株式会社マクニカが主催するセミナー「コロナ禍に挑む! 製造業が勝ち抜く為のデジタルツイン活用術 〜事例と具体的なアプローチ方法〜」が2020年8月27日に開催された。
本稿では、同セミナーでのマクニカの阿部幸太氏の講演に関して紹介する。
阿部氏は、製造業を中心とした様々な顧客のDXプロジェクトに黒子として参加した経験から、デジタルツインやシミュレーションがどの様にプロジェクトに好影響を与えるのかを語った。
最近のDXプロジェクトの傾向と課題
何年もの間、「デジタルデータを活用しなければならない」などといった情報は溢れていて、実際にDXプロジェクトを運営しているメンバーは聞き飽きているという。DXのプロジェクトに取り組もうとしている企業は、DXの必要性を理解していて、中期計画などに盛り込んでいることが多い。プロジェクトの規模や関わる人数が大きくなっていき、複数の部署から構成された専門の組織などを作っている会社がほとんどだ。経営課題とどう連動させるか、実運用をどうするかを検討するフェーズに移行してきている。
このような状況において、プロジェクトリーダーやメンバーには、期待値や負担が激増しており、マネジメント層は、大きなプロジェクトを運営しなければならず、妥当性や進捗良否の判断が難しくなってきているということが傾向としてあげられる。
こうした大きなDXプロジェクトの根本的な課題は、難易度が高すぎるということだ。一般的なDXプロジェクトは、「不確実な環境で安定した利益を出したい」という課題からスタートすることが多い。
この課題を因数分解していき、ある程度の大きさになったところで、プロジェクトリーダーや部署がアサインされ、テーマを決めていくことになる。現場と課題を整理しながら、課題に対して現場がどのようなアクションを取るべきかということをテーマに割り付ける。更に、その課題をどのようなテクノロジーで解決できるのかということを結び付けなければならない。ここにスコープが出てくる。この部分が非常に難しいという。
このテーマとスコープを結び付けた上で、計画を立て、稟議を通し、現場の課題を整理し、プロジェクトの管理をするといったようなことをすべてやらなければならない。これだけで1〜2年平気でかかってしまう。実力がある社員が苦労しながらやっているのが現状だとした。
デジタルツインによる効果
阿部氏は、DXプロジェクトがそもそも難しいとした上で、だからこそシミュレーションやデジタルツインを活用すべきだとした。その背景にはあるプロジェクトでの経験が影響しているという。そのプロジェクトでは、プロジェクトリーダーが進捗報告会でプラントシミュレーションを用いて説明を行ったことがあったという。その報告が非常に盛り上がり、そこからプロジェクト自体がうまくいきだしたことがあった。
これまでのプロジェクトは、経営層と関係部門を繋ぐ位置にDXチームがいて、両者を連携させながら整理をするということをする必要があり、大変だった。
プラントシミュレーションを使用したことで、ビジョンが共有できるようになり、経営層、関係部署、DXチームで共通認識をあわせられるようになった。プラントシミュレーションがコミュニケーションツールとして使用されたからだ。
テーマとスコープを割り付けたタイミングでシミュレーションを行うことで、ひと目で状況がわかるようになるので、経営層から「この場合はどうなんだ」、「こんなことをやりたい」という意見が積極的に出るようになったという。また、このタイミングで業務フローの再設計が必要だということの合意を得られたということも良い点である。
デジタルツインに立ちはだかる壁
この様にデジタルツインを活用することで、DXプロジェクトを推進することができるという。しかし、多くの会社がデジタルツインをやっているかと言うとそうではないとした。なぜやらないかというと、難しいと感じているからだ。しかしこの「難しい」はやり方の問題で、根本的な難しさではないという。
DXプロジェクトの一般的な進め方として、小さく始めて徐々に範囲を拡大していくというコンセプトがある。対象工程や課題を選定し、効果検証を行う。効果がわかってきたら水辺展開していくというやり方だ。
これだけ見ると問題がないように思うかもしれないが、そもそも課題設定することが困難である。さらに効果を検証するためには、データを収集したり、精度を上げる施策を行う必要がある。横展開する場合にこの工程をまた行わなければならないと感じると、次の課題の設定に慎重になってしまう。
無理なく進めるやり方として、大まかな全体把握から徐々に精度を向上していくというコンセプトを推奨しているという。
初めに7〜8割程度の精度で工場や工程を再現し、この段階でシミュレーションを行い、経営層や関係部署と自分たちの工場がざっくりどうなっているのかの認識を合わせる。大まかな傾向の把握や課題の設定をこの場で行うことで、実際に取り組むべき課題が明確になったタイミングで、運用するためにはどの程度の精度が必要で、そのためにはどのようなデータが必要なのかということを詰めていくというやり方だ。
全体が把握でき、関係部署の合意が取れている状態で合理的な判断がしやすいという良さがある。また、業務プロセスに入れていくことも容易になるとした。
しかし、この基本コンセプトの部分に時間とお金を掛けてしまっていては、プロジェクトが進行しない。この部分をいかに短期間で、低コストで実現できるかが重要である。プロジェクトを運営する企業の準備や調査の負担を減らすことも重要だ。
マクニカは、この基本コンセプトの部分に必要な情報を定義していて、企業からこの情報を提示してもらえれば、7〜8割程度の精度でのモデルを作成し必要なアウトプットを最短1週間で出すことができるという。
可視化した結果を確認しながら、本当に精度が必要な部分だけ追加していくというやり方が早く判断をするために必要だ。
最後に阿部氏は、大きな効果を出し続けるためには定着させることが必要だと語った。業務プロセスへの組込みは企業が行う必要があるとし、そのために必要な水平展開の部分を伴走していくとした。
参考:このイベントの他の記事は次のリンクから見ることができます。
株式会社マクニカのウェビナー「コロナ禍に挑む! 製造業が勝ち抜く為のデジタルツイン活用術 〜事例と具体的なアプローチ方法〜」
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。