「Viva Technology」というワードを耳にしたことがあるだろうか。「フレンチテック」というキーワードはどうだろう。
フレンチテックは現仏大統領であるエマニュエル・マクロン氏が、オランド前政権で経済・産業・デジタル担当相を務めた当時に立ち上げた取り組みで、赤いニワトリのロゴと「La French Tech」の組み合わせでブランディングしている。世界最大級の家電見本市CESをも席巻したと話題にもなった。Viva Technologyはそのフレンチテックの祭典ともいえるイベントだ。
125か国から12万人超が参加。参加スタートアップはなんと1万3千社。

Viva Technology2019は5月15日~18日の3日間行われた。今年で4度目となる開催で、今年は実に125か国から124,000 名の参加者、13,000社のスタートアップ、3,300名の投資家、2,500名のジャーナリストが参加した(Viva Technology発表)。
開催が始まった2016年には45,000名参加者だったが、4年で約3倍の成長を見せている。毎年パリ市内のParis expo Porte de Versaillesで行われており、昨年まではHall 1のみでの展示だったが、今年からは範囲を広げてHall 2も活用。敷地面積も約1.5倍に広がり規模・注目度ともに増していることがわかる。

Viva Technologyは毎年大物起業家たちがスピーカーとして登壇することでも注目を集めている。
発起人のマクロン大統領はほぼ毎年参加しているし、例えば、2018年にはfacebook社のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏が登壇した。
今年の目玉スピーカーは、マクロン大統領をはじめ、カナダのジャスティン・トルドー首相、そしてアリババグループの創業者であるジャック・マー氏だ。
Viva Technologyでは大小さまざまなステージが用意されているが、その中でもっとも大きなStageOneで初日に開催された彼らのスピーチセッションは、会場に人が入りきらず外に列をなすほどの盛況ぶりだった。特にマクロン大統領のプログラムは「Tech for Good」をテーマに、今注目されているフレンチテックのスタートアップ4社のCEOがともに登壇し、1問1答形式でフレンチテックを中心とした政策について言及し、参加者から熱い拍手が巻き起こっていた。
フレンチテックを支えるエコシステムという構造
フレンチテックの取り組みで着目すべきところは大企業とのオープンイノベーションが前提となっているということであろう。
もちろんViva Technologyのメインもスタートアップ単体の展示ではなく、大企業がブースを構え、その中に各スタートアップが展示スペースを設けるという構造になっており、まさにフレンチテック・エコシステムが可視化されている。LVMHやLa Poste(日本での日本郵政)、Orange(通信キャリア)などのフランス発の世界的企業や、Google、HUAWEIといったグローバル企業が大企業側として参加していた。


ちなみに、このチャレンジシステムはフランス発のAgorizeというスタートアップのプラットフォームを活用している。Viva Technologyは表も裏もスタートアップなのだ。
ラグジュアリーなLVMHブース
日本でもなじみの深いLVMHグループのブースをご紹介しよう。
LVMHは2016年の初回から4年連続Viva Technologyのパートナーとなっている。今回彼らが提示したチャレンジは「CRAFTING THE CUSTOMER EXPERIENCE OF TOMORROW (明日の顧客体験を作る)」というものであった。応募の中からViva Technologyにて展示できるスタートアップ30社が選ばれた。

LVMHブースに展示が叶った30社の中から最も優秀なスタートアップを表彰するLVMH Innovation Awardに輝いた「3DLOOK」に触れよう。
3DLOOKは正面とサイドの2枚の全身写真をスマートフォンで撮影するだけで3Dモデルを作成、通販などで洋服を購入する際に自分の3Dモデルにバーチャルに試着させ、購入者はよりイメージが捉えやすくなるというソリューションを提供している。
筆者はZOZO Suit(https://zozo.jp/zozosuit/)を想起したが、より簡便でユーザーエクスペリエンスとして素晴らしいサービスとなっている。

一消費者として、洋服のサイズ選びに大切なのは「ぴったりかどうか」より「どう見えるか」であり、3DLOOKが評価されたのもそのポイントだと感じた。
日本ではZOZOが提供しているファッションコーディネートアプリ「WEAR」(https://wear.jp/)が同様の価値を提供している。WEARは、多くの一般人が自分のコーディネートを投稿し、ユーザーは気になっているアイテムや自分に似た体型・ファッション嗜好の投稿者をフォロー、評価できる。気に入ったアイテムはそのままオンライン購入が可能となっており、そのユーザー体験が評価されている。
3DLOOKは「似た体型の他人」ではなく、まさにバーチャルな自分が洋服を試着することができるというポイントが画期的だと感じた。
Awardの表彰はステージで行われ、LVMHグループのCEOから直接手渡されているのも印象的だった。
Viva Technologyという教育現場
今回Viva Technologyに参加して驚いたのは、子どもの参加者の多さだった。
Day1とDay2はビジネスデーで、参加者のほとんどがビジネスマンだったが、小学校の社会見学のような団体で小学生低学年くらいの年齢の子どもたちが、ゲームなどエンターテイメント系の技術やソリューションを提供するスタートアップの展示を体験する姿も見られ、非常に印象的だった。

毎年Viva Technologyの3日目は土曜日となっており、一般公開されている。
休日ということもあり、家族連れの姿が目立った。各大企業ブースもこの日ばかりは展示内容をがらっと入れ替えて、より分かりやすい、エンターテイメントに舵を向けた展示になっていた。

子どもや家族連れがViva Technologyのような、いわゆる「ビジネスイベント」に来場するという姿は日本ではまだまだ見られない光景だと感じた。
大企業とスタートアップのリソースを起点としたエコシステムの整備もさることながら、スタートアップという企業のありかたやその盛り上がりを子どもの頃から目の当たりにさせることで、次世代の起業家を育むという大きな循環でのエコシステムも整っているという印象を受けた。
欧州最大のオープンイノベーション施設「Station F」
フレンチテックが今ほどに注目を浴び、成長しているのにはきちんとした理由がある。
それは、マクロン大統領が旗を振り、政府主導のもと官民一体となってオープンイノベーションを加速させるためのエコシステムづくりが成功しているからといえる。
その事実を最も体現しているのは大規模オープンイノベーション施設のStation Fの存在ではなかろうか。
Station Fはもともと貨物駅だった場所をリノベーションして作られた施設で、34,000平方メートルの敷地に3,000社以上のスタートアップが入居可能となっている。
ここでもGoogleやFacebook、Viva Technologyでも常連のLVMHなどの大企業が主導でアクセラレーションプログラムを実施。大企業が契約したエリアに採用されたスタートアップが入居するスタイルとなっている。きちんとスタートアップが大企業のヒト・モノ・カネを成長材料にしながら加速(まさにアクセラレート)していくことが、徹底的といえるまでに実践されていた。

日本でも経済産業省がJ-Startupというプログラムでスタートアップのエコシステム構築に挑んでいる。
エコシステムの作り方はもちろん、見せ方のテクニックやブランディングも含めてフレンチテックに学ぶところは多いと感じた。イエローベスト運動など逆風も吹く中、今後のフレンチテックに注目だ。
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IoTNEWS生活環境創造室所属 ビジネスクリエイター。カリフォルニア州立大学にてコンピュータサイエンス・コミュニケーションデザインを学び、2005年よりアクセンチュアにてコンサルティングに従事。大小数多くのプロジェクトに関わる。2010年に株式会社電通に中途入社し、NtoN発想での新規事業創造プロジェクトDentsu JAM!ビジネスクリエーターとして日本の未来を開拓に携わる。