CES2023で特に注目を集めていたのが、ソニー・ホンダのアフィーラだ。以前からソニーは、VISION-Sと呼ばれるクルマの展示をCESでおこなってきましたが、2025年には市販するという発表もあった。
ソニーは、もともと自社の作るカメラやセンサーが、コネクテッド・カーにも役立つということで、VISION-Sを発表していて、自社でクルマを作るのかどうかは当初はっきりしていなかったのだが、話題を呼び、次第に本格的にクルマを作ろうとなったのではないかと思う。
スマートフォンの分野でも、iPhoneのカメラがソニー製であることが先日アップルのCEOティム・クック来日の際に話題になったのが記憶に新しいが、こんなふうに、ソニーは完成品だけを作っているのわけではなく、さまざまな部品を製造し他社に提供をしているのだ。
ただ、クルマをつくると一言で言っても、量産体制やメンテナンス体制、販売店とのお付き合いなど、これまでのソニーのノウハウではどうにもならないところもたくさんあり、パートナーとしてホンダを選んだのだろうと思われる。今回の展示では、それがホンダでないといけなかったのか?というところに関して答えがあるようには感じられなかった。
アフィーラに搭載される45のセンサー
アフィーラの特徴としては、VISION-Sから継承されている、数多くのセンサーだ。VISION-Sの時は、33のセンサーが搭載されているということだったが、今回は全体で45、うちカメラが20以上もあるということだ。
カメラをどのように使っているのかというと、運転手の居眠り防止や、ジェスチャーコントロールだけでなく、助手席や後部座席などにもカメラが向けられている。
考えられる利用シーンとしては、ドライバー以外の乗客もジェスチャーでエンタメ機能を操作するということや、子供が置き去りにされていないか確認し置き去りの状態でドアロックしようとしたら警告を発するなどがある。
しかし、残念なことに今回の発表では、これらのカメラやセンサーを使った、これまでにない利用シーンまでは提案されなかった。
車内外に装備するディスプレイ
アフィーラで目を引くのは、運転席から助手席にかけて大きく一枚で広がるディスプレイや、クルマの前後に取り付けられたディスプレイだ。
車内のディスプレイは、「運転に集中したい」「エンタメを楽しみたい」というシチュエーションによってモードを切り替えることができる。駐車中は、このディスプレイを使ってプレイステーションを楽しめるということだ。
エンタメ部分の表現では、マトリクスなどのリアルな仮想空間で有名な、Unreal Engineと組んでいて、ソニーらしいオーディオ・ビジュアルの機能が実現されるといいなと思う。
また、車外の前後についているディスプレイは、いろんな情報を出し、クルマの外の人とのコミュニケーションを行うということで、広告やお知らせを表示したり、運転手が困っている時にSOSを出したりすることができるようだ。
ただ、ここもまだ検討中というところだ。
プレス向けの発表会では、こういった外部ディスプレイの企画は他社でもあったが、道路交通法の関係で実現する企業はなかなかなかった。しかし、ソニー・ホンダはこういうところにも実際に挑戦していきたい。と述べている。
クアルコムのデジタルシャーシを採用
クルマの先進運転技術には、クアルコムの「デジタル シャーシ」を採用していて、基本的にはレベル3を目指しているということだ。
この、「Snapdragon Digital Chassis」は、自動車をコネクテッドにしてIT化を進めるのに必要な技術を、プラットフォームとして自動車メーカーやティア1の部品メーカーに提供するもので、2021年に発表している。
このプラットフォームでは、「クラウドへ接続する機能」「自動運転機能」「デジタルコクピット」「携帯電話回線を利用してインターネットへ常時接続する機能」などをセットにして、自動車メーカーなどに必要な部分を提供していくものだ。
今回のCESでも、クアルコムのCEO クリスチャーノ・アモンは、ホンダ技研工業、アルプス・アルパイン、ボルボ・カーズや、ルノー・グループに提供することを発表している。
アフィーラが、クアルコム側から見た場合、どの程度の機能が採用され、実績となるのか、についても楽しみなところだ。
クルマの再定義となるか
アフィーラは、クルマをスマホのようにしたいというコンセプトで作られているということなのだが、果たして、スマホがケータイを再定義したように、クルマを再定義することは可能なのだろうか。
スマホの場合は、電話を一つの機能として電話そのものを重要視せず、インターネットにつながることからできることをデバイスに詰め込んでいったわけだが、クルマである以上走行することを一つの機能とするわけにもいかない。
しかし、「クルマが走行する」という味方でなく、「移動」という見方をした時、これまで移動することが重要であったため、より早く、より安全に走行することが重要視されていたのだが、こう言った点はすでに実現されていて、これからは移動のあり方が変わる可能性もある。
そう考えると、クルマを再定義するということは、単なる移動ではなく、移動することが楽しい、移動することが心地よい、といった別の価値に変化するようなクルマとなることが重要なのかもしれない。
いずれにせよ、今回の発表では、「現在検討中」という状態で、それほど新しいと感じるコンセプトはなかったのだが、なぜかワクワクさせられる。
この辺がソニーのすごいところなのかもしれない。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。