2020年4月28日、スマートドライブはオンラインセミナー「Mobility Transformation Online」を開催した。2019年11月にリアルイベントとして開催した第1回に引き続き、「移動の進化への挑戦」をテーマに、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす移動の価値の変化、モビリティデータの利活用といった課題に関するセッションを行った。
本稿では、スマートドライブ 代表取締役 北川 烈氏(トップ画像)による、新型コロナウイルス感染拡大によるモビリティ業界への影響をテーマにしたセッションをレポートする。
目次
新型コロナウイルス感染拡大を受けたモビリティの現状
スマートドライブ 北川氏は、まず新型コロナウイルスの感染拡大によるモビリティ業界の現状について、自動車産業とMaaSビジネスの観点から説明を行った。
自動車会社の生産縮小が部品製造会社に波及
自動車産業については、トヨタ、日産、GMといった国内外の自動車会社が、工場における減産や、社員の臨時休業などの対応を行っており、予定の生産台数を大幅に割り込む見込みが出ている。そして、自動車会社の生産が縮小する事によって、自動車部品製造を請け負う会社の雇用に大きな影響を及ぼす事が予想される。
一方で、GM社では大統領からの要請を受けて、新型コロナウイルス患者の治療に必要な人工呼吸器の製造を行う医療支援を行っている。これについては日本の自動車会社においても同様の動きが見られる。
フードデリバリーを除き、MaaSビジネスも低迷
MaaS領域のビジネスも自動車産業と同様に、一部のサービスを除いて低迷している。例えば、東南アジアでオンデマンド交通システムやモバイルペイメントプラットフォームを展開するGrabでは、外出制限によってライドシェアサービスの売り上げが大幅減少し、決済ビジネスも経済全体の停滞に伴って減少傾向にある。その一方で、いわゆる「巣篭り需要」によってフードデリバリーサービスが急速な拡大を見せているそうだ。
また、北川氏はUberの株価動向についても紹介した。Uberの株価は新型コロナウイルス蔓延時から下降しており、特にNYのロックダウン開始以降、一時はピークの半分以下まで下落した。このような中、Uberでは新型コロナウイルスによる新たなニーズへ対応するため、個人間配送のサービスを開始した。
新型コロナウイルスによってもたらされる移動への取り組み
自動車業界およびMaaSビジネスの現状をまとめた後、北川氏は新型コロナウイルスの感染拡大における「ポジティブな側面」として、新たに生まれた移動のニーズを3点紹介した。
感染者搬送用車両
一つ目は、ホンダやいすゞが取り組んだ、新型コロナウイルス感染者を搬送するための専用車両の提供だ。両社は下記資料にあるように、運転席と後部座席の間に仕切りを設けるといった、感染を防止するための工夫を加えた車両を提供し、医療機関の支援を行っている。
出勤用オンデマンド相乗りタクシー
また、オンデマンドタクシーの提供を行うNearMeは、出勤用のオンデマンド相乗りタクシーの提供をしている。
これは電車での通勤を避けるために、限定的な人数で乗客同士の距離を取りながら通勤できるサービスである。
買い物代行サービス
そして、地方の交通会社が自宅待機に対応するサービスとして、買い物代行サービスを始めている。例えば、広島県のアサヒグループ、新潟県のつばめタクシーでは、買い物や薬の受け取りの代行を電話で受け付け、タクシーで自宅まで届けるというサービスを、高齢者や外出を控えている人々に向けて提供している。
新型コロナウイルスによって起きた、移動における3つの変化
新しいサービスの誕生を踏まえた上で、北川氏は新型コロナウイルスが移動にもたらす3つの変化を挙げた。
移動の強制的な効率化
政府からの外出自粛要請を受けて、人々が旅行や通勤通学といった移動を控える事により、移動の効率化が強制的に進むという。
生活に密着した移動サービスの乱立
通勤タクシー、患者搬送、買い物代行といった、生活に密着した移動サービスが乱立するようになる。この点について北川氏は、自動運転といった最先端技術ありきではなく、新型コロナウイルスの感染防止といった、足元の課題ありきでサービスが提供されるようになる事が重要なポイントである、と意見を述べた。
新しい消費や出会いを生むサービスの希求
自粛明けの経済再生に向けて、新しい消費や出会いを生むための移動サービスが求められるようになる、という事を北川氏は変化の3点目として挙げた。
企業に求められる4つの変化
移動における3つの変化を述べた後、さらに北川氏はMaaS以外の領域を含めた企業における変化について、4つの面から説明した。
投資やコスト
未来に向けた活発な投資から、生き残るためのコストカットへと方向転換する。新型コロナウイルスの感染が拡大する以前、日本においては企業の内部留保が過去最高水準に高まりキャッシュが大量にあったため、企業は投資を活発化させていた。しかし、感染が拡大した後は、どの企業も「Cash is King」の考え方に転換し、まずは生き延びるために不要なコストを全てカットしていくようになる、というのだ。
製品開発
「Nice to Have」から「Must Have」、必要とされる製品を提供する方向に変わる。つまり、新型コロナウイルスの感染が広まる以前は、未来に向けて新しい製品開発を積極的に試す傾向にあったが、今後は必要とされる製品を作らなければいけないという方向にピボットする、というのが北川氏の意見である。
働き方
オフィスへの出勤や顧客訪問といったオフラインの企業プロセスが、テレワークやウェブミーティングといったオンラインに移行する事が予想されるそうだ。
価値観
売り上げ成長率や個々人のパフォーマンス向上を重視する方向から、持続可能性や課題解決、働きやすさを重視する方向へと変化する。つまり売り上げや利益を確保しつつ、社会にとって持続可能性がちゃんと担保されているのか、斬新な技術よりも、まずは足元の具体的な課題を解決できているのか、リモートワークが進む中で従業員のメンタルや働きやすさをチェックできているのか、という点を見ていく文化へと変わっていくのだという。
新型コロナウイルスによる変化をポジティブにする4つのチャンス
上記に記したMaaS領域の変化や、働き方や企業の価値観の変化は強制的にアップデートされ、それは戻ることはない、と言われているそうだ。それでは、新型コロナウイルスによってもたらされる変化を、あえてポジティブな方向へと変えていくためには何が必要なのか。
この点について、北川氏は以下の4つの観点から、新型コロナウイルスによる変化をポジティブに捉えるべきだ、と説明した。
顧客の課題解決を中心とした事業へ変わる
企業は既存事業におけるコストをそぎ落としてより筋肉質な体制になり、カスタマーセントリックな製品を生み出すチャンスであると捉えるべき、というのが1点目に北川氏が挙げたポイントだ。
新たなサービスの創出
2点目に挙がったのは、新たな移動のニーズに対応した、新たなサービスを生み出すチャンスと捉えるべき、という意見だ。これについては、新たなニーズに向けたサービスについては、先進的な技術を使う事よりも、誰よりも早くスピードを出して対応できるのか、アイディアでチャレンジできるのか、という事がポイントになるという。そしてこれは新しいプレイヤーの参入や、今までになかったコラボレーションが生まれる領域になるだろう、と北川氏は予測する。
協業関係の構築
「企業に求められる4つの変化」で挙げたように、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前は、未来に向けた投資が活発であった。しかし現在は、目の前にある具体的な課題を解決するため、地に足の着いた議論が各社増えてきている。そのような状況においては、各社が似たような投資を行って同じようなものを作る、というよりは、以前は競合であった企業同士が協業を行い新しいサービスを作っていく形に変わる。これをチャンスと捉えるべきだ、と北川氏は唱える。
迅速な対応で相対的な差をつける
新型コロナウイルスによる影響は、人によって濃淡の差はあれど、基本的には「誰にでも起こり得る変化」である。だからこそ、周りよりも早く自分自身、あるいは会社をアップデートさせて、相対的に差をつけるチャンスと捉えるべきだという。
北川氏は、先ほど述べたような新型コロナウイルスがもたらす変化は、近い将来に起こるはずだった、より持続的で本質的な変化であると個人的には考えている。その点を強制的に、かつスピードを持ってアップデートしていくチャンス、あるいは新たな価値が生まれる瞬間が来ている、と総括した。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。