CES2024、幕開けとなるPreShow Keynoteに登壇したのはSEIMENSだ。
毎年9月にベルリンで開催される国際家電見本市のIFAでは家電メーカーとして存在感を発揮しているが、今回のキーノートでは家電に関する話題は皆無だった。
今回、CEOのRoland Buschが登壇し、AIを活用したIndustrial Metaverse(産業用メタバース)をテーマに複数の領域でのソリューションを紹介した。
人にメリットを生むIndustrial Metaverse
そもそも、産業メタバースとはどういうことだろうか。
Industrial Metaverseは現実世界とデジタル世界を融合し現実を再定義するイノベーションで、IoTNEWSの読者の皆さんには馴染みがあるデジタルツインの進化系と捉えると良いのかもしれない。
もう少し要点を明確にすると、デジタルツインはクラウド、AIのみで完結するケースも多いが、Industrial Metaverseは人がリアルと同じように活用できる空間と位置付けられている。この定義によって業務におけるメタバース活用が大きく拡がっていく可能性を感じた。
メリットとして、開発期間や検証コストなど、企業にとって様々な事業インパクトがあることはもちろんだが、今回は企業に勤める技術者などの利用する人、そして最終的なエンドユーザーのメリットに着目したものになっていた。
そこがCESならではのポイントではないだろうか。
働く人たちを支援するIndustrial Metaverse
まずは企業に勤める技術者のイノベーションにつながる事例だ。
SiemensのローコードアプリケーションプラットフォームmendixはAWSとの融合で、AWSが持つ様々なデータを活用し、手段や新製品のアイデアの提案が可能となった。ローコードな上に、アウトプットやアプローチのアシストが加わったことで、エンジニアだけでなくプランナーやデザイナーの大きな支援となるものだ。
恐らく今回最も注目されたソリューションが「ソニーの新型XR ヘッドマウントディスプレイとコントローラー」ではないだろうか。
Industrial Metaverseの説明を聴きながら、個人的にイメージしていたものに近かった活用方法がこれだ。
このソニーのデバイスを活用し、Industrial Metaverseで仕事をすると、デザインのしやすさ、仲間との共同作業、そして検証が大幅に効率化される。
コントローラーの工夫も見逃せない。リング型のコントローラーはシンプルにメタバース上のオブジェクトの単純操作ができ、ポインティングコントローラーはメタバース上の空間点を詳細に指定できるようになっている。
さらに、コントローラーをシンプルにしたこと、HMDのディスプレイ部分がフリップアップできるため、現実世界のPCとの併用や連動も容易だ。
デザインの修正はPCのCADでしたい、ただ検証はプロトタイプ製品としてリアルと同様に確認できるメタバース上でやりたい、というようなニーズに応えるものになっていた。
生活者に幸せを生むIndustrial Metaverse
さらに、Industrial Metaverseの生活者へのメリットについても具体事例を3つほど紹介していた。
スペインのBlendhub社は食品を粉末にする加工工場を移動可能にしたイノベイティブな企業だ。
この移動可能な食品加工工場をどこに配置し、どのような粉末食品を生産するかというところにIndustrial Metaverseを活用する。ポイントは食材の原材料と、それ以上に重要なのが配送先までの輸送だ。これらのデータを基にどこに加工工場を設置するとベストなのかを明らかにして、特定の栄養素が足りていない人たちの健康支援を実現している。
続いて義肢を制作しているUnlimited TomorrowのCEOが登壇。
まさに先に紹介したソニーのデバイスの活用が期待される領域のように、Industrial Metaverseによって義肢の制作に関わる様々な人たちと多様なデータが共有可能となるため、一人ひとりの体にぴったりのものであることはもちろん、デザインや素材のカスタマイズの幅がどんどん拡がっていく。
「もうちょっとこんな色だったらいいのに」「ホントはこういう感じで動くと良いのにな」といった義肢を必要としている人たちが実は諦めていたことを次々と実現できるようになるということだ。
最後にSiemens Healthineersの腫瘍学研究チームのPresidentのAshley Smithが登壇し、ガン治療と治療計画について説明をした。
AIはガンを発見するだけでなく、適切な場所への放射線治療を可能とするが、特に重要なことは一人ひとりに合わせた治療計画だという。
治療計画の策定にはさまざな検査結果など分析し、非常に時間を要していたが、Industrial Metaverseによって、短期間でパーソナライズした治療計画の提案が可能となるという。
最後にRoland BuschはIndustrial Metaverseは、各産業の進化を加速させ、人々の想いに応えるものだ。より大きな課題を解決していきたいと語った。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。