2024年2月11日~14日に米国テキサス州ダラスにて、ダッソー・システムズの3DCADであるSOLIDWORKSと機能を拡張するプラットフォーム「3DEXPERIENCE Works」のユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」が開催された。
本稿では、SOLIDWORKSや3DEXPERIENCEプラットフォームを活用して開発された電動バイク「QARGOS F9」について紹介する。
これまで開発されていなかった荷物運搬用の電動バイク
荷物を運搬するための車両といえばトラックが代表的であるが、東南アジアや中東などでは二輪車にたくさんの荷物を積んで走っている様子を目にすることが多いという。それは、道が狭いなどの理由から二輪車の方が早く進めるからだ。しかし、荷物を運搬する目的の二輪車は現状開発されていなかったという。二輪車を利用して荷物を運ぶ人は、リュックや荷台を使って無理やり荷物を乗せているが、重量制限があるため多くの荷物を載せることは現実的ではない。
このような状況を解決するため、インドの企業であるQARGOSがコンパクトロジスティクスビークルというコンセプトで、荷物を運搬するための電動バイクを開発している。
開発されたQARGOS F9は、QARGOSの第一弾の電動バイクである。
荷物を積む部分は225Lの容量があり、耐荷重は120kgだ。一度の充電で150kmの走行が可能で、80km/hの速度を出すことができる。その他、衝突検知や運転状況の分析、ルートの最適化機能、バイクと荷物のトラッキング機能がついている。
3DEXPERIENCEプラットフォームのシミュレーション活用による開発期間の短縮
QARGOS F9は、3DEXPERIENCEプラットフォームのシミュレーションを活用し、デジタルツイン上でシミュレーションを繰り返し、製品の性能を上げながら、開発期間を通常の電動バイクの開発期間と比較して大きく短縮している。
安全性の高いバッテリーや滑らかな乗り心地などの、達成すべき顧客要件を工学的な要件に変換し、3DEXPERIENCEプラットフォーム上の様々な機能を利用して検討を行ったという。
ボディパネルの設計には、空気力学のシミュレーションが用いられている。ドライバーにかかる気流や空気抵抗が高い状態が続くと、ドライバーは疲労していくという。ボディパネルをより流線形状にすることによって、ドライバーにかかる空気抵抗を減らすことを検討したそうだ。シミュレーションによって空気圧が高い部分を特定し、空気圧を減らすような形状に変更することができたという。
その他、消費電力や乗り心地、ハンドリングについてもシミュレーションで確認することができたそうだ。
この検討はシミュレーションのみ行い、試作品を作らずに形状変更の検討を実施している。これにより、コストと時間の削減が可能になっている。
また、バッテリーの設計もシミュレーションを活用している。バッテリーは内部のセルが発熱し発火してしまうと、ドライバーに危険が及んでしまう。熱シミュレーションを実施することで、バッテリー内部の熱変化を可視化することが可能になり、安全性を確認することができる。どちらのシミュレーションもすべてクラウド上で行われており、ハードウェアのコストを削減し、既存のハードウェアによる制約も無いという。
3DEXPERIENCEプラットフォームによって包括的な知識を身に付け活用する
上記のようなシミュレーションはこれまで、設計者とは別にそれぞれの分野の知識を持った解析者がいて、個別に実施されてきた。
3DEXPERIENCEプラットフォームを使うことで、プラットフォーム上でサポートを受けながらステップバイステップでシミュレーションを実施することができる。
ダッソー・システムズは、設計者はただ3Dモデルを作成するだけではなく、複数の分野に精通するプロダクトエンジニアになっていく必要があると考えているという。
3DEXPERIENCEプラットフォームを使用することで、設計者はスキルセットを向上させることが可能になり、より包括的な知識を身に付けることができるそうだ。身につけた知識を活用し設計したモデルをすぐにシミュレーションすることで、製品の改善を繰り返し実施できる。これは、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で、設計環境からシミュレーション環境がシームレスに接続されているから実現できることである。
コンセプトの設計段階から様々なシミュレーションを活用することで、プロトタイプの作成を減らし、設計の意思決定を早い段階で進めることが可能になる。QARGOSのようなスタートアップはスタート時から3DEXPERIENCEプラットフォーム上で製品開発を進めることができるため、初期の製品から効率的な開発が可能になることがメリットである。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。