FAプロダクツは、民間企業同士の電力取引実証のプロジェクトの立ち上げを発表した。
この実証プロジェクトは、デジタルグリッド株式会社(以下、デジタルグリッド)が提供する「デジタルグリットプラットフォーム」(以下、「DGP」)を利用し、太陽光発電の事業者と電力需要家(消費者)の間で、電力の取引、もしくは環境価値(自然エネルギーを利用した発電で生じた電気における、化石燃料の削減や二酸化炭素排出抑制といった付加価値のこと。)の取引を行う、というものだ。電力会社を介さずに、民間企業同士で行うP2P電力取引であることが、本プロジェクトの特徴である。
FIT制度の限界を見据えた、新たな再生可能エネルギー取引を目指す
今回、民間企業間のP2P電力取引実証プロジェクトが立ち上がった背景には、FIT制度(固定価格買取制度:太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギーを用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電力会社が買い取ることを義務付けた制度)が限界を迎えている事があるという。
FIT制度は、本来再生可能エネルギーの普及を意図して設けられた制度だが、電力会社が買い取りに要した費用は、国民の電気料金に上乗せした分によって賄っている。つまり、国民負担の増大が懸念されているのだ。
また、産業用太陽光発電の電力固定買取FIT価格は毎年下落しており、FIT制度を継続することに限界が来ている、という考えもあるという。
一方で、電力の小売全面自由化や、2020年4月に実施される発送電分離によって、これまでの電力会社中心の電力ネットワークからビジネスが解放され、様々な事業者が参画しやすい環境が整いつつある。
そこでFAプロダクツは、FIT制度に替わって再生可能エネルギー普及を担う、新たな電力取引として、民間企業間での合意に基づいたP2P電力取引に注目したのだという。
FAプロダクツ 代表取締役社長 貴田義和氏は「FITだけに頼る形で、再生可能エネルギーを普及していく事は、困難な状況になっている。一方で、新電力の市場が拡大すると同時に、公平に電力ネットワークが利用できる環境になったことで、新しいビジネスが生まれる可能性が出てきた。その中で、FAプロダクツはP2Pの電力取引に注目した」と述べた。
「Digital Energy Network」構想
今回のP2P電力取引実証プロジェクトは、FAプロダクツが進める「Digital Energy Network」構想の第1フェーズとして位置づけられているという。
「Digital Energy Network」構想とは、発電事業者・商社メーカー・EPC業者(施設の設計・調達・建設を請け負う業者)・電力需要家(消費者)・投資家・自治体が参画する、新しい電力取引ネットワークの構築を目指すことだ。
FAプロダクツ SmartEnergy事業部長 今野彰久氏は、「Digital Energy Network」構想のコンセプトについて、以下の3点を挙げた。
- 再生可能エネルギー取引ネットワークの構築
- 太陽光発電建設Market Placeの提供
- コネクテッドインダストリーズの推進による、太陽光以外のエネルギーサービスの創出
再生可能エネルギーの利用を含めた、スマートファクトリーのASEAN展開を目指す
さらに、FAプロダクツ 代表取締役会長 天野眞也氏が登壇し、P2P電力取引とスマートファクトリーの取り組みについて、同社が目指す方針について説明を行った。
まず天野氏は、日本の電力エネルギーの4割を製造業が利用している事を示し、「スマートファクトリーの取り組みは、効率化さえ出来れば終わり、という事にはならない。工場が電力需要の4割近くを利用しているのであれば、デジタルエネルギー・デジタルエナジーへの取り組みは絶対に避けては通れない。再生可能エネルギーも含めたスマートファクトリーの取り組みを、製造業は目指さなければいけない」と述べた。
その上で、今回のP2P電力取引実証プロジェクトの先において、スマート工業団地におけるVPP(Virtual Power Plant:分散電源を統合制御し、あたかも1つの発電所のように機能させるシステムのこと)やP2P電力取引の実装を目指しているという。
さらにFAプロダクツは、スマートファクトリーと「Digital Energy Network」構想を掛け合わせ、ASEAN地域への展開を視野に入れているとのことだ。
FAプロダクツ 天野氏は「ASEAN地域は産業が急発展する一方で、環境が著しく悪化している面もある。日本の製造業が世界へ進出する場合、自律化した工場技術のみならず、太陽光や蓄電池といった、再生可能エネルギーのネットワークを掛け合わせて持っていく必要がある」と語った。
具体的な取り組み内容と各社の役割
今回のP2P電力取引実証プロジェクトは、FAプロダクツが幹事企業となり、ミライネクト・デジタルグリッド・日東工業・徳倉建設・坂田建設と共同で進める。具体的な取り組み内容は以下の通りである。
まず、FAプロダクツが太陽光の発電所を建設し、発電事業者となる。そして、サービスプロバイダであるミライネクトを通じて、都倉建設と坂田建設に対して、電力および環境価値の取引実証を行う。
この電力および環境価値の取引は、デジタルグリットの提供するプラットフォーム「DGP」を介して行われる。そして、この取引実証を通して、DGPの検証や課題の抽出を行う。同時に、託送電力供給に関する送配電事業者との協議、接続実績を作る予定だという。
なお、日東工業は電源設備の提供や、その設備の検証を担当する。また、FAプロダクツの発電所建設については、都倉建設と坂田建設が担当するという。
DGPは、最終需要側が主体的に電力を調達できるプラットフォーム
DGPは、発電事業者と電気の最終需要側を紐づけ、発電事業の資格といった電力プロ資格を持たない法人でも、気軽に電力の売買が出来る仕組みを提供するプラットフォームだ。
DGPを利用した電力取引において、最終需要側は電力会社を介さずに、主体的に電源を調達することが出来る。これにより、例えば、高コストの再生可能エネルギーと、低コストの電源を拠点ごとに使い分け、電力コストをコントロールする、といった事が出来るのだ。
デジタルグリッド 代表取締役社長 豊田祐介氏は「需要側が主体的に電力を調達できることで、電気代が安くなるだけではなく、今までの電気代の水準を保ち、再生可能エネルギーを利用する事が出来る」と述べた。
デジタルグリットは、「デジタルグリッドコントローラー」というIoTデバイスの提供も行っている。これを発電拠点に設置することにより、「需給管理や発電の予測をAIと連携し、再生可能エネルギーをトラッキングする。」と述べた。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。