ハノーバーメッセ2019レポートの第三弾も、「可視化の先にあるもの」として、富士通のブースで展示されていたデジタルツインを活用した未来予測のデモを紹介する。
上海の組み立てラインでのデジタルツイン事例
このデモは、中国、上海のINESAという製造メーカーにおける、実際の組み立ての工場のデジタルツインを作ったという事例だ。
この工場はSMT(表面実装)ラインだが、ビルが4階建になっていて、2階の工場設備では、3DCGで現実世界をデジタル上にコピーしている。「ウォークスルーモード」では、デジタルツイン上を歩きながら、リアルタイムに現実世界の状態を見ることができる。
また、4階の倉庫では、自動搬送機(AGV)ができあがった製品をはこび、ロボットアームが棚に格納している様子を見ることができる。
視点を切り替えることで、AGVの視点や、ロボットの視点、エレベーターの視点など様々な視点で見ることができる。
ウェブベースで作られているにも関わらず、かなり高精細で軽快に動いた。そこで、デジタルツインを3DCGを使ってここまで再現性を高くするというメリットを聞くと、オファリング推進本部 AI&IoTオファリング統括部 オファリング企画部兼エバネジェリスト推進室 部長の及川洋光氏は「人にとってわかりやすくするということ。」そして、「装置のメンテナンスなどをやる担当者は別の場所にいることが多い。そこで、リアルタイムにデジタルツインで正しく情報を見ることができれば、離れた場所からでもメンテナンス指示を細かくだすことができる。」と述べた。
通常離れた場所に詳しいエンジニアがいた場合、出張が発生するし、なによりエンジニアが到着するまでの間生産が止まる場合もある。
さらに、多くの現実世界で取得することのできるデータを、デジタルツインに投入することで未来の予測も可能となるのだという。
台湾の国営ダムでのデジタルツインのデモンストレーション
また、このデジタルツインをつくる技術を使って、台湾のダムを作る国営企業と一緒に作った「スマートダム2025」のコンセプトデモも紹介された。
ダムに貯まる水のデータや、大気の状態のデータなどをデジタルツイン上で再現することができる。
もちろん、現在でも、ダム監視システムなるものは存在するのだが、グラフの表示しかできないため、読み取る力がないと状況を細かく読み取ることは難しいのだという。
一方、現実世界の地形データや水位の情報などを細かくデジタルツイン上に再現すると、上流から流れてきた水がダムに貯まり、下流にどう流れているか、といったこともわかりやすく可視化することができるのだ。
そして、過去の台風の時の水位上昇実績から、「もし台風が来た時に未来(ダムの水位)がどうなるのか」ということを予測することも可能となっている。
こうして、ダムの氾濫を予測して対応策を検討するということができるということだ。
他にもダムの周辺状況を把握するために、ドローンを飛ばす指示をデジタルツインから行うことができるという。現実世界で5G通信を活用し、実際にドローンからリアルタイムでダムの映像を取得し、デジタルツイン上で見ることができるのだ。
及川氏によると、「この技術は、ダムだけでなくスマートシティなどでも活用することができて、様々な場面でリアルの世界をコピーして現状を把握したり、未来を予測することが可能となるのです。」という。
この富士通の展示でも、単に現状を可視化をするだけにとどまらず、様々なパラメーターをデジタルツインに投入することで、未来を予測し、様々な局面に対応していこうとする、これまでにはなかったビジネスモデルを作ろうという動きを感じた。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。