自動車業界以外の企業が積極的にカービジネスに参入している昨今、NTTドコモも新しいカービジネス業界向けサービスを始める。
今回、NTTドコモが開発した「docomoスマートパーキングシステム」は、クルマの入出庫を感知するセンサー、ゲートウェイ、クラウド上の駐車場管理サーバーで構成されている。これまで必要だったフラップ板や現金精算機が必要ないため、コインパーキング事業を拡大したり、新たに事業をはじめたい企業に とっては初期投資を抑えることができ、ドライバーにとっては空き駐車場を探すストレスの軽減につながるという。
「docomoスマートパーキングシステム」について、株式会社NTTドコモ イノベーション統括部 企業連携担当 担当課長 山本 裕己氏と、同社 イノベーション統括部 グロース・デザイン担当 主査 廣澤 創氏に話を伺った。

―docomoスマートパーキングシステムについて教えてください。
山本: 今回のサービスは、駐車場事業者の方向けとドライバーの方向け、二つの側面でメリットがあると考えております。駐車場事業者様に関しては、我々がまずターゲットにしているのは、既存のコインパーキングの事業者様になります。
既存のコインパーキングですと、フラップ板や現金精算機など、工事費用を含めそれなりにコストがかかり堅牢なシステムを準備しないと、なかなかコインパーキングが開設できないという課題があります。そこをIoTのテクノロジーやクラウド技術の進展により、「代替するようなソリューションができないか?」という起点から取り組みを始めています。
そのために、今回バッテリーで運用できる車を検知するセンサーと、全国のセンサーを置いた駐車場の満空状態を管理するシステム、オンライン決済のシステムを一式として、トータルソリューションとしてコインパーキングの事業者様向けに提案できるようなサービスを実現したいと考えております。
同時に、ドライバーの方にも駐車場の利用体験に対して、新しい価値を提案できるのではないかと思っております。
今の駐車場は、現地まで行かないとその駐車場が空いているかどうかわかりません。一方、我々のソリューションではセンサーによって、その駐車場の状態をリアルタイムにモニタリングしていますので、お客様に常に最新の情報を提供できます。
しかしせっかく空きを見つけても、移動している間に他の方に先に取られてしまうことを防ぐために、直前予約と言う考え方を取り入れました。駐車場を見つけていただいて、入庫までの30分ぐらいの間を、そのお客様向けにリザーブさせていただきます。他の方の予約を受け付けないということです。
さらに、駐車場に止めた後、通常ですと用事を済ませて戻って来られて、自分の止めた駐車場の番号を押して精算して出庫する流れになりますが、この精算時に細かい小銭が必要だったり、釣り銭切れでお釣りが出ないとか言ったようなトラブルに遭う時があります。今回の我々のソリューションでは、クラウド上でお預かりしているクレジットカードからオンライン精算できます。具体的には、入庫出庫の時間をセンサーで検知していますので、車を駐車場から出庫するだけで、そのご利用の料金の精算までシステム側で終わってしまいます。
「ちょっと新しい時間貸しのコインパーキングの利用体験」を実感していただける駐車サービスになります。
―予約しておいたら、他のクルマが入れなくなる仕組みはあるのでしょうか?
山本: 不正入庫に関して直接のガードの仕組みはないのですが、例えば予約されていない状態の駐車場に他の方がクルマを入庫されますと、システムで検知することができます。
そのような場合、我々が業務提携している事業者様(プレステージ・インターナショナルグループ)にシステムから自動で通知が上がり、現地に駆けつけさせていただいて、貼り紙等でご案内しています。恐らくは、利用方法をご存じなくて、間違って入庫されたようなケースが多いと思いますので、適正なご利用をこちらからお願いするというような措置をやっていきます。

-不正入庫か、予約された車かどうかはどうやって判断するのでしょうか。
山本: 車の判別というところは現在対応しておりません。ドライバーへの通知については、現時点では、自分が予約した駐車場に到着する前に、自分宛てに入庫の通知が来たというところで気付いていただく流れになります。こちらは、今後もサービスの中で改善はしていきたいと思っております。
もしくは現地まで到着されてから、予約していた駐車スペースに他の人が入ってしまわれている場合は、専用のコールセンターにお問い合わせいただいて、我々の方から近隣の別の駐車場をご案内するという対応を取っていきたいと考えております。
そもそもこのサービスの企画を検討している段階で、月極の駐車場がたくさん空いているからといって駐車する方は、現実問題として1パーセント以下というデータも確認しております。
また最近のコインパーキング業界では、カメラのみのソリューションや、チケットによる前払い制の導入の動きも出て来ています。ドライバーと駐車場事業者の間の信頼関係というのが少しずつできてきているのかなと思っています。
-ドイツのボッシュ社の事例などは参考にされたのでしょうか。
山本: 駐車場を探すという、リアルタイムのニーズに対して、オンデマンドで空いているスペースをご提案できるようにしていきたいという、めざす世界は共通かなと思っております。
冒頭にも申し上げましたが、我々のソリューションの特徴として、センサーとゲートウェイを完全に電源レスと言いますか、バッテリー運用で仕上げていきたいと考えております。これによって、従来、コインパーキングを開設する時に必要になっていた、大掛かりな重機を持ち込んでの工事や、あるいは通信や電気回線の有線の配線工事の期間とコストを、軽減できるというところに強みを発揮していきたいと考えています。
昨年6月からの実証実験の段階では、まずセンサーの開発を優先してきており、センサーのバッテリー化に取り組んでおります。今後の商用展開に向けては、ゲートウェイのソーラーパネルによるバッテリー運用を実現していきたいと考えております。
-センサーも中継器(ゲートウェイ)もソーラーパネルなのでしょうか。
山本: センサーの方は地面に設置するものですので、ソーラーパネルと相性が良くありません。回路・基板を省電力で設計し、内蔵バッテリーで長持ちさせられるように、今、製品としてのバランスを取っているところです。スマートフォン等と異なり、30センチ四方のセンサーの筐体がございますので、内部に若干のスペース的な余裕はあります。そこにバッテリーを入れて、車のセンシング処理に関しても省電力の工夫をし、バッテリー無交換で3年間持たせるようにしたいと考えております。
-ところで、スマートシティ構想から考えると、このスマートパーキングの話は世界的にもすごく注目されていてド本命です。勝手なことを言うと、インフラをちゃんと持っている御社のような会社にやって欲しいなと、もともと思っていました。将来の構想を聞かせてください。
山本: まず、対ドライバー向けの利便性という意味では、車を運転しながらスマートフォンで予約するというところに、道路交通法の関係もあって、一旦車を止めてサービスを使っていただくというところは、やはり改善の余地があると思っております。
スマートフォンのみではなくて、カーナビのサービスやシステムと連携できたり、これはかなり先の話になると思いますが、自動運転の世界が到来した暁には、車が人を目的地まで送り届けた後、自律的に空き駐車場を見つけて、停車しに行って、精算して帰って来るというような世界に、少しずつ近づいていければ良いなという、夢は持っています。
また、今は駐車場というスペースに対して、センサーを使ったソリューションを出していますが、他にも車が使うロードサービスは、充電スポットとかいろいろありますので、そういったユースケースに対しての応用の可能性も常に見ていきたいなと考えております。

-御社は高いレベルの自然言語対応をお持ちですので、それを活用すれば運転しながらでも「パーキング探して」と話したら、スマホが「ありました」と答えるということができそうですね。
山本: そうですね。対話エージェントを活用して操作性を高めていくというのも、方向性の一つとしてはあります。
-今のところはまだやられてないということですね。
山本: はい、現時点ではそうですね。我々のプロジェクトで大切にしたいのは初期段階であまり作り込みすぎないということです。初期の段階では、車を検知して、予約ができて、オンライン精算ができるというところにフォーカスして、一旦作り上げ市場に投入した上で、お客様の反応を見ながら、足りない部分を少しずつ改善していきたいと思っています。
-わかりました。いつからスタートするのでしょうか。
山本: まだ現時点では決めていないのですが、2016年6月から実証実験を開始し、11月から試験サービスと言う形で、株式会社シェアリングサービスの「トメレタ」というサービスで、実際のお客様に使っていただける試験サービスを提供し始めています。そのフィードバックを取り込みながら、2017年度には市場に投入できるよう、今計画を立てているところです。
-既に既存のフラップ板などのシステムが入っているコインパーキングには御社のソリューションは導入されないのでしょうか?
山本: そこは駐車場事業者様のご判断になると思います。例えば今回の試験サービスでは、一部の駐車場をハイブリッドのような形で実現しています。一部は現金精算と現地の看板で入庫・利用いただき、一部はスマホからの利用専用と言う形で、一つの駐車場用地を二つのサービスで共存できるような構成としています。我々のソリューションは、インターネット経由でリアルタイムにお客様を集客できる点が特長の1つですので、既存の仕組みとの相互補完も、一つの可能性としてあるのかなと思っています。
また、別の切り口の補完的な考え方としては、既存の仕組みでは採算性の観点で取り扱いづらい都心部の狭小地を駐車場にしていくというのはもちろんですし、例えば月極駐車場で一部空いているところを一時的に、時間貸し駐車場として使えるようにするというところも、コインパーキングの事業者様にとっては、補完的な、プラスアルファになるかと考えております。
-空いている月極駐車場を活用するのはいいですね。

廣澤: 都心の駐車場自体、そもそもずっと駐車場の場所が少ない上に結局2、3年経つと用途が変わり、そこにビルが建ったりします。こういった用途変更のタイミングで、我々既存のフラップ板や現金精算機ではなく、我々のソリューションを代替品として採用していただくという形もあるのかなと思っています。
ちなみに、設置の容易さという観点では、我々のソリューションは、車室の地面に穴を開けてセンサーを固定接地するだけなので、キャリブレーションなどを含めても、システムの設置工事は1車室30分ほどで終わります。
山本: 世の中の駐車場シェアリングサービスとしては、インターネットを介した1日貸しのサービスがあります。あえて特徴的な対比をすると、我々はセンサーで常に駐車場に車が居るかどうかというのをモニタリングできるので、今のコインパーキングに近い時間貸しの駐車場のサービスを実現できるという点があります。
実際にご利用された時間をモニタリングしていますので、使った分だけお支払いいただけます。これは、ドライバーの方にとっても良いことだと考えていますし、1つの駐車スペースを1日に複数人の方でご利用いただく方が、都心部の土地、空きスペースの有効活用にもなるかなと考えています。
今まで駐車場にすることができなかった土地の駐車場化、また、駐車場化した暁には時間貸しで、複数人の方に使っていただけるようにしたい、その両面で、我々のテーマである「都心部の駐車場不足」という社会問題に対して解決策を出していきたいと思っています。
-まさにスマートシティの根幹ですので、そうなって欲しいですね。
廣澤: 付け加えると、通常ですと、駐車料金を変えたいという時はまず看板を書き換えなければいけませんが、我々は物理的な看板を出さないため、サーバー側で料金設定を変えれば、すぐに対応可能です。そういうトライアンドエラーができるので、駐車場事業者が駐車場の収益を上げるための試行が、もっとやりやすくなるのではないかと感じています。これは我々のようなウェブ型サービスの特徴で、これにより市場原理が働いて、駐車場事業者にも利用者の皆さんにとってもハッピーな世界になれば良いなと思っています。
次ページ:インタビューの後、実際に「docomoスマートパーキングシステム」を見せていただいた。
インタビューの後、実際に「docomoスマートパーキングシステム」を見せていただいた。
山本: 初期の段階では、スマートフォンで予約する駐車場サービスだという認知度が足りないところがありますので、広告を兼ねて物理的なサインボードを置かせていただいています。ゆくゆくはサインボードなしで、「予約して、現地で車を入れるだけ」というのをめざしていきたいと思っています。
-これは何のセンサーでしょうか?
山本: 詳細については申し上げられませんが、車体の接近に反応するセンサーで、ゲートウェイと近距離無線で通信しています。

-定期的に飛ばしているのでしょうか。それとも車の接近をトリガにアクティベートして飛ばすのでしょうか。
山本: 定期的にモニタリングしています。一方、できるだけセンサーの駆動時間を限られたバッテリーで長持ちさせたいため、センサー側の計算処理、通信処理をサービス性に影響しない範囲でできるだけ間引くなどの省電力化の工夫をしているところです。
このセンサーは我々が自主設計しており、部品選定から、回路図まで、ユカイ工学さんというパートナー会社にご協力いただいて、一緒に作り上げてきているものです。ユカイ工学さんには、回路設計や特に筐体の構造、デザインの点で多大なご協力をいただいています。
-筐体はどういう観点で作っていますか。
山本: まずはお客様にとって安全であること、次に車のセンシングにも干渉せず、パッと見も可愛らしいデザインで、ちょっと新しいコインパーキングという先進性をちょっとでも表現できたらと思って作りました。もちろん耐荷重の強度設計も計算しています。
既存のフラップ板ですと、切り返した時に上がってきて、大切な車をぶつけてしまうではないのかという恐怖感があるので、車に直接ぶつかる部品がないセンサーの仕組みは、そう言った点でもお客様の心理的負荷を、少しは下げられるかなと思います。
一方、我々にとっては、駐車場という屋外フィールドは未体験の環境であったため、実証実験を始めてみて、最初は上手くいかないフェーズも結構ありました。

-どういう問題がおきたのでしょうか。
山本: いろいろありましたが、一番大変だったのは、車種によって、センサーが反応しやすいポイントとしにくいポイントがあったというところです。センサ―の設置場所も工夫したり、センサーの反応度合いを改善したりしていきました。
車の製品仕様では前提条件を固定しきれないこともありますし、車体に使われている材質も、車によって必ずしも一緒とは限りませんでした。さらに、駐車スタイルにも、場所やドライバーのお好みで前入れ後ろ入れなど、いろいろな形態がありますので、そういったものに対応しながら今日に至っています。
-クルマを切り返したりしていると、1回入庫して1回出た、ということになって、カウントが重複されてしまうことはないのでしょうか。
山本: クルマが入庫して、状態が安定したタイミングを、入庫時刻として捉えています。
お客様の操作としましては、予約して入庫した後、予約された駐車場に確実に入られたことの確認という意味で、お客様側からチェックインという操作をしていただき、このチェックインを契機に課金を行います。
-パートナー開拓はこれからでしょうか。
山本: モノとして、徐々に完成度上がって来ていますので、これから駐車場事業者の方にご提案をしていきたいと思っています。
-駐車場事業者と御社が契約するのでしょうか。
山本: はい、そうですね。我々はあくまで黒子として、駐車場ソリューションのプロバイダーになりたいと思っています。主役は、あくまで土地選びをされる駐車場事業者様です。駐車場一つ一つの料金設定も我々が決めるわけではなく、駐車場事業者様がそれぞれの経営の観点から決めていただく というのを前提にしております。
ドライバーの方へのサービス普及のためには駐車場の数がポイントになりますので、できるだけ多くの駐車場事業者様の方に採用いただいて、いろんなエリアに増えると良いなと思っています。
試験サービスは、2016年11月22日から、トメレタ からスマートフォンで使っていただけるようになっています。スマホのサービス動線は、トメレタの既存のものを再利用させていただいています。

山本: 試験サービスではトメレタ様のサービス動線で提供していますが、我々が商用展開する際には、ドコモ側で全駐車場事業者間の共通のアプリを作り、ドライバーに展開していきます。開発中ですが、下記のようなアプリを提供予定です。

山本: もしアプリを駐車場事業者様ごとにそれぞれ制作・展開するとなると、普及のためのコストがどんどん増加してしまいますし、駐車場ごとにアプリを使い分けることになってしまい、お客様にも不便をおかけしてしまいます。そのため、黒子の我々の方で、共通アプリとして実現しドライバーに展開していきたいと思っています。

-本日はありがとうございました。
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