AI活用により、ティーチングオペレーションの実現につなげる
AIを活用すれば、どのようなメリットが産業用ロボットやAGVに生まれるのか。
セミナー内で例に挙がったのが、ピッキングロボットだ。これまでの産業用ピッキングロボットは、積み方が一定ではない製品を精確に取り出す作業が苦手だった。製品の位置や角度といった多くの情報をひとつずつスピーディに定義し、アームを柔軟に制御する必要があったからだ。
しかし、AIを搭載すれば、製品を捕捉、判別し、ロボット自身でアームを制御することができる。つまり、エンジニアが様々なパターンに合わせて、プログラミングする必要がなくなり、難しい作業をロボット自身でこなせるようになる、というのだ。
また、ロボットが自己学習機能によって自らの動作をデータとして分析し、最終的に自分自身をティーチングすることが出来れば、ティーチングのコストや作業員の育成コスト、運用コストの抑制につながる、と矢島氏は述べた。
しかし、AIの活用については課題がある。学習の結果、得られた推論モデルをクラウド側で実行しようとする場合、ネットワークの限られた帯域幅によるレイテンシーのために、処理の待ち時間が発生する場合がある。また、クラウドとのデータの送受信や保存におけるセキュリティリスクの問題や、データ送信にかかる通信コストや消費電力の問題が生じる恐れもある。
そこで、推論モデルをエッジ側のコンピュータで処理して課題を解決するために、アドバンテックは、以下のようなエッジAIソリューションを用意した。
AIアクセラレーションモジュール「VEGA」シリーズ
AI処理を効率的にアクセラレートする組込みモジュールのシリーズである。特徴はインテル社のMovidius VPUを搭載している点で、超消費電力でありながら1秒間に4兆回以上の演算ができる、と矢島氏は説明した。「VEGA」シリーズでは、このMovidius VPUを最大8個まで搭載した製品ラインアップを用意している。

「VEGA320」は、PCI ExpressM.2インターフェースに、「VEGA330」はmini PCI Expressインターフェースに対応しているので、それらのコネクタを備えたマザーボードやシングルボードコンピュータに装着して利用する。
PCI Express拡張カードタイプの「VEGA340」は、PCI Express×4拡張スロットルを備えたマザーボードやボックスシステムに装着して、エッジAI推論システムとして利用できる。
AI推論システム「AIR」シリーズ
PC型ボックスに「VEGA」シリーズを実装した、AI機能を搭載したボックスPCとしてそのまま利用できる製品である。

デジタルサイネージ向けプラットフォームをベースにした「AIR100」、リンデルマウントタイプの小型アファンレスPCをベースにした「AIR101」、パワフルなコンピューティングリソースとの併用ができる第6世代コアプロセッサを搭載した「AIR200」、Xeonプロセッサを搭載しGPUカードの拡張ができる「AIR300」と、ニーズに合わせて選べる4つの製品を用意している。
「VEGA」「AIR」の想定ユースケース
「VEGA」「AIR」のユースケースについては、アドバンテックは以下のようなものを想定している。
AGVやドローンへの活用
AGVやドローンといった機器にエッジAI機能を内蔵する場合は、小型であること、バッテリー動作でも長時間駆動することができること、低消費電力性が求められる。そこで「VEGA320」や「VEGA330」のような小型モジュールの活用が有効であると考えられる、と矢島氏は述べた。
AOIへの活用
高速な画像判定で品質検査を行うAOI(Automated Optical Inspection: 自動光学検査)も、AIの活用が期待される分野だ。マグカップ製造工場のエナメルコーティング工程における気泡と亀裂の検出にAOIを利用する際、「AIR300」がAIモデルの学習を行うトレーニングサーバーとして活用されている例が、セミナー内では紹介された。

交通、リテール、医療など幅広く活用
そのほか、街灯の交通状況モニタリング、ビデオ監視、キオスクやスマートリテール、医療の画像解析といった分野で、求められるサイズや低電力性、コストパフォーマンスの要件によって、最適な「VEGA」シリーズ、「AIR」シリーズを活用してもらいたい、と矢島氏は述べた。
「Edge AI Suite」で推論モデルを素早く実装
「VEGA」シリーズや「AIR」シリーズといったハードウェアの機能をフルに活用するためには、用途にあった学習を行い、その結果出来上がった推論モデルを、エッジに素早く実装するための環境が必要である、と矢島氏は述べた。
そこで、エッジAIソリューションの開発担当者が手軽に利用できる開発環境としてアドバンテックが用意したのが、「Edge AI Suite」である。

「Edge AI Suite」は、AIトレーニングプロセスが最適化されたインテルの「Open VINO」ソリューションを統合したソフトウェアパッケージで、インテル社提供の事前学習モデルを採用し、AIモデルの結果を即座に取得できる、と矢島氏は説明した。
この「Edge AI Suite」を使用すれば、CPU、GPU、VPU機能を備えた、アドバンテックのエッジAIプラットフォームで実行されている既存のモデルを起動できるそうだ。さらに、特定のバーティカルアプリケーション向けにすぐに使用できる、サードパーティのAI SDK(software development kit:ソフトウェア開発キット)も数点統合しているという。

矢島氏は「Edge AI Suite」のソフトウェア構成図を具体的に解説した。OS、GPUやVPUのドライバの上に、ミドルウェアとして「Open VINO」が存在する。「Open VINO」内には各種機械学習フレームワークを用いた事前学習済みモデルが含まれており、このモデルをモデルオプティマイザ(最適化アルゴリズム)に通すことで、推論エンジンを構築する。アプリケーション層では、この推論エンジン構築をサポートするUIや推論エンジンを用いた画像認識、サードパーティへのAI SDKへのインターフェースを提供している。
このツールを使えば、オープンソースで提供される様々な学習エンジンを使用して生成した学習モデルを、推論エンジンに変換して簡単にユーザーアプリケーションにデプロイすることが出来る、と矢島氏は述べた。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。