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目次
PLC / シーケンサとは
PLC(Programmable Logic Controller、プログラマブルロジックコントローラ)とは、主に製造業の装置などの制御に使用されるコントローラである。入力機器からの信号を取り込み、プログラムに従って様々な処理が行われ、PLCに接続された出力機器を制御する。
PLCは、通常工場の制御盤の中に設置されていて、工場で働いていない人にとっては馴染みが薄いものかもしれない。しかし、PLCは、工場の自動化を実現するために必要なものであり、IoTによる見える化やスマートファクトリーの土台となる重要な要素の1つであると言えるだろう。
三菱電機製のPLCをシーケンサと呼ぶため、PLCのことをシーケンサと呼ぶ人もいる。
本稿では、PLCの基礎について紹介する。
PLCの特徴
PLCは、それまでの制御手法であるリレーシーケンス制御の代替として開発された。リレーシーケンスからPLCへの発展は、後述するが、簡単にいうと、ハードウェアで行っていた制御をソフトウェアでも行えるようになったということが重要だ。
リレーシーケンス制御を説明する上では、まず、シーケンス制御について知って欲しい。
シーケンス制御とは
シーケンス制御とは、自動制御に関する用語を定義している日本産業規格のJIS Z 8116において、「あらかじめ定められた順序または手続きに従って、制御の各段階を逐次進めていく制御」と定義されている制御方法だ。
身近な電気製品にもシーケンス制御が用いられている。洗濯機をイメージしてみてほしい。洗濯物を入れてスタートボタンを押すと、給水から洗い、すすぎ、脱水と順番通り洗濯工程が自動で進んでいく。途中で蓋が開いていたり、水道から水が出ていなかったりしたらエラーになり、洗濯は途中で止まりアラームで知らせてくれる。普段の生活の中で当たり前になっている、こうした便利さも実はシーケンス制御によってもたらされている。
このように、順序に従いある動作を何回も正しく動作させる制御がシーケンス制御だ。その他、エレベーターや自動ドアなど、身の回りの様々な装置や設備でもシーケンス制御が利用されている。
リレーシーケンス制御とは
リレーシーケンス制御とは、電気信号を機械的な動作に変えて、接点を閉じたり開いたりする電気制御機器である、「電磁リレー」などの部品をスイッチとして使用して、電気回路のON/OFFの切り替えを行うシーケンス制御だ。
リレーシーケンス制御から、PLCへの発展
リレーシーケンス制御とPLCによる制御の大きな違いは、リレーシーケンス制御が物理的な電気信号で制御しているのに対し、PLCの場合、プログラムによって制御を行うという点である。
PLCは、ユーザーがプログラムによって制御内容を記述し、その内容を逐次実行していくことでシーケンス制御を行う。
リレーシーケンス制御の場合は、前述した通り、物理的な回路を作成し、作業者が様々な調整を行いながら制御を行う必要がある。そのため、設備が複雑になればなるほど、回路も複雑で大きなものになってしまっていた。
PLCによる制御が登場したことで、いくつものリレーやメカニカルタイマーを1つのPLCによって代替して制御することができるようになった。これにより、省スペース化が可能になり、複雑な生産設備でも制御盤を小さくすることが可能になるため、工場のスペースを有効活用できるようになったのだ。
PLCがプログラムによる制御を可能にしたことのメリット
他にも、リレーシーケンスによる物理的な電気信号での制御から、PLCによるプログラムでの制御に変わることで、動作変更をしたい時に配線変更が不要となったメリットもある。
リレーシーケンス制御の場合、動作を変更するためには、個別に設定されているリレーやタイマーなどの物理的な配線を変更する必要があった。こうした変更を行う場合、作業時間がかかることや、作業者が配線ミスをしてしまうリスクがあった。
一方で、PLCでの制御の場合、動作を指示するプログラムを変更することで動作が変更されるので、配線や部品交換などの物理的な変更が不要になる。
また、リレーと比較すると、「接点不良」や「接点の摩耗」などもないので、PLCの方が長寿命だとされている。たとえ故障してしまった場合でも、ユニット単位での交換が可能だ。
工場において、設備を止めずに生産性を高めることは、とても重要だ。そこで、長寿命で、故障してもすぐに交換できるPLCが、工場の制御においては主流となっていった。
PCによる制御と比較したときのPLCの特徴
PCによる制御と比較した時、どちらもプログラムによって制御を行うという点では同じだが、PLCの一番の特徴は、シーケンス制御に特化した処理を、リアルタイムに高い信頼性で行うことだろう。
ちなみに、製造業における「リアルタイム」とは、マイクロ秒単位で定時に処理を行うということだ。
PCが得意な処理は、複雑なデータ演算処理やフルカラーの画像処理といった高度な情報処理である。普段の生活の中でも、PCを使って高画質の映像を見たり高スペックのゲームを遊んだりする人も多いだろう。
しかし、PCの処理には、割り込みが発生してしまったり、処理落ちしてしまったりするなどの問題が発生することがある。家で遊んでいる場合であれば、PCがフリーズしてしまったら再起動をかけたら良いが、工場の場合、どこか1工程が停止してしまうと、すべての生産工程が停止してしまうことになってしまう。また、制御が突然できなくなってしまうことで、設備が予期せぬ動きをして、作業員が危険にさらされてしまうという可能性もある。
PLCは、工場の現場を意識した設計になっているため信頼性が高く、その信頼性の高さから導入が進んできたという背景もある。
その他、収集したデータの処理をPLC内で行うことができたり、他のPLCやPCと接続して通信を行うことができたりするなど、PLCの活用の幅は広い。
PLCの構成と各部の役割
PLCは、上図の様に、入力部・出力部・電源部・CPU部で構成されていて、それぞれに役割がある。
PLCによっては、各部が独立したハードウェアになっていて必要な機能に応じて構成をカスタマイズできるビルディングタイプと呼ばれるものや、各部の機能が一体化されたパッケージングタイプと呼ばれるものがある。
入力部
入力部にはスイッチやセンサーなどの入力機器が接続され、外部からの情報を取り込む。
出力部
出力部には、表示灯やリレーなどの出力機器が接続され、プログラムの結果を出力機器に伝える。コントローラの入出力部に配線された入出力機器は、それぞれ1つのアドレスが割り当てられる。
電源部
電源部は、各ユニットに対して電源を供給する部分である。電源電圧には、AC電源用とDC電源用がある。
CPU部
CPU部とは、PLCの制御の中心となる部分である。ユーザーが作成したプログラムに従って、各機器を制御する。
PLCの動作
CPU部内には、PLC内で扱う様々なデータを保管するメモリエリアがあり、記憶するデータの種類によりエリアが分けられている。例えば、ユーザーが作成したプログラムはユーザープログラムエリア、入出力機器のON/OFF情報はI/Oメモリエリアに格納され、アドレスごとに管理される。
PLCによって動作が制御される際、CPU部は下記の動作を行う。
まず、入力部に接続した入力機器からの情報がCPU部に伝わる。このときの情報はI/Oメモリエリアに格納される。CPU部はユーザープログラムエリアに格納されたプログラムに従い、I/Oメモリエリアの出力機器の情報を書き換える。書き換えられた情報が出力部に伝わり、出力機器が反応を示す。
PLCを動作させるプログラム
PLCを動作させるプログラムにはいくつかの言語がある。代表的なものとして、
- ラダー言語
- ST(Structured Text)言語
- FBD(Function Block Diagram)言語
- SFC(Sequential Function Chart)言語
などがある。
PLCが開発されて以降、各ベンダーがそれぞれのプログラミング言語を独自に発展させてきた経緯がある。そのため、同じ方式のプログラミング言語でも、ベンダーによって仕様が異なり流用できないという問題がある。
ラダー言語
日本国内では、ラダー方式がよく使われる。シーケンス回路図をロジック化したラダー図で表す方式であるため、リレーシーケンス制御と同様に扱うことができ、扱いやすいためだと言われている。ラダーの名前の由来は梯子からきている。並行する2本の母線の間に接点やコイルが配置されている様子が、梯子のように見えるからだとされている。
ラダー図とは、シーケンス回路図をPLCで制御を行うために書き換えたものである。シーケンス回路図とは、各機器を規格に準拠したシンボル記号で表した回路図である。
ラダー図は、ラダー図記号とアドレスで表される。また、プログラムの最後にはEND命令を付ける。
PLCを運転させると、CPU部では、プログラムを順番に実行していく。最終行のEND命令まで実行したら、再びプログラムの先頭に戻り繰り返しプログラムの実行を行う。
ST(Structured Text)言語
ST言語は、テキスト形式によってプログラムを作成する言語である。
ラダー言語などと比較して、数値計算や理論式を一般の数式に近い形で記述できる。
ST言語を用いたプログラミングには、プログラム全体をST言語のみで記述する方法と、主要な処理や制御はラダー言語で行いながら、数値計算などはST言語で記述する方法がある。
FBD(Function Block Diagram)言語
FBD方式は、グラフィカルなプログラム言語で、様々な機能を持ったファンクションブロックと呼ばれる箱をつなげて組み合わせることによりプログラミングをする言語である。
ファンクションブロックを接続する配線で組み合わせるという、電子回路を設計するようにプログラムを記述できるため、データの流れを確認しやすいという利点がある。
また、あらかじめ基本的なファンクションブロックを作成しておくことで、ファンクションブロックを流用できるようになり、新しいプログラムを作成する時にかかる時間を削減することができる。しかし、ファンクションブロックの内容がブラックボックス化しやすいというデメリットも存在する。
高度化する製造工程に対応するために
元々、PLCは、機械や設備を規則的に動かすことで、止まらない生産設備を制御することに貢献してきた。
しかし、最近では、製品の加工の難易度が上がっていることや、AIなどを活用した画像認識の導入など、製造工程の高度化が進んでいる。それに応じて、PLCも⾼機能化やネットワーク対応化が進んでいる。産業用PCとの連携や、製造現場情報と⽣産管理情報の接点としての役割も持つようになってきている。
また、これまでの1つの製品を大量生産して売る状況では、とにかく正確に止まらずに生産することが求められてきたが、今後の多品種少量生産の時代に向けては、正確に生産するという特徴は残しつつも、多品種の製品それぞれにあわせて最適な生産工程が求められている。つまりその分だけ、設定やプログラムも複雑なものになっていくだろう。
一方で、日本国内の生産労働人口は減少していく中、これまでの製造業を支えてきた熟練者も引退していくことが考えられる。こうした状況において、これから製造業に携わる人にとっても複雑な生産工程に対応できるようなPLCを選定していく必要がある。
例えば、プログラミング言語がメーカー独自のものではなく国際標準に準拠した言語を使用しているPLCであることや、直感的に操作できるソフトウェアを備えたPLCであることも選定のポイントになるだろう。
PLCドラレコ(オートメーションプレイバック機能)
一方で、どれほどPLCの性能が高くても、新しい生産設備を導入する際には故障や製品不良などのトラブルが必ず発生する。そのため、トラブルの原因を速やかに特定し、修正していくことがカギとなる。
そのために必要な機能が「オートメーションプレイバック機能」、いわゆる「PLCドラレコ」である。機械やモノ、ヒトの動きを撮影した「録画データ」とPLCの「変数データ」、「プログラム」という三種類のデータを連動して再生することで、トラブルの原因を特定することができる。
昨今では、自動車に事故が生じた際の映像を録画し、何が起きていたかを特定する「ドライブレコーダー(ドラレコ)」を搭載することが増えている。オートメーションプレイバックも類似した機能であるため、製造業の現場では通称として「PLCドラレコ」と呼ばれることが多い。
新しい設備を導入した場合、初めはトラブルが頻発する。これまでは、過去の経験からトラブルの原因に関する仮説を立て、想定される部分のラダープログラムをつくり、検証するという方法が一般的だった。しかし、仮説のとおりに問題が解決することは多くはない。
ある製造現場では、仮説が外れる確率は約90%だという。仮説が外れたら再び仮説を立て、検証しなければならない。そのため設備が正常に立ち上がるまでに、1週間~2週間もこの作業に時間を割かなければならなくなる。だが、オートメーションプレイバック機能(PLCドラレコ)を使えば、問題の原因を精密に特定できるため、その作業時間を1日に削減することも可能である。
PLCを販売しているメーカー3選
三菱電機株式会社
三菱電機では、シーケンサという商品名でPLCを販売している。日本国内では、PLCのことをシーケンサと呼ぶ人も多いくらい浸透している。
シーメンス株式会社
シーメンスは、ドイツに本社を持つ企業である。そのため、PLCのヨーロッパでのシェアは高いとされている。
オムロン株式会社
オムロン株式会社が開発・販売しているマシンオートメーションコントローラは、PLCの特徴を残しつつ、更に拡張性をもたせたコントローラだ。
ソフトウェアベースの開発を行ったことで、世の中に新たな技術が出てきたときにその技術をいち早くコントローラの中に取り込むことができるようになっている。AIによって異常検知を行ったり、制御と同時に品質検査を行ったりすることが可能だ。
コントローラを動作させるためのプログラミングや対応しているインターフェイスは、国際標準に準拠している。日本国内だけではなく、海外拠点への展開を検討する場合においても、マシンオートメーションコントローラを使用することで、現地で経験者を採用しやすくなることが考えられる。
日本国内でも自動車工場を中心に採用が進んでおり、高度化する製造工程に対応するためには、最適なコントローラであると言えるだろう。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。