超高齢化と労働人口減少を迎える中、高信頼・高精度な自動走行を実現する自律型モビリティシステム(自動走行技術、自動制御技術等)の実現が期待されている。この自律型モビリティシステムの実現には、移動体自身に搭載するセンサーだけでなく、高度な自己位置推定や周辺環境認知を可能とする高度地図データベース等の情報を、遅延なくリアルタイムに収集・把握する通信技術の確立が重要だ。
そこで、日本電信電話株式会社(以下、NTT)、株式会社NTTドコモ及び株式会社日立製作所(以下、日立)は、平成29年度より総務省受託研究「膨大な数の自律型モビリティシステムを支える多様な状況に応じた周波数有効利用技術の研究開発」を他の研究機関と共に受託し、2年間にわたり研究開発を進めてきた。
同受託研究は以下3つの課題から成り、この受託研究のうち、NTTは高速移動体エッジコンピューティング技術(課題ア)と大量異常トラヒック検知・判断技術(課題ウ)を、ドコモは高度地図データベースを効率的に配信する技術(課題イ)を、日立はネットワーク遮断・再接続技術(課題ウ)を受託し、それらについて目標とする周波数の利用効率向上に貢献する技術開発成果をあげた。
課題ア 分散型のデータ処理等による高効率な通信処理技術(NTT)
課題イ 複数無線システムを用いた高度地図データベースの更新・配信技術(ドコモ)
課題ウ 大量の異常通信の検知・抑制による高信頼化技術(NTT、日立)
(NTTは課題アを、ドコモは課題イを、日立は課題ウをそれぞれ代表機関として受託。)
NTTの担当した研究開発のうち課題アについては、分散コンピューティング技術の一種であるエッジコンピューティング技術(※1)を、クルマを中心とした高速移動体向けに利用できる技術開発が行われた。具体的には、クルマなど高速移動体への大量データ送受信のため、エッジサーバ間のアプリケーションのデータ移行を、モバイル網の制御情報を活用して高速に行う技術を開発(図1)。これにより、高速移動するクルマに対して大量の情報を分散処理で効率的に配信することが可能になる。
次に同じくNTTが担当した課題ウについては、大量のトラヒックを効率的に分析して異常を検知する異常トラヒック検知技術を自律型モビリティ向けに利用可能とする技術開発が行われた。具体的には、自律型モビリティのエッジ間移動のタイミングを捉えて移動元のエッジサーバから移動先のエッジサーバに対象モビリティの継続的な監視に必要最小限の情報を転送する分散協調型異常トラヒック検知技術を開発。これにより、自律型モビリティのエッジ間移動に追随した連続的かつ効率的な監視が可能になる。
ドコモが担当した課題イについては、自律型モビリティの走行状態やデータの用途や容量等に応じて、ダイナミックマップ(※2)の差分配信や分割配信等を行う技術と、複数無線システムを連携した、動的切替や同時通信技術の技術開発が行われた。これにより、モバイル網に接続されたクルマに対して途切れることなく最新の情報を効率的に送ることが可能になる。
日立が担当した課題ウについては、大量の異常トラヒック発生に起因した大幅なデータ処理速度の低下、通信不全等の重大な脅威から自律型モビリティシステムを守るためのネットワーク遮断技術、運転手へのネットワークへの再接続および手動運転への切り替え通知技術等の研究開発が行われた。これにより、安全・安心な自律型モビリティシステムを提供するためのネットワーク高信頼化を実現することが可能になる。
これらの課題ア・イ・ウの連携により、多様なモビリティに適用可能な、分散型のネットワーク・サーバインフラからアプリケーションまでを統合したシステムを構築した。
今回開発された技術は、今後、事業での活用が検討予定だ。
※1 エッジコンピューティング技術:データセンターとデバイスの間にデータの中間処理を行うエッジサーバを設置し、データの処理計算を分散させることで、リアルタイムなサービス、ビッグデータ処理に対してより高速な処理を可能にする技術。
※2 ダイナミックマップ:道路情報や道路上の物体に関する高精度な地図情報と、道路交通情報や他のクルマ、バイク、歩行者等の状況に応じて変動する情報を、時間的・空間的に統一して扱う三次元空間情報。総務省・自律型モビリティシステム(自動走行技術、自動制御技術等)の開発・実証基本計画書より
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