2020年7月16日、ウイングアーク1st株式会社のウェビナー「生産デジタルツインの現実解 ~目指す姿とそのアプローチ~」が開催された。
本記事は、同ウェビナーでのパネルディスカッションについて紹介する。このパネルディスカッションでは、前段の講演内容から更に発展し、どうやってデータを取得するか、取得したデータをどの様に活用するのかという点に関して、実際に現場を担当しているパネリストが現場での難しさや状況について語った。
【登壇者】
- ウイングアーク1st株式会社 Enterprise統括部 製造企画営業部 IoT推進グループ グループマネージャー 小林 大悟氏
- シーメンス株式会社 Siemens Digital Industries Software プリセールス本部 泉 佑樹氏
- 株式会社マクニカ インダストリアルソリューション事業部 事業部長 阿部 幸太氏
- IoTNEWS 代表/株式会社アールジーン 代表取締役 小泉 耕二(モデレーター)
設備から稼働データを取得する難しさ

まず、IoTNEWS 小泉からマクニカの阿部氏に対し、「産業機械からデータを取得するということは難しいという話が講演であったが、具体的にどういったところが難しいのか」と質問した。
阿部氏は質問に対し、「データには大きく2つあり、設備から取れる稼働データと、センシングデータの2種類がある。」とした上で、PLCからゲートウェイにデータを上げるまでのところのプロトコル変換が難しいと語った。
PLCから稼働データを取るということは、簡単だろうと思われていることが多い。しかし、生産設備には、古い機械も新しい機械も混在しており、メーカーによって仕様も様々なため、まとめてデータを見るということは難しい。メーカーやプロトコルの差を吸収してゲートウェイに上げるというところまでの手間暇がボトルネックになっていることが多い。
ゲートウェイは、機種による特性があるが、データ活用のプロジェクトにおいて新規に追加するケースが多いため、現場の特性に合わせたものを選択することができる。
一方で、PLCは元々現場に設置されていて古くなっているものが多いため、レトロフィットするのが大変である。データを外に出せるポートがあるようなPLCがある場合はまだいいが、機械に組み込まれているPLCだとデータを取得するためのハードルは更に上がる。何のデータをどれくらいのタイミングで取れるかという情報を非開示にしている機械も多くあるという。
シーメンスの泉氏は、センシングの部分に難しさを感じているという。
例えば、加速度計を付ければ簡単に速度が計測できると思われているが、実際は付け方が間違っていたり、そもそも設置する場所がなかったりするそうだ。センサーが現象に適したものではないことがあり、取ってきたデータが使い物にならないというケースもある。そういった場合は、マクニカのような専門家が確認し、それを横展開していくということを行っていくべきだろうとした。
人が関わるデータは疑う目線が重要

ウイングアーク1stの小林氏は、「設備のデータよりも作業者が絡むデータが難しい」とした。BIツールを使用する目的として、完全自動制御されている設備のデータなどはあまり対象にならないという。
BIツールのためのデータは、作業者やマニュアルが絡むことが多く、その大部分は、紙に書かれた日報から取得する。設備のデータと人が書いたデータをかけ合わせる必要があるが、それぞれのデータの精度や粒度などが全く異なる場合があるため、分析が非常に大変だ。
日報データには、ドカ停のような隠すことができない情報は記載されるが、チョコ停のようなその場ですぐに復旧できたものは記載されないことがある。そうした欠落があるままのデータで生産性などの分析を行うと、その分析結果は正しくないものになってしまう。
生産現場は、生産設備と作業者が交わって動いている。収集したデータの裏側を正しく見極めることが重要だとした。
こうした小林氏の話を受けて、小泉から「日報のデータが粒度が粗いのであれば、時報などにすると良いのではないか」と質問が出た。この問いに対し、小林氏は、「そうであるが、実施しようとすると、記入するのが大変だ」と答えた。
付加価値作業の時間を増やし、付帯作業は削減すべきという考え方が製造現場では一般的である。報告の頻度を上げるという行為は付加価値を生まないため、付帯作業が増えることになってしまう。
本来であれば、人のデータもあわせてIoTで自動で取得できるようにする必要があるが、なかなか人のデータを収集することが難しいということが悩みとしてあるという。
製造業が持っている需要とは

続いて、小泉から「データが取れたとして、どの様に活用するのか。どういった需要が製造業から多いのか」という質問が出た。
現場の生産性と経営視点の指標という2つの視点
ウイングアーク1stの小林氏は、製造業の企業から受ける要望として、製造業の現場を担当している方からの問い合わせが多いとした。主に生産管理や生産技術の部門だという。生産技術であれば、設備の稼働を監視し、生産管理であれば、生産進捗を監視して、それぞれ何か問題があれば現場に駆けつけて対応するための問い合わせが多いという。
BIツールの目的としては、その企業の社長が会社の収益を見るために使用するケースもあるという。この要望は新型コロナウイルスの影響を受けて増えているそうだ。例えば、在庫を最適化したい、原価改善をしたいといったような、お金をどうにかしたいような話がある。
しかし、こうした現場側の生産性の話と、経営者側のお金の話は本来であれば繋がっているはずだが繋がっていないケースが多いという。生産現場のデータは形を変えればお金に関係しているはずが、基本的にデータを取った人がデータを使うことが多く、生産技術や生産管理の担当者が経営視点であることは少なく、生産性の観点でのみ使われる事が多い。
逆に、経営者側は現場でどのようなデータが取られているかを知らないことが多く、現場のデータを活用するという考えにならない。データ活用の推進として働きかける必要があるとした。
技術視点からニーズありきの需要へ
マクニカの阿部氏は、顧客からの需要が変化していることを感じているという。元々は、AIやIoTといった技術目線の要望が多かったという。しかしこの2年ほどで、中期経営計画で現状の不安定な状況を安定させるために、デジタルデータをどう活用できるかという需要に変わってきているとした。多品種少量短納期への対応や、生産能力そのものの向上といったようなテーマは実行力があるという。
プロジェクトがセンサーの設置から始まるのではなく、企業のニーズをブレイクダウンした結果、必要なデータが判明し、そのデータを取るためにセンサーを付けるという話が増えてきている。阿部氏は、こうした兆候は良い流れだとした。
正しいデジタルツインモデルの作成
シーメンスの泉氏は、「シーメンスには、プラントシミュレーションの要望が多い」と語った。プラントシミュレーションとは、生産現場のデジタル化を行い、シミュレーションを行うものだ。シミュレーションは数値演算であるため、計算をするとそれなりにデジタル上でモノが流れていくようになるが、その計算結果が精度が高くなければ意味がない。
製造業からは、このデジタルツインのモデルを正しく作るためにはどうしたら良いかという話が多いという。現実世界のデータを取得し、シミュレーションモデルにフィードバックすることで、シミュレーションの精度を上げていくことができるとした。
シーメンスでは、金沢のアイデンという中小企業とMindSphereを使用しデジタルツインを作成している。IT担当者がいなくても構築することができるため、中小企業でもデジタルツインを作成することができたという。今後は、日本での事例をベトナムの工場に展開を行い、ベトナムの状況を日本から可視化しようとしている。
参考:このイベントの他の記事は次のリンクから見ることができます。
ウイングアーク1st株式会社のウェビナー「アフターコロナに挑む製造業。デジタルの活用で、変化に強く儲かる工場を考える2days」
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。