IoTやAIに関連する新しい製品やプラットフォーム、企業の協業などが毎日のように発表されている。
しかし、そのような動きがある一方で、いざ自社のビジネスにIoTやAIを活用しようとすると、その企業や業種に個別的な多くのハードルに直面してしまい、PoCで断念してしまうことも多い。
株式会社ウフルが事務局となって多くの企業が参加する「IoTパートナーコミュニティ」(以下、IoTPC)は、そのような状況を打開すべく、様々な分野の企業が集まり、協創することで結果を出すことを目的として発足したという。
IoTPCは、昨年の7月以降、半年毎に進捗を報告するフォーラムが開催されており、その第3回目が、本年12月20日に開催された(場所:虎ノ門ヒルズフォーラム)。今回は、その様子を何回かに分けてレポートする。
目次
発足のきっかけは、「1社でIoTを実現するのは難しい」というお客様の声
![協創で結果を出すIoT ーウフル主催IoTパートナーコミュニティ(IoTPC)フォーラム【レポート①】](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2017/12/DSC_0013.jpg)
開催にあたり、株式会社ウフル IoTイノベーションセンター マネージャー 松浦真弓氏より、IoTPCの趣旨と進捗状況について説明があった。
IoTパートナーコミュニティは、株式会社ウフルが発起人となってスタートした。
きっかけは、IoTの取り組みで苦戦する顧客の声だったという。その中でも多かったのが、「1社では実現できない」、「どこと組めばいいかわからない」というものだった。
そのような声に応えて発足したのが、昨年の6月にウフルと17社のパートナー企業により設立したこのコミュニティだ。3期目にあたる現在では、44社の企業と10の協力団体まで増えた。また、当初7つだったワーキンググループも今では10まで増えている。
こちらが現在ある10のワーキンググループとその取り組み概要だ。2018年1月以降の4期目では、新たに「災害対策ワーキンググループ」もスタートするという。
日本はデータ活用文化に乏しい
ウフル 専務執行役員 IoTイノベーションセンター所長 兼 エグゼクティブコンサルタントの八子知礼氏が登壇し、日本企業がIoTでビジネスを構築していく上での課題について述べた。
一つ目の課題は、日本はデジタルデータを活用する意識が希薄であるということだ。スライドの左には、デジタルデータの保有量が多い上位4カ国が記されている。アメリカ、ヨーロッパ、中国、インドが上位を占めているが、日本の名前はない。
では、日本のデータ量はどうかというと、スライドの右の図だ。世界のデジタルデータ総量に対し、日本の割合は8%だ(2014年)。
2020年には5倍まで増加すると予測されているものの、グローバルでもますますデジタルデータが増える中で、日本の割合は5%まで縮小するだろうと予測されている。
これらの数字は、日本は元来、紙で情報を残すことを好み、デジタルデータを活用する文化に乏しいことの結果だと言える。これは、IoTで他国と競争するうえで大きな課題である。
企業はデジタルツインを想定してビジネス戦略を考えているか?
ビジネスの効率化のためにデジタル化、IT化を進めようとする企業は増えている。しかし、デジタルによって可能になる世界を、多くの企業がイメージできていないと八子氏は指摘した。
デジタルによって可能になる世界とは、「デジタルツイン」だ。
デジタルツインとは、リアルの世界をデジタルで再現し、そこから未来を予測してリアルの世界にフィードバックする方法のことである。
これにより、世界の産業が大きく変化すると言われている。IoTはこのデジタルツインを形成する手段だが、そこが日本の企業や経営者に十分に意識されていない現状があるという。
また、日本国内の2016年のIoTは、2015年からほとんど進展がなかったと八子氏は指摘した。原因は、多くの企業が他社の動向を様子見して、自ら行動を起こしてこなかったことにあるという。
それに対し、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)などに代表される米国型の企業では、「IoTで何を実現するか」という具体的なアイディアがあり、小さなテストベッドからすぐに始めるために進展が早いのだという。
PoCが実用化に結びつかない理由
次に、PoCを始めたものの、なかなか進まないという課題がある。その理由として、多くの企業において、PoCの目的が明確ではなく、またその目的が全社的に共有されていないと八子氏は指摘した。
IoTで実現したいことが明確ではなく、はじめから「商用化が想定されていない」状態でPoCを始めても、ある一部の部門における「局所最適」のトライアルで終わってしまい、次のステップへ進まないというケースが多いという。
このような状況に陥る原因として、企業や経営者がIoTやデジタル化に対して本気でないという現状があると八子氏は述べた。
一方で、IoTに対して「本気」であり、かつ「実行する」企業もある。IoTを支援する側のベンダーやSIerも、そのような企業に対して予算やリソースを優先的に振り分けていくために、アクションをとらない企業は今後ますます厳しい状況になっていくという。
IoTは競争ではなく協創が大事
また、IoTは、モノがある現場からエッジ、ネットワーク、アプリケーションまでマルチレイヤーで構成されるビジネスモデルであり、1社でそれらすべてを実現することは困難だ。
そこで、IoTPCのコンセプトでもある「協創」が重要となってくる。八子氏は、IoTPCの取り組みによって、IoTとは「協創」によって成功するビジネスモデルであるということを体現していきたいと語った。
日本のIoTビジネスで勝つための5つの提言
八子氏は、これまでウフルが掲げてきた、日本のIoTビジネスで勝つための5つの提言、「DeCIDE」について説明した。
1. Decide:早く決断するということ
今年データを取っておかなければ、来年にどれだけアクションを起こしたとしても、対前年比でデータの比較ができない。
“使えるデータ”がないということは、貯金がないことと同じであると八子氏は例えた。
実際に、日本国内でもデータを売買するマーケットが構想されており、「データ流通推進協議会」という団体が本年11月に設立されている。
そこでは、データに値段をつけて販売しようという取り組みがすでに始まっている。最近では、ある企業における一つの製造工程の1年分のデータが数百万円で販売されたという実績もあるという。
早く動けば、その分データはたまっていく。従って、早く決断し、実行することが大事だということだ。
2. Collaboration:協創、IoTは1社では実現できない
この考え方が、IoTPCの設立につながっている。IoTPCは、米国のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)のオープンコラボレーション環境を手掛かりに、情報収集や意見交換ではなく、実ビジネスを構築することが目的とされている。
3. Innovation: IoTの真価はイノベーション、改善ではない
IoTで目指すべきなのは改善ではなく、イノベーションだと八子氏は語った。
IoTによる「局所最適」で毎年数%ずつ生産性を改善できたしたとしても、その産業構造を抜本的に変えてしまうようなイノベーターがこれからの時代は登場する可能性が高い。
従って、企業はデジタルデータの活用を前提とする新しいビジネスモデルを考えていく必要があるという。たとえば、従来の製造業の場合、課金ポイントは2つしかなかった。製品の「販売」とメンテナンスなど「サービス」の2か所だ。
しかし、IoT時代においては、製造ノウハウをデジタルデータとしてクラウドに蓄積し販売する、あるいは予知保全による稼働保証で付加価値を上げるなど複数の課金ポイントが可能になるのだ。
4. Dream: 人が求める、夢のあるサービスをIoTで実現する
IoTは、モノのインターネットとは言うものの、主体となるのはヒトだ。従って、実ビジネスの構築においても、モノだけではなくヒトに着目することによって、導入が進みやすいと八子氏は語った。
現在、IoTで成功している企業は、ヒトに着目しているという。たとえば、コマツが先駆けて事業化した「スマートコンストラクション」は、土木建築業の「人不足」を解決することが目的だった。
少子高齢化が急速に進む日本においては、今後10年後、30年後人口が減った時に何が起きるのか、何が求められるのかを想定してIoTビジネスを考えていくことが重要だ。
また、インバウンド市場において、「観光客」から受け入れられるような「日本人」らしいきめこまかいサービスというような視点で、IoTを考えていくことも必要ではないかと八子氏は語った。
5. Ecosystem: デジタル時代の成功要因はエコシステム
前述のCollaboration(協創)にも関連するポイントだ。八子氏は、協創が必要である背景として、エコシステムを説明した。
デジタル化が進むと、あらゆる物理的な制約が解消され、モノ・コトのコストが下がっていく。来るそのような市場において、自社ビジネスの規模が拡大するにつれてコストが上昇するようなビジネスモデルは通用しなくなる。
従って、他社とナレッジを共有し、コストやリスクを分散できるエコシステムを形成することが、デジタル時代のビジネスモデルとして好ましいということだ。
デジタル時代において、既存のビジネスモデルに固執することはリスクとなる
たとえば今後、自動運転車が人々の生活にいきわたると、人々が車内という「空間」を快適に過ごすためのサービスを提供することが、自動車産業のビジネスの中心になると予測される。
従って、製造業においても自動車をつくるだけではなく、その空間をつくるビジネスにもフォーカスしていかなければならないし、そのためには他社との協業が必要となってくるだろう。
業界の境目がどんどん無くなっていくデジタル時代においては、これまでのビジネスモデルに固執していると、生き残れないと八子氏は語った。
IoTパートナーコミュニティ 第3期レポート
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![尾崎太一](https://iotnews.jp/wp-content/uploads/2020/02/10d5c82d8550164d10305089ebadd0ba.jpg)
技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。