2019年11月29日、「ドリンクジャパン」内にて「飲料品の製造現場をリアルに革新するオムロンのi-Automation!」と題された講演が開かれ、オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー オートメーションセンタ営業技術部 山本郁男氏が同社のモノづくり革新コンセプト「i-Automation!」の概要や、飲料製造業に応用可能な事例などを紹介した。
当記事では「i-Automation!」の内容と、可視化によるデータ活用、およびAIによる予兆検知の事例を中心に講演の模様をお伝えする。
「i-Automation!」3つのキーワード
講演では「i-Automation!」の概要を語る前提として、飲料業界に限らず全てのモノづくり企業に共通する経営課題について説明があった。課題は大きく分けて以下の4点があるという。
- グローバル最適生産:「ものをどこで調達し、どこで作って、どこで売るのか」というのが不安定になっている
- 多様性の対応:労働者・消費者を問わず、それぞれの国に合わせた生産形態、商品のニーズに合わせ込む必要があり、結果的に多品種となる
- 速いビジネスサイクルへの対応
- 厳しい企業競争と高齢化人材不足:「教師は10人いたとしても、教え子はたった1人」というような組織構成
そして、4つの経営課題に対しどのように解決していくのか、という革新の方向性が提示された。
- 世界のサプライチェーンをまたいだ統合システム構築:クラウドを介して大量のデータをリアルタイムで扱い、自国からも海外の工場を見ることができる環境を作る
- フレキシブルな生産システム:専用マシンを移管するのではなく、既存の機械そのものをフレキシブルにする
- デジタルエンジニアリング革新:機械の立ち上げ作業は予めシミュレーションしてスタートする時代になる
- ノウハウ伝承・活用:AIを活用する。オムロンでは熟練者のノウハウを教え込むことにターゲットを絞っているとのこと
こうした革新の方向性を踏まえた上で、オムロンの「i-Automation!」は以下に挙げる3つのキーワードを中心に進めているという。
- integrated(制御進化):超高速・超高精度の機械制御による生産性向上
- intelligent(知能化):データの最大活用による学習・進化するモノづくりの実現
- interactive(ヒトと機械の新しい協調):人と機械の協働による超柔軟性の追求
今回の講演では特に「intelligent」、AIを活用した装置の知能化についての話題が中心となった。
細かいデータ分析で分かる機械の異常
AIの話を始める前に、その前提となる機械の稼働状態の可視化についての説明があった。
機械はいきなり停止するわけではなく、何らかの予兆がある。その予兆がどの部位で、いつ発生するのかを分析・把握することが、装置の知能化を始める前にまず大事なのだ。こうした内容をオムロン・山本氏は「心電図による病気の発見のようなもの」と例えて、食品製造業に携わる聴講者に向けて説明した。
講演では顧客の工場内でワイヤーを溶接する工程の温度の特性をグラフ化したものが例として映し出された。溶接では微妙な温度の変化でも熱量が足りなければ溶接不良を起こし、熱量が多すぎると溶けた物がボール状になって異物になってしまう。ミリ秒~マイクロ秒オーダーで細かくデータの変化を見ていくことで異常を掴み、不良の発生などを防ぐことができるのだ。
顧客の工場内のプレス機械でものをはめ込む際の例も紹介された。ここではプレスする速度とプレスする力の変化をグラフにして可視化し、不具合が起きる際の特徴を発見する。
上記のような事例を紹介しながら、データ分析のアプローチについて4つの段階があることが説明された。
- データ収集・前処理:特徴が出現する程度の短い時間でデータ収取
- 特徴点抽出:正常データと異常時データを複数抽出し、分類する
- 特徴量化:特徴点を判断し、特徴を量化する
- モデル学習・検証:複数特徴量により良否判断を行い、判定の確からしさを検証する
熟練の「カン」を振動で可視化する
細かくデータを分析した事例として、オムロンの草津工場内における、振動解析を用いた金属切削の加工時間短縮の例が紹介された。
草津工場では放電加工用の電力を加工するためにエンドミルという工具を使っていたが、これがかなりの頻度で折れてしまう。エンドミルを折れないようにするためには、加工速度を良い加減で調整する必要がある。しかし速く動かせば破損が頻発し、逆に破損しないようにゆっくり動かすと今度は生産性が上がらないという問題が発生する。
この加工機械を動かす熟練工に2か月ほどヒアリングを行ったが、「勘だよ」という曖昧な回答が返ってきたという。そこでオムロンでは音=振動に着目し、加工機械のセンシングとコントロールを行うことにした。
まずはセンサーによって、エンドミルが細かい切削を行う際に生ずる周波数を計測する。そして振動データの最大振幅と、加工抵抗=エンドミルを当てる力の相関関係を比較し、比例することを確認したという。
そして振動が一定の大きさにならないように速度を制御するアルゴリズムを構築し、加工機械にフィードバックするような仕組みを作ったそうだ。これにより加工時間が従来に比べて40%短縮し、工具の摩耗量も20%削減することが出来たという。
事例紹介の最後に山本氏は「上記の例は金属加工であり食品製造業とは少し離れた分野ではあるが、細かいデータに様々なヒントがある、という事をこの事例で伝えておきたい」と述べた。
ねじ締め部品製造の予兆検知
溶接加工・プレス加工の可視化、金属切削の時間短縮の事例紹介が終わった後、AIによる予兆診断の話に入った。
講演で強調されていたのは、予兆診断においてAI技術のうち「外れ値検知」がまず活用価値が高いということ。簡単に言えば機械の状態や動作が「いつも通りではない」ということをAIに確定させて、普段は起こり得ないようなデータ点を検知する手法を取る、ということだ。
ここで「飲料業界におけるペットボトルのキャップ作りなどに応用できるかもしれない」ということで紹介されたのが、車載部品工場のAIを用いたねじ締め検査の事例である。
工場では車載用のねじ締め部品を製造していたが、EV車が登場して高電圧を扱うようになってから、ねじ締めの部位が斜めになっていないか、浮いていないか、といった部分がより細かく問われるようになったという。そこでねじ締め部品を加工する際の力や回転角、昇降方向や速度を監視し、AIによって設備異常の予兆を行っているそうだ。
オムロン・山本氏は「AI活用もプロセスありき。まずは機械の情報化を行い、特徴点を見つけ出し、それを量化して、という手順を踏まえた上でAIの予兆検知に取り組んで欲しい」と述べて事例の紹介を終えた。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。