払うべきものを簡単で明確にしてほしいと感じています。

小泉: 会計処理はルールがはっきりしているので、企業の業務の中で一番自動化しやすいはずです。仕分けに関しては既に自動化できる仕組みがありますが、決算に向かう流れの中で、企業経営のパターンに合わせた運営方法を勧めてくれるツールなどがあればよりよいなと思います。

馬渕: そうした発想は、そもそもありませんでした。ほとんどの人は既存の発想や仕組みの中でどう工夫するかにとどまってしまうので、打ち破るアイデアが大事だと感じています。

小泉: 中小企業の担当をしている税理士の人も、早期決算さえすればそうしたアドバイスをしてくれます。つまり、ルールが決まっているので自動化することも可能なのではないかと思っています。

馬渕: そこは専門職のノウハウがあるからできているのではないでしょうか。

小泉: 専門職のノウハウは確かにあると思います。しかし、決まっているルールについては自動でのメッセージ通知などで代用して、細かな説明が必要なのであれば税理士に聞けばよいと思います。

馬渕: 現状では全てを人が行っているがために、時間やコストがかかっているわけですよね。

小泉: そうです。税理士からしても、会計ソフトで効率をあげることによって、今よりも多くの企業を担当することができます。

馬渕: まだまだDXできる余地がありそうですね。

小泉: あると思います。最近では会計システムと人事システムを連携することもできるので、労務費がかさんでいるかどうかもすぐに分かります。これらを発展させてもっと自動化が進んでほしいと思うのですが、なかなか難しいのでしょうか?

馬渕: 難しいですね。デジタル業界と金融業界は、規制緩和と政治に向き合ってきた業種だと思っています。規制緩和が進まなければ、よいアイデアも実装できません。既得権益のある人たちを巻き込んで政治的に了承を得ることも必要なこともあり、大変な業界だと認識しています(笑)。

金融業界のDX ー馬渕磨理子氏に聞く、デジタルと金融①
経済アナリスト 馬渕磨理子氏

小泉: 一方で、今後は少子高齢化で人口はどんどん減少するので、そうは言っていられないですよね。税理士も同様に減っていくわけですから、システム側での対応は必須と感じます。金融業界とDXは関係があることが分かってきました。特に法人企業におけるDXは、会計などのおカネ周りの事柄と密接な関係があるということですね。

馬渕: それらは企業にとって大事なデータや情報になるので、どのように管理していくかも課題のひとつとなっているわけです。(第2回に続く)

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