シスコ八子氏、IoTの”DeCIDE”を加速するため新天地へ ー八子知礼氏インタビュー

2月も終わりのある日、Mr.IoTとも呼ばれるシスコシステムズ シスココンサルティングサービス シニアパートナー八子知礼氏が、2016年3月末をもって退職するという知らせがあった。

様々なIoTのイベントに引っ張りだこの八子氏。順風満帆なはずなのに、一体何があったのか?

しかも、IoT市場もこれからというタイミングで、どういう道を選ぶというのか。個人的な去就ではあるが、IoT News立ち上げ早々から付き合いのある同氏に早速単独インタビューをさせていただいた。

 
-シスコを退職されるということですが、大変驚きました。

かねてから言及してきましたが2016年というのはIoT実行元年と位置づけられ、2015年までの「お勉強モード」ではすまされません。シスコにおいても、これまではコンサルティング部門がビジネスコンセプトを提唱し、市場啓発するという位置づけで活動していたのですが、シスコの戦略上、そのフェーズは終わったと位置づけられました。

今後は、「IoTは実装、構築するフェーズ」に入ったとの戦略により、シスコのコンサルティング部門はグローバルワイドに発展的解消して、アドバンストサービスという設計、構築、導入部門に吸収されることになりました。そういった流れの中で、自分自身もお客様から「コンサルよりもまずは実際に構築してから考えたい」といったようにPoC(Proof of Concept:パイロット環境の実施)を一緒に作ってほしいと求められることも多くなってきました。ですので「構築するところまで手を出せる組織はいいなぁ」と考えるようになりましたが、シスコでは、構築はパートナーにお願いすることになってしまうのです。

もともと「モバイルクラウド」を日本で初めて提唱した自分としては、それらを組み合わせたビジネスとしてM2M~IoTのビジネス市場を立ち上げていくべく、IoTのコンサルティングをやりたくてシスコに来たのですが、先ほどお話ししたように、社内ではそういったことをやれる組織はではなくなってしまいました。

その時、これまでのノウハウを持って、マーケットにおいて中立的な立場で色々なソリューションを取り合わせながら、

「こういう形のIoT環境を作りましょう」
「こういう形のスマートファクトリーを作りましょう」
「こういう形のコネクテッドマーケティングをやりましょう」

ということができる組織を立ち上げることができないか、というふうに考えるようになりました。

そんな中で、かねてからお付き合いのあった会社で、特に旧来型のシステムインテグレーションではない、クラウドのシステムインテグレーションの会社の中で、ニュートラルにそういう組織を立ち上げることができる会社に移ることにしたのです。

転籍にかける熱き想い

八子氏インタビュー
奥:八子知礼氏/手前:IoTNEWS 代表 小泉耕二

―そういう意図だと、コンサルティングファームも違うし、一体どこに行かれるのでしょうか?

株式会社ウフルに行くことになりました。

※株式会社ウフルは、2006年に設立した、IoT領域をはじめクラウドサービスの導入支援・運用、ソーシャルメディア分析・戦略立案からWebサイト構築まで、ワンストップ・ソリューションを提供する企業 http://uhuru.co.jp/

ウフルで、ひとつはコンサルティング部門が新設されます。コンサルティング部門には、僕も片足は突っ込んでますがメインは自分ではなく、一緒にシスコを退職する林(編集部注:林氏は前職デロイト時代から一緒で、シスコに移籍してきた経緯ある八子氏にとっては気心知れた人物)という者がリードし、上流の戦略策定の部分を新たにウフルのビジネスに付加するだけではなく、それをスピーディに構築していくという一気通貫で案件に対応できる流れを作りたいと思っています。

もうひとつは、僕自身がこれまで特にこの5年ほどは、コンサルタントはもちろんなのですが、どちらかというとマーケットにニュートラルな立場のエバンジェリズムをやってきたので、今後はそのエバンジェリズム活動により一層の軸足をおいていきます。

 
-ウフルは今どきのクラウドネイティブなSIerで、自分たちでサービスをやるというよりもソリューションをやっていくという印象ですが、八子さんもそういう方向なのでしょうか。

ウフルはIoTプラットフォームであるMilkcocoaを持つテクニカルロックスターズを買収し、ウフル自体もenebular(エネブラー)という色々なクラウドサービスを繋いでいくプラットフォームを持っていますので、そういったプロダクトのエバンジェリズムもやっていくことになります。

ただ自社プロダクトはOne of Themであって、それじゃなければならないという考え方ではなく、色々な選択肢の中から適切なサービスを選択して構築していけるという環境があります。

また、選択肢という意味では前述の自社系IoTプラットフォームだけではなく、センサー類やゲートウェイなどのデバイス、他者の持つサービスやデータ、当然他者のソリューションも含めて、何がお客様の課題を最も早く解決して新しいビジネス創出に繋がるのか、またそれを継続的に回していけるのはどんな組み合わせなのか、を様々なレイヤーの異なる企業の皆様と共同で作り上げていく活動をやります。

これはソリューション作りを一緒にやりましょう、というのみならず、共同マーケティングや共同でのお客様への提案や勉強顔の実施、ゆくゆくは共同でのデータプラットフォームの運用なども想定できると考えています。

八子氏インタビュー
IoTNEWS 代表 小泉耕二

 
-実際問題、すごく大きい案件を扱う時は会社の規模感を問われるケースもあり、シスコだったら受けられたものもウフルでは受けられないということも、なくはないと思います。それについてはどうお考えですか。

シスコも大型案件であってもパートナーさんとご一緒していますが、ウフルは今、三井物産やNECの資本も入っています。そういった大きな案件は、大きなITリソースを持っておられる会社と一緒に協業していくことになると思います。

シスコのIoE(Internet of Everything)という、モノだけでなく「繋がっていないモノゴトをすべてつなげていく」コンセプト/考え方は自分にはとても合っていたので、その全ての物事を繋いでいくという考え方は継承していくつもりです。

 
-IoEはコンセプチュアルにとてもいいと思います。IoTNEWSでもIoTの幅を広くとらえています。これは、メディアとしての幅を広げたいということではなくて、「モノ」の扱いを大きくとらえていかないと、実際に起きている変化についていけないと思うからです。

これまでは新設部門を立ち上げながらコンサティングもやる、マーケットに対してニュートラルな形でエバンジェリズムもやる、会社のマーケティング機能の一部としてシスコの考え方も皆さんにお伝えすることも市場から期待されるがゆえに対応するという3足のわらじを均等に履くという状態で、やりがいある一方で非常に大変でした。

幹事グループを形成して個人でかれこれ5年やっている八子クラウド座談会という会があるのですが、その場は、色々な方々がニュートラルだからこそ集まってきてくださっているという位置付けなので、自分の移籍先を選定するポイントとして中立性があるということと、自由度が高いというこの2つが極めて重要な選択基準となりました。とはいえ自由ばかりではなく当然、ウフルという会社全体の知名度アップや自前で案件を作り出すという活動もやります。

 

八子氏が考える2016年のIoT

 
-八子さんが最近おっしゃっている「DeCIDE」という考え方は今年のメインメッセージだと受け取っているのですが、具体的にそう思われている理由を教えてください。

去年の春から秋ぐらいにかけて、色々な事業会社で「IoT推進室」や「IoTプロジェクト」という組織が立ち上がるのを見てきましたが、情報収集と勉強モードの方が多くて、実際に我々もご提案するもののなかなか決めない、決まらないという状況でした。

たとえ、担当者が理解したとしても、経営陣に理解してもらえない、全社で取り組むムーブメントにならない、もしくは経営陣が急かしても中間管理職が動かないと、現場も我々も非常に悩んでいました。

そこで、今年は「勉強しました、何のためにやるのか決まりました、小さく作りましょう、去年の間に小さく作った企業は、今年はより大きなフィールドで取り組んでいきましょう」というフェーズに入っているのかと考えています。これはシスコがコンサル部門をなくしてより実現のフェーズに移行したと判断した流れと当然一致しています。もはやコンセプトや戦略だけではなく、取り組まなければならない所まできているということです。ですので、「決める」を意味する[DeCIDE]コンセプトで「Decide:早く決めて着手する」「Collaboration:自社だけでなく協業する」「Innovation:生産性でなくイノベーションを目指す」「Dream:日本ならではの夢のあるサービスを目指す」「EcoSYstem:自律的に発展するエコシステムを作る」を提唱しているわけです。

 
-今後IoTに関わる方にメッセージはありますか。

とにかく一緒にやりましょう、ですね。これまでは小さくはじめるという場合でも組織ミッションの都合上、コンサルティングから始めましょう、というアプローチにならざるを得なかったのですが、ウフルでは、小さく作るという事に対してもインテグレーションチームがPoCやモックの環境を作って、そこの中からあがってきたデータを見てから考えましょうか、というアプローチも可能になります。それにご承知の通り結局1社ではできないんですよ、IoTって。

iotinnovationcenter
IoT Innovation Centerサイトへ

 
-転籍によって、大げさにプロジェクトを始めるのではなく、PoCから始めましょうという考え方も可能になったということですね。PoCをまわせるようになったのはよいことだと思うのですが、実際市況感的に、企業のPoC予算というのは出やすい状況なのでしょうか。

日本企業は青図を描いたあとであれば、PoCを始めることもあると思いますが、欧米諸国のように何も決まっていない段階で「まずは始めましょう」というのが難しいことが多いと思います。

確かに、日本の場合には「効果が見えないと説明しにくい」と言われがちですが、まずは課長クラス、部長クラスで通せるような小さな金額でPoCを回して「どういうデータが欲しいのか」ということから議論するという話も可能なはずです。これは実際に昨年体験して痛い思いをした実体験からきてます。

 
-実際に、営業やコンサルティングの場面で、企業担当者に話す時は、PoCを回すとどのようなメリットがあるかという具体的なことも話されるのでしょうか。

例えば、人手が不足している場合、分析の工程やトラブルシューティングの工程にもっと人を割かなければいけないけれどそのリソースがないといた時に、トラッキングをし続けることで原因が究明しやすくなり、それに従事する人の手間がぐっと減ったという事例があります。

この例のように、現場レベルでメリットがある話はいくつものパターンがあり、監視すれば結果は出ますので、金額換算すれば投資した分はきちんと回収できるということ、さらにそれを広げていくとリードタイムの短さに繋がることや、2~3年たったときにぐっとコストが下がってくる、ということをシナリオとして描いていきませんかというお話をします。これはイノベーティブな話ではないのですが、前に進めるためには様々な説得方法を使うということです。

 
-IoTはじめたら何かいいことがあった、という事例は急には増えそうな気がしないので、PoCを回したらいいことがあった、という事例がどんどん増えるといいなと思っています。

現在は二極分化していると思います。

ひとつは3万円程度の予算でRaspberry Piなどを使いエンジニアが簡単に作るモノがありますが、これはフィールドに出せず実際はPoCの前段階、実験室での検証レベルであると認識しています。もちろんそれでできることもたくさんあるのは理解していますが、小さな会社はそれで通ってもエンタープライズではなかなか話にもなりません。

もうひとつは、10~30万円の予算で、IoTゲートウェイとアプリケーションプラットフォームを使ってデータを上げ下げするアプローチがあります。

さらには数百万から1,000万円を超えてくるようなところがありますが、10~30万円の部分が一番効果を訴求しにくいです。

制約されている中で何が良かったという点については、業界別、ユースケース別で色々なベンダーさんがすでにトライしていて、多くの事例は多くあります。「そういう事例をもとに仮説を積み上げました」、というものをベースに現実に動いていくものとを突き合わせて検証していく必要があります。

八子氏インタビュー

 
-業界別のIoTを考えるのは難しいですよね。

お客さんと自分という関係でコンサルティングをやっていると、お客さんが持っている課題に振り回されます。一方で、産業別に持っている課題を知っている必要がありますが、それをきちんと知っている人は案外少ないですよね。

IoTと産業別の課題をしっかりと突き合わせて掘り下げる必要があり、掘り下げた結果をどうPoCで試していくのかがひとつひとつできるようになっていくと、状況は変わってくるのかと思います。

そこで、ウフルではいくつかの軸をたてていきましょう、というアプローチを考えています。

ひとつは「IoTマーケティング」で、もうひとつは「IoTワーキング」です。人々がマーケットでどう反応するのか、人々が働く環境はどうあるべきなのかをどう可視化していくのか、そこからもっとコラボレーションが促進される仕組みを作っていきたいと思っています。

シスコの中でもそういったところを提唱していたのですが、検証する仕組みがありませんでしたので、それをウフルの中で作っていきます。

また、もともとコンサルティングチームをリードする、林がライフワークとしてやっていることなのですが、「IoTラーニング」さらに「IoTヘルスケア」など、よく言われる製造業領域の他にもIoTを適用できるいくつかの領域について柱を確立することによって、その領域のユースケースを作って効果を検証していくというアプローチをやろうと思っています。

 
-大手のコンサルティングファームでもそういう意味での柱は立てられていないのではないかと思っています。

特にネットワークをよくわかっていないと、この領域はビジネスが作りにくいと思います。コンサルティングファームの場合にはご存じのとおり、アプリケーションレイヤーは得意ですが、ネットワークレイヤーやデバイスレイヤーはそれほど得意ではありません。実体験からもどの会社もアプリケーションより下のレイヤーに降りられないと思います。ですので是非協業ができればと思います。

上から下まで幅広いスキルセットを持っている人たちがどれくらいいるかによって、アイディアの幅が全然違ってきます。シスコにきてよかったのは、これまでも通信業界などを担当していたので理解していましたが、ネットワークに対する感度がさらに高くなったことです。デバイス側でもっと処理をしなければいけないエッジコンピューティング フォグの考え方などがより一層重要になってくると改めて気づくことができました。

今までもエッジコンピューティングやフォグの考え方は重要だと思っていましたが、現実のビジネスモデルに落としていこうと思った時に、「どれくらいのサンプリングレートのデータを取った方がいいのか」、「モバイルの環境だったらそれをいったんローカルでフィルタリングしておいて統計処理をしましょう」、などといったことがより重要だと提唱できるようになったのです。

 
-IoTにおいて100万台のモノをつなげようとすると、結局どこがボトルネックになっているかわからないと、100万台のモノは繋げません。そしてまだまだIoTの分野は低レイヤーの啓蒙活動が必要だと思っています。DeCIDEできる人たちはよいのですが、私自身も、もう少しPoCを意識した活動を手厚くやっていきたいなと思っています。

決められる人が決定したあとは、今だとスクラッチで開発するわけでもないので、あとは技術陣が解決できるだろうと思っています。その段階になる前の「やりましょう」と言ってもらうために動機づけをするところがものすごく難しいのです。

具体的には、IT側のわかりにくい言葉ばかりを並べるのはいけません。OT(Operational Technology:現場の操業技術)の人たちの考え方を踏襲してあげること、新しいことばかりいつでも導入提案できるわけではなくて投資サイクルがあるということを理解することなど、やれることからやるという点と、重点的に課題をつぶすためにやるというこの2つの発想で、決断してもらわなければいけません。

 
-メーカーの稟議を通さなければいけない人たちが集まって、稟議の通し方を勉強する会など、IoT領域でのビジネスプランをきちんとかけるようになろう、という勉強会などをやってもいいかもしれませんね。

いいですね、きっとみんなが困っているところですので、丸一日のワークショップで、企画書、説得方法、その他のTIPSを学んで語る会などいいかもしれませんね。

八子氏インタビュー

 
-ぜひ一緒に何かやりましょう。本日はありがとうございました。

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