ものづくり白書から見る、カーボンニュートラルとDXの課題 ーNECものづくり共創プログラムレポート

日本電気株式会社(以下、NEC)は、2021年7月2日に「NEC ものづくり共創プログラム New Normal社会におけるものづくり変革セミナー」をオンラインにて開催した。

同セミナーでは、「経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏(以下、矢野氏)が登壇し、ものづくり白書の説明やNEC ものづくりソリューション本部 事業主幹の関行秀氏(以下、関氏)とともにディスカッションを行なった。

ディスカッションでは、カーボンニュートラルやDXの推進や課題についての意見交換や、参加者がDXやその課題についての設問に対し投票形式で回答するコーナーが設けられており、その結果も交え行われた。

ものづくり白書とは

2020年版白書と2021年版白書の取り上げている視点の違い
2020年版白書と2021年版白書の取り上げている視点の違い
ものづくり白書とは、法定に基づいて国会に提出するための法定白書であり、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3章で構成されている。

2020年版のものづくり白書と2021年版のものづくり白書の違いについて関氏は、「今年のものづくり白書はカーボンニュートラル元年と言っても過言ではない。また、製造業においてもカーボンニュートラルは重要になる」と述べた。

特に2021年版については、「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」という3つのテーマについて書かれていて、特にレジリエンスやグリーンというキーワードは、世界の製造業系の会議でも昨年来話題となっているのだという。

ヨーロッパにおけるカーボンニュートラルへの取り組みはどんどん進んでいることもあって、後述するグリーンという切り口は、まさに期を得た状況だと関氏はいう。

レジリエンス:サプライチェーンの強靭化

2020年振り返るとコロナの影響が大きかった。コロナ禍において、各社サプライチェーンをどう繋げるのかが大きなテーマとなっていた。

不確実性が続く中、設備投資が注目すると、自動車や半導体産業に関しては、投資を戻してきているのだという。

その一方で、米中貿易摩擦、災害など要因はたくさんある。金融緩和でキャッシュリッチだが、設備投資は進んでいない状態だ。

そんな中、レジリエンス、つまり、自発的な治癒力というキーワードが2021年版ものづくり白書では打ち出されている。

東日本大震災以後、各企業でのBCPの取り組みは進んでいるが、全てが対応できたわけではない。実際、コロナ禍では大きな被害があり、サプライチェーンの断絶も各所で見られた。

製造業において、レジリエンスを考える時、まず重要なのが、取引先の把握を行うことだ。実際、東日本大震災以降でも多くの企業において、調達先の把握が十分になされていない状況だったという。

トヨタの場合、東日本大震災の際に、ルネサスの工場が被災したことで、生産が止まったが、その後システムをつかった見える化を実現することができている。

現在、EVや自動走行、MaaSなど、さまざまな変化が起きていて、そのための要素技術が必要になってきている。特に、半導体や蓄電池はキーデバイスといっても良いだろう。

こういった必要なデバイスや部品を調達する際のサプライチェーンをきちんと保つことが、レジリエンスを高めることになるのだと矢野氏は言う。

グリーン:カーボンニュートラルへの対応

2021年版のものづくり白書では、カーボンニュートラルへの取り組みを「グリーン」と呼んでいる。

地図上に塗られた赤色は、2050年カーボンニュートラルに賛同した全124カ国・1地域を表している。
地図上に塗られた赤色は、2050年カーボンニュートラルに賛同した全124カ国・1地域を表している。(出典:ものづくり白書2021)

この「グリーン」への取り組みだが、菅総理大臣が、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという国際公約を宣言している。それに基づき、「グリーン成長戦略」を作り重要な重点分野を挙げ2兆円の基金や研究開発税制などを使用し取り組みを行っていくものだ。

ちなみに、「グリーン成長戦略」とは、菅総理大臣が宣言した目標を達成するために、成長戦略会議や経済産業省、環境省が連携して打ち出した戦略のことである。

グリーンは、製造業にとっても重要なキーワードにもなる。ワールドマニュファクチャリングフォーラムでも、カーボンニュートラルにシフトしているという状況が見てとれた。と関氏。

矢野氏は、「製造業において、環境対策はコストがかかるという意識がこれまでは強かったが、グリーンに関係するイノベーションをドライバーとして、成長していくことが重要なのだ」とした。

製造業のグリーン

矢野氏によると、グリーンの取り組みの中でも、製造業におけるグリーンの取り組みは、「排出権取引や国境調整措置(注1)、炭素税などの視点ではなく、今回は、サプライチェーンを切り口にグリーンを見ていく」ことが重要だとした。

注1:国境調整措置とは、環境政策が不十分な国や地域からの輸入に対し、生産時に排出した二酸化炭素(CO2)量に応じて関税や排出枠の購入義務を課す措置である。

その事例として、Appleをあげた。

Appleは、2030年までにサプライチェーンを含めたカーボンニュートラルを目指し、Apple自身のカーボンニュートラルはもちろんサプライヤーも一緒に取り組むことで、再生可能エネルギー100%を目指すのだという。

今後、カーボンニュートラルの取り組みをしていないサプライヤーは、Appleと取引ができない状況となるため、すでにいくつかの会社は対応を宣言をしている。

Apple 製品の製造から廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体での CO2 排出量
Apple 製品の製造から廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体での CO2 排出量(出典::Apple “Environmental Progress Report 2019”)

こう言った例は国内でもでてきていて、最近ではトヨタが、取引先に対して前年比3%増の脱炭素への取り組みをサプライヤーに対して要求している。

矢野氏は、「ヨーロッパでは、企業の基準に合わせたレギュレーションができてくると予想している。そこで、日本の製造業としては、今後、ヨーロッパとの取引を行う際、ヨーロッパに対し、製品の原材料調達から出荷までの温室効果ガス排出量である「カーボンフットプリント」の提出が求められるのではないか」という見方を示した。

経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏
経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏

ファイナンスのグリーン

実際に、「グリーン」に対応しようとすると設備投資がかかる。

設備投資のためのファイナンス手段は増えてきているのだが、その一方で、機関投資家からすると、投資先がグリーンの取り組みをきちんと行っているかどうかについて厳しくみるようになってきているのだ。

投資家からすると、環境に配慮していない企業に投資をすることで、投資家としての責任が問われるなど、厳しい選別の目を向けられている状況でもある。

DXにおける課題

矢野氏は、DXにおける課題について以下のように述べている。

「DX推進上の課題としては、データがとれない、関連するデータが複雑、人材の問題、ROIが不明、など様々な問題がある。こういった問題にハマらなければ、DXは加速度的に推進することができる。

経営層がリーダーシップをとって進められていて、現場を熟知した上で仕組みや仕掛けをリーダー自ら作り上げることができるとDXは進むのだが、その一方で、日本の製造業はまだまだ現場が強いため、現場のノウハウを顕在化させようとしたり、何かをやってみようとするカルチャーの変化が重要だ。」

経営や人材の問題だけでなく、PoCで終わってしまう、関係者がうまく巻き込めない、チームビルディングができない、といった、他にもさまざまな問題があるが、会場の参加者のアンケートでは、多くは「人材不足が大きな問題」となっていることがわかった。

ちなみに、昨年3月に同様のセミナーをやった際も同じ問題が顕在化していたということで、この1年で大きな変化がなかったことがわかる。

矢野氏は、これについて、「データを使ったビジネスを進めていけば、自ずと人材供給は進んでいくはずだ。」とした。つまり、無理に存在しない人材を育成しようとするのではなく、育成が可能となる「場」があることが大事なのだ。

ところで、経済産業省は、下の表のように、DXの推進を成熟度毎にレベル分けし定義付けを行なっている。

DX推進の成熟度レベル
DX推進の成熟度レベル

2020年12月に、経済産業省は「DXレポート2」という中間取りまとめを発表したが、その中で、200社に対して行ったディスカッションにおいて、「DX推進の成熟度」を投票形式で質問したところ、レベル1が多く次いでレベル2が多いという結果が出たのだという。

そこで、DXが進まない理由について、

  1. 経営方針やロードマップが明確でない
  2. 事業への展開が進まない
  3. 経営資源の投入が十分にできていない
  4. 社内関係部署の連携ができていない
  5. 社外関係者との連携が十分にできていない
  6. DX推進の人材が不足している

という6項目に関して選んでもらったところ、「DX推進の人材が不足している」という回答が最も多かったのだ。

DXの推進が抱える課題は4つあり、経営戦略の不明確さやDX人材の不足、事業が進まない、部内連携ができていないなどが挙げられる。
DXの推進が抱える課題(出典:NEC)

矢野氏は「経済産業省では、DX人材の不足を製造業だけではなく、社会全体の問題と捉えており、厚生労働省に対し、職業訓練学校のカリキュラムに専門性の高いシステムを使用する教育を行えないかと働きかけている」と述べた。

関氏は、DXにおいては、データ利活用のプロセスも重要であると述べた。

無線通信への期待

現在ローカル5Gは実証実験段階ではあるが、製造現場では、AGVやウェアラブルの活用、自動制御、遠隔監視、AIカメラなどのさまざまな利用シーンが期待されている。

スマートファクトリーにおける、ローカル5Gの活用領域
スマートファクトリーにおける、ローカル5Gの活用領域

製造業において、新しい無線技術によって、ITとOTの連携が期待されている。ITとOTが連携することにより、顧客のニーズが情報として生産現場へ届き、生産ラインの自動変更やロボットによる自動製造などが期待できるからだ。

矢野氏は、「OT部分は元来クローズドなネットワーク環境にあったため、セキュリティやシステムが古い可能性がある。今後、ITとOTの連携を行っていく上では、セキュリティを強固にしていく必要がある」とした。

そうしたセキュリティに対する経済産業省の取り組みとして、2019年に「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(以下、CPSF)」を発表した。CPSFとは、サイバーとフィジカルが相互にデータをやり取りする際の、セキュリティ対策の全体像をまとめたフレームワークである。

他にも、IPA内に、2020年11月「サプライチェーン・サイバーセキュリティ・コンソーシアム(以下、SC3)」を設立した。

SC3は、産業界が一体となってサプライチェーン全体でのサイバーセキュリティ対策の推進運動を進めていくことを目的とした共同事業体となる。

その他の取り組みとしては、中小企業などの経営課題を解決する一助として、SEが企業に入り込む「中小企業デジタル応援隊」という支援制度を作り一定期間サポートを行う、といったものがある。

関氏は、「製造業はこれまでネットワークの活用としては、監視がメインだったが、5Gなど新しい通信によって、制御系などさまざまな分野で無線への期待がかかっている。この技術を使うことで競争力を高めるきっかけになるチャレンジでもある」とした。

NEC ものづくりソリューション本部 事業主幹の関行秀氏
NEC ものづくりソリューション本部 事業主幹 関行秀氏

現在、無線を使ったユースケースでは、工場に行けないことに対する遠隔監視のトライアルや、利用シーン、活用シーンが期待されている状態でもある。

そんな中、無線通信技術の中でも5Gの期待として、「無線化をきっかけにセキュリティを強化したいと考える企業がいる」というが話された。

そういったメリットがイメージできる一方で、無線に対するノウハウがないこと、導入コスト、ランニングコストに関する問題、セキュリティへの不安などといった課題があることが、ものづくり白書から読み取れる。

会場の参加者の無線技術への期待としては、遠隔監視や遠隔メンテナンス、保守の効率化に関する項目への期待が高かった。他にも、AGVやレイアウト変更へのモチベーションも高いという結果になった。

無線化によるゲームチェンジが起きる可能性

これまで日本の製造業が、現場力を強みにしてきたことから、今起きているグローバルのトレンドを見て、関氏は、「クラウドPLC、オープンPLCといったソフトウエア化が起きることで、これまでの製造業の強みが発揮できなくなるのではないか、という懸念を感じた。」のだという。

それに関して、矢野氏は、「これから製造業がクラウドPLCなど高度なITと連携していく中で、生産現場とIT部門が融合しながら物事が進んでいくことになる。その中で、シーメンスなどもこの流れを見越したIT/OTの融合に取り組んでいる状態だ。5Gへの取り組みも現在取り組んでいるところだが、ソフトウエア面のサービスも取り組んでいかないといけない。欧米のソフトウエアはその仕様に現場が合わせるという考えなので、そうなると日本の強みが失われる可能性もある。」とした。

これに対し、「日本の製造業として何を目指していくのかをきちんと考えていかなければならない」と関氏はいう。

セキュリティ対策

無線化が進む中、セキュリティへの対策についても話題が及んだ。

矢野氏によると、大企業だけでなく、中小企業や地域のセキュリティへの取り組みも重要なのだという。

いくら大企業が堅牢なシステムを持っていたとしても、やりとりの中で情報漏洩があると意味がない。そこで、中小企業も入ってもらって、意識を高めているところなのだということだ。

これまで、中小企業の取り組みが遅れているところがあったが、昨年、100億円の予算をつけて、「デジタル応援隊」と呼ばれる、SEが中小企業に入ってデジタル化をサポートするような取り組みを行なっていて、これを活用してセイバーセキュリティについての対応を進めているのだとした。

DXに成功している企業の特徴

最後に関氏から、「製造業におけるDXの取り組みについて、比較的うまくいっている企業の特徴はなにか?」という質問が出された。

矢野氏は、「デジタル化をしていく際、トップの意識を固めていく必要がある。担当部署からトップに対してDXやろうという話をするが、トップではデジタルリテラシが低いことが問題となっている。デジタル化に成功している、今野製作所やヒルトップのような企業は、トップの意識が高く、それに現場がついてくるというケースも見られた。」とした。

DXを実践する上で、さまざまな課題があり、一筋縄ではいかないところがあることについては、さまざまなアンケート結果から浮き彫りになっている。

課題を解決するには、何をおいてもトップのデジタルリテラシの向上が必要で、今後のITとOTが融合していく世界をイメージした時に、自社がどういった対応が必要なのか、それに必要な人材はどういう人材なのか、どういうデジタル施策をとるのか、といったことを具体的にし、取り組んでいく必要があるのだ。

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